同時刻。九校戦懇親会会場。
来賓の挨拶が始まり、各々が選手達に激励の言葉をかけていく。
そして、その中でも俺が注目していた人物の番が回ってきた。
九島烈。
十師族という序列を確立した人物であり、20年ほど前までは世界最強の魔法師の1人と目されていた人物。
『老師』あるいは『トリックスター』と呼ばれる大物。
引退してからは公の場で講演会等を開いたり、ワイドショーに出演などして魔法に対する理解と、世界平和を訴える活動を行っている。
司会者が彼の名を告げると、会場の高校生全員が、息を呑んで、九島老人の登壇を待つ。
そして、その人物は現れた。
総白髪を綺麗に撫で付け、スリーピース・スーツを隙無く着こなした男性。
彼はマイク越しであることを差し引いても、90歳近いとは信じられないほど若々しい声で簡潔な自己紹介をすると、続けた。
「魔法を学び、次代を担う若人諸君。魔法とは何か、考えたことはあるかね?」
その問いに、ざわめきが広がった。いや。良く見れば、2年生や3年生の先輩方は落ち着いている。どうやら、この問いかけは毎年恒例のようだ。
「魔法とは手段、より直接的に言えば道具だ。では、何のための道具か。それは、世界が一つだった頃。光の巨人、ウルトラマン達とともに怪獣や宇宙人と戦っていた時代に遡る」
それを合図に。先程の問いに対する回答が、九島老人の口から発せられた。
「メテオール。正式名称を『地球外生物起源の超絶技術』というオーバーテクノロジーの存在は、諸君らも知っているだろう。あれは驚異的な力を発揮する代償に、未解明で不安定な面も多いため、使用のための規約が定められ、使用可能時間も制限されていた。そこで、彼らは研究の傍ら、純地球由来の新技術の研究も行っていた。それが、魔法だ。しかし当時の魔法は理論化もされておらず、とても実戦に投入できる代物ではなかった。そこで、彼らはこのような目標を掲げた」
──魔法の理論化、体系化を進めていき、メテオールに代わる新たな技術として世に広めよう。そしていつの日か、この技術力を以て光の国に到達し、ウルトラマン達に恩返しをしよう。彼らが守った地球の
「と。だが、その段階を飛ばし、研究を急がざるを得ない案件が2度、発生した。……エンペラ星人及びアーマードダークネスの襲来だ」
九島老人の言葉を聞き、会場内が再び静寂に包まれる。
「(アーマードダークネスか……あれには嫌な思い出しかねえな)」
「(何かあったのか?ゼロ)」
「(昔、ちょっとな……俺と話すよりも、爺さんの話に耳を傾けておけよ)」
「(……そうだな)」
一体化しているゼロとの会話を中断し、ステージ上に注目する。
「あれを目にした者の一部は、強大な力に恐怖し、それに飲み込まれた。『いつ、あれと同等かそれ以上の脅威が襲ってくるかわからない』『10年後か、5年後か、1年後か。いや、もしかしたら明日かもしれない』『その時ウルトラマンが来る確証もない』と。そのために彼らは、我々人間が有する
悲しそうな声音と、目尻を下げる九島老人の姿に、誰もが言葉を失った。
「そしてそれは摩擦となり、平和だった世界に暗雲が立ち込めはじめた。やがて世界的な食糧難などの
──優しさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人達とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。例えその気持ちが何百回裏切られようと。それが私の最後の願いだ──
「……私はもう90近くと、老い先短い身だ。故に君達に、私の願いを託す。どうか、我々と同じ過ちを繰り返さないで欲しい。どうか、我々が失った物を、優しさを取り戻して欲しい」
九島老人はそう締めくくると、深々と頭を下げ、ステージを去った。聴衆の全員が沈黙していた。それは戸惑いによるものか、或いは感動によるものか。だが達也は、表情にこそ出ていないが、動揺していた。
「(なあ、ゼロ)」
「(どうした?)」
「(ステージを去る間際に九島閣下が俺のほうを見て微笑んだような気がするが、それは俺の勘違いか?)」
「(……見透かされているような視線を、あの爺さんから感じた)」
「(つまり、俺とゼロが一体化していることを見抜いた。ということか?)」
「(かもな。まあ、単に期待しているぞって微笑んだだけかもしれない)」
「(そうか……なら、その期待に応えないとな)」
遂に始まった九校戦、その1日目。この日の競技はスピード・シューティング本戦(全学年参加のこと)を決勝までと、バトル・ボード本戦の予選。
スケジュールの違いは、両競技の所要時間を反映している。
そして、スピード・シューティングとは、30メートル先の空中に投射されるクレーの標的を魔法で破壊する競技で、制限時間内に破壊したクレーの個数を競う。
試合の形式は2つ。
予選は5分の制限時間内に破壊した標的の数を競うスコア型。
同時に4つのシュートレンジを使い、6回の試技で予選を終えて、上位8名が準々決勝に進む。
準々決勝以降は、紅白の標的が100個ずつ用意され、自分の色の標的を破壊した数を競う対戦型。
続いてバトル・ボード。
