To be, or not to be...   作:

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捏造母が出てきます。
予めご了承ください。



【2021.9.23. 0:00】
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6話

この世界に来て約1週間。

なんとも平和な1週間だった。

事件といえば“体育館の中心で愛を叫ぶ事件”くらいだ。場地と松野の所為で2年生の身体測定のペースが乱れたと、他クラスの先生にチクチク言われた。こんなのが事件だなんて、可愛いもんである。

この1週間で気付いたことがある。場地がいると必ず松野が言う事を聞く。そして、その場地は学校ではとても大人しく、悪さどころか目立つようなことはしない。きっと二度と留年しないように場地なりに頑張っているのだろう。勉強が出来ないことを除けば全く手がかからない。この2人が同じクラスというのには、主に松野対策の意図があったのだ。

そして、転生による付加能力があることが分かった。授業が始まるにあたって、予習をしようと数学の教科書を開いてみたところ、分からない問題がひとつもないのだ。どんな応用問題でもスラスラと解けてしまう。学生時代に万年赤点ギリギリだったはずなのに、有り得ない。これは、転生したことによって得られた能力と言っていいだろう。しかも、授業中は次々と言葉が出てきてスムーズに進む。加えて、書類作成などの事務作業も気がつくと終わっている。だが、この能力がミッションの役に立つとは思えない。どうせなら、こんな目に見えないような地味な能力ではなく、ヤンキーアニメに相応しい力を誇示するような能力が欲しかった。しかし、そのお陰で、早く帰ることが出来るし、教員のブラック要素を感じずにいられていることは有難い。プライベートな時間が自然と多くなったことで、最近は料理をするのが楽しいと思うようになった。これも、この世界に来たお陰だと思う。

 

 

中学校では家庭訪問週間が始まった。

本日の最終目的地の団地に着いた。今日の家庭訪問はあと2軒で終了する。

この残りの2軒は他の先生に言わせると「大物」らしい。この大物2人を抱えることで、うちのクラスは他を優秀な生徒や手のかからない生徒たちで固めてもらえているのだとか。どうりで大した苦労をした記憶がないはずだ。

学年主任から「あの2人は他校の不良と連んでいて、暴走族とも繋がりがあるという噂がある。今は大人しくしているが、問題を起こす前に保護者にそれとなく釘を刺しておくように」と言われて学校を出てきた。その噂は噂なんかじゃない。暴走族と繋がりがあるどころではなく、暴走族そのもので、東京卍會壱番隊の隊長と副隊長。保護者に釘を刺したところで問題を起こす時は起こすだろう。そもそも、保護者は東卍のメンバーだと知っているのだろうか。特攻服を自分で洗濯しているとも思えないし、さすがに知っているか。

ふと視線を上げると、2階のベランダで黒地に金の刺繍の特攻服がはためいていた。

 

「あ、袖の刺繍…これは役職まで分かってるパターンのやつだ」

 

「独り言?キモっ」

 

「!?…え、まさかのお出迎えですか、松野さん。」

 

「ちげーし!買いもん頼まれたんだよ」

 

そう言って、スーパーの袋を見せてきた。

 

「うち来んだろ、早くしろよ。うち、ここの2階だから」

 

「知ってる。あそこの東卍の特攻服(トップク)掛かってるとこ。」

 

「は?何で東卍のこと知ってんだよ」

 

「…何でも知ってますよ。東京卍會 壱番隊副隊長 松野千冬、でしょ。」

 

松野の顔つきが変わる。

 

「てめぇ、何が目的だ」

 

「え、家庭訪問だけど。」

 

「そうじゃねぇ!始業式の日から、いつも監視されてるみてぇ。オレや場地さんに突っかかってくるくせに、距離は取ってくる。んで、たまに煽ってくる。何考えてるか分かんねぇ。場地さんは先公なんか気にすんなって言うけど、まじで気持ち悪ぃ。てめぇは何がしたいんだ?」

 

「そういう意味なら、始業式の日に未来の話はしたでしょう。場地圭介を死なせない、これが目的。そのためにここにいる。」

 

「…てめぇは、何者だ?」

 

