・ウルトラマン
・ウルトラマンベリアル
・ウルトラマンゼロ
新入生勧誘週間も終わったある日。
「ほのかに雫に……あの赤毛の女子は何をやってるんだ?」
校門前で、何やら怪しい動きをする幼馴染と見知らぬ女子を発見した。
「あれは確か、剣道部の主将の司先輩?」
3人の目線の先には、長身で細身の男子生徒。といっても、もう姿が見えなくなった位に距離が離れている。
「朝倉くん?」
「あっ、司波さん」
不意に呼ばれたので振り向いてみれば、司波さんが立っていた。彼女もあの3人の動きが気になるのか、チラチラ見ていた。
「どうかされたんですか?」
「雫とほのかと、もう1人女子生徒がいたんですけど、その動きが怪しかったので何をしているのかと気になって……」
「実は私もなんです。というのも、最近2人とも忙しそうというか、何か私に隠しているような気がして……」
俺と司波さんは3人がいた場所を見たあと、向き合って言った。
「……念のために俺が3人の後を尾行します」
「わかりました。何かあった時は、私に電話してください。番号を今送信します」
「……来ました。それじゃあ、行ってきます」
俺は校門を出て3人の姿を捉えると、先生から教わった気配を消して歩く方法を使って尾行を始めた。
きっかけは、人並みの正義感とほんの少しの好奇心。そして、魔法が使えるという慢心。
それが間違いだった。
それがこんな事態を招いた。
「どうだ?キャスト・ジャミングの味は?」
「これがある限り、お前達は魔法を使えない」
「我々の計画を邪魔する者には消えてもらう」
私達を取り囲む黒ずくめの男達が、勝ち誇ったように言う。
頭が割れるように痛い。吐き気もする。
雫とエイミィにも同じような症状が現れ、3人とも膝から崩れ落ちる。
キャスト・ジャミングとは、魔法式が事象に付随する情報体・エイドスに働きかけるのを妨害する魔法の一種。そしてそれを使用するには、アンティナイトという特殊な鉱石が必要。
授業で習った項目が、走馬灯のように頭を過る。
「この世界に魔法使いは不要だ」
男の1人がナイフを抜き、私達に切っ先を向ける。日の光を反射させて輝く刀身に、恐怖から体が動かない。
「(誰か、助けて)」
その言葉が口から出ない。言葉が出なければ、誰も助けに来てくれない。
「(助けて!陸!)」
瞬間、金属が砕けるような音が響いた。
「ナ、ナイフが……!?」
「馬鹿な!?なぜアンティナイトの指輪が砕け……!?」
ナイフの刃と指輪が砕け、破片が男達の足元に散らばる。
恐怖と驚愕から、男達の声が震えていた。
「おい」
聞きなれた声。けれど、それは凄まじい怒気を含んでいる。
男達は、声の主を見ようと視線を動かした。
私達も少し遅れて、声のした方向を見る。
「俺の幼馴染とその連れに、何をしてるんだ?」
陸の目は、薄暗い路地裏でもはっきり見えるほど赤く輝いていた。さながら、燃え盛る炎のように。
それを見たエイミィが、小さく悲鳴を上げる。
「大丈夫。大丈夫だから、落ち着いて、エイミィ」
雫がエイミィを抱き寄せ、頭を優しく撫でて気分を落ち貸せる。
そう、私と雫は陸のあの目を何度も見ている。昔から、陸は怒りや興奮から感情が昂ると目の色が文字通り変わる特殊な体質を持っていた。
「何者だお前は!?なぜキャスト・ジャミングの影響下であれだけの魔法を……」
「質問を質問で返すな」
陸が1歩近づくと、男達は1歩下がる。
「3人とも、ここは俺に任せて。寄り道とかせず、真っ直ぐ大人しく家に帰ってくれ」
「う、うん」
「行こう、エイミィ」
「わ、わかった」
まだ少し眩暈がするけれど、路地裏から逃げる。
「がっ!」
「なんだこれは!?」
「こいつ、CADも無しに!」
うめき声に反応して後ろを振り向いてみれば。男達は全員壁に叩きつけられ、更に押さえ込まれていた。
「陸、その……」
「分かってる。手荒な真似はしない」
だから早く行け、と言うように陸は手を払う。
私達は大人しくその場を離れ、学校に戻って行った。
『はい。司波深雪です』
