名家のウマ娘   作:くうきよめない

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過去の時間 その2

 

 

 

 嫌そうな顔をする男の子を引き摺り回して理事長室へトレーナー申請を行ったその後。

 正直言ってその申請はかなり、というかほぼ認められないだろうと思っていたが、それはそれはあっさりと通ってしまった。

 赤の他人ならともかく、インターン生で、それもウマ娘本人が納得しているならそれでいいと特例を貰ったのだ。申請したアタシが言うのもなんだが、それでいいのかトレセン学園。

 

 兎にも角にも、彼がアタシのトレーナーだということが認められたというのは願ったり叶ったりの結果なので特に異論は挟むことはなかった。

 しかし、特例とはいえトレーナー資格の無い人がその仕事をするというのは異例なこと。それによる制約は大きい。

 

 彼本人から聞かされたその内容は主に三つ。

 

 まず、彼には一人専属のトレーナーが付くとのことだ。その人の下でトレーナーの仕事を学び、アタシの練習内容やレースのローテーションを相談しなければならない。

 ぶっちゃけてしまえば監視のようなものだ。素人が一人でトレーニングメニューを考えるなんてできないだろうし、できたとしてもそのウマ娘に高い怪我のリスクを負わせることになってしまうのはアタシでも分かる。

 

 そして、アタシの判断で契約の内容を白紙にできるということ。正式なトレーナー契約ではない以上、この契約は一時的な措置にすぎないこと。

 まあこれに関してはアタシが動かない限りはどうってことないんだけど。

 

 最後に、このことは他言無用しないこと。こんなことが世間に大っぴらになってしまえば、トレーナー全体の信用が下がるのは間違いない。

 これを知るのは、当人である男の子とアタシ、そして理事長、そして男の子に付く専属のトレーナーだけだ。

 他校の男子生徒がいたら生徒間から情報が漏れるのではと思ったが、対策として彼には新人トレーナーとして振る舞ってもらおうとのことらしい。

 

 

 これらの条件を踏まえても嫌がっていた彼だが、理事長の提示したお金の話で手のひらを一瞬で返したのは記憶に鮮明に残っている。その姿はまるで、地中を掘り進むドリルのような高速手のひら返しだった。

 割りのいいバイトと吹っ切れいい笑顔で握手を求めてきた彼に、さっきと態度が違いすぎるだろうと横っ面を引っ叩きたくなったが我慢したアタシは多分偉いと思うんだよね、うん。

 

 

 そんなこんなで、その男の子が正式にアタシの仮トレーナーとなってからそろそろ二ヶ月が経つ。

 

 たかが二ヶ月、されど二ヶ月、と言いたいところだが、その二ヶ月程度では大して進展はない。

 何度も言うが、彼はトレーナーとしてど素人だ。専属のトレーナーが付いているとはいえ、その実力はまだまだミジンコ程度。

 

 それでも、いてくれるだけでいい。一緒に走ってくれる存在がいるだけでどれだけ気持ちが楽になるか。

 

 

 そう思ってた時期が、アタシにもありました。

 

 

「今日の朝練は終わりだ。身体冷やさないよう体調には気をつけるように。あと、午後からのトレーニングについてなんだが……」

 

 

「このレース場は早めに仕掛けてまくった方がいいんじゃないか? ほら、直線短いんだし」

 

 

「ラップタイム更新! このままあと一周踏ん張れ!」

 

 

 ……あれ? おかしい、本当におかしい。なんでこんなに馴染んでるの? 下手な新人トレーナーより優秀じゃないこれ? 

 

「ほい、お疲れ。水分補給しっかりな」

 

「おっとと、アタシのスポーツドリンク投げないでよ! こちとら疲れてんのよ!」

 

「そのくらいキャッチできるって分かってたからな。正直、体力まだまだ残ってんだろ?」

 

「そ、それは、そうだけど……」

 

「ほらな? でも今日のトレーニングはおしまい。これ以上やるとオーバーワークだし、明日のトレーニングにも響く。東条さんに怒られるの嫌だし」

 

 東条さん、というのは、トレーナーのお目付役となった優秀な若手トレーナーだ。

 なんでも、トレーナー試験では満点での首席合格。既にチームを作っており、今は優秀なウマ娘を集めているらしい。そのチームがビッグになる頃にはアタシは卒業しているだろうけどね。

 

 そういえば、東条さんと同期且つ同じく満点首席合格をした男の人がいると聞いた。たしか沖……? 

