To be, or not to be...   作:

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クラスメイトがたくさん出てきます。
某有名戯曲のネタバレがあります。
予めご了承ください。



【2021.11.16. 6:00】
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15話

夏休みが終わってしばらく経つが、学校は相変わらず平和である。

これからあの“血のハロウィン”が起こるなんて信じられないほどに、場地と松野は中学生らしい日常を過ごしている。

 

10月の合唱コンクールに向けた練習も始まり、音楽の時間が終わると女子生徒に囲まれるようになった。

「男子がちゃんと歌ってくれない」と、愚痴を聞かされている。何故いつの時代も合唱コンクールの練習では男女の溝が出来てしまうのだろうか。しかし、最終的には仲が深まってしまうのだから、不思議でしょうがない。

しかも、うちのクラスは場地松野対策のため真面目な生徒が多く、決して授業中にふざけるようなことはないと思うのだが、女子たちの話を聞く限りでは、「とにかく歌わない」のだとか。

音楽の授業をこっそり覗いてみると、理由が分かった。

思春期特有の、一生懸命頑張るのなんかちょっと恥ずかしい、ってやつだ。

体育祭はあんなに張り切っていたのに、どうせカラオケでは熱唱しているくせに、合唱となると一気に恥ずかしくなってイキってしまう、アレだ。特に中二男子に多い症状である。真面目なウチのクラスの男子たちも例外ではなかったのだ。

廊下から様子を伺っていると、あのお決まりの文句が聞こえてきた。

 

「ちょっと男子〜!ちゃんとやってよね!」

 

「みんな場地くん見習ってちゃんと歌ってよ!」

 

場地を見ると、めちゃくちゃ良い声で歌っていた。しかも、上手い。

二度と留年したくない場地は、どの教科も真面目に取り組んでいる。音楽も合唱練習も例外ではないのだ。おそらくウチのクラスで一番真面目に授業を聞いているのは場地だろう。しかし、それに学力が伴っていないのがとても残念である。

場地につられて松野もちゃんと歌っている。松野は多少恥ずかしさがあるのか、いつも「場地さん!」と呼んでいる時の声よりもだいぶ小さな声だった。

他の男子たちも歌い始めた。根が真面目なので、自分から歌うのは恥ずかしいが、言われればやる。女子からの「歌って」待ちだったのだろう。なんとも面倒くさい話だが、それもこれも思春期だから仕方がないのだ。そのことに気付いたのは()()()の世界にきて教員をやるようになってからだった。

自分が中学生の時もこんな感じだったな、と懐かしさを感じながら音楽室を後にした。

 

 

この学校では、毎年10月最後の土曜日に文化祭が行われている。

午前中が合唱コンクールで、午後は吹奏楽部や演劇部など文化部の発表や各クラスの発表というプログラムになっている。

この“各クラスの発表”というのが面倒なのである。

作品の展示またはステージ発表の2択で、今日の学級活動は文化祭のクラス発表を何をやるか決めるのが議題だ。

相変わらず優秀な学級委員コンビがテキパキと働いている。

今のところ出ている案は、手形アートや針金アートなど、作品展示のものばかりだった。

合唱でさえ歌わないのだから、ステージ発表なんてもっと難しいだろう。

 

「劇やりたいんだけど、どうかな?」

 

普段の授業で発表したりしているところを見たことがない控えめな宮本さんの発言に、クラス中が驚いていた。

 

「宮本さんって演劇部だよね?文化祭、部活でもやるよね?大変じゃない?」

 

「そうなんだけど、部活の方はコンクールでもやる作品だし、違うことやってみたくて」

 

委員長の問いに、申し訳無さそうに答える宮本さん。

本当に演劇部なのだろうか、と疑いたくなる程おどおどしていた。

 

「あっあの、実は4月から考えてて、このクラスだった絶対コレやりたいって思ってて」

 

そう言って宮本さんが机の中から出したのは、分厚い台本だった。

 

「あっ、もちろんコレ全部やるわけじゃなくて、全部ちゃんとやったら何時間もかかるから、短くアレンジした脚本作って」

 

更に机の中からコピー用紙の束が出てきた。

既に宮本さんは脚本を作っていたのだ。

いつから準備していたのか分からないが、昨日今日で書けるものじゃないだろう。

普段あまり喋らない宮本さんがこんなにも熱く語っている。

宮本さんの熱意に負けて、クラス全体が劇をやる雰囲気になっている。

 

「実は、主人公2人も私の中では決まってて…ロミオが内田くんでジュリエットが坂本さん」

 

それを聞いたクラスは一気に盛り上がった。

内田くんといえば、サッカー部の爽やか系イケメンだ。学校一モテる男子と言っても過言ではないだろう。試合には多くの女子生徒が応援に来るし、呼び出されているところを何度か見かけた。きっとここが少女漫画の世界だったら確実に主人公である。

対する坂本さんは、まさに美少女という言葉がぴったりである。少々物事をハッキリ言ってしまうことがあるため、キツイ印象を持たれがちだが、気がきくし、面倒見も良いし、彼女もとてもモテる。少女漫画の世界だったら、ライバルかヒロインの親友か…内容によるだろう。

美男美女のロミオとジュリエット、良いかも知れない。

 

「ね?良いでしょ!だから絶対今年やるしかないって思ったの!」

 

いつのまにか黒板に書かれた『ロミオとジュリエット』の文字の上には花丸が書かれていた。

名指しされた2人はというと、内田くんは満更でもなさそうだったが、坂本さんは困った様子だった。

 