「もしもし司波さんですか?朝倉です」
ほのか達の姿と気配が遠ざかったのを見計らい、俺は司波さんに電話をかけていた。
『ああ、朝倉くん。電話をされたということは、何かあったんでしょうか?』
「ほのか達の尾行をしていたら彼女達が襲われました。今、俺の超能力で犯人達を押さえているところです」
『ええっ!?それで、3人に怪我は!?』
電話越しにもほのか達が心配なのか声が震えていたので、無事だと伝えると安堵したように息を吐いた。
「それで、ほのか達を襲った人達なんですけど、アンティナイトを持っていたんです」
『アンティナイトを?ということは、ただの不審者の類ではありませんね?』
キャスト・ジャミングに用いるアンティナイトは、軍事物資であり、値段もとてつもなく高い。とても一般人が入手できるような代物ではない。
そして魔法と魔法師を敵視しているような発言から察するに、こいつらは反魔法活動を行っている政治結社『ブランシュ』若しくはその下部組織『エガリテ』のメンバーの可能性が高い。
「だと思います。なのでここは警察ではなく、七草会長や十文字会頭を経由して十師族の力をお借りようと思って電話しました」
『……わかりました。今から先輩方とそちらに向かいます。場所はどこですか?何か目印になるような物はありませんか?』
「円形の看板が近くにあります。色は緑と白です」
『緑と白の円形の看板ですね。わかりました』
「ああそれと、縛るためのロープも持ってきてください」
『わかりました。襲撃者の人数は?』
「5人です」
七草先輩と十文字先輩、司波さんに襲撃者達を預けた翌日。その日の授業が全て終わり、放課後にさしかかった頃。
『全校生徒の皆さん!』
「うぉっ!?」
いきなりの大音量に、俺を含む教室にいた生徒たちが少なからず慌てふためく。
『──失礼しました。全校生徒の皆さん!僕達は、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です。僕達は生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』
「だったら放送室を使わないで直接本人達に言ってくれ。というか、放送室を不正利用してるだろ」
俺の考えに同意するように、風紀委員長からの呼び出しが。
呼び出しに従って放送室前に来てみれば、そこには他の風紀委員と部活連の実行部隊。そして、生徒会会計の市原鈴音先輩がいた。
中に踏み込んでいないのは、扉が閉鎖されているせいだろう。
そして、慎重に対応するか。多少強引でも短時間で解決を図るべきか。有志同盟への対応について、方針の違いで膠着状態にあるようだ。
「壬生先輩ですか?司波です。今どちらに?」
そんな中、達也が電話をかけていた。
「放送室にいるんですか。それは……お気の毒です」
どうやら、有志同盟の誰かに電話をかけているようだ。いつどこで番号を教えてもらったんだ?
「十文字会頭と生徒会は、交渉に応じると仰っています。ですので、交渉の場所、日程、形態などの打ち合わせをしたいのですが。……ええ、今すぐです。学校側の横槍が入る前に。……いえ、先輩の自由は保障します。我々は警察ではないので、牢屋に閉じ込めるような権限は持ち合わせていませんよ……では」
達也は携帯端末をしまうと渡辺先輩に向き直る。
「すぐに出てくるそうです」
「今のは、壬生紗耶香か?」
「ええ。待ち合わせの為にと番号を教えられていたのが、思わぬところで役に立ちましたね」
おや?司波さんの様子が……。
「それより、態勢を整えるべきだと思いますが」
「態勢?」
何を言っているんだと渡辺先輩が達也に訊ねる。
「中の奴らを拘束する態勢ですよ。CADは持ち込んでいるでしょうし、それ以外にも武器を持ち込んでいるかもしれません」
「……君は、さっき自分が電話で言ったことを忘れたのか?」
「いいえ。俺が自由を保障したのは壬生先輩1人だけです。それに、俺は風紀委員会を代表して交渉しているなどと一言も述べていません」
まさに正論。
