「皆さん落ち着いて!こちらに避難してください!」
地上で、大きな声で市民に避難するよう呼びかける軍人。
「ピギャアアアオオオッ!」
「うわあああっ!」
「俺の店があああっ!」
日が暮れ、夜の帳が下りた街に響き渡る、怪獣の咆哮と人々の悲鳴。そして、爆発音と地響きの四重奏。
「隊長!戦車隊との通信が途絶えました!」
「出撃した戦闘機もほぼ撃墜されました!」
司令部に響く、オペレーターの悲鳴。悪化する戦況を耳にした隊長も、頭を抱える。そして、怒りに任せて拳をコンソールに叩きつけて吠える。
「そっちの部隊の被害状況は?」
隊長と呼ばれた男性は、隣に立つ別部隊の隊長に訊ねる。彼の所属部隊、魔法師によって構成された部隊ならもしや。という一抹の希望を込めて。
「……幸い死傷者は出ていない。しかし、あの怪獣にダメージを与えられていない。的が大きすぎる」
沈痛な面持ちで告げられた回答に、更に続ける。但し、周囲には聞こえぬ程度の小声で。
「噂の非公式の戦略級魔法師の投入はできないのか?」
「現在協議中だ。戦略級魔法はそもそも、敵国の都市を壊滅させることが条件になっている。自国内での使用など想定されていない。ましてや都市部で怪獣に使うなど」
「ふざけるな!このまま俺達は何もできないのか!?あの怪獣になすすべなく蹂躙されろというのか!?それではかつての先人達に申し訳がたたん!」
かつて国を、そして世界を守るために戦った防衛軍。かつで1つだった世界は争い合うようになり、他国と組んでいた手を拳に変え、殴り合うようになっていた。
彼らの内にある想いは、今日までの自分達に対する怒り。今日までの自分達の行いに対する悔恨の念。
しかしここで彼らが悲しみ、吠えたところで状況は変わらない。こうしている間にも怪獣による被害は拡大し続けている。
「隊長!あれを見てください!」
司令部内の沈黙を破るように、1人のオペレーターが声を上げる。
全員が顔を上げ、映像を注視する。
「あれは、光……?」
怪獣の背後。その頭上に輝く紫の光。人型の
「まさか……!?」
土煙が晴れ、中から姿を現したのは──。
某新聞社の記者と、取材に応じた国防軍の隊員の応対の記録。
『では昨日、あの怪獣との戦闘のために出撃されたのですね?』
『ええ。自分は戦闘機で空中から、あの怪獣に攻撃しました』
『なるほど。では、あの時撃墜された機体のいずれかには貴方が?』
『ええ。それで、自分は緊急離脱し、市民の方々の避難誘導を行っていました』
『他にも戦車や、ミサイル。更には魔法師なども投入されたそうですが……』
『はい。ご存知の通り、歯が立たなかったです。こちらの攻撃など意に介さず、あの怪獣は暴れまわり、被害は広がる一方でした』
『そんな時に、現れたんですね?
『ええ。現れたんです……見たこともない、
最初に感じたのは、視線の高さ。それもただ高いだけじゃない。飛行機の機内や高層ビルから地上を見下ろすのとは違い、地面の感触が足の裏から伝わる。
次に変化した肌の色。銀をベースに、赤と黒の配色がされた肌。顔は分からないが、歴史の教科書でよく目にした感じの顔になっているのか?
そして感じる解放感。まるで、重りをつけた状態でトレーニングをした後で重りを外したように、体が軽い。
『これが……俺?』
『ハイ。ソレガ、貴方ノ本当ノ姿デス』
「……ウルトラマン……?」
地上から誰かが呟いた、小さな声。だけど、とてもハッキリと聞こえた。
『ハッピーバースデイ。ウルトラマン、ジード』
脳内に響いた、俺のウルトラマンとしての誕生を祝福する声。
「ピギャアアアオオオッ!」
怪獣はこちらを威嚇するように、咆哮を上げる。
今の自分の姿がどうなっているか考えるのは後回し。今は、目の前の怪獣に集中だ!
