To be, or not to be...   作:

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【2021.12.30. 17:00】
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18話

月曜日、場地と松野は学校を休んだ。

珍しいと思い、家に電話したが繋がらず、胸騒ぎがする。

母親の職場にまで電話をしてしまった。松野の母は「先に仕事に出てしまったから分からない」、場地の母は「いつも学校に行く時間に家を出た」と言われた。場地の母が少し動揺しているように感じたため「野良猫でも追いかけてどこか寄り道してるんですかね〜もうそろそろ着きますかね〜」と言ってしまった。

学年主任に相談しても、「あの2人はヤンキーだからどうせサボりだろ」と相手にされなかった。

今日は10月24日で、ハロウィンのちょうど一週間前。今日でなければこんなこと気にしないのに。

きっと集会で場地は芭流覇羅(バルハラ)に行くと宣言したのだ。そして、今頃“踏み絵”が行われているに違いない、と嫌な想像ばかりしてしまう。

本当なら、今すぐにでも場地と松野を探しに行きたいが、こんな時に限って、授業が1時間目から全部埋まっているのだ。

しかし、有難いことに今日は5時間で授業が終わる。適当な理由を付けて早退することを許可してもらえた。行方不明の生徒を探しに行くのは教員の業務内容に含まれる気もするが、場地と松野に関しては個人的な部分が多いため有給を使った。

“潰れたゲームセンター”という情報だけを頼りに、生徒に聞き込みをしたところ近辺に何店舗かあることが分かった。「“首のない天使”の絵が描いてあるところを探している」と言うと、「不良の溜まり場という噂だから近付かない方が良い」と生徒に心配されてしまったが、なんとか芭流覇羅のアジトの場所を知ることができた。

帰りの会を速攻で終わらせ、生徒の見送りもそこそこにすぐに学校を出た。

急ぎ足で歩いていると、校門の影から稀咲が現れた。

 

「え…」

 

「お久しぶりです」

 

久しぶりと言うほど期間は空いてなかったはずなのに、稀咲が「また来る」と言っていたことをすっかり忘れていた。

 

「…今日は一体何の用ですか?」

 

「場地圭介はどうしてますか?」

 

「え?」

 

「場地は、この間の集会で東卍を抜けて芭流覇羅に行くと宣言していました」

 

やはり予想は的中していた。

しかし、その報告を稀咲から聞くことになるとは夢にも思っていなかった。

きっと稀咲が仕組んだことなのに、それをわざわざ言う意図が分からない。

逆に、この件には稀咲は関わっていないということなのだろうか。こちらの反応を見て探りを入れているのか。

 

「松野千冬はどうですか?」

 

「…何でそんなことを聞くんですか?稀咲くんの目的は一体何?」

 

「オレは、まずは東卍の幹部になりたい。だから、壱番隊の隊長と副隊長がいなければ、その座につけるんじゃないかと思ってます。」

 

龍宮寺や林田の作戦が失敗し、今度は場地を殺して壱番隊の隊長になろうということか。しかし、うまくマイキーを言いくるめることができても、稀咲が壱番隊の隊長になることは松野が許さないだろう。ということは、稀さきにとって松野も邪魔な存在になる。だから、あの時、松野に対してあんな表情を見せていたのか。そうなると、松野も殺されてしまうのか…?それは想定外過ぎる。

これだけを見ると、過去を変えてしまったせいで事態が悪化しているように感じる。

しかし、やはり自分の計画の一部を話す稀咲の意図は分からない。“恩師の山口先生”だから話してくれているのか、それとも、何か隠された意味があるのか…

 

「それって、場地と松野の担任だって分かって言ってます?」

 

「もちろん」

 

表情を変えることなく答える稀咲が何を考えているのか分からず怖い。

 

「別に、力づくで奪おうとは思っていません。ただ、いなくなるなら好都合だと思っただけです」

 

その時、稀咲の携帯電話が鳴った。

ちらりと見えたディスプレイには『半間』の文字。稀咲は「終わったか」と一言だけ言うと電話を切った。

稀咲は足止め係だったのだと気付いた。先日一度訪ねてきたのはきっと下見だろう。話題なんて何でもよくて、こちらの動揺が誘えれば願ったり叶ったりということだったのだ。

 

「山口先生、この件には関わらない方が良いですよ」

 

それだけ言い残して、稀咲は去って行った。

関わるなと言われても、そういうわけにはいかない。

稀咲を追って尻尾を掴もうかとも思ったが、すぐに半間と接触するとは思えなかったので、当初の予定通り芭流覇羅のアジトへ向かうことにした。

 

 