達也が電話で言った内容を思い出したのか、反論できる人は1人もいなかった。
有志同盟と生徒会の討論会の日程が決まり。前日の夜遅く、九重寺にて。
「司甲とブランシュの関係だけど、彼の母親の再婚相手の連れ子、つまり甲くんの義理のお兄さんがブランシュの日本支部のリーダーを務めている。甲くんが第一高校に入学したのは、この義理のお兄さんの意思が働いているんだろうね。多分、今回のようなことを目論んで、なんだろうけど……具体的に何を企んでいるのか、までは不明だね。ろくでもないことなのは間違いないんだろうけどね」
俺と深雪は、この寺の住職であり、俺の体術の師でもある九重八雲から司甲に関する情報を聞いていた。
「そうですか……」
「肝心なところで役に立てなくて悪いね」
「いえ、参考になりました。ところで先生。もう1つ、先生のお力で調べていただきたいことがあります」
そう前置きして、俺は朝倉陸のことを説明した。しかし、意外な答えが返ってきた。
「陸くんの事なら調べなくとも、ある程度の情報はあるよ。彼も僕の弟子の1人だからね」
「「……」」
思わぬところで人間関係の繋がりがあったことに、俺と深雪は少し唖然とした。
「驚いたかい?」
「まあ、少しは」
「それならもう少しわかりやすいリアクションをとらないと。ほら、開いた口が塞がらない深雪くんのように」
「はっ!?」
見てみれば。指摘されてようやく気づいた深雪が、急いで口を閉じて何事もなかったように振舞っている。たらり。と、頬を冷や汗が伝っているが、見て見ぬふりをする。
「朝倉陸。戸籍上の生年月日は2079年7月10日。横浜沿岸の灯台に捨てられていた所を通行人に発見され、保護される。その後朝倉夫妻に養子として迎え入れられているね。義理のお父さんは警察官で、義理のお母さんは弁護士をやっている。君達も知っているかもしれないけれど、柔道の全国大会で二連覇を成し遂げた実力者であり、超能力者でもある」
「彼が弟子入りした経緯は?」
「小学校1年生の体力テストの時に立ち幅跳びをしたら、10メートルというとんでもない記録を出したらしい。これが何かの拍子に、暴力という形で人に向けられたら危険だ。だから彼に武術を、力の扱い方を教えて欲しいと、陸くんの名付け親からお願いされてね。小学校を卒業するまで、僕が指導をしていたわけなんだよ」
「名付け親に?義理のご両親ではなく?」
「うん」
「……では先生、その陸についてなのですが──」
そこで俺は、陸が何者かについての考察とその根拠を述べた。
「──と考えています。そこで先生に訊ねます。先生は、陸から何を感じ取りましたか?」
率直な感想を述べて欲しい。と、目で訴えかける。先生は少し悩んだように頭を掻くと口を開いた。
「弟子の事を悪く言いたくはないんだけど……正直に言おう、あの子は異常だ。人間なのかすら疑わしかった。何故ならあの子の放つ霊気は、『闇』そのものだったからね」
「『闇』ですか」
「うん。あの子はどす黒い、邪悪で悍ましい霊気を全身に纏っていた」
だけど。と、先生はそこで一呼吸置いた。
「それに負けないくらい強烈で眩い輝きは、あの子の中にあった。例えるなら、夜空に浮かぶ星の光のように」
「光、ですか……」
『闇』と『光』。この単語と俺が見た情報から、陸の正体と肉親が何者かの大凡の予想がついた。
だが、まだ少し足りない。もう少し情報を集める必要がある。
「そんなに、あの子のことが気になるのかい?」
「ええ。あいつの正体もそうですが……あいつが味方なのか、それとも敵なのか。そこを明確にしておきたいんです」
そして迎えた、討論会当日。
風紀委員ということで会場にやってきた俺は、内部をざっと見渡す。
一科生と二科生の割合はほぼ50:50。その中で同盟のメンバーと判明している生徒は10名前後。だが、その中にあの日放送室を占拠したメンバーの姿はない。どこかで別動隊として控えているのだろうか。
「朝倉、ちょっといいか?」
「はい」
渡辺先輩に呼ばれて振り向くと、耳を貸せと言われた。
