1話
目が覚めると、すぐに違和感を覚えた。
昨夜は確かに自宅に帰ったはずだった。
しかし、今、自分がいる場所は自宅ではない。
見覚えのない天井と、カーテンで仕切られたベッド。
病院かと思ったが、掛けられた布団がどことなく家庭的で、違うことがわかる。
全く知らないはずなのに、どこか懐かしさを感じる…ここは、保健室?
保健室なんて、高校を卒業してから10年以上縁のない場所だ。
これは夢なのだろうか。
いや、夢にしてはリアルすぎる感覚がある。
現実であることには間違いないのに、自分が置かれている状況がわからない。
もう一度、昨日のことを思い返してみる。
働き方改革が叫ばれるこの令和の時代にびっくりするほどのブラック企業での激務を終え、家路についたのは日付が変わる頃だった。
くそみたいなパワハラ上司に、Theゆとりの同期、やる気のない部下。自然と仕事の皺寄せが自分のところにやってくる。もちろん辛い思いをしているのは自分1人だけではない。同じような立場の人は他にもいる。いつも死んだような顔で残業をし、同じ頃お互いに挨拶を交わすことも無く無言で会社を後にする。そんな毎日を送っている。
帰宅してすぐ、缶ビールを開けて晩酌を始めた。毎日飲まずにはやってられない。
昨日は何故だか全く眠れそうになくて、いつもよりも多く飲んだ気がする。
それでも落ち着かなくて、心療内科で処方された精神安定剤を飲んだ。
それから風呂に入って、寝る前にもう1本ビールを開けた。そして、睡眠薬を流し込んだ。
ダメじゃね?酒で睡眠薬飲んだとか。
確実にやばいやつじゃん。
死ぬやつじゃん。
これは幻覚?
それとも走馬灯?
慌てて起き上がると、それに反応したかのようにカーテンが開いた。
「目、覚めました?」
優しい声のトーンと雰囲気で分かる、この人は絶対に保健室の先生。
「気分はどうですか?頭痛とか、吐き気とかないですか?」
「はい…今のところ特には…」
「ちょっと待っててくださいね」
そう言ってどこかへ行ってしまった。
開いたカーテンの隙間から部屋の様子を伺うと、ここはやはり保健室のようだ。
何故、保健室?
これは最近流行りのタイムリープ的なやつか?
人生やり直せる?
深夜にたまたま見てハマったアニメを思い出した。
元恋人を暴力団に殺されて、中学時代にタイムリープして元恋人を救うために奮闘する話で、今の生活に嫌気がさしていた自分にとって、人生がやり直せるというのは羨ましい話だった。
もし、タイムリープだとして、学生に戻っていたとしたら、それにしてはこの保健室もさっきの先生も見覚えがない。
10年以上という歳月と、それほど保健室を利用したこともなかったことを考えれば記憶が曖昧なだけかもしれないが。
バタバタと足音がして、さっきとは違う先生が入ってきた。
「もう大丈夫なんですね!?始業式の前に急に倒れるからびっくりしましたよ!」
どうやら学校についてすぐに倒れてしばらく気を失っていたらしい。
それにしても、やっぱりこの先生にも見覚えがない。
「さあ、大丈夫なら教室に行きますよ!」
ベッドから降りて、自分の着ているものが制服ではないことに気づいた。
スーツを着ている。
タイムリープで納得しかけていた頭の中が疑問でいっぱいになる。
「山口先生?どうしました?早く教室行きますよ」
「…は?」
山口って、誰?
視線を落とすと自分の名札が目に入った。
山口とは自分のことらしい。
しかも、先生って、どういうことだ…?
酒と睡眠薬飲んで頭おかしくなって急に転職でもしたか?山口なんて偽名を使って?
いやいやいや、有り得ないでしょ。そもそも教員免許とか持ってないし。
ぐるぐると疑問が溢れ出てくる。
その様子を不安そうに見てくる先生。
「やっぱりまだどこか痛いところが…?」
「いや…あの、頭打ったみたいで、ちょっと記憶が…」
そう言うと、先生は慌ててしまった。
他人が自分よりもテンパっていると急に自分が冷静になっていくのが分かった。
「でも、全然どこも痛くないんで!大丈夫です!教室行きます!…で、教室どっちですか?」
ブラック企業に飼い慣らされた社畜スキルで、その場を丸く収める能力だけは誰にも負けない自信がある。
始業式といえば、学校は午前中しかないはず。
きっと生徒たちは担任が来るのを教室で待っているだろう。
山口先生として自分が教室へ行けば、とりあえず丸く収まるということは分かった。
自分の状況を自分が1番理解していないのに、今日1日くらいなら何とか出来そうな気がした。
学生時代を思い出しながら廊下を歩く。
担任の先生はどんな風に喋っていたか、どんなことをしていたか、なるべく先生らしく振る舞えるように心掛けた。
ふとカレンダーが目に入った。
今は2005年4月だということが分かった。
考えれば考えるほど分からない。
2005年といえば、自分は中学2年生だった。
令和にはアラサーで、先程のタイムリープ説がもう一度頭を過る。
でも、この身体は自分のものではない。
もう少しゆっくり考える時間が欲しいと思っているうちに教室へ着いた。
教室に入って初めて、ここが中学校であることに気づいた。
「山口先生、倒れたって聞いたんですけど大丈夫なんですか?」
心配した生徒たちが寄ってくる。
「心配してくれてありがとう、大丈夫だから、一旦席に着こうか」
散り散りになっていく生徒を見送っていると、自分の席にひっそりと座る1人の生徒が目に入った。
あの
いや、でも、そんなまさか…
先程思い出していたアニメの登場人物そのもので、自分でも有り得ないことを考えているとわかる。
ここはあのアニメの世界なのだろうか。
たまたま同じような格好をした中学生かもしれないと淡い期待を寄せながら生徒名簿を確認するとそこには“場地圭介”の名がしっかりと記されていた。
これが転生というやつか。いや、憑依?
転生とか憑依とかの定義はよく分からないが、次元の異なる世界に来てしまったことは確かなようだった。
この世界に来たのには何か意味があるはず。
ましてや、アニメでは先日“血のハロウィン”が終わったところで、今、目の前にいる場地圭介は生きている。
自分に課せられたミッションは、場地圭介を救うこと…?
最近アニメ見てハマって、ハマった途端“血のハロウィン”で、辛すぎて、幸せな未来が見たくて、勢いで書いてます。
原作未履修です。少しずつ読んでいるところです。変なところあったら教えてください。
ちなみに場地さんと千冬って、中2に進級してからクラスは同じですか?