すぐに芭流覇羅のアジトを見つけることができた。

さすがに中に入っていく勇気はない。

ガラス扉の向こう側には人影を確認することができたが、中で何が起こっているかまでは分からない。

先程の「終わったか」の言葉が本当なら“踏み絵”は終わっているだろうが、稀咲がわざと聞こえるように嘘を言っている可能性もある。

裏口からこっそり中を伺えないかと、裏へ回ってみる。ゲームセンターの裏まで続くであろう道の途中に捨て置かれた松野を見つけた。

 

「松野さん!」

 

意識を失っていたようだが、何度か呼びかけるとゆっくりと目を開けた。

 

「…センセ…?」

 

右目は開くことがなく、血だらけの顔は痛々しくて直視するのが辛い。

 

「な…んで、ここに…?」

 

「ごめん、“踏み絵”のこと知ってたのに…良い方向に未来が変わってるって、思い込んでた。ごめん…」

 

松野は力なく笑っている。

 

「いいんすよ、オレは。自分で場地さんについてくって決めたんだから」

 

体を起こして壁に寄りかかって座り直すと、集会で場地が芭流覇羅に行くと宣言したことや今日の“踏み絵”のこと、場地が話した過去のことなどを松野は話始めた。

 

「センセーは、マイキーくんのお兄さんのこと、知ってたんすね」

 

「…言えなくて、ごめん。」

 

「言えなくてトーゼンっすよ、あんなの」

 

「…幻滅したかよ?」

 

振り返ると、芭流覇羅の白い特攻服を着た場地が立っていた。

思わず場地に掴みかかってしまった。

 

「場地さん、目はダメでしょ!目は!怪我が原因で松野さんがパイロットになれなかったらどうするんですか!そん時は責任とれよ!」

 

「お、おう…」

 

先程まで親友をボッコボコに殴っていたとは思えないほどたじろいでいたが、すぐに手を払うと威嚇してきた。

 

「…センセーだから殴らねぇと思ってんだったら、大間違いだぞ」

 

「場地さんには出来ませんよ。信じてる。」

 

場地は大きく溜息をつくと、その場にしゃがみ込んだ。

 

「なんなんだよ、千冬もセンセーも。ありえねーだろ。どんだけ俺を信用してんだよ」

 

堰を切ったように一気に捲し立ててきた。

 

「俺は千冬(テメェ)を殴ってんだぞ。“敵だ”って、裏切ったんだよ!なのに“分かってます”みたいな顔してんじゃねぇよ!見捨ててほしいのに、どいつもこいつも…真っ直ぐな目で見てくんなよ!」

 

松野は力を振り絞って立ち上がると、自分よりも小さくなった隊長の胸倉を掴んだ。

 

「ふざけないでください!オレが場地さんを見捨てるわけないじゃないっスか!」

 

いつも忠犬のようにまとわりついていた副隊長に怒鳴られるとは思ってもいなかったのだろう。

場地は目を丸くして松野を見上げている。

 

「オレは…っ、副隊長として頼りないっすか…!?」

 

松野の目から大粒の涙が落ちた。

 

「オレは、場地さんに殴られるのなんて全然辛くねぇんすよ。でも、場地さんに信頼してもらえねーのは悲しいっす」

 

「離せよ、千冬」

 

場地は軽く押しただけなのに松野はバランスを崩して倒れた。

立っているのもやっとだったのだろう。尻餅をついたまま場地を見ている。

 

「…信頼してなきゃ、副隊長なんかやらせねぇよ」

 

場地は唸り声を上げて頭を掻いた。

 

「信頼してるから、お前には知られたくなかったんだよ!俺の犯した罪を知ったら…本当の俺を知ったら、幻滅されるんじゃないかと思うと怖かった。千冬の信頼を失うのが怖かったんだよ」

 

弱々しい隊長の姿に、今度は松野が目を丸くしている。

 

「それに…これは俺の、俺たちの問題だ。千冬を巻き込みたくねぇ…って思ってたのによ」

 

場地は急に視線をこちらに向けた。

 

「センセー、あんたもだ。こんなとこまで何しに来たんだよ」

 

「半年前に話したことお忘れですか?“場地圭介を死なせない”って言ったでしょう。そりゃ首を突っ込むよ。」

 

「もう誰も巻き込みたくねーんだよ!俺に構うな!」

 

場地と目線が合うようにしゃがんだ。

 

「場地さん、ひとりで解決しようとしなくて良いんだよ。みんなの為にひとりで頑張るのもカッコ良いんだけどさ、誰かに頼るのもカッコ悪いことじゃない。松野さんのことは信頼してても年下だしプライドあるかも知れないけど、私だったら年上なんだし、事情分かってるから何でも協力できるし、頼って甘えてみれば?」