これは人口の水路を長さ165cm、幅51cmの紡錘形ボートに乗って走破する身体競技。ボートに動力はついていないため、選手は魔法を使ってゴールを目指す。他の選手やボートに対する攻撃は禁止されているが、水面に魔法を行使することはルールの範囲内。
その水路に統一された規格はない。元々海軍の魔法師訓練用に考案されたもので、魔法の使用が前提になっているので、統一ルールを必要とするほど一般に普及することは有り得ないからだ。
九校戦のバトル・ボードは全長3kmの人口水路を3周するコース。水路には直線有り、カーブ有り、上り坂や滝状の段差も設けられている。
コースは男女別に1本ずつ作られているが、男女で難易度に差はない。
予選を1レース4人で6レース、準決勝を1レース3人で2レース、3位決定戦を4人で、決勝レースを1対1で競う。
平均所要時間は15分。
最大速度は30ノット超──時速55~60kmに達する。1枚のボードに乗っているだけの選手に、風除けは全くない。追い風で時間を稼ぐセイリング競技と違い、まともに追い風を受ける競技だ。この風圧に耐えるだけでも、選手は相当な体力を消費する。
そして、それぞれ先輩方が出場し、勝利を収めて今は午後。
「昼飯。何処で食べるかなー……」
携帯端末で会場周辺の地図を見ながら、どこで昼食をとるか考えていた俺の腰に装着されたナックルから、小さな振動。これは、ロゼッタから何か連絡があったという合図。端末の画面を切り替えて耳に当て、電話にでるようなポーズをとりつつ、そっと腰のナックルに触れる。
「もしもし?どうした?」
『群馬県ニ怪獣ガ出現シマシタ。至急、人気ノ無イ場所ヲ探シテクダサイ。エレベーターデ現場近クマデ転送シマス』
「……わかった。今から行く」
思考を『昼食』から『戦闘』に切り替え、俺は人気が無さそうな場所へと移動しエレベーターに乗り込んだ。
「出現した怪獣の名前は?」
『個体名「カオスバグ」。カオスヘッダーガ不法投棄サレタ廃棄物ノ金属ト熱ヲ融合サセテ作リ出シタ怪獣デス』
「周辺住民の避難は?」
『完了シテイマス』
「現場についたら、ライザーとカプセルを転送してくれ」
『カシコマリマシタ』
「群馬県に怪獣とウルトラマンジードが出現したか」
陸が現場に到着し、変身した頃。ホテルに戻っていた達也は携帯端末の画面を一瞬だけ確認し、懐にしまった。
「(ゼロ。お前は行かなくていいのか?今からでも俺から深雪に乗り換えて、出撃できるんじゃないのか?)」
「(まあ、やろうと思えばやれる。だがやらない。今はあいつが敵なのか味方なのか、見極めたい)」
「(……わかった。もし出撃したくなったら、遠慮なく言ってくれ。いつでも覚悟はできている)」
「(おう、そん時は頼んだぜ)」
九校戦2日目。
今日行われる競技は、クラウド・ボール本戦を予選から決勝までとアイス・ピラーズ・ブレイク本戦の予選。
クラウド・ボールはテニスやラケットボールに似た競技だけど、サーブという制度は無い。1セット3分、インターバル3分の、3セットマッチ。(男子は5セットマッチ)
アイス・ピラーズ・ブレイクは、縦12メートル、横24メートルの屋外フィールドで行われる。フィールドを半分に区切り、それぞれの面に縦横1メートル、高さ2メートル以上の氷の柱を12個配置。相手陣内の氷柱を先に全て倒した方が勝者になる。
そして、クラウド・ボールで七草会長が出場し、その観戦をしている最中に……。
「……悪い、ちょっとお手洗い行ってくる」
「え?もう試合始まるよ?」
席を立とうとする俺に、ほのかが待ったをかける。
「我慢できなくて試合中に席を外すよりは、今済ませておきたいからさ」
「……わかった。できるだけ急いでね」
手を合わせて軽く謝罪して、俺は観客席を離れた。勿論、お手洗いなんて嘘だ。
「何処に何が出現した?」
『熊本県ニ「ゲオザーク」ガ出現シマシタ』
「わかった。今移動しているから、後でまた連絡する」
『カシコマリマシタ』
観客席を離れて数分後。陸が戻ってきた。
「ごめん、遅れた。今、何セット目?」
「これから2セット目が始まるとこ。そんなにトイレ混んでた?」
「いや、混んでたわけじゃないんだけど、今朝食ったので中ったのか、ちょっと時間がかかって……」
と、もっともらしい事を陸は言っている。しかし、達也と深雪とウルトラマンゼロは知っていた。
「(熊本県で怪獣と戦ってきたなんて、言えないもんな)」
「(言ったところで信じてもらえないだろうな)」
「(ですね。今は、彼の言い訳につき合ってあげましょう)」
九校戦3日目。アイス・ピラーズ・ブレイク本戦の予選から決勝と、バトル・ボード本戦の準決勝から決勝が行われるこの3日目は、九校戦の前半のヤマと言われている。
「……陸、何かあったの?」
「いいや、何も」
「本当に?なんか表情が少し険しいというか、気配がピリピリしている気がするけど」
「そう?」
観客席で試合の開始を待っていると、ほのかが心配そうな声で話しかけてきた。隣の雫も、小さく頷いた後、ジト目で俺を見上げてくる。
もしかして、怪獣が出現しないか警戒しているのが、顔や気配に出てしまったか?