「シェアッ!」
気合いの掛け声。そして地面を蹴って跳躍し、怪獣との距離を詰める。
「(ヤバい!加減を間違えた!)」
しかし力加減を誤り、想定よりも大幅に跳躍してしまった!しかたない、このまま膝で……。
「シェアッ!」
「ピギャアアアッ!」
怪獣の顔面に飛び膝蹴り。怪獣は咆哮をあげるとやり返しとばかりに、右手を振り上げる。
「ハアッ!」
怪獣の張り手を左手で防ぎ、人体でいうところの鳩尾辺りを狙って寸勁。衝撃で怪獣が後ずさり、うめき声を上げる。
「ギシャアアアアッ!」
「シャッ!シェアッ!ハアッ!」
怪獣の攻撃を防ぎ、往なして鉤突き、裏拳、蹴り上げなどを叩き込んでいく。
「シャアッ!」
とどめに猿臂を叩き込もうとした、次の瞬間。
「(はぁ!?)」
当たる直前で怪獣が屈んで攻撃を避け、俺の攻撃が空を切る。そして怪獣の背中の突起と角が血のように赤く発光し、そして──。
「ピギャアアアッ!」
「グアアアアアッ!」
怪獣の頭突きが、腹部に直撃する。全身に伝わる、体験したことのない衝撃波と、痛み。
「(痛い痛い痛い痛い!)」
衝撃のあまり後方に吹っ飛んだ俺は背中から倒れ、ビルを砂の城のように崩し、地面に背中を強く打ち付ける。
そして胸部のカラータイマーが赤く点滅し、音が鳴り始める。どうやら、ここで限界が近づいてきたようだ。
「(立ってくれ!ウルトラマン!)」
『今の声は……八雲先生?』
俺の脳裏に響いた、武術の師である九重八雲先生の声。なぜあの人の声が?そう考えていた俺の目の前に、光の球のようなものが現れた。球は形を変え、光も小さくなって消えた。代わりに現れたのは、掌に納まる大きさの円筒状の物体。それは──絵柄は違うけれど、俺の持っているウルトラカプセルと同じだった。
「『なあ、このウルトラカプセルは?光の球が出てきたと思ったら消えて、これが出てきたんだけど』」
「『ソノ光ハ、オソラク『リトルスター』デショウ。ソシテ、ソレガ分離スルコトデ『ウルトラカプセル』ガ現レタノデショウ』」
「『そうか……』」
「『ソシテ、ソレガ分離スル条件ハ、宿主ガウルトラマンニ祈リヲ捧ゲル事。ツマリ、ソノ宿主ハ貴方ニ祈リを捧ゲタノデス』」
「『祈り、か……』」
つまりあの時の声は、八雲先生が俺に怪獣を倒して欲しいと願った声。
「(だったら、この程度の痛みで倒れてる場合じゃない!)」
俺は活を入れて立ち上がり、構える。瞬間、俺の脳裏に過ったビジョン。歴代のウルトラマン達が怪獣を倒す時に放った、必殺技が浮かんだ。
「『この辺で人気のない場所は?』」
「『10時ノ方向、距離500メートルホドノ場所ガ、ソコソコノ広サノ更地ニナッテイマス』」
「『わかった!』」
ナックルを介して通信を行う。まずはそこまで怪獣を何とか運ぶしかない。周囲を国防軍の戦闘機や、マスコミのものと思われるヘリは飛んでいない。後は向こうの出方次第だけど、果たして……。
「ピギャアアアオオオッ!」
怪獣が再び背中の突起と角を発光させ、前傾姿勢でこちらに突進してくる。俺は右手を握りしめ、左手で拳を包み込んで、上方に構える。そしてタイミングを見計らい。
「(ここだ!)シャアッ!」
ダブルスレッジハンマーを振り下ろす。怪獣の後頭部を殴りつけ、地面に叩きつける。
「(駄目押しにもう1つ!)シャアッ、ハアッ!」
怪獣の背後に回り込み、腰に腕を回して手と手を組む。そのままジャーマンスープレックスで投げつける。俺は起き上がり、更地になっているという地点を確認。今度は力加減を間違えたりしない。
「シャアアアッ!」
怪獣の尻尾を掴み、そのまま振り回してハンマー投げ。怪獣は背中から地面に激突し、土煙を巻き上げる。
「オオオ……ッ、アアアッ……ッ」
頭部と背中を強打したのが効いたのか、フラフラと起き上がる怪獣。
