春待つ羽色のおはなし   作:西風 そら

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ムーンピラー~幸せのお裾分け~・Ⅳ

 

 

 雨の季節ではあるのだが、この土地でここまで水が降り続けるのも珍しい。

 

 雨音は怪しいモノの気配を消し、冷たい水はヒトの集中力を削ぐ。

 ナナは上空に風を流す他に、午前と夜の見回りを欠かさなかった。

 日中は子供達の所を回って、勉強を教えたりしていた。

 

 シドとソラは、夜飼いが済んでからナナの所へ行って、色々手伝うのが日課になっていた。

 手伝うといっても、筆記用具を準備したり、訪ねて来る女の子を断ったりする程度の、簡単な事しか出来なかったが、ナナはその合間に様々な話をしてくれた。

 

 浅黄の君に読み書き計算は習ったし、大長は風や水や、万物の結び付きを教えてくれた。

 そしてナナは、遠い国の歴史や世界の成り立ちなんかに詳しかった。

 二人はこうして教えて貰う機会のある自分達は幸運だと思っていた。

 

 里へ来て数日目に、ナナは書き上げた図面を見せてくれた。

「何だと思う?」

「建物、大きな?」

「修練所」

「しゅうれんしょ?」

 

「子供達が色々学ぶ場所だよ。ここが教室で、こっちの端が、家の無い子が寝起きして生活出来る寮になっている」

「すごい……!」

「今は蒼の里の者が勉強を教えているけれど、ゆくゆくは里内に『教えられる者』が育って欲しいからね。継続させる為に、やっぱり器はあった方がいい」

 

 ナナは別の図面を引っ張り出した。

「こちらが材料の見積もり。大長が乾季の間に指導して煉瓦を作っていたし、今ある幾つかの廃屋を解体したら、資材は足りると思う。後は人手なんだよな」

「僕達、頑張って手伝います」

 

「うん、だけれど、絶対的に力仕事の出来る者が少ない」

「ああ……」

 二人は今すぐ筋骨隆々とした大人になりたい、と思った。

 

「蒼の里から手伝いに来て貰う訳には行かないんですか?」

「う――ん、それは、手詰まりな場合の最終手段」

「??」

 

「他所から来て手出しをするのは、『歪み』を作る事になる。歪みは最小限にすべきなんだ」

「歪み、ですか?」

「難しいかな……えっと、自分達の事は出来るだけ自分達で出来るようにする。でないと長続きしないんだ」

「ああ、はあ」

 

 額に指を当てて、ナナはポツリと呟いた。

「砂の民……」

「ハトゥン様の所?」

 

「浅黄の君は砂の民と同盟を結ぼうとしていたよね。その話、再燃出来ないかな?」

「それは、浅黄様がこの土地の風を総括する力を持っていたからです。浅黄様亡き今、砂の民に西風の里と結ぶメリットは無いそうです」

「ふむぅ」

「ハトゥン様が言っていたから確かです。頭の堅い親父だって」

 

「ふうん、まあ、順当だろうね……待って」

 ナナは積まれた書類の下の方から、何枚か引っ張り出した。

 

「ん・んん~~ふんふん・・あるんじゃないかな、メリット。お互いに」

「あるんですか?」

「うん、だけれどまた、モエギ殿の怒りを買う事になりそうだ」

 ナナは額に手を当てて渋い顔をした。

 

「あの、ナナ様?」

「ん?」

「ナナ様って滅茶滅茶モテるじゃないですか。きっと蒼の里でもそうなんでしょう。何で、その……モエギ様なんですか?」

 

「!!」

 ナナは素っ頓狂な顔をしてのけぞった。

「バレてた!?」

 

「当ったり前でしょう! あれでバレていないと思っていた方が不可思議ですっ!」

 トボけているんじゃない、大真面目だ……二人は呆れた顔を見合わせた。

 

「あからさまに迫るのは逆効果だって、フィフィ母さんに釘を刺されていたんだけれどなぁ」

「あれがアカラサマで無いんなら、ナナ様の全力ってどんなんなんです?」

 この無茶無茶モテるであろう美青年が、手練れた感じがしない原因が分かった気がする。

 

「モテるって言っても、女の子達は本気じゃない。レクリェーションみたいな物だよ、あれは。こちらはたった一人の相手がいればそれでいいのに」

「それで、モエギ様、ですか」

 

「うん。でも……ダメだな。空の上で万事休すになった時、彼女、ハトゥンの名前を呼んでいた……」

 ナナは世にも情けない顔になり、二人は何にも言えなくなってしまった。

 

 正直、少し前までハトゥンを応援していた。

 しかし今は、目の前のショボくれている青年に幸せになって欲しい。

 

 本当に……何で、モエギ様なんだ……

 

 

 

 

 モエギの自宅……元は西風の長の仕事場だったが……の外で、ナナの声がした。

「ちょっと、いいですか?」

 

 モエギは櫛を机に置いて、小刀で橙(だいだい)色の珠をほじくり出そうとしている所だった。

 

「なんだ?」

 戸口から首を入れて目を丸くしてるナナに、モエギは不機嫌そうに聞いた。

 

「いえ、あの、櫛が傷んじゃいますよ」

「誰のせいでこんな苦労をしていると思う」

「…………」

 

 ナナは黙って部屋に入って、橙色のピアスを外して机に置いた。

「??」

「貴女がそんなに嫌がるとは思いませんでした」

「嫌がるとか、そうじゃなくて」

「だから櫛を傷付けないで下さい。その珠に込められた幸福の祈りは本物ですから」

「…………」

 

「このピアスは差し上げます。それで安心でしょう?」

「あ、ああ……」

 モエギは机のピアスを戸惑いながら見つめた。

「いいのか?」

「何がですか?」

 今度はナナがちょっと拗ねた感じで言った。

 

「いや…………何か、用事があったんじゃないのか?」

 モエギは困って、話題を変えた。

「ああ、そうでした」

 ナナは手を打って顔を上げた。

「ピクニックを計画しているんです。雨が上がったら」

「は? ピク……ニ?」

 

「ええ、女の子達を紫の丘へ連れてっ行ってあげようと。ほら、この間抜け出して迷子になった女の子、紫の丘へ木の実を取りに行きたかったらしいんですよ」

 

「…………」

 モエギは黙って片眉を吊り上げた。

 

「何にしても、里に閉じ籠りっ放しじゃストレスも溜まります。だから、変な方向へエネルギーが暴走するんですよ」

「あ、ああ」

 その点はモエギも同意だ。

 

「これが上手く行けば、子供達も何班かに分けて遠足に連れて行けますし。賛成して貰えますか?」

「ああ、そうだな」

 

「では引率をお願いします」

「はあ?」

「女の子は十何人いるし、僕は上空で護衛していた方が良いでしょう」

「あ、ああ……」

 

 何だか勝手に話が出来上がったが、まあ、悪い事ではない。

 モエギは承知して、ナナはおやすみを言って家を出た。

 

 出た所でシドとソラが居て、三人は目を見合わせて親指を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

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