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ありがとうございます!
とても励みになっております。
5階までの階段がなかなかしんどい。
待ち合わせ場所に場地の家を選んだのはただのエゴだ。
家に着くと場地の母親が迎えてくれえた。早く息子の顔を見せたい一心だったが、血だらけの息子を見て驚かせしまった。事情を説明すると納得して出掛けていった。その背中に「お母さん、圭介くんは守りましたよ」と心の中で呟いた。
部屋に入ると、場地と松野は切れた服を脱ぎ始めた。
「は…お前ら、そんな仕込んでたの?」
羽宮の大きな目が丸くなる。
まず、血糊を入れたチャック付きポリ袋を固定していたサラシを外した。どこを切られても良いように、腹、胸、背中と隈無く仕込んでおいた。
「それ、何着てんの?」
「防刃ベスト。…切れてはなさそうだね。」
更に、その下に濡らしたサラシを何重にも巻かせた。ここまで血糊が染みていて、本物の血ではないかと疑ってしまう。ぐるぐると解いていく間に真っ白なサラシが現れてやっと安心することができた。
役目を終えた物たちをビニール袋にまとめてみたが、こんなものを団地のゴミ捨て場に置いたら事件を疑われてしまうのではないだろうか。この袋の中に体の一部でも入っていそうなほどの血の量である。
「場地さん、相談なんだけど、こういう血のついたものを大量に処分したい時って、火サスではどうしてた?」
「あー、埋める」
「…だよね。自分でもそう思う。他は何かない?」
「スーツケースに入れてとりあえず保管しとくとかどうっすか?」
考えれば考えるほど、死体を遺棄するときの方法ばかり思いついてしまう。
要するに、処分のことまで考えていなかったのだ。というか、そこまで考える余裕がなかった。
「…つーか、そんだけ用意周到に準備してて、俺がナイフ持ってて場地を刺すって分かってたのかよ」
「まあ、そうですね。」
羽宮は疑うようにジッと見つめてくる。これが公式イケメンの力か、と年甲斐もなくたじたじしてしまう。
「一虎、あんまセンセー困らすなよ」
「場地が先公の言うこと聞いてんのも納得いかねー」
「ははっ!だよな!俺もそう思うワ」
場地がこんな風に笑っているところは初めて見たかもしれない。
「なんか不思議なんだけどよ、初めて話した時にこの人は他の先公とは違ぇって思えたんだよ。俺
松野が場地の横でうんうんと頷いている。2人がそんな風に思っていてくれたなんて、半年間慣れない環境で頑張ってきて本当に良かったと思う。
そして、自分の役目は終わったのだと悟った。場地も、松野も、生きてここにいる。
「…もし、私が山口先生じゃないって言ったら、さすがに引く?」
場地は眉間に皺を寄せ、意味が分からないという表情でこちらに視線を向ける。松野には「もう何を言われても引かないからちゃんと説明しろ」と言われた。羽宮は全く話についてきていない。
「私はそもそもこの世界の人間ではない。」
「何ワケわかんねぇこと言ってんだ」
「うるせぇぞ一虎、黙って聞いてろ」
「ぶっとんだ話なんだけどさ、私の生きていた世界では、君たちのこと、東京卍會のことはアニメとして見ていた。」
さすがに3人の顔が引きつっていた。
「ある日、ストレスで眠れなくて、精神安定剤と睡眠薬を酒で飲んだ。気付いたら、学校の保健室のベッドに寝てて、“山口先生”って呼ばれた。たぶん本物の山口先生と入れ替わってるんだと思う。教室に行けって言われて、行ったらその教室には場地さんがいた。その頃ちょうどアニメでは血のハロウィンで場地さんが死んだ後、12年後に松野千冬が稀咲に射殺されたところでアニメは終了していた。だから、場地さんを救うためにこの世界に来たんだって思った。場地さんを救えたらきっと松野さんも殺されずに済むって思った。」
「ちょっと待って!なんスか、その胸クソ悪ぃ結末は!」
「まあ、原作の漫画は続いてるからその後どうにかなっているとは思うけど、私はアニメしか見ていないからその後の展開は知らない。でも、83抗争でもアニメとは違う結果になって、今回も場地さんは生きてるし、羽宮くんは捕まってない。だから、もし原作を読んでいたとしても、全然違う未来なっていると思う。」
「じゃあ、そのアニメを見てたから今まで色んなことを知ってたってことか?」
「そう。」
「だから今日の“RJ作戦”もあんなに具体的だったんスか?」
