魔法科高校のGEED   作:大豆万歳

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カウント、ザ、ウルトラカプセル。現在、陸の持っているウルトラカプセルは──
・ウルトラマン
・ウルトラマンベリアル
・ウルトラマンゼロ
・ウルトラセブン


その名はゼロ(前編)

 九校戦3日目の、夜10時頃。ネオ・ブリタニア号居住スペースで。

 

「水面が沈んで渡辺先輩がバランスを崩したのと、七高選手のオーバースピードは第三者の妨害によるもの?」

『可能性の話だがな』

 

 風呂から上がると携帯端末に着信があったので出てみれば、達也から電話だった。用件は、バトル・ボード準決勝での件。

 達也が言うには、あの水面の陥没が外から力を加えて起こしたのなら監視に引っかかる。しかし、水中に潜んでいた工作員が魔法で干渉したとしても、同じく監視に引っかかる。となると、残る手段は精霊(SB)魔法しかない。これについては相応の準備期間さえあれば可能だと幹比古は言っていたらしい。

 次に七高選手のオーバースピード。本来なら減速するべき場所で、加速するようなミスをする魔法師は九校戦の代表に選ばれない。ならCADに細工を施し、減速の起動式と加速の起動式をすり替えたのではないか、と達也は推測しているらしい。

 

『CADに細工をした人物についてなんだが、俺は大会委員が怪しいと思っている』

「根拠は?」

『競技用のCADは各校が厳重に保管しているが、レギュレーションチェックのために、一度大会委員に引き渡される。細工をするとすれば、そこしかないだろう』

「じゃあ、大会委員の方に頼んで機材のチェックをするのは──」

『手口が分からないし、そもそも大会委員がやったという証拠も無いんじゃどうしようもない』

「……ごめん。今のは聞かなかったことにして」

『わかった。俺は明日以降技術スタッフとして警戒をする。お前も、会場とその周辺に怪しい人影がいないか見張っていてくれ』

「うん。それじゃあ、また明日」

『ああ。また明日』

 

 

 

 

 九校戦4日目。本戦は一旦お休みになり、今日から5日間、1年生のみで勝敗を争う新人戦が行われる。今日はスピード・シューティングの予選と決勝、バトル・ボードの予選を行う。5日目はクラウド・ボールの男女予選から決勝と、アイス・ピラーズ・ブレイクの男女予選。6日目はバトル・ボード男女準決勝と決勝、アイス・ピラーズ・ブレイクの予選の残りと決勝。7日目にミラージバットの女子予選から決勝と、モノリス・コードの男子予選。

 だけど、試合の観戦予定は悉く日本各地に出現した怪獣への対処のせいで潰されてしまった。まあ、これは仕方がないことだと九校戦2日目で割り切っていた。

 ……しかし、俺が怪獣と戦っている間に、再び事故が発生した。

 九校戦7日目。モノリス・コードで一高と四高の試合が行われる少し前。福島県沿岸部に怪獣、ビザーモが出現した。これを倒して急いで会場に戻ると、会場は動揺に包まれていた。

 

「なんだこれは……」

「陸」

 

 ふと、背後から声をかけられた。

 振り向くと、俺が不在だったことを非難するように雫が睨みつけてきた。

 

「何かあっ」

「ちょっと来て」

 

 俺の質問を遮るように雫は袖を掴み、一高の天幕まで引っ張ってきた。抵抗できないわけじゃないけど、それを許さないという意思が伝わってきた。

 天幕に入ると、雫は空いていた椅子を見つけると指さした。そこに座れと命じるように。

 

「何処で何をしてたの?」

 

 座ると雫が俺の膝の上に座り、襟首を掴んで顔を近づけてくる。よく見ると目尻には薄っすらと涙が浮かび、手も小刻みに震えていた。

 

「陸くん。実は、試合開始直後に一高の選手が過剰攻撃(オーバーアタック)を受けたんです」

「どういうこ」

「余所見しない」

 

 天幕内にいた司波さんが事情を説明しようとしたので顔を向けようとしたら、雫の手で物理的に阻止された。力はそこまで強くないけど、言葉の圧力がその分強かった。

 

「ねえ雫、その状態だと陸くんに説明ができないから、少し離れて──」

「やだ」

 

 司波さんが雫の説得を試みたけれど、雫は断固として拒否。しかし司波さんは諦めなかった。

 

「お説教は、ほのかのミラージ・バットが終わってからでもいいでしょう?」

「……」

「それに、その体勢だとあらぬ誤解を招いてしまうから。ね?気持ちは分かるけど、ここは堪えましょう?」

 

