個性:ヒードラン   作:蝦狄

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ヒードラン、機械音痴だった


壁登りがしたいだけなのに日本を守護る大役を背負う羽目になった

 いざオールマイトにヒーロー志望の旨を伝えようと思ったが、「もうこのオッサンとは一生会わないだろうな」と悟っていたので電話番号を交換していなかった。なんたる失態。

 

 

 これでは武晋さんや今し方了承を受けた両親に対して申し訳が立たない。

 

 

 ───その後、父親にハイテク機器なる『WindowsXPうぃんどうずえっくすぴい』を借用し、にわか仕込みの覚束ない手つきでオールマイトに関する事を調べ始めてはや一時間。

 

 

 なんと、オールマイトは文通を受け付けている事が発覚した!

 

 

「おお、調査の甲斐があったな!これでオールマイトに伝えられる───」

 

 

 

 この時、緋威怒乱はまだ知らなかった。

 

 あの後ひとしきりEメールを打ち終え、無事に送り届けるまでにまさか丸々一晩を費やす事態に陥るとは…

 

 

──────────

 

 

 初めての電子機器は驚くほど難解で、殆ど睡眠が取れなかった。就職するとなるとあの文字盤を全暗記する必要があるのか…?

 

 今度、携帯屋のショーケースに置いてあった子供用携帯を買ってもらおうか。

 

 ゆくゆくはヒーローとなるのだ、仲間との連携も重要になってくるだろう。

 

 

 

 そんな事をうんうん唸りながら教室の引き戸を開け、毎度のように挨拶を交わす。

 

 

「おはよう、みんな」

 

 

「おお、おはようヒードラン」

 

「ヒードランなんかやつれてね?マグマの出悪いぞ」

 

 

「ああ……」

 

 

 確かに、今日は疲労で眠りこけてしまうと見て溶岩流を活性化させるためのトレーニングをしてこなかったからな。授業中に居眠りなどしてしまえば、学校まで来た意味がなくなってしまう。

 

 

 というかお前らいつの間に俺をヒードランなんてあだ名…ん?

 

 

「昨日の答え、聞いてねぇぞマグマ野郎…」

 

 

 背後からきつく締まるような感触、左肩を強く掴まれている。

 

 振り返ると、そこに怒り心頭の形相で俺を睨んでいたのは俺のストーカー兼幼馴染、爆豪勝己ばくごうかつきだった。

 

 

 そういえば、朔日コイツが勝手に「雄英入試で対決しろ」と叩きつけてきた挑戦状にまだ返事をよこしていないではないか。

 

 

 …あれ、待てよ?

 

 

 そもそも今日答えるって言ったっけ、昨日。入試って来年だよな?

 

 

 ーーまあ備えるに越した事はないし、ヒーロー科とか言ってたしいいか。うん。

 

 

「爆豪、俺はヒーローになりに雄英を受ける。入試の時はよろしく頼む」

 

 

「けっ!ようやく戦う気になりやがったな!俺がてめェを完膚なきまでに叩きのめしてやるよ、アイアンマン」

 

 

 

 思えば、爆豪とはかなり長い付き合いだ。

 

 

 なにせ邂逅は小学生低学年、家の敷地内の洞窟で個性の訓練をしていたらいきなり近所のガキ大将だった爆豪から決闘を申し込まれたのだから。

 

 

 もちろん、俺は断った。

 

 雨の日も、風の日も、暑い夏も、寒い冬も、全部断った。

 

 

 俺は喧嘩は好きではないし、家でガシガシ岩を掘ってる方が性に合っている。何故みんなヒーローに憧れるのかよく熟考したものだ。

 

 

 …一応、戦えない事はないのだが、人に向けて個性を放つなんてとてもじゃないが俺にはできない。

 

 

 俺の『マグマストーム』や『メタルクロー』は相手を焼き尽くすまでその火の手を止める事はないし、メタルのクローに関してはもはやクローとか以前に文字通り鋼の肉体をぶちかますだけで人体の五臓六腑などいとも容易く潰れてしまうからだ。

 

 

 と、そう思うのだが───この男、俺の通う私立中に入学してきた。

 

 

 入学後の第一声は『今田緋威怒乱ブッ殺す』だ。

 

 

 その後、毎日のように降りかかるどこぞのグラップラーの邸宅に書いてありそうなゴキゲンな殺害予告を二年間かわし続けていたが、ついに直接対決と相成ってしまった。

 

 全く、このストーカーには困ったものだ。

 

 

──────────

 

 物思いに耽りながらも授業をそつなくこなし、放課後すぐにオールマイトに送った手紙…?に記載した場所へと向かう。

 

 

 今日のボルダリングだが、武晋さんには既に休むと伝えてある。

 

 

 その時、何も言わずに石柱を一本折って『OK』サインを出してきた。Oの文字はその御身で作って。

 

 ーーまあ、ここまで喜ばれるならヒーローも案外悪くないのかもな。

 

 

 小さく深呼吸を交えながら目的地の公園に到着すると、そこには液晶画面や教科書でよく見る筋骨隆々な肉体からはかけ離れた体格のくたびれたノッポのオッサンがベンチに座っていた。

 

 

 ───えっ、誰?この人…

 

 

 みがわり?影武者?人違い?…聞けばわかるか。

 

 

「あの、あなた、オールマイト…ですよね」

 

 

「おお、来たか少年!今日は呼び出しありがとう!」

 

 

「君なりに悩んで来てくれたのだろう、なにせ朝の4時にメールを送ってくれるぐらいだからな!でもちゃんと夜は寝るんだぞ!」

 

 

 ああ、この押しの強さ、あのオッサンだ。

 …色々と、聞きたい事が多いな。

 

 

「まず…なんで萎んでるんですか」

 

 

 とりあえずあのガチムチボディが見るも無惨なホラーマンにまで結果にコミットした理由を聞こうじゃないか。次に受け継ぐとか言ってた力の話、次にプロヒーローの話…頭痛がしてくる。早く全部しゃべれおっさん。

 

 

「──これは5年前、敵の襲撃で負った傷だ…呼吸器官半壊、胃袋全摘…度重なる手術と後遺症で憔悴してしまってね」

 

 

 …なんてこった。オールマイトが見せてきた脇腹は蜘蛛の巣のように広がる生々しい傷痕で埋め尽くされていた。曰く、これのせいで3時間しかあのムキムキ笑顔モードになれないらしい。

 

 うむ、これでは俺を必死にスカウトするのも少しは頷ける。

 

 

「だから少年…是非私の力を、聖火の如く引き継がれてきたこの力を‼︎受け取っては貰えないだろうか」

 

 

「そして…いつかやって来る巨悪を討ち滅ぼしてほしい」

 

 

 うむ、これでは俺に力を引き継がせるのも少しは頷ける。

 

 

 

 

 ───なんか、気づいたら話がめちゃくちゃに膨らんでいた。

 

 

 

 

 

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