「本当に大丈夫?今の内にお手洗い行く?」
「俺の胃はそこまで貧弱じゃないし、今朝食ったのもちゃんと賞味期限内のものをしっかり加熱して食ってきたから、大丈夫だって」
「本当?」
「うん」
「「……」」
幼馴染2人から向けられる、疑惑の目線。耐えろ、耐えるんだ。ここで更なる言い訳を口にしてボロを出すようなことは絶対に駄目だ。
「3人共、そろそろ始まるぞ」
そこに、達也が声をかけてきた。2人とも思い出したのか、目線をコースに向けた。
「(助かった。そしてありがとう、達也)」
俺はほっと胸を撫でおろし、心の中で達也に感謝の言葉を述べる。
準決勝は1レース3人の2レース。それぞれの勝者が、1対1で決勝レースを戦うことになる。
他の2人が緊張に顔を強張らせている中、渡辺先輩は不敵な表情でスタートの合図を待っていた。
そしてスタートを告げるブザーが鳴ると、先頭に躍り出たのは渡辺先輩。
だが、予選と違って背後に2番手がピッタリついている。少し遅れて、3番手。
渡辺先輩の後ろについてる2番手の選手は、魔法の不利を巧みなボードさばきで補っている。さすがは『海の七高』
スタンド前の長い蛇行ゾーンを過ぎ、殆ど差がつかないまま、鋭角コーナーに差し掛かる。
しかし、コーナー出口に差し掛かった時、ソレは起こった。
「オーバースピード!?」
七高選手が大きく体勢を崩していた。
飛ぶように水面を滑る七高選手は、そのままフェンスに突っ込むしかない。
──前に、誰もいなければ。
彼女が突っ込むその先には、減速を終えて次の加速を始めたばかりの渡辺先輩がいた。
先輩はフェンスに体を向けている。
それでも、背後から迫る気配に気づいたのか、肩越しに振り返った。
先輩は前方への加速をキャンセルし、水平方向の回転加速に切り替えた。水路壁から反射してくる波も利用して、魔法と体さばきの複合でボートを反転させる。
更に暴走して突っ込んでくる七高選手を受け止めようとした。
しかし、不意に水面が沈み、先輩が体勢を崩したのを見て、俺は超能力を使った。
七高選手のスピードを少しずつ下げ、先輩と衝突した時の衝撃を少しでも弱めようとした。
結果的に衝突は避けられなかったけれど、先輩が体勢を立て直す時間は稼げたのか、ボードは側方に弾き飛ばされ、七高選手は先輩に受け止められた。
『……』
会場が沈黙に包まれる。
レース中断を告げる旗が振られる。
「……ねえ、陸」
雫が小さな声で俺に訊ねる。しかし、それが逆効果になり、目線が徐々にこちらに向けられる。
「……緊急事態ってことで、許してください……」
目線に耐えられなくなった俺は両手で目を覆い、天を仰いで呟いた。
次回予告
七高選手のオーバースピードをきっかけに、不穏な空気が漂い始めた九校戦。
その原因を達也が突き止め、このまま何事もなく九校戦が最終日まで続く。そんな期待を壊すように、会場の近くに2体の怪獣が現れた!
九校戦の邪魔はさせない。俺が変身すると、その隣にもう1人のウルトラマンも現れて……。
次回、魔法科高校のGEED。『その名はゼロ』
「俺か?俺はウルトラマンゼロ。セブンの息子だ!」