 司波さんにそう言われて、ようやく雫は俺の膝の上から降りた。……それはそれとして、ほのかの試合が終わったら全力で逃げよう。そう俺は決めた。

 曰く、一高と四高のモノリス・コードは市街地フィールドで行われたらしい。

 一高のスタート地点は崩れやすい廃ビル。そこで試合開始直後に『破城槌』を受けて、選手達は瓦礫の下敷きになった。ヘルメットと立会人が咄嗟に発動した加重減速の魔法のお陰で大事には至らなかったけど、魔法治療でも全治2週間、3日間はベッドの上で絶対安静の重傷を負った。

 問題は、開始直後に攻撃を受けたこと。これは開始の合図前に索敵を始めなければできないことから、四高側にはフライングの疑いがかけられている。加えて、屋内に人がいる状況で使用した『破城槌』は殺傷性ランクAに格上げされる。これは明確なレギュレーション違反。

 現在。一高と四高を除く形で予選を続行しているらしい。

 ここまで聞いたところで、俺の中で疑問が生まれた。

 

「司波さん、それは本当に(・・・)四高の選手がやったんですか?」

「……質問を質問で返して申し訳ないのですが、どういうことでしょうか?」

「いや、単純にそれを四高の選手の誰かがやったという証拠があるのかってことです。映像で見たんですか?」

「いいえ。見たのは一高選手のいる廃ビルが崩れたシーンだけです」

「立会人による目撃証言は?」

「今のところありません……まさか!」

「あってほしくないですけど、誰かが妨害したのかもしれませんね。本当に四高の選手がやったのでなければの話ですけど」

 

 最後にそう締めくくった俺は、ミラージ・バットの決勝が始まるまで、他校の試合を見て時間を潰した。

 

 

 

 

 ミラージ・バット新人戦を一高のワンツーフィニッシュで幕を閉じた後。優勝の喜びを分かち合う間も無く、ミーティング・ルームへと呼び出された。

 ミーティング・ルームには、七草会長を始めとした第一高校の幹部と他にも先輩方が数名いた。

 

「単刀直入に言うわ。達也くん、森崎くんたちの代わりに、モノリス・コードに出てもらえませんか」

 

 七草会長が言うには、モノリス・コードをこのまま棄権しても新人戦の準優勝は確保できたらしい。現在の二位は三高校で、新人戦だけで見た点差は50ポイント。モノリス・コードで三高が二位以上なら新人戦は三高の優勝、三位以下なら一高が優勝。新人戦でポイントを引き離されないという、総合優勝の為の戦略目標は達成したことになる。新人戦が始まる前はそれで十分だと思ったらしい。

 だが、ここまで来たら新人戦も優勝を目指したい。と七草会長は言った。

 事情を鑑みて、明日の試合スケジュールを変更してもらい、予選の残り2試合は明日に延期。選手の交代も、事情を勘案して特例で認めてもらったらしい。

 

「……なぜ自分に白羽の矢が立ったのでしょう?」

 

 これは質問ではなく、遠回しな拒絶。自分は『選手』ではなく『スタッフ』。一科生のプライドを抜きにしても、後々精神的なしこりを残すと俺は考えている。

 

「実技の成績はともかく、実戦の腕前なら君は多分、一年生男子でナンバーワンだからな」

 

 渡辺委員長が説得に加わった。

 

「モノリス・コードは『実戦』ではありません。肉体的な攻撃を禁止した『魔法競技』です」

「魔法のみの戦闘力でも、君は十分ずば抜けていると思うんだがね」

 

 渡辺委員長がチラッと服部副会長に視線を投げると、当の本人は苦虫を嚙み潰した表情に顔を顰めた。

 

「(達也。達也。聞こえるか?)」

 

 瞬間、俺の脳内にゼロの声が響いた。聞こえていると返答すると、ゼロは続けた。

 

「(受けろよ。せっかく先輩方から直々に指名があったんだからよ)」

「(いや、そんなことをすれば『二科生』で『スタッフ』の俺が残っている選手だけでなく、一年生一科生全体のプライドが)」

「(プライドどうこうの話じゃねえ!)」

 

 俺の言葉を遮るように、ゼロが一喝する。

 

「(いいか?形がどうあれ、お前はチームの一員なんだ。そのチームのリーダーが、お前なら出来ると信じて指名してくれてんだ!それを二科生だからとか言い訳を並べて逃げるな!)」

