To be, or not to be...   作:

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遅くなり申し訳ありません。



【2021.10.17. 19:00】
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13話

夏休みもあと10日ほどで終わるある日、朝早くにインターホンがなった。

土曜日の朝から来客の予定なんてない。いや、土曜日どころかいつだろうが来客なんてない。

掃除機の音がうるさかったか、洗濯機の音か…きっと隣人からのクレームだろうと思いながら玄関を開けた。

 

「来ちゃった!」

 

以前、ここへ来たばかりの頃、“来ちゃったイベント”は有り得無いと思っていたのに、これは想定外である。

しかも相手は恋人なんかではなく、東京卍會初代総長である。

 

「…何しに来たの?てか、早すぎじゃない?まだ8時過ぎなんですけど。」

 

「学校だったら優秀じゃね?」

 

「学校だったら、ギリ遅刻ですよ。」

 

しかし、寝坊常習犯のマイキーがこんなに朝早く起きているとは意外である。本当に目的が分からない。

 

「センセー悪いな」

 

ドアの影から龍宮寺が顔を出した。

 

「マイキーが行きたいって聞かなくて」

 

「おっじゃましまーす」

 

こっちの都合なんてお構いなしに上がり込んでくる。

何の予定もないので別に問題ないのだが、親戚でもない中学生が2人、中学校教師の家にいるのだ。令和だったら何か問題にされそうな案件である。

 

「本当に何しに来たんですか?」

 

「んー?ベンキョー」

 

「勉強?マイキーさんの口から、勉強?」

 

「83抗争も無事に終わったし、海行ったり花火したり夏らしいことも一通りやったし、あとやってねぇことと言ったら夏休みの宿題くれーだなって。そういや今まで宿題なんてやったことなかったし、中学も最後だしやってみっかって話になったんだよ」

 

戸惑っていると龍宮寺が説明してくれた。

 

「ま、場地はまだあと1年中坊だけどな」

 

マイキーがケラケラと笑っている。

 

「ちょっと待って、場地さんたちも来るの?」

 

「だって、センセー場地の担任だろ?場地いないのにオレらいたら悪くね?」

 

マイキーはキョトンとしながら答えた。

むしろこの場合は、担任の家に教え子がいる方が悪いのである。

 

「あと三ツ谷も来るぞ。パーちんたちも誘ったけど、予定あんだと」

 

これほど林田に感謝したのは後にも先にもこの時だけだろう。この狭い部屋にこれ以上人数が増えなくて良かった。

 

「本当はパーちんの家に集まりたかったんだけどよ、デカイから。でも、予定あるって言うし。俺の部屋はクソ狭いし、三ツ谷の家は妹たちいるから悪ぃじゃん。俺らの中でちゃんと勉強してんの三ツ谷だけだし、たまには妹のこと考えないで勉強に集中してもらいてぇと思って。場地も千冬も団地だから騒いで近所に迷惑かけらんねぇ。図書館って柄でもねぇし。だから、ここ」

 

「うちもアパートだから騒がれたら迷惑かかるんですけど。マイキーさん家でいいじゃないですか。」

 

「だってここの方が集会所近いんだもん。いいじゃん」

 

いつの間にかマイキーは床に寝転んでいた。

 

「みんな来たら起こしてー」

 

そう言うと間もなくマイキーの寝息が聞こえてきた。

 

「まじで寝たの?初めてきた他人の家で?」

 

「まぁ、マイキーだからな」

 

龍宮寺は「いつものこと」だと言うように、特に気にしていないようだった。

ちょうど洗濯が終了した音がしたので、マイキーも龍宮時も放って家事を再開した。

洗濯物を干して部屋に戻ると龍宮寺が思い出したように話し始めた。

 

「そういえば、俺、死ななかったぞ」

 

「そうですね。」

 

「未来が変わったってことか?」

 

「そうなってると思うけど、どう変わったかは分からない。」

 

龍宮寺眉間にしわを寄せた。

 

「龍宮寺くんが死なない場合の未来も知ってたけど、今はそのときの状況とは大分違う形になってる。」

 

「どういう事だよ」

 

「そもそも、愛美愛主(メビウス)に林田くんの親友が袋叩きにされてその彼女は意識不明の重体で、83抗争の前に二中近くの倉庫で揉めてるはずだった。その時、林田くんが長内を刺して自首。その件でマイキーと龍宮寺くんが喧嘩。結局2人は花垣くんのお陰で仲直りするからそこは別に良いんだけど。林くんは龍宮寺くんが林田くんを見捨てたと思って、愛美愛主の残党と連んで龍宮寺くんに奇襲をかける。そこに東卍のメンバーも加わって乱闘。その中で清水に刺される予定だった。」

 

「それを知ってたから場地たちはパーちんの親友(ダチ)を助けられたのか。つーか、全然違くないか?」

 

「そうなんですよ。その中で龍宮寺くんは花垣くんに助けられる予定だった。」

 