 

「おい、聞いてるか、イツセイ?」

 

「ん? ああ、聞いてる聞いてる。エナドリ片手にミラーボールの下で踊り狂う話だっけ?」

 

「そうだよ」

 

「そうなの!?」

 

 素人で目付役がいながらも、彼はトレーナーとしての素質が高く、さらにはコミュニケーション能力がそれほど低いわけでもない。なんならふざけた冗談を言う余裕まである。

 

「んじゃ、クールダウンも済ませたようだし、今日はこれで解散。明日から数日は俺いないから、トレーニングメニュー渡しとくな」

 

「うん、分かっ……えっ、そうなの?」

 

「一応俺だって学生だし。今テスト期間なんだよな」

 

「テスト期間って……テスト大丈夫なの!?」

 

「はん、友達と遊ぶ時間を勉強に費やしてる俺にかかればチョチョイのチョイだ。俺優秀だから。優秀だから!」

 

「真似されるとムカつくわね、それ」

 

 だが、明日彼がいないのは少し寂しい。この日までほぼ毎日ここに通ってくれたんだし、仕方ないっちゃ仕方ない。

 

 ええと、今日は2月13日。高校生なんだからテストが五日前後行われるとして、帰ってくるのは遅くて一週間後……って

 

「明日いないの!?」

 

「うるさっ!? だからデカい声出すなって!」

 

 ぐぬぬぬぬ……せっかく明日例の物を渡そうと思ったのに、これじゃあ作戦は台無しだ。

 別の日にしようとしても、明日が過ぎるとその口実も無くなってしまう。

 

 べ、別にこれは好きだからやってるわけじゃないし! 強引に素人である彼にトレーナーをやってもらったことをちょっとだけ悪く思ってるだけだし! 

 くっ、トレーナーのくせに! 前髪長くて頭ボサボサで、いつも気怠そうで口を開けば楽することしか考えてなくて、目が死んでる割には顔はそこそこ整ってて……

 

「……こ、今度は何? なんで下から覗き込むように俺の顔見てんの?」

 

「いや、前髪切って背筋伸ばして死んだ魚の目をやめたらモテそうだなあって」

 

「そんなことしても意味無いし、前髪切ったら人と目を合わせなくちゃだし、背筋伸ばすと疲れるから嫌だ。あと、目に関してはデフォルトだから余計なお世話だ」

 

 ふーん、変なの。男なんて異性にモテるためになんでもやる生き物だと思ってたのに、この人はそうじゃないっぽい。

 なんだか自分に素直すぎるところがある。それゆえにこんな性格をしているのか。

 

「よし!」

 

「何がよし?」

 

「というわけでトレーナー! 今からアタシと散歩に行こう!」

 

「何がというわけで? てか今から?」

 

 彼のことをもっと知りたい。その一心でトレーナーの腕をふん捕まえて走り出す──

 

 

 

 ***

 

 

 

「うむ、ここなら割といい散歩スポットになりそう。トレーナーもそう思わな……ありゃ」

 

「おえっ……おま、まじで、速すぎ……胃の中、ギュルギュルって……」

 

「ま、待ってて! コンビニでお水買ってくるから!」

 

 トレーナー死んじゃった。ウマ娘のスピードに肉体がついてこれなかったらしい。

 近くのコンビニで水ととある物を買って、死にかけの彼の元へと戻りなんとか回復を促す。

 

 夕方のこの時間帯、冬ということもあり暗くなるのには十分で、既に街灯が明かりが灯っている。

 

 アタシ達がやってきたのはトレセン学園から少し離れた何の変哲もない住宅街。

 どうしてここに来たのかと聞かれても、別に大した理由があったわけじゃない。

 

 敢えて理由をつけるとしたら、普通のことがしてみたかった。

 アタシ達ウマ娘は基本的に寮生活だ。そのため、通学路を登下校というのを長らくしていない。小学生の頃は毎日のようにしていたが、あの頃とは何もかもが違う。

 

