「くそッ!くそッ!あの化け物め!」
拠点の最奥の部屋。そこに逃げ込んだ男──ブランシュ日本支部リーダー、司一は拳を壁に叩きつけ、頭を搔きむしる。
「どうすれば──」
彼が化け物と呼んだ男、司波達也への対抗手段となり得るものが手元にあるか、周りの物をひっくり返しながら考えを巡らせていた。
そんな時だ。
「これは……」
小さなアタッシュケース。その中には、手に納まる大きさのカプセル。そのカプセルには、何かの絵柄が描かれていた。
『万が一の時には、こちらを使用してください。強大な力が、貴方をお守りするでしょう』
討論会の前日。厳密には日付が変わり始めた頃に、ある人物から渡されたアイテム。
強大な力が手に入るという言葉を思い出した彼は、口の端を吊り上げる。
「力だ……僕に、力さえあれば……!」
迫りくる脅威と力への誘惑から、男はカプセルを起動させる。
『ギュアアアアアッ!』
「ああああっ!」
起動したカプセルを心臓のあたりに押し付けると、カプセルは肉体に入り込み、彼の肉体は変貌していった。
「素晴らしい、これが……いや、違う!なんだ、これは!?痛い!体が、痛い!ぐっ、あっ……ああああっ!」
「……おい、エリカ」
「何?」
「お前、胸元が光ってるぞ?」
「うぇっ!?嘘!?こないだ一瞬光ったけど、何でまた光ってるのよ!?」
ブランシュの拠点である廃工場入り口。
廃工場から構成員が逃げ出した時に備えて待機していたエリカとレオハルト。
「こないだって、それはどういう」
レオの質問を遮るように、工場から悲鳴と破壊音が響く。
「はぁ!?」
「なんだ、ありゃあ!?」
三日月状の角を持った頭部。
鋭利な鎌状の両手。
天を衝く巨体を支える太い二足。
大蛇がミミズに思えるほどに長く、太い尾。
胸元から下半身に向かって直線状に配置された、菱形の青い発行体。
「千葉!西城!」
「エリカ!レオ!」
工場から駆け出してきた十文字と達也が叫ぶと、合わせるように怪獣が吠える。
「「逃げるぞ!」」
「ギュアアアアアッ!!」
「ギュアアアアアッ!」
「今のは!?」
夕焼けに包まれた街の空気を破壊するように響き渡る、雄叫び。
『怪獣が出現しました!校内に残っている皆さんは、周辺住民の避難誘導にあたってください!繰り返します!怪獣が出現しました!校内に残っている皆さんは、周辺住民の避難誘導にあたってください!』
「マジかよ!?」
スピーカーから飛び出した、七草先輩の声。
校内を飛び出してみれば、遠くで三日月状の角と鎌状の両手を持った怪獣が暴れていた。
七草先輩の指示に従い、住民の避難誘導もある程度したところで──。
「……よし」
俺は隠し持っていたブローチを操作して、姿を消す。シャプレー星人が擬態するのに使用していたシャプレーメタルを基にロゼッタが製作したこのブローチは、自分の姿を別人の物と他人に認識させる他に、姿を見えなくする機能を持っている。
「(会長。すいません)」
俺は心の中で七草先輩に謝罪して、校舎の屋上までジャンプで一気に跳び上がる。
「ロゼッタ。住民の避難状況は?」
『怪獣出現地点、半径500メートル圏内ノ住民ノ避難ハ完了シテイマス』
「わかった。カプセルとライザーを転送してくれ」
『ワカリマシタ』
俺の目の前に、カプセルとライザーが出現する。
「……ジーっとしてても、ドーにもならねぇ!」
「融合!」
『シェアッ!』
「アイゴー!」
『ヌェアッ!』
「ヒアウィゴー!」
『フュージョンライズ!』
「決めるぜ!覚悟!……ジード!」
『ウルトラマン!ウルトラマンベリアル!ウルトラマンジード!プリミティブ!』
怪獣出現地点から遠く離れた場所。その人だかりから離れた場所で。
「ねえ達也君。この光って何?」
「エリカが言うには、この間も光ったらしいぜ。一瞬だけどな」
「……すまない、2人共。皆目見当もつかない」
エリカを囲むように十文字会頭、レオ、俺は集まっていた。