「RJ作戦?」
羽宮はきょとんとしている。
“RJ作戦”なんてロミオとジュリエットからそれっぽい名前を付けたが、ただの“死んだフリ作戦”である。
まず、場地は稀咲を、松野は羽宮をそれぞれマークさせた。その結果、松野は羽宮の動きに合わせて場地をかばうことができた。倒れ込んだ時に、自分で持っていたカッターで特攻服と一緒に血糊の袋を切れば、傍から見たら松野が羽宮に切られたように見えただろう。血の量と場地の「何で殺したんだ?」って言葉で松野が死んだと思わせることができた。ついでに、松野を心配するような言葉にすれば羽宮を煽れるとも思った。思惑通り、羽宮はナイフを振り回してくれた。場地の身体能力をもってすればある程度避けることができると思った。程よいタイミングで服と血糊の袋を切られることに成功した。これは殺陣の練習の賜物だろう。
あとは、場地が自決することで幕引きを図った。
「それで何で死んだフリをする必要があったんだ?そんだけ過程と結果が分かってるなら普通に喧嘩しても勝てたんじゃね?」
羽宮の疑問に、場地も松野も「確かに」と首を傾げた。
「普通死んだ人をもう一度殺そうとは思わないから安全だろうっていうのと、ただ勝っても意味がないと思ったから。場地さんと松野さんを死なせないのは大前提なんだけど、羽宮くんとマイキーくんに和解してもらうためには、場地さんには死んでもらう必要もあった。アニメの場地さんが命を懸けて成し遂げた良い結果を無くしてしまうのは勿体ないでしょ。現に、羽宮くんは真一郎くんのことも一生背負って生きていくって覚悟を決めたし、もうマイキーくんのこと恨んでない、でしょ?これで、あとはマイキーくんが羽宮くんを許してくれれば、ミッションコンプリートってわけ。本当は、羽宮くんが少年院を出所してすぐに場地さんと一緒に謝りに行った時にマイキーくんが許してくれれば良かったんだけど…そのために場地さんは羽宮くんにあんなに手紙書いたのに。」
「…手紙?場地が、俺に?そんなもん読んでねぇぞ」
「え?」
「
「は?俺、返事来たぞ」
場地は羽宮から来たという手紙を見せてくれた。以前、場地が言っていたように、反省していること、謝罪したいことが綴られていた。しかし、男子中学生が書くような字や文章にしては違和感がある。
「これ、母さんの字だ」
少年院で本人に渡されなかった手紙は保護者へと預けられたらしい。場地は共犯者だから、母親としては手紙の内容が気になって読んでしまったのだろう。また息子を悪い道へ誘うようならここで断ち切ってしまうつもりだったのかもしれない。しかし、何通も送られてくる場地からの手紙は、羽宮を励まし気遣う言葉に溢れていた。場地本人が事件を後悔し、反省していることが分かり、息子に成り代わって返事を書いていたのだ。理想の、更生した息子を思い描きながら。
場地は羽宮の違和感に気付いていたようだ。最初にマイキーのところに謝りに行った時、羽宮は手紙で言っていたほど反省しているようにも見えず謝罪も軽いものだった。それでマイキーは逆に怒ってしまったのだ。羽宮は、場地が謝ると言っているから俺も、というくらいの感覚だったらしい。俺は謝ったのにマイキーは許してくれない、俺を許さないマイキーが悪い、マイキーは敵だ、という思考になったということだ。
“お手紙大作戦”は失敗だったが、場地は生きているし、羽宮も逮捕されていない。良い結果と言っていいだろう。
「…もしかして、ミッションコンプリートしたら、センセー元の世界に戻っちまいます?」
「たぶん。」
松野の言葉に、場地が目を見開いて驚いている。マイキーがホーク丸を蹴った時のような顔を今でも出来たのかと、こちらがびっくりしてしまった。
「私は戻っても山口先生はいるよ。体を借りてただけだから。急に担任がいなくなることはないから安心して。」
「でも、アンタじゃねーんだろ」
「まあ…」
「…なんか、寂しいっすね」
部屋に沈黙が流れる。
その時、インターホンが鳴った。
場地が玄関へ行くと、龍宮寺と一緒に戻ってきた。
「なんだ?お通夜みてぇだな」
「縁起でもないこと言わないで。」
龍宮寺は悪びれるようすもなく笑っている。
「まさかこんな上手くいくとはな。最初話に作戦聞いた時はゼッテェ無理だろって思ったぞ」
「つーか、ドラケン笑うなよ。俺は死んだフリしなきゃなんねえーのに、つられそうになったじゃねーか」
「は、あれはお前が俺に向かって“千冬”って言うからだろ」