その時、上から声を掛けられた。松野の母親が待ちくたびれてしまっているようだった。

急いで階段を駆け上がって、お詫びをする。

母親と話しをしている間、松野はじっとこちらを見ていた。睨んでいるのとは違う、観察されているというか、監視されているというか。

10分程度の面談で、母親の話を要約すると「千冬はやんちゃしてるしバカだけど、根は良い子」だそうだ。そんなことは知っている。だから何度「てめぇ」と言われても、いつか松野が心を開いてくれて「先生」と呼んでくれると信じているから耐えられるのだ。普通、中学生にそんな口の利き方されたらブチ切れてもいい案件である。松野のバックボーンを知っているからこそだ。

家を出ようとした時、松野に声を掛けられた。

 

「さては、てめぇ、ノストラダムスの生まれ変わりだな…!どうりで馬が合わないはずだ」

 

「あ、じゃあ、もうそれでいいです。」

 

真剣な顔で「何者だ?」に対して10分考えて出した答えが()()なのだ。そういえば、コイツも馬鹿だった。そう思いながら、適当に返事をして松野家を後にした。

最後の1軒に向かう。5階までの階段がなかなかしんどい。

インターホンを押すと、場地が出迎えてくれた。家ではガリ勉スタイルではないようだ。

 

「オフクロー先生来た!」

 

場地はちゃんと「先生」と呼んでくれる。場地なりにケジメとしてそうしているのだろう。自分だけでなく、どの先生にたいしても「先生」と呼んでいる。裏で何と言っているかは知らないが、そういうところが松野よりも大人なのである。

奥から優しそうな声が聞こえ、上がるように促された。

 

「優しそうなお母さん…」

 

「んな訳ねーだろ。外面がいいだけだっつーの」

 

場地は小声でボソボソと言っているが、母は聞き逃さなかったようである。

 

「圭介、何だって?」

 

「クソっ地獄耳が…」

 

「もう、いやだわー圭介ったら口が悪くて!学校でもこんな調子で生意気なんでしょう?」

 

そう言って場地の頰をつねっていた。

 

「うっせーな、離せよオフクロ!学校ではちゃんとしてるわ」

 

憎まれ口を叩いているが、されるがままでいる。

あの場地も母の前ではただの息子。母には強く出られないらしい。壱番隊隊長が形無しである。

 

「学校ではとても真面目にしてますよ。授業態度も良くて、他の生徒のお手本にしたいくらいです。ただ、学力が…それに比例してないというかなんか…」

 

「ほっとけよ」

 

「ほっとけるかよ。」

 

というか、比例の意味知ってたのか?なんて考えていると、母がクスッと笑ったのに気付いた。

息子と担任のやりとりに笑ったのだ。

 

「今まで圭介にそうやって接してくれる先生いなかったから、なんか嬉しくて」

 

なんとなく、想像はできる。

 

「家では全然勉強してないみたいなんですよねー。バイクだ集会だなんだって、すぐどっか行っちゃって。暴走族なんて危ないからやめてほしいのに…この前も血まみれで帰ってきて、びっくりしたんですよ!まぁ、よく見たら圭介は無傷で、全部返り血だったんですけどね」

 

明るく振舞っているようだが、やはり親として本気で心配しているようすが伺えた。

 

「どっか行ってもちゃんと帰ってくるし、帰ってきてくれるだけ良いかなーって…情けない母親ですよね…」

 

場地はバツが悪そうにそっぽを向いていた。

息子がいつか帰ってこなくなるのではないかと、不安なのだろう。

母の気持ちを思うと、居ても立っても居られない。

 

「お母さん、圭介くんは絶対守ります!」

 

思わず、そう言っていた。

最初はきょとんとしていたが、小さな声で「お願いします」と言われた。

 

場地がコンビニに行くついでと言って下まで見送ってくれた。

 

「良いお母さんだね。」

 

「まあな」

 

短く返事をした場地は、少し照れたように、優しい表情をしていた。

 

「もうお母さん泣かせるなよ。」

 

「ああ、もう絶対泣かせねぇ」

 





秋分の日をすっかり忘れていました。

次の更新が日曜日にできたら嬉しいです。
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