「お前の超能力は、こういった人が大勢いる中で特定の人物にのみ使用することは可能か?」
「今みたいに目標をしっかり目視できれば可能です」
「なら、同盟メンバーが万が一不審な動きを見せたら、お前の超能力で押さえ込んでくれ。その後、風紀委員で拘束する」
「わかりました」
頼りにしている、と言うように渡辺先輩が俺の肩を叩く。
「ではこれより、生徒会会長七草真由美と同盟による討論会を開始いたします」
そして始まった、討論会。
パネル・ディスカッション方式の今回の討論会。経緯からして同盟が質問し、それに七草先輩が反論している。
予想はできていたけれど、酷い有様だ。
例えば予算配分の話で、同盟は『平等に』と言っていた。しかし、具体的にどの部に幾ら、或いは何割増しの予算を加えるべきといった要求がない。
同盟の皆さんには申し訳ないけど、はっきり言って時間の無駄。この時間で自習をして、少しでも座学の成績を上げるほうがましだと思う。
「ちょうど良い機会ですから、皆さんに私の希望を聞いてもらいたいと思います」
討論の途中、先輩はそう前置きをするとこう言った。
生徒会長以外の役員の指名に関する一科生と二科生の制限を、生徒会長退任時の総会で撤廃する。と。
「……私の任期はまだ半分過ぎたばかりですので、少々気の早い公約になってしまいますが、人の心を力づくで変えることはできないし、してはならない以上、それ以外のことで、できる限りの改善策に取り組んでいくつもりです」
満場の拍手が起こった。
先輩が訴えたのは、差別意識の克服。
同盟の行動は、明らかに差別を無くしていく方向へ足を踏み出すきっかけになった。
──だが悲しいことに、彼ら同盟の背後にいる者達は、これで終わらせるつもりなどなかった。
「朝倉!」
「はい!」
突如響いた轟音を合図に動き出そうとした同盟メンバーを、超能力で押さえつける。そこに風紀委員の先輩方がかけつけ、拘束する。
窓が破られ、紡錘形の物体が飛び込んできた。
床に落ちると同時に白煙を吐き出そうとした榴弾は、逆再生でもしたように煙もろとも窓の外へ消えた。俺はやっていないから、おそらく先輩方の誰かがしたんだろう。
続いて、出入り口から防毒マスクを被った数名の闖入者が奇襲をかけてきた。
しかし、それを予測していた渡辺先輩の魔法によって、闖入者達は一斉に倒れて動きを止めた。
「では俺は、実技棟の様子を見てきます」
「お兄様、お供します」
「気を付けろよ!」
達也と深雪さんは渡辺先輩の声に送り出されて、講堂を後にした。
「押さないで!風紀委員の指示に従ってください!」
一方、講堂に残っていた俺は、一般生徒の避難誘導を行っていた。侵入してきたテロリストへの対処は、部活連の実行部隊があたっている。
「あれは……」
同時進行で、同盟の実行部隊やテロリストが攻め込んでいないか周囲を見渡していると、怪しい集団を発見した。
黒ずくめの集団と、その中心に一高の制服を着た男性。
「待て、朝倉」
追いかけようとした瞬間、渡辺先輩に袖を掴まれた。
「ですが委員長!あれを逃がすわけには」
「それは問題ない。あっちには沢木と辰巳をつけてある」
渡辺先輩に言われて風紀委員の顔ぶれを見てみれば、確かに2人の姿が無かった。
「わかったら、このまま避難誘導にあたってくれ。これが終わったら、残党が潜伏していないか巡回だ」
「……はい」
できることなら俺の手で捕まえたかったけれど、ここは先輩の指示に従おう。
時間は過ぎ、今は夕方。
「誰もいない」
俺は空き教室を隅々まで見渡し、扉を閉める。
「……誰も、いない……」
10歩ほど歩いたあと、地面から1センチほど足裏を浮かせて戻り、再度扉を開けて確認。俺が去ったとみて物陰から誰かが出てきた、なんて映画によくあるパターンはなかった。
あの後、十文字先輩を筆頭に数名の生徒がブランシュの拠点に突撃することになった。
「……このまま、何事もなく終わってくれるといいんだけどな……」
俺は廊下の窓から、夕暮れの街を見てそう呟いた。それがすぐに裏切られるとも知らずに。