「うっせーな、ちょっと間違っただけだろ」
「龍宮寺くんは私とすれ違う時も肩震わせて笑ってたからね。ちょっと前に東卍の創設を思い出して泣いてたくせに。」
「あのタイミングであの話きたら泣けるだろ。それに、上手くいき過ぎて笑えてきたんだよ。パトカーの音、タイミング良すぎ」
「ずっとスタンバってたからばっちりだったでしょう?」
このCDラジカセの再生ボタンを押すことが、私の最も重要な仕事だったと言っても過言ではない。
合唱練習のパート練習の時に使った所謂家庭用のもので、音が小さいかと心配だったが、静かになった廃車場では逆に遠くからパトカーが来る様子が上手く表現できていた。
「だいたい、あーいう音源ってどこで手に入れるんだ?」
「演劇部の効果音CD借りて、編集してみた。」
「演劇部って何でもあんだな。血糊もだろ?」
「でも、血糊は足りなさそうだったから理科の佐藤先生に相談したら作ってくれた。」
「佐藤って、職員室で隣の席のいけ好かない野郎っすか?」
「なんで千冬職員室のことなんか知ってるんだ?」
「場地さんが放課後遊んでくれねー間、職員室で遊んでたんで」
あれは椅子に座ってクルクル回って遊んでたのか。とは言っても、松野が職員室に来たのはたった1日だけだった気がする。それ以外の日は何をしていたのだろうか。場地以外と連んでいる松野は想像しにくいが、そういえば体育祭の時は別の友達と遊んでたな、それで警察に松野を迎えに行ったんだった、なんて懐かしいことを思い出した。
龍宮寺は思い出したように羽宮に向き直った。
「一虎、マイキーからの伝言だ」
「え?」
「“これからも
羽宮の目から涙が零れた。
「よかったな、一虎ぁ」
「場地、ごめん…ありがとう…!」
「よし!マイキーんとこ行くぞ!場地と千冬の元気な姿見せてやろうぜ」
龍宮寺が羽宮と肩を組んで部屋を出て行った。
「センセーも行きましょう」
「私は、家帰ってやることあるから。」
「そ…スか」
「…じゃあな、センセ」
「うん、じゃあね。」
帰宅し、真っ先にノートを広げる。
日記を書くことはもう生活の一部になっていた。
最初の山口先生への手紙を貼り付けて以降、毎日平均して3行程度書いた。クラスのこと、授業のこと、職員室でのこと。ほとんどが学校のことで埋められている。場地や松野が何かやらかした日や東卍の集会で変わったことがあった日、抗争の日には長文になっている。
今日の“血のハロウィン”のことを書こうとページを捲ると、ちょうど最後のページだった。
そういえば“血のハロウィン”に備えて、“RJ作戦”の内容を事細かに書き、ページをだいぶ消費していた。
稀咲が「何を達成するにも必要なのは緻密に作り上げられた完璧な計画だ」と言っていたのを思い出す。この“血のハロウィン”が失敗し、次はどんな風に計画を立て直すのだろうか。それとも、このまま花垣の望む未来になるのだろうか。
もし、今後、場地や松野、東京卍會に何かあった時には助けてあげてほしい。力になってほしい。
場地は中1で留年するような問題児だし、松野は入学式から問題を起こすような問題児だけど、見捨てないで欲しい。
場地は松野と出会い丸くなったし、松野も場地と出会って敬語が使えるようになった。2年で同じクラスになり、この半年で更に成長することができた。
他の生徒と比べるとまだまだかも知れない。それでも、彼らなりに、彼らのペースで成長している。
彼らには、彼らの良いところがある。
真っ直ぐで、仲間思いで、最高にカッコいい男たち。
場地と松野を、東卍を、山口先生に託す。
アニメの場地が最期に花垣に宛てた言葉を引用して、ノートの最後を締め括った。
9月から連載を始めて約4ヶ月。
血ハロが辛くて辛くて。場地さんを救済するためだけに勢いで書き始めた小説でした。
あまりに短すぎる生涯に、中学生らしい生活を送っているところが見たくて、オリ主を担任の先生にしてみました。同級生よりも首突っ込みやすいのではないかと安易な考えでした。少々無理がある設定だったかも知れません笑
とりあえず血ハロで場地さんを救うことが出来たので、ここで一旦終了になります。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
場地さんや千冬、東卍の未来が少しでも明るいものになっていれば幸いです。
加筆修正したものをpixivに投稿する予定です。