「(ゼロ……)」

「(周りを見てみろ。リーダーの判断が間違いだと反対して、止めようとしている奴はいるか?)」

 

 ゼロに促され、周囲の顔色を窺う。誰も、会長の判断に対して反対意見を述べていない。顔色にも浮かべていない。

 彼ら彼女らの顔に浮かんでいたのは……七草会長の判断と、俺の実力に対する『信頼』。

 

「(……いない)」

「(それが答えだ。皆お前を信じているんだ!それから自分の立場を理由に逃げるようなら、俺はお前を絶対許さねえ!……信頼から逃げるってことは、信頼を裏切るってことと同じだ!)」

 

 ゼロの最後の言葉が、逃げ道を塞いだ。

 いや──ここまで言われて、逃げるわけにはいかない。

 

「(ゼロ。試合の間は、深雪と一体化していてくれ。お前がいた状態で試合に出ると、後々面倒なことになる)」

「(任せな)」

「……分かりました。全力を尽くします」

 

 

 

 

 達也が先輩方の呼び出しを受けてミーティング・ルームに来ていた頃。ホテルの一室で。

 

「「何処で何をしていたの?」」

 

 雫とほのかに捕まった俺はホテルの一室。雫とほのかが寝泊まりしている部屋に連行され、正座させられていた。

 右手に雫、左手にほのか。傍から見れば両手に花な光景だけど、現実はいつだって非情。2人の表情は険しく、そして視線が痛い。

 

「陸がいれば、一高の選手が怪我をすることもなかったんだよ?」

「それに関しては悪いと思っている」

「陸がどう思っているかは聞いてないの。何で会場にいなかったのか、私達はそれが知りたいの」

 

 さっきから同じような会話の繰り返し。だけど、決してボロを出してはいけない。下手な事を言って追及されて、そこからバレることだけはなんとしても──。

 不意に、雫とほのかが携帯端末を取り出して操作して、画面を俺に突きつけてくる。

 

「……ねえ陸。陸が会場に戻ってくる少し前まで、福島県で怪獣とウルトラマンジードが戦っていたってニュースになってたんだけど」

 

 雫の言葉を聞いた瞬間、体中の汗腺が開いたような気がした。

 

「ここ最近の怪獣騒ぎなんだけど。ウルトラマンジードが姿を現した時間と陸が席を外した時間、ウルトラマンジードが姿を消した時間と陸が会場に戻ってきた時間。ほぼ一致していると思うんだけど、これって偶然?」

 

 ほのかの追い打ちを受けて、嫌な汗が流れ始めた。

 不味い不味い不味い!まさかニュースから俺の正体がバレそうになるとかあるか!?いや、よく見れば『〇時頃』としか書かれておらず、具体的に何分何秒とか細かく書かれていない。つまりこれは、雫とほのかのハッタリだ!危うく引っかかるところだった。

 そうと決まれば後は簡単……いや、簡単じゃない。仮に偶然で片付けたとしても、『じゃあ何処で何をしていたの?』と振り出しに戻るだけだ。

 

『雫ー?ほのかー?』

 

 そこに一筋の光明が差した。

 部屋の外から、雫とほのかを呼ぶ声。おそらく、ミラージ・バットの優勝を祝して集まりたいとか、そういった用件だろう。

 

「な、なあ。呼ばれてるし、行ったほうが良いんじゃ」

「「黙ってて」」

「はい」

 

 有無を言わせない。どうやら今の2人の中では勝利の喜びを分かち合うよりも、俺への訊問を優先しているらしい。そして居留守をきめこむつもりなのか、無言になる。

 

『……いないのかな?』

『もう寝てる、ってことはないよね』

『そういえば、さっき部屋に幼馴染の朝倉くんを連れてってたの見たよ?』

『ええっ!?』

『年頃の男女が、ホテルの部屋で……』

『もしかして……』

「「ッ!?」」

 

 電光石火。

 誤解が生じる前に止めようとほのかと雫はドアに向かって飛び出した。

 当然ながら、それを利用しない俺じゃない。

 

「(今だっ!)」

 

 痺れる脚に鞭を打ち、窓を開けてベランダに出る。

 

「イヤーッ!」

 

 下に人がいた時のことを想定して大声を出し、飛び降りた俺は地面に着地。脱兎のごとくホテルから逃げだした。

 

 

 

 

 九校戦8日目。大会本部から、スケジュールの変更が告げられた。

 前日のルール違反で負傷・試合続行不能となった第一高校チームは、通常であれば残り2試合が不戦敗になるところを、代理チームの出場による試合の順延が認められることになった。今日はその1試合目で、対戦相手は第八高校。フィールドは森林。