 なんの変哲もない、なんの目新しさもない道を、誰かと一緒に歩く。

 実質女子校のトレセン学園に入ったアタシが男の子とそんなことをできるとは思ってもいなかった。

 

 まあ、トレーナーを連れ出した理由は別にあるのだが。

 

「よーし! それじゃあこっから学園まで歩いて帰りましょう!」

 

「ここまで連れてきておいて学園まで帰るの!? やだよ、もうお家帰る! 普通に学園側行ったら遠回りだし!」

 

「いいの〜? こーんな美少女と一緒に帰れるなんてトレーナーには滅多に無いチャンスなんじゃないの〜?」

 

「えっ、自分のこと美少女って言っちゃう人はちょっと……(笑)」

 

「は、はああぁぁ!? どこからどう見ても美少女でしょ!? なによ、トレーナーのくせに!」

 

「顔赤くするくらいなら強がるなよ! お前本当はそんなこと言うタイプじゃないだろ!」

 

 うぐっ、調子乗った。悔しいが、本来陰キャ気質なアタシにとって、こういう自分で自分のことを持ち上げるような発言をするのにはかなりの勇気を要する。

 初めて目の前にいるトレーナーと会った時も自分のことを優等生だと豪語したが、実はあれも強がっただけだ。まあ成績が良いのは事実なんだけど。

 

「いいから歩くわよ! このままだと門限間に合わなくなるんだからね!」

 

「なんで得意気……もういいや。へいへい、仰せのままに〜」

 

「ふふん、くるしゅうない!」

 

 折れたトレーナーと並んで、二人でトレセン学園まで歩みを進める。

 漫画とかでよく見た青春の一ページ。今それをアタシは体験しているのだ。

 悪くない、むしろ良い。その証拠に、心臓の鼓動も普段より早いような気がして…………うん? 

 

「おい、イツセイ? 何ボーッとしてんだ?」

 

「えっ!? あっ、いや、なんでもないなんでもない! ど、どうよ、美少女と一緒に歩く帰り道は!」

 

「いや、自転車使いてぇなって」

 

「情趣の欠片もない!?」

 

 なんだか納得いかない。今この場はアタシとトレーナーの二人きりなんだから少しくらい意識する反応を見せてくれてもいいのに、彼からはそれを一ミリとして感じられない。

 

 そこで一つの可能性に至った。友達がいないと豪語する彼なんだからそんなことはないと思いつつも、この余裕の態度はそうとしか考えられない。

 

「ね、ねえ、一つ聞いてもいい?」

 

「ん、なんだ?」

 

「アンタって、その……か、彼女とかいるの?」

 

 聞いてみたはいいものの、トレーナーからの返事がなぜかやけに怖い。

 返答次第ではなんだか自分がひどく傷つきそうな気がしてしまい、自然と視線が下がってしまう。

 それでも答えを聞かずにはいられなくて──

 

「はあ、そんなもんいたことねぇよ。ただでさえ忙しいのに、恋愛にうつつを抜かしてる暇なんて無いっての。あ、作れないんじゃなくて作らないんだからな? そこ勘違いしないように」

 

「あっはい」

 

 うわ、すっごい早口。やっぱりトレーナーはトレーナーだ。自分がわざと彼女を作らないという態度を誇示する姿がらしいっちゃらしいというか。

 

 ともあれ、トレーナーに彼女がいなくてよかったよかっ……た? 

 

「……あれ?」

 

 なぜ"よかった"なのだろう。さっきも、トレーナーの隣を歩いていると鼓動が高鳴った。

 

 これは一体全体……? 

