21話
2005年 11月1日 快晴
予想に反して、戻っていない。
大量のサラシを洗濯した。洗濯機に入れる前に水洗いをしたが、やばいくらい赤かった。浴室が少しピンク色になった。落ちない。ごめんなさい。天気が良かったのでよく乾いた。1枚飛ばされてしまった。一反木綿かと思った。
2005年 11月2日 晴れ
今日も戻っていない。
昨夜は同じ状況にしようと市販の睡眠薬を酒で飲んだ。気持ち悪い。頭が痛い。メンタル的には死にそう。
今日は何かを試すのはやめておこうと思う。
なんとか日課の日記を書き終え、ベッドに入った。
10月末で前期が終わった。11月1日から文化の日である11月3日まで短い秋休みである。文化祭の振替休日もあったので、実際には生徒にとって日曜日から5日間の休みになる。しかし、土日祝日以外は教員にとっては通常勤務日だ。夏休みも冬休みも生徒にとっては“休み”だが、教師にとっては“勤務”なのだと知った時は少し衝撃だった。確かに一般企業だって1ヶ月も夏休みがある企業なんて聞いたことがないし、当たり前といえば当たり前なのだが、学校という性質上どうしても大人になっても生徒の感覚が抜けないときがある。平日は授業があるため、教師というのは夏休みや冬休みを利用して有給を使うものらしい。昨日も今日もほとんどの先生が有給をとっていたので、便乗した。今日は本当に体調が悪かったので、休みにしておいて良かった。
結論から言うと、戻らなかった。
あの時は、夜寝て朝起きたら元の生活に戻っていると思ったのに、この有り様だ。
“血のハロウィン”で場地を救ったのに未だに山口先生のままで、納得いかない。
今後の展開を知らない自分が
翌日、体に違和感を感じて目が覚めた。
ずっしりと何かが乗っているような感じで、体が動かない。押しつぶされそうなほどである。確かめたいけれど、目を開けることができない。これが金縛りというものかと思っていると、声が聞こえてえきた気がする。金縛りは睡眠障害の一種で霊的なものではないと頭では分かっている。しかし、自分しかいないはずの部屋に霊以外の生きた人間かがいる方が恐ろしい。どうか霊でえあってほしいと願ったのはこの時だけだろう。
寝ぼけていた頭がだんだんと覚醒してきて、言葉がはっきり聞こえてきた。
「おい、センセー、起きろよ」
「はっ!?」
目を開けると、マイキーが上に乗っかっていた。
「センセーよぉ、よくもオレを騙したな」
刺すような視線に返す言葉も見つからず、余計に動けなくなってしまった。
マイキーは“血のハロウィン”のことを言っているのだろう。きっと
確かに、マイキーや他の東卍のメンバーたちには悲しい思いをさせてしまった。その件に関しては謝りたい。しかし、謝って許してもらえないような雰囲気なのだ。こうなったら“詫び“を入れるしかないのか、指か、やっぱり相場は小指なのか、と偏った知識がグルグルを頭を巡っている。
「オレを騙したことは許せねぇ。けど、場地を守ってくれてありがとう」
先程とは打って変わってとても優しい表情をしている。
「作戦だったとはいえ、悲しませてごめん。それから、羽宮くんを許してくれてありがとう。」
「…センセーって、未来が分かるんだろ?」
こういう聞き方をしてくるということは、別次元から来たということを場地たちは話していないということか。
きっとネタバラシに行ったときに場地と松野だけでは上手く説明できず、龍宮寺が致し方なく未来予知の話をしたのだろう。龍宮寺自身も別次元云々の話は聞いていなかったはずだから説明のしようもないのだけれど。
「でも、これからのことは何も分からないですよ?」
「ふーん」
「ところで、その未来が分かるって話、他に誰が知ってるんです?」
「隊長はみんな知ってるぞ。ケンチンが口止めしてたから他には広まってねぇと思うけど」
別次元からきたことを知っているのは、場地と松野、そしてあの時居合わせた羽宮。未来予知できると思っているのが、マイキーと龍宮寺、三ツ谷、林田、肆番隊隊長、伍番隊隊長の5人。そういえば、花垣にはどこまで話していたんだっけ?
