・ウルトラマン
・ウルトラマンベリアル
・ウルトラマンゼロ
あの怪獣との戦いから数日が過ぎ、ついに迎えた国立魔法大学付属第一高校の入学式。
『先日、日本の各報道機関にウルトラマンジードなる人物からメッセージが届きました。内容は──』
「(2回とも国防軍から攻撃はされなかったけど、次もそうとは限らないからなぁ……これが吉と出ますように)」
俺がウルトラマンジードに変身して戦ったあの日から、ニュースでは俺に関する報道が止まない。主な内容は、俺が人類の味方か敵か。20年前の『クライシス・インパクト』に関する資料写真に写っているウルトラマンベリアルとの関係は。現時点の世論調査では、7割の人が俺に対して恐怖や敵対心を抱いているらしい。そこで、ロゼッタに頼んで俺が敵ではないことを主張する声明を送ってもらった。
『では、次のニュースです。AIB、異星人調査局によりますと、3月25日に横浜ベイヒルズタワー付近で出現した怪獣は、人が何らかの方法で「変身」したものであることが判明いたしました』
「(あれは本当に驚いた。人がいないはずの場所に人が倒れていたんだから。そうなると、3月21日に出現した怪獣に『変身』した人が報道で取り上げられないのは何でだろう……)」
3月25日に出現した怪獣の名はグラレーン。
あの怪獣は、『スフィア』という球形宇宙生命体が溶岩と融合したことで誕生した『スフィア合成獣』に分類されるらしい。
だがロゼッタ曰く、『スフィア』という生命体は別次元の宇宙の存在のため、『スフィア合成獣』が出現するのはおかしいらしい。それこそ、別次元の宇宙で発生した『ギャラクシークライシス』という宇宙規模の時空が歪みが起きない限り。仮に別次元の宇宙から何らかの方法で流れ着いたとしても、構成物質である溶岩が豊富な火山地帯ならともかく、あんな街中には現れないらしい。その答えは今ニュースキャスターが言ったように、人があの怪獣に変身していたから、あんな街中に出現したんだ。
「おはよう、陸」
「おう、おはよう。ほのか、雫」
「おはよー」
俺の後ろから声をかけてきた、少女の名前は光井ほのか。彼女と俺はいわゆる幼馴染の間柄にある。
俺の挨拶にけだるそうに返したのは、北山雫。彼女もほのかと同じく幼馴染。
「ほのか、一科生なのか」
「陸もそう思う?今朝ほのかの制服姿見て驚いたよ」
「ちょっと、2人共私のことなんだと思ってるの?」
「「緊張のあまり
「……私って、そんなに信用されてない?」
「信用しているからこそだよ」
「うんうん」
と、幼馴染と会話をしながら入学式の会場である講堂に向かっていると。
『なあ、あそこのウィード見ろよ』
『ブルームの女子2人連れて、文字通り「両手に花」ってか?』
『爆発すればいいのに』
周りの新入生──主に男子の新入生からの視線と陰口が俺に向けられる。
彼らが口にした『ブルーム』とは、ほのかや雫のように制服の左胸にエンブレムを持つ一科生徒のことを指す言葉。
そして『ウィード』とは、俺のように制服の左胸にエンブレムが無い二科生徒を指す言葉。
もちろん、『ウィード』とは蔑称なので二科生徒をそう呼ぶことは禁止されている。
だが悲しいことに、それは半ば公然の蔑称となっており、二科生徒自身の中にも定着しているらしい。俺は別に気にしないが、幼馴染に迷惑がかかったりすると少々面倒なので……。
「すまん。2人共少し離れてくれ」
「どうして?」
「いや見ろよ、周りの目線」
2人は周囲の一科生徒からの視線や言葉に耳を傾ける。その上で、俺の隣から動こうとしない。
「言いたい人には言わせておけばいいの」
「だから陸は気にせず、私達と講堂まで一緒に行って」
堂々としていろと言うように、雫が俺の背中を軽く叩く。あるいは、早く行けと催促しているようだ。
男は女に勝てない。そして多数決で決まったから逆らえない。俺は幼馴染2人を連れて、講堂に向かった。
「陸は何処に座る?」
「大きいのが前にいたら後ろの人達が見えないだろうから、後ろの方に座る」
「というか、後ろに座らざるを得ないよね、これは……」
講堂に入って直ぐ目に入ったのは、座席に座る新入生。ただ、座っている生徒には法則性があった。
すなわち。前半分には
最も差別意識が強い者は、差別を受けている者だ。
前に知り合いから聞いた言葉が、俺の頭の中で反響する。目の前の光景は、その言葉を体現しているようだ。
「じゃ、またあとで」
「うん」
「じゃあね」
「(今のは……!?)」
椅子に座り、式の開始を待っていた俺が感じたのは、異物が紛れ込んだような違和感。
「(これは、確か……)」
「美月、どうかしたの?」
「い、いえ。何でもないです」
俺以外にこの気配を感じ取ったのは、直ぐ近くの彼女ともう1人。彼女のように周りを見渡してはいないが、何か感じたようだ。
違和感の正体に意識を向けると、それには見覚えがあった。