「(今だ!)」
俺は下方で両手首をクロスさせ、そのまま上方に腕を動かす。そして両腕を大きく広げ、力を溜める。体中から溢れた力は両手に集まり、赤く発光する。そして両手を十字にクロスさせ、腰を落として姿勢を安定させて放つ。
「レッキングバースト!」
手から放たれる、水色の光と赤黒い稲妻の混ざり合った光線。それは寸分たがわず怪獣の心臓に向かって直進し、直撃。
「ピギャアアアッ!オアアアアアッ!」
怪獣の口から出たのは、断末魔の叫び。光線を撃ち終えると、怪獣は体をスパークさせて背中から倒れ込み。爆発。
「(ど、どうだ……?)」
爆発による煙が時間とともに晴れていくと、怪獣がいた場所は何も残っていなかった。精々、地面が焦げているくらい。
「やった……のか?」
「みたい、だな……」
避難していた人達の誰かがそれを口にすると、一気に歓声が起こる。
怪獣を倒したという事実に安堵して気が緩んだところで、胸部のカラータイマーの点滅が激しくなる。
「『ソロソロ限界ノヨウデスネ』」
「『みたいだな』」
つまり、これからは制限時間も意識して怪獣と戦わなければならない。なおかつ、街への被害も考慮して。ウルトラマンとして戦うことは、教科書で伝わる以上にキツそうだ。
「『今からそっちに帰るけど、そこは大丈夫?』」
「『ソレハコチラデ対処シマス。貴方ハ、何処カ遠クヘ飛翔シテクダサイ』」
「『わかった』」
俺は少し屈んで跳び、両腕を前に伸ばす。思い浮かべるのは、歴史の授業で見た、ウルトラマン達の映像。彼らのように飛翔することをイメージすると、俺の体もそれに応じて飛翔した。
「……なあ、ロゼッタ」
「ロゼッタ。トイウノハ、私ノ事デショウカ?」
「うん。名前くらいつけたほうが良いかなって思ってさ」
「アリガトウゴザイマス、マスター」
「俺の事は今後、陸って呼んでいいよ。何か、マスターって呼ばれるのこそばゆいからさ」
「カシコマリマシタ。陸」
怪獣との戦闘を終え、ネオブリタニア号に戻ってきた俺はこの船の報告管理システム改め、ロゼッタと会話をしていた。
「祈り、か……」
俺の手元にある、ウルトラカプセル。ロゼッタによれば、描かれている彼の名はウルトラマンゼロ。何と、あのウルトラセブンの息子らしい。そして、俺の父親であるウルトラマンベリアルの宿敵なんだとか。……できれば会いたくない。というか、怖い。
「ロゼッタ。1つ質問があるけど、いい?」
「ドウゾ」
ウルトラカプセルはとりあえずホルダーに納め、先程の戦いで気になっていたことを訊ねる。
「人間が怪獣に変身するって、できる?」
「……可能デス。デスガ、ソノ方法ノ閲覧ニハ制限ガカカッテイマスノデ、詳細ハ不明デス」
「そうか、可能か……」
「何カ、気ニナルコトデモ?」
「うん。あの怪獣が俺の攻撃を避けた時の挙動が、何か人間っぽさを感じたんだ」
もしかしたら、俺と戦ったあの怪獣は、誰かが変身した姿なのかもしれない。
だったらなぜそんなことをしたのか、何のためにやったのか。今の俺は、それが気になってしょうがなかった。
「まさか。ここまでやるとはな……」
男は怪獣が爆発した地点を睨み、手元で煙を上げるカプセルを見つめる。
忌々し気な声から一転して、男は不敵に笑う。
「フン、まあいい。今は無邪気な子供のように、ヒーローごっこを楽しむといい。
男はそう言い残すと、夜の闇へと消えていった。
次回予告
ついに始まった高校生活。この学校には一科生(ブルーム)と二科生(ウィード)、入学時点で優等生と劣等生が存在するけれど、そんなの関係ない。俺は俺なりに3年間頑張るだけだ。そう意気込んでいた俺は、ある人からの勧誘を受けて……。
次回、魔法科高校のGEED。『優等生と劣等生』。
「風紀委員にならないか?」