 

「にしても、お前と初めて会ってもう二ヶ月経とうとしてんのに、こうして雑談ちっくなことはほとんどしてこなかったよな。あっても日々の軽口くらいだし」

 

「そうね。アンタってばトレーナーの仕事で忙しそうだったし、将来いい社畜になるわよ」

 

「ほーん、不労所得が夢の俺にそんなこと言っちゃうんだ……って言いたいところだけど、もうそれが叶わなさそうなところまで来てんだよな……」

 

「えっ、何があったの……?」

 

 いつもの軽口合戦が始まると思いきや、早々に元気を無くしたトレーナーを目にしてこちらもリズムを崩された。

 

「いやな、東条さんのとこで仕事学ばせて貰ってるって話しただろ? あの人すげぇ仕事できるし尊敬してるんだけど、なんだか妙に取りいれられちゃったみたいでさ。こないだなんかチームのサブトレーナーとしてここで働かないかなんて言われたんだよ……」

 

「良かったじゃん。就職先決定おめでとーごさいまーす」

 

「よかねぇよ! こちとらトレーナー免許すら持ってねぇんだぞ! 嗚呼、なんか変な中学生にも変な絡み方されたしもう……」

 

「ちなみになんて子?」

 

「たしか……ルドルフとマルゼンって言われてたな」

 

「あー、あの子達か……」

 

「なに、その反応。おいやめろよ、『面倒な子達に目つけられちゃったな』みたいな顔するの」

 

 ルドルフとマルゼンとは、おそらくシンボリルドルフとマルゼンスキーのことのはずだ。

 シンボリルドルフはシンボリ家という名門から、マルゼンスキーはイギリスのお嬢様ということで入学してくる前から噂になっていたのは記憶に残っている。

 そして、そういった噂になる子ほど一癖も二癖もあるのはお約束。見事に彼はそれを引き当ててしまったということだ。

 

「あとなんかミスターシービーとかいうやつにもめちゃくちゃ揶揄われたしなんなんだあいつら……っ!」

 

 未だぶつくさと中学生達に文句をこぼすトレーナーにこれ以上口を開かせたら更なるネガティブ発言でアタシの気も滅入る。

 

「ルドルフとかいうのはまだまともそうだったけど他二人は完全におちょくってきたし……。俺の方が年上……っていてっ!?」

 

「はいそこまで、アンタのネガティブ話に付き合ってたらアタシまでおかしくなりそうだわ」

 

「せっかく話が途切れて気まずくならないようにしてやったのに。じゃあお前がなんか面白い話しろよ」

 

「えっ」

 

 急にそんなこと言われても困る。面白い話なんてぽんぽん思い付いたら苦労はない。

 ええと、ええと、なにかないかなにかないか……

 

「あっ、えっと……す、好きなタイプ、とかは……?」

 

 何言っちゃてんのアタシ!? 異性相手にこんなこと聞くとか完全に告白じゃん!? 違う違う違う! べ、別にアタシはトレーナーのことなんか……

 

「好きなタイプか……。そうだな、あんまり考えたことないけど、年上か年下かのどっちかって言ったら年下がいいかな。あざとさが残っててアニメやゲームとかの趣味が合えば尚良し」

 

 そして真面目に答えるんかいっ! しかもアタシに当てはまるの年下要素しかないし! いや、別に微塵も意識してない……してない、のかな。

 

「はぁ……トレーナーってそういうこと言うんだね」

 

「おっと、人の好みにケチをつけるつもりか? だったらお前のタイプを言ってみろよ」

 

 アタシのタイプの人、か。高校生になった今でも、恋愛というのはよく分からない。

 恋愛物の漫画や小説を読んだところで、それらの主人公に共感することは一度としてなかった。

 

 だから、この気持ちがどういうものかを確かめる。

 

 そう思い、先ほどコンビニで買った物を鞄から取り出してトレーナーに放り投げる。

 

「おわっ!? ……えっ?」

 

「へへっ、ハッピーバレンタイン、トレーナー!」

 

 投げつけられた板チョコをキャッチしたものの、状況を把握できてない彼はアタシの一言でようやく我に帰る。

 

「……俺に?」

 

「ふふん、そうよ。本当は明日渡す予定だったけど、明日からいないって言うから急遽ね」

 

「お、おう、ありがと……」

 

「えっ、反応薄。もっと喜びなさいよ」

 

「いえーい! よっしゃー! これでいい?」

 

「よし返して。それはアタシが食べる」

 

「悪い悪い、ちょっと予想外だったからさ。義理チョコなんてもの初めて貰ったし」

 

