何か貧乏神拾ったんだが 作:隣の家に晩飯凸する止まらないゴルシ
晩凸ゴルシでーす。
書くことが一つもないので、どうぞ。
「それじゃあ、今日は居酒屋によるから、晩飯は一人で食えるな?」
「うん、行ってらっしゃい」
依神を拾ったあの日から数ヶ月、大した出来事なんかもなく、彼女は平井に心を開き始め、里の住人も「平井なら信用できるだろう」、という事で、今までの態度を改め彼女に接していた。
今は既に年も明け、春である。
里に出れば花粉でくしゃみをしたり、鼻水をたらしまくっている住人がいるが、それに構えば仕事に遅れる、という事で無視し、一直線に依頼人のもとへ行く。
数時間後、日も暮れ、真っ暗な道を歩き、居酒屋に入る。
「日本酒を頼んでも?」
「おう」
店主に軽く挨拶をし、日本酒を頼み、カウンターに突っ伏す。
理由は単純明快、仕事が原因である。
今日は三件ほど仲介の依頼をされ、順番に回っていったのだが、その全てが痴話喧嘩なのである。
「貴方を殺して私も死ぬ…!」
「や、やめ…ひっ平井さん!助けて…!」
「いやあなたが浮気したのが悪いんでしょうが」
「すいません、この人告白を断ってから私を追ったり、痴漢してきたりするんです」
「うおおおおおおおおおこんなところでえええええ」
「……あぁ、はい、誠心誠意対応させていただきます」
「やらないか」
「た、たすけ…いやだ……嫌だぁ…平井さぁん……」
「………」
と、この様に、浮気、ストーカー、痴漢…?の3コンボである。
仕事柄、仲介の際はこう言う痴話喧嘩の物が多く(三件目に至っては痴話喧嘩の域を超えているだろうが)、それなりに耐性は持っているつもりだったが、いざ解決!となると何故か依頼人が危機に陥っているか依頼人が何とかしているの二択なのである。
「ほい、これ酒な」
「ありがとう…」
いつも以上に疲れた己の心身を癒そうと、酒におぼれ始めたその時、隣に男が座ってきた。
「横、失礼」
「どうぞ」
男は20代辺りの、自分よりも少し年上だろう、といった雰囲気だった。
右目には白い医療用の眼帯をつけており、体全体を肌色の、ボロボロになったマントで覆っていた。
「いやー、やっぱりお酒はおいしいなぁ…おや、雰囲気が暗いですね、何かあったんですか?」
「え?えぇ、まぁ」
そこから相談やらを聞いてもらい、軽く談笑をすると、彼が唐突に口を開いた。
「貴方は―――幻想郷って何だと思います?」
「それは…俺自身の答えですか?」
「ええ」
「………『自由』、それを表すことのできる場所、ですかね」
「ほう…それは如何してそう思ったんです?」
「俺は…人間なんて、好きにされて、好きになればいいと思ってるんです」
「…」
「誰も『生まれたい』、と思って生まれてきたわけじゃない、勝手に生を押し付けられただけだ。なら、好き勝手に生きればいいじゃないですか―――でも、外の世界じゃ、それができないらしくてですね」
「ふむ…」
「でも―――
「……なるほど、面白い考えをお持ちのようで」
「…」
「あぁ、しまったもう時間だ。そろそろ私はお暇しますよ――――」
「――――――と、その前に、これをどうぞ」
そう言い、手渡されたのは圧縮した空気で、内容物を打ち込むタイプの注射器だった。
「依神ちゃん、待たしてるんでしょう?早めに帰ってあげてください」
「ええ、そうさせてもらいま―――」
今、彼は何と言った?
依神を待たせている、と言ったのか?
相談を聞いてもらったり、談笑をしている時、俺は一度も依神の名前を出していない。それどころか同居人がいると一言も発していない。
「ちょっと待っ―――」
注射器を受け取り、振り返った時には、もう男はいなかった。