「タケミっち?」

 

「花垣くんは刺された龍宮寺くんを背負って運んでくれた」

 

「タケミっちにおんぶされるとか、俺くそダセーじゃん」

 

ふと思った。トントン拍子に上手くことが運んだお陰で花垣と清水のタイマンが無かった。そのせいで、花垣が変わる機会を1つ潰してしまったのではないだろうか。未来が変わっていても、花垣の人生は変わってない可能性がある。

 

「そんで?助かった俺はどうなる予定だったんだ?」

 

「…言えない」

 

「はぁ?何でだよ?」

 

中学生に「将来は死刑囚になる」なんて言えるはずがない。しかも理由が分からないのだ。何人か人を殺めた後のような描写はあったが、何故殺したのか、その理由はアニメでは描かれていなかった。もしかしたら原作では分かっているのかも知れないが、読んでいない自分が憶測で言うわけにはいかない。

 

「言いにくいことなんだな」

 

「…そうですね。」

 

「また、死ぬのか?」

 

「…そうなるかも知れない。」

 

「何でこの間は普通に死ぬって言ったのに今日は言えねぇんだよ」

 

「83抗争では“死なない”って思えたから。」

 

でも、次は分からない。“血のハロウィン”以降は自分の目で展開を確認していないのだ。なぜ死刑囚になったかも分からなければ、どうやって花垣が未来を変えたのかも知らない。

しかし、大きく過去が変わっている以上、龍宮寺が死刑囚ではない可能性の方が高い。「そいう未来もあった」と教える分には問題ないのではないだろうか。

自問自答していると、インターホンが鳴った。場地たちが来たようだ。

 

「おーっす邪魔するぞー」

 

「先生、コレ差し入れです」

 

三ツ谷に差し出された袋にはコーラなど2Lペットボトルのジュースが数本入っていた。

 

「そんな気を使わなくてもいいのに。重かったでしょ?」

 

と、口ではいったものの、今、冷蔵庫にある飲み物といえば、缶ビールと作り置きの麦茶しかない。中学生に出せそうなものは無かったので、正直有難い。

しかし、この家には人数分のコップなどない。500mLのペットボトルだったら簡単に分けられたのに、と思うが、中学生が中学生なりに考えて持って来てくれたのだ。文句を付けるところではない。

 

「松野さん、おつかい頼んでいい?そこのコンビニで紙コップ買ってきて。」

 

「何でオレなんすか」

 

「君が一番下っ端だから。総長、副総長、隊長が2人。松野さんは?」

 

「…副隊長っす」

 

「お釣りはお駄賃であげるから。」

 

そう言って500円玉を渡すと嬉しそうに出掛けて行った。現金なヤツめ。

そういえばマイキーを起こしてなかったと思い声を掛けると、「千冬が帰ってきたら起こして」とまたウトウトし始めたが、マイキーが二度寝をするより早く松野が返ってきた。さすがの俊足である。マイキーが小さく舌打ちしたのを聞き逃さなかった。そんなに寝たいなら家で寝ていれば良いのに。

しかし、マイキーは有言実行の男。「そろそろ始めるか」と、自ら机に向かった。

マイキーに続いて他のメンバーも各々の課題に取り組み始めた。

場地と松野の手元を見て愕然とした。

 

「え、まさかの0?ひとつも手を付けてないの?」

 

期待はしていなかったが、ここまで酷いとも思ってなかった。

特に場地は、二度と留年しないためにガリ勉スタイルで授業を真面目に受けているのだから、宿題も出来ないなりに多少はやっていると思っていた。

 

「これじゃ今からやっても終わらないでしょ。」

 

「終わらせることが目的じゃねぇ、やることに意義があんだよ」

 

「なにカッコ良く宿題終わらせない宣言してるんですか。終わらせますよ。せめて1教科だけでも今日終わらせましょう。」

 

課題の一覧を場地と松野と一緒に確認する。

国語は漢字ノート1冊分の漢字練習と読書感想文、これは無理だろう。

英語もノート1冊分単語練習、これも無理。というか、国語と英語の先生鬼畜すぎでは?

社会はワーク、これは家で答えを写せば何とかなるだろう。

理科は自由研究、これも何とかなるだろう。何を隠そう、この2人は動物が好きなのだ。動物《ペット》を観察させれば立派な生物の研究である。

やはり、今やるべきなのは数学か。

そう思って始めたが、場地も松野も1学期の内容を殆ど覚えていなかった。テスト前にあんなに勉強したのに。先が果てしなく遠い。

 

「先生って数学の先生なんすか?」

 

急に三ツ谷に声を掛けられた。

何事かと思えば、「この問題が分からないから教えてほしい」と。

気が付けば真面目に勉強しているのは三ツ谷だけだった。しかも、三ツ谷は既に宿題は終わっており、今は受験に向けた勉強をしている。

話を聞くと、家のことや妹たちの面倒を見なければならないため、自宅から一番近い公立高校が志望校らしい。

しかし、今の点数ではギリギリのラインらしく、少しでも点数を上げたいのだとか。まだ15歳なのに、見上げたものである。

 