 

「は?」

 

「場地さん、オレも場地さんを守ります。頼りねーかもしんないけど、場地さんの力になりてぇっす」

 

松野は正座をして場地に声を掛けた。

場地にとって予想外だったらしい言葉に戸惑っている様子だった。

 

「場地さんがみんなの為に行動しているように、私も、松野さんも、場地さんの為に色々してあげたいんだよ。」

 

場地は俯くと、小さな声で松野へ謝罪した。

たった一言だったが、その短い言葉には多くの意味を含んでいるのを感じた。

 

「じゃあ、松野さん、とりあえず病院行きましょうか。」

 

「こんなん別に平気っすよ」

 

「いや、目ですよ?ちゃんと検査してもらった方が絶対良い!」

 

場地は芭流覇羅の特攻服を松野の肩に掛けると、背中に乗るように促した。

 

「場地さん!?そんなっ、場地さんにおんぶしてもらうなんて、できません!」

 

「はぁ?お前、俺に何発殴られたと思ってるんだよ。歩けねぇだろ」

 

いつの間にか、いつもの場地と松野に戻っている。

 

「しかもこんな服着たくねーっす!」

 

「いや、着とけ。そんで、特攻服(トップク)隠しとけ。東卍の壱番隊副隊長がそんなボッコボコの姿じゃナメらんだろ」

 

「やったの自分じゃん」

 

思わず出た言葉にハッとする。

やったのは場地なのだ。病院に行けば絶対に怪我の原因を聞かれる。松野のこの怪我を見て何も聞かれないはずがない。しかし、事実を言えば、場地は傷害罪になって逮捕されてしまう。犯人隠避になってしまうが仕方ない。

 

「2人ともよく聞いて。松野さんは、もし医者に原因聞かれたら知らない奴に絡まれたって言っておいて。ボロボロになった松野さんを発見したのが場地さん。で、担任に連絡して私が駆けつけた、という設定にしておきましょう。」

 

2人の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいる。

説明し、それに納得すると、松野は素直に場地の背中に乗り、病院へと向かった。

 

 

松野が診察を受けている間、場地はここ最近の出来事を話始めた。

 

「俺が最初に学校休んだ日、マイキーのところに行ってたって言ったの覚えてるか?」

 

「もちろん」

 

「マイキーは一虎のことを許しはしなかった。次の日も、その次の日も一虎と謝りに行ったけど、マイキーは話を聞いてもくれねぇ。一虎は許してもらえないことでまたマイキーを恨み始めてた。久し振りに劇の練習に参加した日、先生に携帯没収されただろ?遅くなった上に、電話に出れなかったから、一虎はキレた。お前も俺を裏切るのか、って。目が据わってて、あの時の一虎に戻っちまったみたいで、怖かった。その日、マイキーは俺を集会出禁にした。だから、俺は芭流覇羅に入ることにした。それで一虎に裏切ってないことを証明したかった。まさか、千冬を殴らなきゃいけねぇとは思ってなかった」

 

「…劇の練習なんかしている場合じゃなかったんだね。」

 

「まあ、でもクラスの奴らにも迷惑かけらんねーからな。俺の意思だからセンセーは気にすんな」

 

「…“踏み絵”あるの知ってたって言っても?」

 

「は?」

 

「前に神社の駐車場で話を聞いたとき、上手くいってる感じだったから、マイキーくんが許してくれないとは思ってもいなかった。放課後、松野さんと帰らなくなったのも、羽宮くんと楽しく遊んでるんだと思ってた。」

 

「あー」

 

「…場地さんがちゃんと話してくれればこんな大事にならなかったのでは?」

 

「だったら、センセーが知ってること全部話してれば千冬はあんなんならなかったんじゃね?」

 

しばらくして松野が診察室から出てきた。

包帯だらけの顔は痛々しいが、目に異常はないとのことだった。

 

 

これから1週間、やるべきことは何だろうか。

この3人でできることは何だろうか。

場地が死なずに、マイキーと羽宮が和解し、平和な未来にするためにどうしたら良いのだろうか。

“血のハロウィン”を知る龍宮寺にも協力してもらおうと病院を出て、渋谷の繁華街に向かう。

 

「…なんでここなの?」

 

「しょうがねぇだろ、ドラケン忙しいっていうんだから。それに、俺の家は一虎も知ってるから一緒にいんの見つかったらヤバイだろうし。その辺の店入って芭流覇羅の奴らに見られでもしたら面倒くせぇだろ」

 

覚悟を決めて見覚えのある雑居ビルに入っていく。

 