 その代理チームに選ばれたのは……。

 

「司波さん、レオのCADってルール違反にならないんですか?」

 

 フィールドに現れたのは達也、レオ、そして幹比古。その中でも、レオは特に観客席から注目を集めていた。理由は今俺が聞いた通り、レオの装備しているCADにあった。

 モノリス・コードはルール上、相手を直接物理的に攻撃してはいけない。そしてレオの装備しているCADは武装一体型で、刃の無い剣のような見た目。どう見ても相手を直接叩く以外の攻撃手段は無さそうだ。

 

「ええ。その理由は、パンフレット(こちら)と試合を見ればわかりますよ」

 

 司波さんがそう言って差し出したのは、モノリス・コードのルールが書かれたパンフレット。

 受け取ったそれを読み終えるとほぼ同時に、試合が始まった。

 そして、八高の本陣で達也が相手チームと戦っている頃、一高の本陣で答えは出た。

 モノリスの前に陣取っていたレオが、腰のCADを抜き放つ。木の陰から、相手チームの1人が姿を見せた。

 相手チームが特化型CADの銃口を向けるのと、レオがCADを横薙ぎに一振りしたのは全く同時だった。

 木立の間を抜けて真横から弧を描いて飛来した金属板によって、強かに打ち据えられた。

 金属板を手元に戻し、レオがCADを天に向けると再度分離し、空中で静止。

 

『ウォオオリャァァッ!』

 

 雄叫びと共に振り下ろされた攻撃は、倒れ伏す相手にとどめを刺した。

 

「……なに、あれ」

「あれは『小通連』。お兄様が開発したオリジナル魔法と、武装一体型CADです」

 

 原理としては、分離した刀身と残った刀身の相対位置を硬化魔法で固定し、刀身を『飛ばして』いるらしい。

 モノリス・コードのルールで許される攻撃手段の1つに、質量体を魔法で飛ばして相手にぶつけるという方法がある。

 つまり、物質的に繋がっているわけじゃないから、質量体を魔法で飛ばしているという条件は満たすということか。

 

「確かに、これならルール違反にはならないか」

 

 達也の斬新な発想に感心している間にも、試合は進んでいった。

 相手チームの3人目を、幹比古が精霊魔法でモノリスに近づけない様方向感覚を狂わせ。

 達也は無系統の『共鳴』で相手をダウンさせた。

 そしてモノリスに到達し、コードを打ち込み試合終了。

 コードが受信され、試合終了のサイレンが鳴った。

 一高の応援席が、歓声で沸き上がる。

 そんな中で、俺は司波さんに訊ねた。達也が試合中に見せたあの動き、俺が一時期指導を受けた師匠と似ている。

 

「司波さん。もしかして達也は、九重八雲という忍術使いの弟子だったりしませんか?」

「はい。それが、何か」

「……実は、俺も弟子なんです。といっても、小学校を卒業するまでの6年だけですけど」

「まぁ!」

 

 司波さんは知らなかったのか、口元を手で隠して驚いたような声を上げる。

 意外な所にあった繋がりに、俺は内心驚いた。中学校に入って以来顔を見せていないから、今度の休みにでも行こう。と同時に思った。

 この日、モノリス・コードの試合は達也達の魔法の技量と作戦、そして達也が調整したCADが噛みあい、一高は新人戦優勝を勝ち取った。

 

 

 

 

 そして迎えた、九校戦9日目。今日はミラージ・バットの女子決勝までと、モノリス・コードの男子予選が行われる。

 この日は前日までの好天から打って変わって分厚い雲に覆われた、今にも雨が降り出しそうな曇天だった。

 ただ、俺にはこの空模様が何かの前触れのように感じた。

 ……そしてそれは、現実となってしまうことを、この時はまだ知らなかった。

 

 

 

 

「次の方」

「第一高校の司波達也です」

「では、CADをお借りします」

 

 ここはCADのチェックを行っている大会委員のテント。

 俺は技術スタッフの1人である平河先輩に頼み、彼女が担当する小早川先輩のCADのチェックをしてもらうために来ていた。

 昨日は急なスケジュール変更ということもあってか、CADに細工はされなかった。

 仕掛けるとすれば今日か、若しくは明日。そのため、俺は平河先輩と、七草会長に頼んで担当選手である小早川先輩のCADを借りてきた。

 係員が俺の手から受け取ったCADを、検査機にセットし、コンソールを操作したのと同時。

 異常を検知したと認識すると同時に、俺は係員を引きずり出し、地面に叩きつけ押さえ込んでいた。

 駆け寄った警備員を、殺気で追い払う。

 

