世界総人口の8割が”個性“という特異体質を持って生まれてくる超人社会。
個性を悪用し、犯罪に手を染めるヴィランを打ち砕くヒーローが職業として脚光を浴びる中──!
俺、今田緋威怒乱(14)は近所のジムでボルダリングをしていた!!
…正直言ってヒーローとかいう職業に魅力は感じなかった。
俺はボルダリングができればそれでいいし、将来自費で穴あけ放題のボルダリングジムを建てる夢があるのでヒーローなんてやってる暇はなかったのだが……
『おいクソマグマァ!俺と雄英ヒーロー科の入学試験で戦えや!俺が上だって事教えてやっからよォ…』
『君はヒーローになれる!!!私の力を継承しないか!?』
…変なオッサンとしつこい幼馴染の板挟みに悩まされていたのでボルダリングに来ていたのだ。
「迷ったら壁と天井を這え」、それが今田家の家訓である。なんでも、俺の祖先は神々の御前だろうが天変地異が起ころうが自慢の鋼のツメを岩盤に食い込ませて壁を這っていたそうだ。
その胆力と忍耐力、見習わなければ!
「緋威怒乱くーん!君、ヴィランに襲われたんだって?大丈夫だったかー?」
と、意気込んでいる最中、声が下から届く。
気迫を感じさせる声の主は、いつもお世話になっている羅 武晋トレーナーだ。
この人のトレーニングメニューのおかげで今の俺があると言っても過言ではない。
「───はい、大丈夫でした。トンネル内だったので、とっさに天井に逃げられたのが不幸中の幸いですよ」
俺の個性は、『ヒードラン』。この個性のお陰でどうにかこうにか敵からの攻撃をかわし、その悪しきヘドロをマグマストームしてやったのだ。
…個性名に偉大なる先人の名を借りようなど甚だ烏滸がましいと思われるかもしれないが、個性届に『体からマグマを噴出させ、手足の鉄のツメを壁に食い込ませる』と書いたはずが『ヒードラン』の五文字に要約されてしまったのだ。
嬉しいような悲しいような申し訳ないような気持ちを抱えながらも、素早く正確にホールドを掴みつつ下に降り着地する。
ジム通いして数年、素手のこの動きも慣れたものだ。
ちなみにトンネルの修理費だが、致し方なしと後から来た変なオッサンがポケットマネーから出してくれた。
「何はともあれ、ケガがなくて良かったよ…それでなんだが、あのオールマイトに会ったって話、本当か?!」
「えっ?」
オールマイト。聞き覚えのある響きだ。
今田家は代々社会情勢に疎く、主な情報源は学校内の噂や幼馴染のものからだった。
そこからたびたび聞く『オールマイト』という人物。よほど有名なのかと思っていたが…あの妙に画風が濃く、笑顔が眩しいムキムキのオッサンがオールマイトだったのか。そういえば歴史の教科書の目次にもいた気がする。
だとしたら勧誘を断ってしまったのは少し悪い事をしたのかもな。うん、かたじけない、オールマイト。
「…はい、そうですね…会ってそうそうヒーローになれとか、君は受け継ぐに値するとか言われましたけど」
「ヒーローに…!?──緋威怒乱くん、すぐにその人の元へ行きなさい」
「ええ!!?なんでですか!俺嫌ですよヒーローとか」
「やはり君には才能があったようだな…今日ほど育てて良かったと思った事はない…」
ヤバい、俺の言う事ガン無視して武晋さんめちゃくちゃ泣いてる。
これでヒーロー絶対なりませんとかきっぱり断ったらどうなんの?武晋さんマジで落ち込むんじゃないか?ていうか情に厚すぎだろこの人!
「…まぁ、ヒーローでもボルダリングはできるか」
ーーこうして、俺はなし崩し的にヒーローの道を歩むこととなった。