「ドラケンくん何階って言ってました?」

 

「あー何階だったかな…」

 

「…4階。」

 

「センセーそんなことも知ってんのかよ」

 

松野がエレベーターのボタンを押すとゆっくりと動き出した。

目的の階で扉が開くと、受付カウンターの奥から「いらっしゃいませ」と低い声が聞こえた。

 

「あれ?今日面接の予定入ってたっけかな…」

 

「違います!」

 

思わず大きな声が出てしまった。

その声に反応して龍宮寺が奥から出てきた。

 

「センセーも来たのかよ」

 

「ケン坊の担任こんな若かったっけ?」

 

「いや、ダチの担任。ちょっと話あっから抜けるわ」

 

龍宮寺についてくるように言われ奥の部屋に入った。

 

「ドラケンの家って、こーゆー店だったんだな」

 

「そういえば、マイキー以外の客が来るの初めてだな」

 

龍宮寺はベッドにどかっと座り、場地と松野は床に座った。龍宮寺が「まあ座れよ」と差し出した丸椅子に座る。

 

「で、話ってなんだよ」

 

「龍宮寺くん、ハロウィンの話は覚えてる?」

 

「ああ、場地が死ぬやつだろ」

 

「あれ、松野さんも殺されるかもしれない」

 

「ちょっと待って!オレ聞いてねーっすよ!」

 

「芭流覇羅のアジトに行く直前に聞いたからね。」

 

今日、稀咲に聞いたこと、そこから考察したことを話した。

場地も羽宮とのことを話した。龍宮寺はマイキーから色々聞いていたらしい。

改めて、過去を変えたことで自分の知っている未来の知識が使えなくなっていることを痛感する。

龍宮寺が「マイキーに話してみるか」と提案してきたが、余計に拗れそうな気がするので却下した。

場地も松野も「じゃあどうすんだよ」とこちらを見ている。

 

「場地さんは、とりあえずこのまま芭流覇羅にいて。何か動きがあったら連絡…いや、学校で毎日報告して。あと、羽宮くんをよろしく。」

 

「潜入捜査ってやつか!火サスみてぇでおもしろそーじゃん!」

 

テンションの高さに一瞬不安になったが、勉強は苦手だが意外と鋭い洞察力あったことを思い出す。あれは火サスの賜物だったのか。

 

「松野さんは、明日花垣くんと会って一緒に稀咲について調べて。花垣くんも稀咲を探ってるはずだから協力してあげて。」

 

「うっす」

 

一応、松野と花垣は引き合わせておこうと思う。

 

「龍宮寺くんは、マイキーくんを支える。」

 

「俺いつもそればっかだな」

 

「マイキーくんは場地さんのこと大好きだから、自分じゃなくて羽宮くんの方に行くのが気に入らない。真一郎くんを殺されて、場地さんまで取られたと思ってるはずだから、メンタルやられてると思うんだよね。」

 

「わかった」

 

どれほどの効果があるかはわからないが、当日までにできることをやっておこう。

マイキーが抗争をやると決めたら、やるしかないのだ。もう止めることはできない。

 

「で、センセーは何するんスか?」

 

「…文化祭の準備。」

 

「え、お前らの学校文化祭あんの?」

 

「絶対来るんじゃねーぞ」

 

「抗争の前にわざわざ他校の文化祭なんか行かねーよと思ったけど、俺が行ったら何か都合悪いことでもあんのかよ」

 

場地と松野の肩がビクリと動いたのを見逃さなかった。

 

「べ、別になんもねーよ!」

 

さすがに仲間にあの姿を見られるのは恥ずかしいらしい。

しかし、自分の嗜虐心が勝ってしまった。

 

「ウチのクラス劇やるんで。場地さんがロミオで松野さんがジュリエット。」

 

場地と松野はわなわなと震えていた。

 

「プッ!まじかよ!場地が!劇!?しかもロミオとか!」

 

龍宮寺はひとしきり笑うと意外な言葉を口にした。

 

「つーか、お前らさ、東卍と芭流覇羅で敵対してるのに本当は仲良いとか、劇みてぇだな」

 

「確かにそうだな」

 

「言われてみればそうっすね」

 

「…それ、採用。」

 

「「「は?」」」

 

「名付けて“RJ作戦”。場地さん、松野さん、殺される前に死んでみましょうか。」

 





おそらく年内最後の更新です。
あと2話で血ハロ編が終わる予定です。
本当は年内に終わらせたかったです。無理でした。

本年は大変お世話になりました。
たくさんの方に読んでいただき、とても嬉しかったです。
来年もよろしくお願いします。
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