街で国防軍を相手に暴れるあの怪獣は、突然現れた。上空から落下したり、地面を割って地底から現れるなど、何の前触れもなく。
「お兄様。あの怪獣はもしかしたら、横浜ベイヒルズタワーに現れた怪獣と同じように人が変身したのではないでしょうか?」
怪獣を観察しながら、深雪が言った。
確かに、あの時も同じ様な状況だった。問題は、誰があれに変身したかなのだが……。
「十文字会頭。『ブランシュ』の構成員は?」
「廃工場周辺で待機していた十文字家の者に急いで回収させた」
「その中に、司一という男の姿はありましたか?細身で、縁のない伊達メガネをかけた男性なのですが」
「……今確認した。その条件に該当する人物は、いないそうだ」
「そうですか。では、あれは……」
司一が、何らかの方法で怪獣へと変身した姿。そう俺は結論づけた。
「おい、あの怪獣。こっちを向いてないか?」
国防軍と怪獣の戦闘を観察していた桐原先輩が言う通り、怪獣はこちらを視界に捉えた。そして鎌を胸の前で合わせると額が発光し……
「逃げてください!攻撃が来ます!」
警察官の声を聞き、人だかりが一斉に下がった。……次の瞬間。
「レッキングリッパー!」
「ギュアアアアアッ!」
攻撃は不発に終わり、怪獣の悲鳴が響いた。遅れて鳴り響く、地響き。
「あれは……」
銀をベースに、赤と黒の配色がされた肌。頭部に生えたトサカ状の角。両腕の魚類のヒレ状の小さな突起。そして一瞬、こちらを捉えた双眸の色は、透き通る水のような青色。体長50メートルを超える巨人の名は──。
「ウルトラマン……ジード」
「シャアッ!」
咆哮と共に、彼は怪獣に向かって駆け出す。
「ギュアアアアアッ!」
怪獣も彼を敵と認識したのか、鎌を振り上げて駆け出す。
「シャッ!」
ウルトラマンジードのタックルが、怪獣の鳩尾あたりに直撃する。後ずさりした怪獣に、追撃の左ジャブからの右ストレート。
「ギュアッ!」
「ハァッ!」
怪獣が腕を振り下ろすより早く、ウルトラマンジードが喉元にラリアットを叩き込み、背中から倒す。
「ギュアアアアアッ!」
起き上がった怪獣が駄々っ子のように鎌を振り回すと、ウルトラマンジードは攻撃を避けるように後退する。すかさず怪獣は胸の前で鎌を合わせ、光弾を射出。
「シャッ!」
ウルトラマンジードは円を描くように腕を動かして障壁を展開。それを両腕で支え、光弾を防ぐ。
「ほう……」
それを見て、十文字会頭が唸る。「鉄壁」の異名を取る十文字家の人間として、彼の障壁には興味があるようだ。
「アアアッ!シャアッ!」
障壁を両腕で押しながら怪獣に接近すると、攻撃を隙をついて障壁を消すと同時に鼻っ面に正拳突き。
「ギュアアアアアッ!」
怪獣はやり返しとばかりに下半身に力を込め、その長く太い尾を振り回す。ウルトラマンジードは宙返りで攻撃を回避する。そして体を起こしたところに──。
「シャッ!」
脳天目掛けて踵落とし。怪獣がダウンしたところでウルトラマンジードは首と腰のあたりを掴んで天高く持ち上げ、遠くに投げ飛ばした。
怪獣は頭から落下し、フラフラとよろめきながら起き上がる。
そこで、ウルトラマンジードは構えた。下方で両手首をクロスさせ、そのまま上方に腕を動かす。両腕を大きく広げ、力を溜める。体中から溢れた力は両手に集まり、赤く発光する。そして両手を十字にクロスさせ、腰を落として姿勢を安定させて放たれた。
「レッキングバースト!」
怪獣の胸部の中心に光線が撃ち込まれると、怪獣の体に罅のような模様がはしり、そこから光が漏れだす。
「ギュアアアアアッ!」
断末魔が響いた次の瞬間。怪獣は爆発四散。白煙がドーム状に広がり、段々晴れていく。
「やった、のか……?」
誰かが言った。
「ウルトラマンが、倒したのか……?」
人だかりが騒めく。やがてそれは一瞬の静寂を挿み、歓声が爆発した。
「はぁ、よかったー」
ほっとしたのか、エリカが安堵のため息を吐く。