「あの、盛り上がってるところ悪いんだけど…あっ、劇には賛成だよ?でも、私ジュリエットは出来ない。吹奏楽部の方も発表あるし、合唱でピアノ伴奏の練習もあるし、その他に劇のセリフ覚えるとか、絶対無理だと思う」

 

坂本さんのもっともな意見に宮本さんも他のクラスメイトたちも納得していた。

 

「裏方だったらなんでもやるから!どんどん言ってね」

 

こうして、クラス発表の内容が決定し、今は配役を決めている。

そして相変わらず、場地と松野は学級活動の間、自分の意見を言うことは無かった。

しかも今回は、余程ステージに立ちたくないのか、存在を消すかのように、息を殺して黙って座っていた。

それは逆効果な気もする。

他の男子たちは、早々に裏方に名乗りを挙げていて、もう裏方の仕事は残っていない。

出遅れた男子もたちも、出番の少なそうな脇役を見極めて立候補していき、ほぼ埋まっている。

残っている役は、ロミオの親友2人とジュリエットの従兄弟。

ベンヴォーリオは内田くんと同じサッカー部で親友の中田くんになった。

いよいよ残っているのは場地と松野だけになってしまった。

どうしたものかと様子を見ていたが、宮本さんの見立てで、場地がマキューシオで松野がティボルトになった。

 

「それで、場地くんにお願いがあるんですけど…本番は眼鏡外してもらえませんか?」

 

宮本さんの提案に他の女子たちも同意の声を上げる。

4月、新学期2日目に眼鏡を落として登校した場地を見て以降、クラスの女子たちが度々眼鏡のない場地を見て何やらコソコソしているとは思っていたが、アレは好意だったのだ。

髪はぺったり撫で付けているから今はそこまでではないかもしれないが、髪型も変えたら爆発的にモテるだろう。きっと内田くんと人気を二分するに違いない。

色めき立つ女子たちをよそに場地が適当に返事をしたところで、終業のチャイムが鳴った。

肝心のジュリエットだけが決まらなかった。

女子たちがみんな嫌がっているのだ。内田くんの相手役なんて、何を言われるか分かったもんじゃない、と言ったところか。いや、むしろ分かりきっているから嫌なのだろう。

珍しく業を煮やした委員長に「決まらなかったら山口先生がジュリエットやってください」と言われてしまった。それだけは何としてでも避けたい。

 

 

宮本さんが書いた脚本を印刷するために預かって、職員室に戻った。

彼女のことだから変なことは書いてないだろうが、中学校で上演するのに不適切な内容がないか一応確認のために読んでみる。

非常に良くまとまっていて、しかも分かりやすくアレンジされていた。宮本さんにはこんな才能があったのかと感心した。

しかし、読みながら重大なことを思い出した。

ティボルトがマキューシオを殺してしまうのだ。

これは、“血のハロウィン”の前に松野の()()セリフを聞くことになりそうだ。

 

「オレは…場地さんを()れねー」

 

帰りの会でコピーした台本を配ると、さっそく松野は読んでいた。

少女漫画を好んで読んでいるらしい松野には、恋愛ものということで読み易かったのだろう。

そして、件のセリフである。

松野の言葉に、クラス全員が注目していた。

 

「千冬?こんなのただの劇だろ?」

 

「それでも、オレには無理っす」

 

自分の手で場地を殺めるところを想像したのか、松野は今にも泣きそうで、場地も目を丸くして松野を見ている。

あのヤンキー松野の異変にクラス中が困惑している。そして、松野をこんな風にしてしまう場地くんって一体何者なのだろう、という雰囲気になっている。

 

「じゃあ、松野さんは、絶対に場地さんを殺さない役に変更しましょうか。」

 

そう提案すると、察しの良い委員長が「自分がやりたくないだけでは?」と言ってきたが、無視した。

 

「松野さん、ジュリエットやってみましょうか。」

 

「もう何でもいいっす」

 

涙こそ出ていないものの、すっかり鼻声になった松野は、“場地を殺さない”以外の言葉はほとんど聞こえていないのか、あっさりと返事をした。

クラス全体としても、それはそれで面白いのではないだろうかということになった。

発案者の宮本さん的にはどうなのかと思ったが、「松野くんは顔かわいいし、問題ない」とのことだった。

更に宮本さんは、「松野くんがジュリエットやるなら、場地くんはティボルトで」と場地の配役も変更した。

そして空いたマキューシオには「仕方がない」と委員長が名乗りを上げてくれた。

 

「無事に配役が決まって良かったです。これで、みんな安心して勉強できますね。それでは、前期期末テストの範囲表を配布します。」

 

思ったよりもクラスがどよめいた。

大半の生徒がテストの事などすっかり忘れていたようだ。

しかも、期末テストは技能教科も含め9教科もテストがあり、範囲表も前回の中間テストの倍の大きさになっている。それを見ただけで生徒たちは嫌になっていた。

場地と松野はというと、頼る気満々の顔でこちらを見ている。

劇の本格的な練習は期末テストが終わってからということだが、役に付いている生徒はそれまでにセリフを覚えておくことになった。

これから2週間、またパソコン室で特別補習を行い、それと並行して台本の読み合わせを行うことにした。

今更だが、場地と松野はセリフを暗記できるのだろうか?

 





中学生らしいことをさせたい回でした。
『ロミオとジュリエット』まだ見た事なくてこれから観に行く予定だったのにーという方、ネタバレしてしまってごめんなさい。
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