勢いで書いた
反省はしてない
〜雄英高校一般入試 実技試験会場〜
ドーン!
大地を揺らす轟音と共に、大きな影が現れる。
「なんだあれ……!?」
「あれが0ポイントの……!」
0ポイントの巨大仮想ヴィラン。
推定身長30m。
周囲のビル以上の高さを誇る巨大な鋼の身体は、ただ歩くだけで厄災になる。
「なんということだ……」
その猛威を目の当たりにした『飯田天哉』は、他の受験者たちと同様にその存在から逃げ始める。
そんなときだった。
♫チャラララ チャラララ チャラ ラ ラ チャラララ
♫チャララ ラ ララララ チャララ チャラララ
戦場に似つかわしくないギターの音色が鳴り響く。
その奏では、飯田の前方からやって来た。
巨大ヴィランから逃げる他の受験生の雑踏を意に介さず、それに逆らうよう、非常にゆっくりとマイペースに。
まるでカウボーイかのような、ある種時代錯誤な風来坊のごとき出で立ちの男が、ギターを弾きながら、歩み寄ってきた。
「おい、君!何をしている!あれが見えないのか。早く逃げたまえ!?」
飯田の主張を聞いているのか、いないのか。
男はこちらへ向かってくる。
「……なるほど。あれは噂通りのデカブツだな」
男は口笛混じりに巨大ヴィランを見上げる。
「君、あれを知ってるのか!?」
「あぁ、0ポイントの巨大仮想ヴィラン……雄英高校の入試定番のお邪魔ギミック。ビルを軽々と薙ぎ倒すほどの圧倒的戦闘力。ただし、この会場じゃあ二番目だ」
「何だって!?あれよりも強い奴がいるのか……いったいどこに!?」
男はヒュウと口笛を鳴らすと、チッチッチッと舌打ちしながら人差し指を左右に振ってノーサインを出す。
そして、その指でカウボーイハットのつばをぐっと持ち上げると、その下にある自分の顔をゆっくりと指し、ハッハッハッ!と自信満々に笑ってみせる。
「なっ……!?」
飯田は驚きのあまり言葉を失う。
この男は、あの巨大ヴィランを前にして何故こんな態度がとれるのか……?
そんな二人の耳に、小さな声が聞こえた。
「痛い……」
それは、少女のか細く小さな声だった。
巨大ヴィランの侵攻による建物の崩落に巻き込まれたのだろうか。
声の方を見やると、瓦礫で足をくじいた少女の姿があった。
次の瞬間、飯田の目の前から男の姿が消えた。
気がつくと、男はいつの間にか女子の元にいた。
そして男は瓦礫に足をとられていた女子を横抱きに担ぎ上げる。
「お嬢さん、怪我はないかい?」
「あ、足を軽くひねったぐらい……」
「そうか、どれどれ……骨は大丈夫そうだな」
男が少女の足の様子をチェックしていると、背後から巨大ヴィランが迫りつつあった。
「ちょっ、後ろ!?」
抱きかかえられた少女は思わず声を上げる。
ヒュウ
だが、男は軽く口笛を鳴らすと、背後から迫りくる鉄の拳をノールックで、少女を抱き抱えたまま横っ飛びして回避する。
「……たしかに身体は大きいが、動きは単調。所詮はただの鉄クズのお人形さ」
そう言いながら、男は巨大ヴィランの追撃も、降り注ぐ瓦礫も、一瞥することなく難なくすり抜け、様子を飯田見守っていた飯田の元へと戻ってきた。
「そこのナイスな眼鏡の君。俺はちょっと鉄クズを片付けてくるから、この娘は任せたよ?」
男は少女を飯田に預けると、再び巨大ヴィランの元へと駆けていく。
巨大ヴィランが崩したビルの壁を蹴り、三角跳びの要領で空を舞う。
そして、巨大ヴィランの頭上にたどり着くと男は拳を握る。
「受験生の皆に贈る……」
巨大ヴィランの脳天を殴りつけると、男は宙返りをして見事に着地。
ピギッ
その瞬間、巨大ヴィランの頭にヒビが走る。
そして、そのヒビはやがて全身に広がり、鋼の巨体が崩れていく。
驚愕すべきは、その崩れ去った残骸。
「バカなっ!?」
「ウソやろ!?」
飯田も少女も思わず叫ぶ。
遠くから一部始終を眺めていた受験生たちの目に映ったのは
合 格 祈 願
ヴィランの残骸によって象られたその4文字
「力任せにただ壊すだけってのは、少々味気ないもんで……」
男はカウボーイハットを整え直すと、他の受験生たちへ一礼した。
『終了〜』
試験終了を告げるアナウンスが鳴り響く。
「あの巨大なヴィランを粉砕するだけに留まらず、その破片と落下位置の全てを制御しなければ……あんな芸当できはしない。彼はいったい……」
あまりの桁外れの所業に呆然とするしかない飯田。
♫チャラララ チャラララ チャラ ラ ラ チャラララ
♫チャララ ラ ララララ チャララ チャラララ
男は周りの視線を気にも留めず、再びギターをかき鳴らす。
そして、まだ昼間のはずなのに何故か出てきた夕陽に向かって、ゆっくりと去っていくのだった。
― 彼の名前は『早川健』
これは、既に『日本一』の男が、ただその腕前を披露するだけの物語だ。
続く……のか?