「あー、まあ貰えそうな人じゃなさそうよね、トレーナーは」

 

「無闇に人を傷つける発言はやめようね? 事実だから何も言い返せないんだけどさ」

 

 ああ、やっぱりこの人と話すのは楽しい。もしトレセンじゃなくて普通の学園に、それも、目の前の彼と同じ学校に通ってたらと思わされるくらいには幸せだ。

 

 でも、

 

「もうすぐ学園だな。んじゃ、ここらでお別れってことで」

 

「ねえ、トレーナーはさ、どうしてアタシのトレーナーを引き受けてくれたの?」

 

「……なんだ、薮からスティックに」

 

「トレーナーでもないただの高校生のあなたが、どうして二ヶ月もアタシのそばにいてくれたの?」

 

 それは単純な疑問だった。ちょっと考えたら誰でも思いつきそうな素朴な疑問。

 もちろんお金が入るからと言われたらそれまでだが、普通はこんな面倒な仕事、高給だとしても続ける人はいない。せいぜい一ヶ月続けばいい方だ。

 なのに、どうしてこの人は……

 

「……特段深い理由があったわけじゃねぇよ。最初は提示されたお金が思ったより高かったから。でも、なんていうか……」

 

「……?」

 

「……初めて会った時のお前が寂しそうにしてたから、その、ほっとけなくて……」

 

 そう言ってトレーナーは顔を赤くしてそっぽを向く。

 そっか、この気持ち、もしかしたら本物かもしれない。

 

「……随分と恥ずかしいセリフを吐くのね」

 

「こ、高校生だからな!」

 

「高校生だもんね」

 

 青臭くていいじゃないか、カッコつけてもいいじゃないかと、そんな彼の強がっている心の声が自然と聞こえてしまう。

 こんなことを素直に言えるのは、子供ほど無邪気でなくて、大人ほど神経質でない、人生の中間地点である今だけだなのだ。

 だったらアタシも少しはそれに倣うべきかもしれないと、そう思わされてしまう。

 

「あっ、一ついい? 明日から数日いなくなるんだったらそれを事前に知らせとかなきゃだめよ? 報連相は社会人としての基本なんだかね?」

 

「ス、スミマセン……。いや、正規のトレーナーじゃないからいっかなって。それにほら、俺まだ社会人じゃなくて学生だし……」

 

「屁理屈言わない!」

 

 全くこの人と来たら。トレーナーとして優秀かと思ったけど、こういうところはまだまだズボラだ。

 

「まあいいわ。じゃあね、トレーナー。車には気をつけるんだよ? 風邪も引かないように。忘れ物はない? 今ならまだギリギリ間に合うと思うけど」

 

「お前は俺のおかんか。ん、また一週間後」

 

 結局寮の前まで送ってくれたトレーナーと別れ、遠ざかる彼の背中を眺める。

 そういえば、まだ彼の質問に答えてない。アタシの好みの異性のタイプについて。

 

 正直、自分でも自分のことをチョロいと思う。いや、チョロい以前に、あの日彼に対して何かを感じたからであって……

 

「〜〜っ、トレーナー! もう一つだけいい?」

 

 アタシの声に彼は振り返り次の言葉を待っている。

 

 よし、覚悟は決めた。

 

「アンタにあげた板チョコ、それ義理"だった"ものだから! それだけ!」

 

 彼の顔を見ずに、言い逃げのように寮へと戻る。今のアタシの言葉を彼がどう言った意味で受け取ったかは分からない。

 恋愛には無頓着な彼のことだし、きっと伝わってないのだろう。一週間後には何食わぬ顔で軽口を交わしているに違いない。

 

 でも、それでいい。それがいい。

 

 すごく恥ずかしいことを言ったにも関わらず、アタシの心はとても澄んでいた。

 夜空を見上げ、チラリチラリと点在する一等星を見つめながら思いを馳せる。

 

 

 ねえ、トレーナー。アタシ、この人となら前向いてやっていけそう。

 だからこれからも見守っててね。将来、アタシを立派に成長させてくれたのは二人のトレーナーですって、胸を張って言えるようになるから。

 

 

 

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