そして彼女は感謝の意を表すように手を合わせ、頭を軽く下げた。
「……あら?」
彼女の胸元の光が、体から離れていく。
それは街灯に引き寄せられる虫のように、ウルトラマンジードの下へと向かって行った。
「今度はなんだ?」
ウルトラマンジードは怪獣が爆発した地点に手を翳したと思うと、辺りを見渡した。そしてこちらを、正確には十文字会頭の姿を捉えると、こちらに手を向けた。
空中に浮かぶ、大きなシャボン玉のような透明な球体。
漂うようにゆっくりとやってきたそれは、十文字会頭の足元に何かを置いた。
「うぅ……」
「司波、この男が」
「はい。その男が、司一です」
十文字会頭の足元でうめき声をあげているのは、姿が見えなかった司一。
「助けろ、とでも言うのか?テロリストであるこの男を」
桐原先輩は怒りに歯ぎしりすると、ウルトラマンジードの方を見てそう呟いた。聞こえたのか分からないが、肯定するように彼は頷いた。
「シャアッ!」
ウルトラマンジードは両腕を伸ばして跳躍し、どこかへと飛び去って行った。
『では、次のニュースです。本日夕方、東京都八王子に怪獣が──』
「なあ、ロゼッタ。このウルトラカプセル、誰が宿主だったか分かる?」
『ハイ。ユートムデ周辺ヲ観測シテイタトコロ、確認デキマシタ。貴方ト同ジ国立魔法大学付属第一高校ノ二科生デス。赤毛ノ少女デスガ、心当タリハアリマスカ?』
「赤毛の少女で二科生……エリカのことか」
まさかこんな近くにリトルスターの宿主がいたとは思わなかった。
ウルトラカプセルに描かれているのは、赤い肌に銀のプロテクターを付けたウルトラマン。胸部にカラータイマーがないことから、恐らく彼の名はウルトラセブン。かつてこの地球に来た、ウルトラマンの1人。
リトルスターは祈りによって分離すると言うけど、あのエリカがウルトラマンに祈る……駄目だ、想像できない。だったら何で分離したんだ?『ウルトラマンが倒れたら学校に被害が及ぶかもしれないから、頑張って!』とか考えてたか?
「ん?ほのかと雫からメールだ」
着信音につられて携帯端末を見ると、雫とほのかからメールが届いていた。
「『お疲れ様。今日はゆっくり休んでね』……一応返信しておくか。『わかった。また学校で』っと、送信」
同時刻。司波達也、深雪の自宅で。
「すいません。お仕事の最中にお呼び出ししてしまって」
『そう思うなら、日を改めるとか配慮して頂戴。
電話の相手の名は古葉小百合。AIB極東本部の職員で、俺達の父、司波龍郎と再婚を前提につき合っている女性だ。しかしここには複雑な事情がある。元々、父は彼女と交際していた。しかし、俺達の母の家によって強引に別れさせられたらしい。そして母が亡くなって半年した頃、改めて交際を始めたと聞く。ただし、再婚は俺達兄妹の許可が下りるまでしないという条件付きで。俺としては当人同士の問題だから自由にしてもいいと思うが、深雪はまだ踏ん切りがつかないらしい。
「夕方の件に関連して、俺から1つ情報を提供します」
『……何かしら』
「ウルトラマンジードの変身者が判明しました」
驚きに目を見開き、彼女は絶句する。いや、彼女だけでなく、隣にいる深雪も絶句する。
『それはどこの誰なの!?そしてその人はウルトラマンと一体化しているの!?それともウルトラマンが誰かに擬態しているの!?』
小百合さんは前のめりになり、そう捲し立てる。
「俺と同じ国立魔法大学付属第一高校に、朝倉陸という男子生徒がいます。彼が、ウルトラマンジード。地球人に擬態した、光の巨人です」
次回予告
全国魔法科高校親善魔法競技大会。またの名を、九校戦の時期がやってきた。
勝利に向けて闘志を燃やす選手と、それを支えるエンジニア。
だけど、その裏で何者かが暗躍していて……?
次回、魔法科のGEED。『九校戦』
「魔法を学び、次代を担う若人諸君。魔法とは何か、考えたことはあるかね?」