「(そうだ!3月25日、横浜のベイヒルズタワーで見た物と一致している!まさか彼が……)」
自分の記憶と情報を照らし合わせた結果が合致した。しかし、まだ早いと踏みとどまる。
「(いや。本人に聞いたところで、とぼけられるのがオチだろう。それを避けるためにも、まずは情報収集だ。だが……)」
「ではこれより、国立魔法大学付属第一高校入学式を行います」
それよりも優先すべき事項が今の俺にはある。一呼吸おいて意識を切り替えると、俺はステージ上に注目する。
「陸はホームルーム行く?」
「……特に予定ないから校内を軽く見て回ったら帰る」
「わかった。じゃあ、私達はホームルーム行ってくるから」
「また明日」
入学式が終わり、IDカードも受け取った。なお、ここでも一科生と二科生で分かれていたことを記しておく。ここでも壁が生まれるか。
ほのかと雫は教室に向かったのを見届けると、俺は校内を見て回ろう。そうしようと振り向いた瞬間。
「うわぁ!?」
身長185cmほどの男性が目と鼻の先にいて驚き、数歩後ろに下がる。俺のほうが身長は高いけど、それでも後ろに人がいたら驚く。
「驚かせてしまってすまない。声をかけようとしたのだが……」
よく見れば、その男性の制服の左胸にはエンブレムがあった。そしてこの声、さっき入学式で聞いたぞ。確か……。
「もしや、十文字克人先輩ですか?本校の部活連会頭。
「そうだ」
その中でも十師族とは、日本最強の魔法師の集団だ。
一条、一之倉、一色、二木、二階堂、二瓶、三矢、三日月、四葉、五輪、五頭、五味、六塚、六角、六郷、六本木、七草、七宝、七夕、七瀬、八代、八朔、八幡、九島、九鬼、九頭見、十文字、十山の二十八ある家系の中から、4年に1度の会議によって選ばれた十の家が『十師族』を名乗る。
その最強の魔法師の集団に名を連ねる名門の出身の人が、俺にどんな用なのだろうか。俺の頭の中で疑問符が浮かんだ。
「この後、何か予定はあるか?」
「いえ、特に予定はありません」
「そうか。なら、ついて来て欲しい。話がある」
「はい」
校内を見て回るなんて、明日でもできるから後回しにすることにした。俺に話しかけた理由のほうが気になる。
「適当なところに座ってくれ」
「失礼します」
先輩についてやってきたのは、どこかの空き教室。
近くの席に座ると、十文字先輩は俺に対面するように椅子に座ると言った。
「風紀委員にならないか?」
……ゑ?
「すいません。まず風紀委員がどのような組織か分かりませんので、教えていただけませんか?」
「……そうだな。風紀委員は、魔法使用に関する校則違反者の摘発と魔法を使用した争乱行為の取り締まりを行う。そして風紀委員長は、違反者に対する罰則の決定にあたり、生徒側の代表として生徒会長と共に、懲罰委員会に出席して意見を述べる。簡単に言えば、警察と検察を兼ねた組織だ」
「なるほど」
「そして風紀委員の選出には、職員室推薦枠、生徒会選任枠、部活連推薦枠の3つが存在する。更に君も知っての通り、俺は部活連の会頭を務めている」
「つまり、部活連推薦枠で俺を風紀委員に指名しようと?」
そうだ。と言うように、十文字先輩が頷く。
「自分でいいんですか?そういう仕事って、魔法に優れた一科生がするべきだと思うんですが……」
万が一俺が風紀委員になれば、一科生に反感を買うのは確定的に明らか。そうすれば、一科生と二科生の間にある溝も深くなってしまうかもしれない。……正直、ウルトラマンである俺が争いに介入して、それが後にバレたらどんなことを言われるか不安だ。
「先生方から聞いたが、君は超能力者らしいな」
「はい」
「そして、柔道の全国大会で二連覇も成し遂げている」
「……はい」
「ならば、問題ないだろう。君は魔法は不得意かもしれないが、それを補う物を持っている。そのうえで、改めて言わせてもらう。風紀委員にならないか?」
十文字先輩が俺に向ける視線は、期待と信頼。それを向けられたら断るわけにはいかない。けどなあ、後で俺の正体がバレたら色々と不味いことになりそうだけど……。
「明日の放課後まで、考える時間をいただいてもいいでしょうか?」
「わかった。では明日の放課後、部活連本部に来てくれ。場所は分かるか?」
「はい。では、失礼しました」
そして、翌日。
「はじめまして、朝倉陸です。よろしくお願いします」
「はじめまして。私が風紀委員長の渡辺摩利だ」
十文字先輩に風紀委員になると伝え、連れられてきた風紀委員会本部。そこで、委員長の渡辺摩利先輩に挨拶をしていた。
挨拶の前に風紀委員会本部を軽く見てみたけど、はっきり言って酷い。長机の上が書類とか本とか携帯端末とかCAD(簡単に言うと魔法を使うためのツール)とか色んな物で埋め尽くされている。本人は『少し』散らかっていると言っていたけど、これで『少し』……?
