海賊女帝の弟は今日も強くて美しい   作:カボチャ中将

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第2話 悪魔の実

悪魔の実。

 

海の悪魔の化身だとか言われる不思議な果実で、売れば最低でも1億ベリーの値がつくほどの希少性ではあるが、食べた者はその実の種類によって多様な特殊能力を得ることができる。

 

デメリットとして、悪魔の実を口にした者は海に嫌われ、一生カナヅチになり、海に入ると体から力が抜け、能動的に能力を使うことができなくなったり、沈むようになってしまうが、得られる強力な能力を考えれば些細なことではあろう。

 

こんな話を突然しているのは、このボク、ボア・スイレンもまた悪魔の実の能力者だからである。

世界中から珍しい食材を集めさせた時に、紛れ込んでいた悪魔の実を口にし、能力を得た。あまりの不味さに最初はキレ散らかしたものだが、今はこの能力を気に入っている。

 

「た、助けてくれ〜!もう海賊は辞める!悪さもしねぇ!」

 

「餌は黙ってろ、魚が逃げるだろうが」

 

能力者であり、母から戦闘訓練を受け覇気を修得しているボクは、この『偉大なる航路(グランドライン)』前半の海、『楽園』では敵なしであった。そのため、暇潰しで国の周囲の海賊を狩ったりしている。

そして、折角捕まえた海賊をそのまま殺してしまうのは勿体ない。賞金首なら海軍に引き渡させて得た賞金を、気まぐれで家臣や兵士に与えたり、武術大会や服飾大会などの余興を開催し、気に入った者に賞金として配ってやっているのだが、そうでもないクズはボクが遊びに使ったりする。

 

今やっているのはロープで縛った海賊達を大型海王類が出るという地域でぶん投げての釣りだ。ただまあ、実際やってみると動きもあまり無いし飽きてきた。

 

「なあ、このままこいつを国まで引っ張って、生き残れるか賭けないか」

 

ボクがそう提案すると、船に乗っていた兵士達が次々と掛け金と予想を出し始めた。拷問する海賊が何時間耐えられるかや、ボクが海賊船の船員を殲滅するまでの時間など、度々賭けをさせているから慣れたものだ。即座に集まった掛け金と、的中した際の金額が計算によって出される。

結果は大きく偏っており、生き残る方に賭けた人間は殆どいなかった。これは、もしもこいつが生き残れば大勝ちだ。

 

「そんなことされたら死んじまうよ!!」

 

「だから賭けが面白いんだろ。そうだ、お前も賭けていいぞ、生き残れば大金が手に入って自由になれる」

 

本来なら死罪でしかない男が自由になれるチャンスを与えて貰っているのだ。慈悲以外の何物でもない。

良い事をして気分が良くなったボクは生き残る方に賭けてやった。

 

 

まあ、国に着いてロープの先を確認したら、ロープが何かに食い千切られたように切れていて、男の姿は影も形もなかったわけだけど。

 

 

 

 

 

そうして、海賊達を潰して遊んでいると、近隣の国から海賊討伐の協力要請が来た。

 

近年、ボクの遊びでこの辺の海賊が減っていることは知っているだろうし、海軍よりも確実と考えたのか。

この『偉大なる航路(グランドライン)』での海軍の腰の重さは、大海賊時代なんて言われ、海賊が蔓延っていることからも分かる通り酷いものだ。国が滅亡するくらいの被害ならともかく、少し困っている程度では迅速な対応は期待できない。

今回要請があった国とは頻繁に貿易を行っているため、そちらの積荷を奪われたりすれば、回り回って我が国に影響が及ぶのは必至。

 

最近何かと話題になっている『スペード海賊団』と交戦し引き分けた程の悪名高い海賊団だというのだから、もしかしたら中々楽しめるかもしれない。この国にはボクと満足に戦えるような人間はいないし、雑魚の海賊相手ばかりで飽き飽きしていたところだ。

 

「久し振りに楽しめそうだ」

 