「マイキー、そろそろ降りねぇとセンセー潰れるぞ」
声のする方を見ると、ドアのところに龍宮寺が立っていた。
「つーか、センセー寝すぎじゃね?」
時計を見ると9時を過ぎたところだった。
昨日は体調も悪かったし、休日だし、妥当な時間だろうと思うが、彼らにとってはこちらの都合など御構い無しなのだ。
「ところで、どうやって人ん家に勝手に入ったんですか?」
「一虎が開けてくれた」
「
と、悪びれる様子もなくVサインを送ってくる。
「今後は少年院で教官以外に教わったことは実践しないでほしいです。」
せっかく無事に血のハロウィンが終わったというのに、別の事件を起こしかねないと不安になった。
「で、今日はここで何をする気ですか?」
「場地の誕生日会に決まってんじゃん」
血のハロウィンを生き延びたことで、場地は無事に誕生日を迎えることができた。
そして今日がその場地圭介15歳の誕生日だというのだ。
きっと、この場地の誕生日を見届けることが最後のミッションなのだろう。
これからここへ創設メンバーが集まるという。
三ツ谷と林田は買い出しをしてから来るのだとか。
夏休みに勉強会をした時に5人でもだいぶ狭かったのに、今回は更に人数が増える。何故か創設メンバーではない松野も来るらしい。
「千冬は今日は場地足止め係だからな。で、こっちの準備が終わったらここに場地を連れてきてもらってサプライズする予定なんだけど、“千冬は帰れ”って言ったらかわいそうじゃね?」
「それだったら、場地さんに何時に来いって言えば良いのでは?」
「場地ってさ、早ければ良いって思ってんだよ。準備終わってねぇうちに来たら困るだろ」
「わかる。」
血のハロウィンの前日がそうだった。東卍の集会が始まる前からうちに来ていた。自宅に生徒と二人きりという状況はよろしくない気がして、場地を残して東卍の決起集会の様子を見に行ったのだった。
その割に学校へ来る時は遅刻ギリギリになってしまうとは不思議なものだ。
三ツ谷と林田が遅れてやってきた。
これから三ツ谷はここでケーキを作るという。この男に出来ないことはないのではないかと、頭が下がるが、三ツ谷もこいつらの仲間なので遠慮というものを知らないのではないかとも思う。自分の家で作って持ってくれば良いのではないだろうか。
三ツ谷がケーキを作る間、他のメンバーは部屋の飾り付けをしている。折り紙を細長く切って輪っかにして繋げるという、いたってシンプルなものでも苦戦していた。意外にも羽宮が器用に作っていて驚いたが、「少年院での作業の経験が活きている」と笑っていて何とも言えない気分になった。
殺風景だった自分の部屋が、見る見るうちに統一感のない装飾で派手になっていく。
キッチンからもケーキの焼ける良い香りがしてきた。
「三ツ谷ー、味見ー!」
「ダメ。マイキーに味見させたら全部無くなる」
「いいじゃんか!ケチ!」
プクーっと頬を膨らませる姿は実に可愛らしく、抗争の時のマイキーは本当に同一人物なのかと疑いたくなる。
マイキーが不貞寝を始めたが、元々準備に関してマイキーは戦力外だったため、他のメンバーによって準備は無事に終わった。
龍宮寺が足止め役の松野へ電話を掛けると、すぐにインターホンが鳴った。
さすがに早すぎると不思議に思いながら玄関を開けると、ピザの宅配が届いたところだった。
確かにこういうパーティーにピザはつきものだが、その支払いを自分がしなければならないのか不思議でしょうがない。今回はお祝いということで目をつぶることにしたが、ピザって意外と高いよね。
食べ盛りの中学生が7人。ピザは3枚。この量で足りるのだろうか?
非行少年がケーキを3等分できないなんて話を聞いたことがあるが、ピザも分けることが出来ないのではと不安になる。箱を開けてみると8等分に切られていて、杞憂だったと気づいた。しかも、自分の分までちゃんと頭数に入っていると知り嬉しくなった。
12時近くになり、場地と松野が到着した。
場地が部屋に入ると一斉にクラッカーを鳴らす。
小さな声で「せーの」と聞こえたのに、「誕生日おめでとう」と「ハッピーバースデー」が混在するお祝いの言葉。
ちゃんと打ち合わせしておけよと思うが、そこがなんとも彼ららしい。
突然のことにきょとんとしている場地の後ろで松野がシシッと笑っている。
「場地さん、びっくりしました?」
「おう…みんなありがとな」
状況を理解した場地は笑顔でお礼を言った。
「場地ぃ、歌も歌ってやろうか?」
ニヤニヤと提案するマイキーに場地は照れながら断っていた。
三ツ谷が綺麗にデコレーションしたケーキに、松野は容赦なく15本のろうそくをグサグサと刺していく。誰が持ってきたのか、自分のものとは違うライターで火を付けていた。
「さ、場地さんどうぞ!一気に吹き消してください!」