ちなみに、十文字先輩はもういない。部活連本部で仕事があるらしい。
渡辺先輩は俺を頭から爪の先までじっくり見た後、顔を近づけて言った。
「すまないが、少し私と手合わせをしないか?君の超能力がどれほどのものか、見せてもらいたい」
「……良いですよ」
正直本部の片づけをしたいけれど、先輩との模擬戦を優先しよう。俺を部活連推薦枠に選んでくれた十文字先輩のためにも、相応の実力があるところを見せないと。
「ありがとう。手続きをしてくるから、少し待っていてくれ」
先輩曰く、非公式でも『試合』という形にすることで、模擬戦を喧嘩沙汰にしないための措置をとるらしい。
確かに、私闘を止めさせる風紀委員が私闘を行うのはいかなる理由があろうと許されないだろう。
そして先輩に案内されたのは、ちょうど空いていたという第二演習室。立会人はなんと、生徒会会長の七草真由美先輩。
「すいません。CADを使っていないことを証明するために、上着を脱いでもいいでしょうか?」
「ええ」
試合の前に、制服の上を脱いでTシャツ1枚になり、脱いだ制服を畳んで部屋の隅に置く。
「これはこれは。柔道の全国大会で二連覇を成し遂げただけあって、中々良い体付きをしているな」
俺が変身するのに使うナックルとカプセルホルダー。そしてライザーはベルトに装着しているけど、2人には見えない。ロゼッタが言うには、特殊なバリアを発生させて見えなくしているらしい。
「では、ルールの説明をします。直接間接問わず相手を死に至らしめる術式は禁止。回復不能な障碍を与える術式も同様に禁止。相手の肉体を直接損壊する術式も禁止。ただし、捻挫以上の負傷を与えない直接攻撃は許可します。武器及び投げ技の使用は禁止。素手による攻撃は許可します。蹴り技を使う場合は今ここで靴を脱いで、学校指定のソフトシューズに履き替えること。勝敗は一方が負けを認めるか、審判が続行不能と判断するか、寝技で相手を10秒押さえた場合に決します。双方開始線まで下がり、合図があるまでCADを起動しないこと。このルールに従わない場合は、その時点で負けとします。私が力づくでも止めるから、覚悟しておいてください。以上よ」
俺と渡辺先輩は頷き、5メートル離れた開始線で向かいあう。
先輩はオーソドックスな腕輪形態の汎用型CAD。
対する俺は丸腰。CADの類は持っていない。
「では──始め!」
開始の合図と同時に、渡辺先輩が腕輪形態CADを操作しようとするよりも早く。
「なっ!?」
俺は念力で渡辺先輩を吹き飛ばし、壁に叩きつける。
「くっ……体が、動かない……!」
更に体の動きを封じ、CADの操作を妨害する。
……しまった。寝技じゃないからこのままだといつまでたっても試合が終わらない。
「……真由美。私の負けだ」
「「ゑっ!?」」
歯を食いしばって動こうとしていた渡辺先輩が一転して、スッキリしたような晴れやかな表情で言った。
「そもそもこの試合は、朝倉の超能力を見るためのものだ。そして朝倉は超能力で私を吹き飛ばし、押さえつけた。それで充分さ。だから、朝倉も超能力を解除してくれ」
「……わかりました」
何だろう。この試合に勝って勝負に負けたような何とも言えないモヤモヤした感覚は。
言われた通りに超能力を解除すると、渡辺先輩は満面の笑みで近づき、右手を差し出す。
「改めて。朝倉陸、君の風紀委員加入を歓迎しよう。期待しているぞ」
「よろしくお願いします」
初対面の後輩を「お前」呼びはしないだろうと考え、十文字先輩の口調を少し優しめにしてみました。