ボクが王位を元女王から貢がれた時、当然ながら反対する者も多くいた。それでもボクが王であり続けているのは単に、ボクが強いからだ。

貢がれたとはいえ、正当な手順によって王となったボクを引きずり下ろすには、力で制するしかないが、力で敵わぬのなら黙ってボクに従うしかない。

 

この大海賊時代、力がなければ何も手に入らないし、何も守れやしない。

 

それに何より、強い者は美しい。

だからこそ、この美しきボクが強いのは必然。

 

それ故にーー

 

「これならまだ釣りの方が楽しめたな」

 

ーー悪名高い海賊だろうとも、このボクには触れることさえ(・・・・・・・)出来ずに地へ伏した。

完全なる勝利、圧倒的格差、何と罪深き美しさだろうか。今日もボクは美しい。

 

この海賊団の船長であった男の背に座り、ボクはボクの美しさに酔い痴れていた。『楽園』にしては珍しく悪魔の実の能力者が複数人いたが敵ではなかった。

 

やはり覇気も知らない無知な海賊では最早遊び相手にもなりはしないようだ。

これで面白い能力でも持っていれば楽しめたものだが、全員が超人(パラミシア)系で、大して能力を使いこなしているわけでも無かったので興ざめだった。

噂に聞く動物へ変身できる能力者、動物(ゾオン)系を見てみたいのだが、そういるものでもないか。大国アラバスタには『アラバスタ最強の戦士』と誉れ高い鳥になれる者もいるようではあるし、存在していることは間違いないんだけど。

 

「こ、これが、『触れられざる皇帝』……ッ!最強の海賊団がこんなにあっさりッ」

 

まだ意識のある海賊がいたのか、顔を真っ青にして全滅した海賊団を見渡していた。

『触れられざる皇帝』というのは、この辺の海賊が次々と海賊団を潰して回っているボクのことを恐れ、呼び始めたものだ。このボクを恐れることは正しくはあるが、それを知って尚挑むのは愚かで滑稽だ。

 

「随分と安い最強だったな、欠伸が出る程退屈で賭けを考える暇もなかったわ」

 

ボクからすれば雑魚でも、トータルバウンティは1億ベリー超えということを考えると最強と勘違いしてしまう程度には、楽にこの『楽園』を進んできたのかもしれない。たぶん、この辺を担当している海兵共では到底捕まえることは出来なかっただろう。

 

「やはりボクの強さを測るものさしは、『楽園』には中々いない、か」

 

後この辺でボクと戦えそうなのは、噂からすると『アラバスタ最強の戦士』か『スペード海賊団船長』くらいか。

とはいえ、『スペード海賊団』はもう先の海へ進んだという話も聞くし、アラバスタの重鎮である『アラバスタ最強の戦士』をボコボコにして国家間の不和に繋がるのは面倒だ。

 

「そうだ、いるじゃないか、大物が」

 

アラバスタで持て囃されてる英雄にしてーー『王下七武海』の一人、サー・クロコダイルが。

 

王下七武海は、収穫の何割かを政府に納めることが義務づけられる代わりに、海賊および未開の地に対する海賊行為が特別に許されている、世界政府によって公認された(・・・・・)海賊。

 

いつもの海賊潰しのように勝手に手を出せば、糾弾されるのはボクの方だ。この美しきボクを糾弾するなど万死に値するが、(しがらみ)は世を楽しむエッセンス。遊戯(ゲーム)はルールを守るからこそ面白いのだから。

 

『王下七武海』サー・クロコダイルと戦い、ボクの強さを測る。当面の遊びとしてそれを目標とすることにしたボクは、早速、兵士達に海賊の連行を命令しつつ、同行していた家臣には書状の作成を命令した。

 

書状の内容はまあ、視察と言ったところだろうか。

その宛先は、アラバスタ王の住まうアルバーナ宮殿。

 

まずは敵情視察、サー・クロコダイルを直に見ることから始めよう。


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