何故、一番下っ端なはずの松野が仕切っているのかは分からないが、総長も副総長も何も言わないので容認しているということだろう。
場地がろうそくの火を消したのを合図に誕生日会が始まった。
サプライズの準備のことしか頭になく、プレゼントのことはすっかり忘れていたらしい。
特別なプレゼントなんて無い、盛り上がるパーティーゲームも無い、ただの食事会のようなものだが、場地を中心に皆が楽しそうに笑っていて、目頭が熱くなってくる。
きっと、元の世界に戻れる。そんな気がした。
「センセー泣いてんの?」
「…目にゴミ入った。」
誤魔化しきれていない返答をしたが、それ以上は何も聞いてこなくて、中学生たちに気を使わせてしまった。
場地と松野は思い出したように顔を見合わせ、理解すると眉を下げてこちらを見てきた。
「センセーのせいでしんみりしちまったじゃねーか」
なんて悪態をつきながら、マイキーは話し始めた。
「しんみりついでに真面目な話なんだけどさ、センセーにも相談したくて」
「相談?」
「一虎を何番隊にすっか迷ってんだよなー」
「一虎が年少入る前は何番隊とかなかったもんな」
「俺は場地んとこがいい」
羽宮が要望を言うと、松野は「オレはまだテメェのことを全面的に信用したわけじゃねぇぞ」と睨みつけていた。
そういえば松野は懐くまでに時間が掛かったなと思い出し、懐かしくなる。
松野と羽宮が睨み合っている間を割ってマイキーが発っした言葉に龍宮寺以外の全員が驚いた。
「オレとしては一虎に陸番隊の隊長やってほしいと思ってんだけど」
「は?」
「ちょっと待て、陸番隊って?」
「次の集会で発表するけど、芭流覇羅を吸収して人数増えたから隊も増やすんだよ」
「俺らに相談も無しかよ」
「場地さんと松野さんは稀咲のこと話さなかったんですか?」
「ちゃんと聞いた。確かに芭流覇羅の話は稀咲の提案だけど、今のところ証拠もねぇし。しかも稀咲はただの平隊員。だったら、半間も自分の下に置いておいた方が見張れるんじゃね?ってなった。ケンチンもその方が良いって」
「だから、一虎を陸番隊に置きたいんだよ。稀咲はマイキーに自分を隊長にしろって言ってきたみたいだけど、それはこっちが決めるって後で俺から話した。陸番隊のトップが稀咲と半間になってみろ。絶対何か企むだろ」
「なるほど…」
意外にもちゃんと考えがあったのだと知り感心した。
それと同時に、稀咲の立てた計画がことごとく潰されていて、この後何か大きな事件に発展してしまうのではないかと不安にもなる。
「陸番隊は芭流覇羅が母体になるから、半間を副隊長くらいにはしとかねぇと下の奴等が黙ってないんじゃないかとか統率がとれなくなるんじゃないかと思うんだけど、結託して謀反を起こされてもなー」
「じゃあ、花垣くんはどうですか?陸番隊の副隊長。血のハロウィンでの功績もあるし、花垣くんの友達も陸番隊に入れたら芭流覇羅感は緩和されると思う。下の奴等云々は、“東卍の傘下になったんだから東卍に従え”でいいんじゃないかと」
尤もらしいことを言ったが、本音は少し違う。
壱番隊の隊長になる予定だった花垣は、場地が生きていることで、壱番隊の隊長にはなれない。
このままでは、未来での東京卍會の中枢までたどりつくことは難しいだろう。
少しでも真相に近づくためには、花垣を幹部にしておく方が得策だと考え、そのための陸番隊副隊長への推薦である。
「タケミっちか…それいいじゃん!」
マイキーだけではなく、みんなが花垣を認めて納得していた。
だいぶ違う形に変わってしまったが、私の知らないところで、花垣はしっかりと自分の役割を全うしていたようだ。
帰り際に、場地と松野とな3人になるタイミングができた。
何か言いたそうにしていたが、特別な話はしなかった。
話したら、きっと、2人やこの世界と離れるのが辛くなってしまう。
半年というのは短いようで長いようで、別れるのが寂しいと思うには十分な長さだった。
もう少し、彼らの成長や今後の展開を見守りたいところだが、いつまでもここにいるわけにもいかないだろう。
いつもと変わらない調子で「明日は学校だから遅刻しないように」と声を掛けて2人の背中を押した。
バタンと閉まるドアの音が響いて、無性に泣きたくなった。
お誕生日おめでとうございます。
命日後の誕生日なんて…と昨年は複雑な感情に悶々としていましたが、最近では何故か原作にもよく登場するし、スピンオフ始まったし、もはや生きているのでは…?と思い始めています笑
原作が近々終了してしまうということで、とても寂しいですね。
お互い強く生きていきましょう。
【2022.11.3. 0:00】
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半年以上更新していなかったのに少しずつ増えていてとても嬉しかったです!
ありがとうございます!