「……なるほど、こうやってCADに細工をしていたというわけか。今CADに仕込んだのは何だ?」

「うっ……」

「どこで手に入れた?」

「……」

「他には誰が関わって」

「何事かね?」

 

 そこに、響いた老人の声が、俺の殺意に待ったをかけた。

 

「──九島閣下。申し訳ありません。見苦しい姿をお見せしました。」

 

 声の主を見た俺は手を離し、立ち上がって一礼した。

 

「君は──第一高校の司波君だな。昨日の試合は見事だった。それで、一体何事かね?」

「当校の選手が使用するCADに対する不正行為が行われましたので、その犯人を取り押さえ、背後関係を訊問しようとしておりました」

「そうか。不正行為が行われたCADというのは、これかね」

「そうです」

 

 九島閣下は検査機械からCADを取り外して目の前に持って行き、繁々と見つめ頷いた。

 

「……確かに、異物が、電子金蚕が紛れ込んでおるな。これは私が現役だった頃、東シナ海諸島部戦域で広東軍の魔法師が使っておった魔法だ」

 

 そう言って、地面から立ち上がれぬままの男へ冷ややかな視線を投げた。

 男は小さく悲鳴をあげ、腰を抜かしたまま後ずさる。

 

「電子金蚕は有線回線を通して電子機器に侵入し、高度技術兵器を無力化するSB魔法。プログラムそれ自体を改竄するのではなく、出力される電気信号に干渉してこれを改竄する性質を持つ為、OSの種類やアンチウイルスプログラムの有無に関わらず、電子機器の動作を狂わせる遅延発動術式。我が軍は電子金蚕の正体が判るまで、随分苦しめられたものだ……君は電子金蚕のことを知っておったのか?」

「いえ。ですがCADのシステム領域に、ウイルスに似た何かが侵入したのはすぐ分かりました」

 

 身振りを伴わず、『休め』の姿勢を保持したまま言葉だけで答える。

 

「そうか」

 

 その間に、その場を逃れようとした工作員は警備員に拘束された。

 

「さて、司波君。君もそろそろ競技場に戻った方が良かろう。CADは予備のものを使うと良い。このような事情だ、改めてチェックの必要は無い──そうだな、大会委員長?」

 

 突如かけられた声に、背後に付き従っていた大会委員長は大急ぎで頷いた。

 

「運営委員会の中に不正工作を行う者が紛れ込んでいたなどと、かつてない不祥事。言い訳は後でじっくり聞かせてもらおうか」

 

 

 

 

「達也。第一高校の生徒がいきなり暴れだしたって大会委員の人達が慌ただしく動いていたけど、何があった?」

『ああ。その暴れだした生徒は、俺の事だ』

 

 小早川先輩の第1試合が終わり、第2試合開始までのインターバル中。

 俺は達也の携帯端末に電話をかけていた。

 試合開始を観客席で待っていた時、大会委員と思われる人達が慌ただしく動いていたのが気になったので、俺は携帯端末のカメラで彼らの口元をズームし、読唇術で会話の内容を読み取った。あの後、何事もなかったように試合は行われたけど、逆にそれが俺の不安を煽った。

 

「……お前、何をやらかしたんだ?」

『CADへの不正行為の決定的瞬間を捉えたから、後は背後関係を訊問しようと取り押さえた』

「ってことはやっぱり大会委員に」

『そうだ。これで妨害工作はもうできないだろう。後は学生らしく、九校戦を楽しもう』

「だな。それと、ありがとう」

 

 そう断言した達也の声に、俺は安堵した。

 

 

 

 

『26号。36号。聞こえるか?』

 

 九校戦会場の外にある駐車場は、観客をはじめ、マスコミや政府関係者の車で満杯になっている。そのうちの1台に男が2人、イヤホンから聞こえる指令に耳を傾けていた。

 

『会場を破壊し、観客を殺せ!九校戦を中止させろ!』

「「了解デス」」

 

 男達は車から降り、会場の方に体を向ける。懐から取り出すのは、手に納まる大きさのカプセル。

 渡された時の説明通り、カプセルを起動させる。

 

『ギニ゙ャアアオオンッ!』

『ギャゴオオオオンッ!』

 

 心臓のあたりに打ち込むと、男達の体が変貌していく。

 

出現

剛力怪獣 キングシルバゴン

超力怪獣 キングゴルドラス

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