「なー腹減った」

 

マイキーに言われて時計を見ると間も無く正午になるところだった。

きっと昼食もここで食べる気なんだろう。

もう観念した。ここからは悟りの境地である。

 

「何かリクエストありますか?」

 

「オムライスー!」

 

さすが無敵のマイキー、遠慮というものを知らないようだ。

リクエストを聞いたところで、冷蔵庫の中に必要な材料が無ければ作れない。

冷蔵を確認しに行こうとすると、三ツ谷に呼び止められた。

 

「キッチン貸してもらえれば俺作りますよ」

 

「…いや、座ってて」

 

立ち上がろうとする三ツ谷の肩を抑えて、座り直させる。

 

「でも、勉強も教えてもらったし、せめて手伝います」

 

「子どもが大人に気を遣わない。家でも東卍でもお母さんやってるんだから、ここでくらい子どもらしく甘えてみたらどうですか?」

 

三ツ谷は目を丸くして見上げてきた。その表情があどけなくて、思わず頭撫でた。

 

「ちょっ…!やめてください!」

 

「ハハハッ!三ツ谷のそんな顔、初めて見たわ!」

 

龍宮寺が大きな声で笑い出したので、三ツ谷は余計に照れてしまった。

 

冷蔵庫の中には卵が1つしかなかったので、マイキーの分だけをオムライスにすることにした。

そういえば、と思い出し、爪楊枝に紙を貼り付けて旗を作ってマイキーのオムライスに刺した。

 

「何でマイキーだけオムライスなんだよ」

 

「オレもうオムライスの口になってたのにー!」

 

場地と松野が文句を言う。

 

「卵が1個しか無かったから。卵足りなくて巻けなかったし。」

 

オムライスの出来に納得いってない、と言おうとした時、マイキーに服の裾を引っ張られた。

 

「なぁ、コレ…」

 

「旗?好きでしょ?」

 

「そうだけど、そうじゃなくて…」

 

こんなに煮え切らないマイキーも珍しい。

 

「あれ?もしかして今日じゃなかった?」

 

「いや、今日」

 

「…ごめん、地雷だったか。」

 

「別に平気。ただ、人に祝ってもらうの久しぶりだなって。みんな気ぃ使って触れないようにしてるみたいだったから」

 

松野は何の話だか分かっていない様子だが、3人は察したようだった。

龍宮寺がマイキーの頭をわしゃわしゃと撫でる。

 

「やめろよ、ケンチン」

 

口では嫌がっているが、表情は柔らかかった。

それを見た場地と三ツ谷もマイキーを撫で回す。

先輩たちの妙な光景を見た松野は不思議そうにマイキーのオムライス旗を覗き込んだ。

 

「マイキーくん誕生日なんスね!おめでとうございます!」

 

「おう、さんきゅ」

 

少し気恥ずかしそうなマイキーは年相応で、先日抗争をしていた暴走族(チーム)の総長とは思えない。

このまま、二度と抗争なんかしないで平和に生活して欲しい。それだけが願いである。

 

昼食を食べ始まると、唐突に場地が質問を投げかけてきた。

 

「そういえばよー、センセーはなんでマイキーだけ“マイキー”って呼んでんの?」

 

「なんか“マイキー”って口に出して言いたくなるあだ名じゃないですか。」

 

本当に、特に意味ない。ただ言いたいだけ。

 

「ドラケンも三ツ谷も“龍宮寺くん”“三ツ谷くん”なのに、俺と千冬だけ“場地さん”“松野さん”っておかしくね?」

 

「いや、クラスのみんなのことも“佐藤さん”“鈴木さん”って呼んでるでしょう。」

 

自分の担任がそう呼んでいた気がするので、なんとなく先生が生徒を呼ぶときのイメージがそうなっていた。

 

「場地と千冬もなんかアダ名付けてやろうぜ」

 

マイキーが提案すると、龍宮寺が適当に答える。

 

「場地圭介だから、“ドラケン”っぽく“バジスケ”とかでいいんじゃね?」

 

「ヤだよ。なんかダセェ」

 

「じゃあ、松野さんは“ちぃたん”で。」

 

可愛い顔して破天荒なところなんてあのゆるキャラにそっくりである。

その後、東卍幹部内で松野の“ちぃたん”呼びがしばらく流行ったことは言うまでもない。

 




遅くなってしまいました。すみません。
マイキーに「来ちゃった」って言わせたかったのと、三ツ谷くんを早めに懐柔したかったのと、千冬くんを「ちぃたん」と呼びたかっただけの回です。
ただの(私の)息抜きに回です。
もっと短い予定でした。

この話は必要かと言われれば必要ないかも知れません←
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