春待つ羽色のおはなし   作:西風 そら

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ムーンピラー~幸せのお裾分け~・Ⅴ

  

 

 

 翌日、図ったように雨が上がって快晴だった。

 女の子達は紫の丘へ行けると聞いて、歓声を上げて喜んだ。

 単にナナと外出出来るからだけではないのが、見ていて分かった。

 やはり皆、外へ行きたかったんだ。

 

 シドとソラは大人しい馬を何頭か引き出し、女の子達はワキャワキャと騒ぎながら、一人か二人づつ乗馬した。

 風の一族なのに、自分で馬に乗った事のない娘もいた。

 

 結界は、入るのは骨だが、出るのは簡単だ。

 モエギが先導して、十頭ばかりの馬は、すぐ近くの紫の丘までお行儀良く行進した。

 

 雨露に濡れた丘の灌木の間で、娘達は嬉しそうに木の実を摘んで、はしゃぎ回った。

 

 ナナは上空で見守っていた。

 下りると厄介になりそうだし。

 

「あまり遠くへ行くなよ――」

 丘のてっぺんで周囲に気を配りながらも、モエギも穏やかな気持ちになれていた。

 やっぱり皆がのびのび笑っているのはいい。

 早く力を付けて、皆が安心して暮らせる里にしたい。

 

「モ、モエギ様~~!」

 迷子事件を起こした娘が、金切り声を上げて駆けて来た。

 遠くへ行くなと言うのに、蜻蛉(とんぼ)を追い掛けて丘の裾まで行っていたのだ。

「何だ、どうした?」

 

「ミ、ミミズがあ~~!」

「なんだ、ミミズぐらいで。全く、娘ってのは……」

 モエギはそちらを見やって、息が止まった。

 ミミズはミミズでも、丸太ん棒みたいな巨大蟲!

 それが一匹ではなく、何十匹もこんがらがって、丘の裾でうごめいているではないか。

 

「ナ、ナナは、何をやっているんだ!」

 モエギは娘達を丘のてっぺんに呼び寄せ、自分は剣を抜いて構えた。

 ミミズは動きは鈍いが、数が多くて四方からこちらに向かって登って来る。

 口の中で放射状の歯をモゴモゴさせ、小さい子ならそのまま飲まれてしまいそうだ。

「ナナ――!!」

 

 ナナは何故か遥か上空だった。

「雨が続いて地中で居心地悪くなったミミズが地表に出、体温を感知して追い掛けて来る……文敵にあった通りだ」

 

「ナナ――!?」

 モエギは再度呼ぶ。

 見ていないのか? 護衛の意味が無いではないか!

 

「モ、モエギ様ぁぁ・・」

「大丈夫だ、固まって居ろ! 幼い者を中に入れろ!」

 モエギが剣を振り上げ、ミミズが二階程の高さに鎌首をもたげた所で…………

 

 灰色の影が複数跳んだ。

 

 ――ザン! ザシュ!

 ――ザザン! 

 

「!?」

 

 ――ドザドザドザザザ!!

 

 たちまちミミズはナマス状に転がり、モエギの前では久しい漆黒の青年が、最後のミミズを切り捨てた。

 

「よっ!」

 

「……ハトゥン……」

 

 娘達の危機を救ってくれたのは、砂の民の幾人かの若者だった。

「お、お前、何で、ここに……」

「チビッコナイトが使いに来た。お前、知らなかったのか?」

 ハトゥンはモエギにだけ聞こえる小さい声で言った。

 

「何を?」

「今日、紫の丘へ、うちの若いの連れて来いって、ナナが」

「ナナ……が?」

「合コンだって」

「ご・う・こ・ん・・!?」

 

「サプライズがあるって書いてあったけれど、これの事かぁ」

 ハトゥンは目を見開いて、ミミズのナマスを眺めて笑った。

「あいつ、やるなあ」

 

 確かに、娘達の何人かは、危ない所を助けてくれた若者を、潤んだ瞳で見つめている。

 手をとって礼を言っている積極的な娘もいる。

 

「ただ出会わせるだけじゃ、他種族だし、そうそう上手く行かなかっただろう。吊り橋効果って奴だ。ホント、あいつ切れ者だよな。なあ?」

 

 モエギを振り向いたハトゥンは凍り付いて黙った。

 仁王立ちのモエギが、碧緑の髪を逆立ててメラメラと怒りに燃えていた。

 

「あ・ん・の・野郎ぉお~~!!」

 

「スミマセン……」

 振り向くと、いつの間に降りて来ていたナナが、覚悟を決めた顔で畏(かしこ)まっていた。

「殴ってイイですよ。でもちょっとは手加減してね」

 

「お前はぁぁあ! その余計な一言がイラっと来るんだあぁ――!」

 

 しかしモエギの振り上げた拳は止まった。

 ナナの前に二人の少年が立ち塞がったからだ。

「僕達も共犯ですぅ」

「ごめんなさぁい」

 

「お前ら……」

 毒気を抜かれたモエギの肩に、ハトゥンの手が乗った。

「なあ、周りを見ろよ」

 

 ナナが下りて来ているというのに、女の子達は特に気に止めず、砂の民の若者達と話したり、労ったり。

 進展の早いグループはお弁当なんか囲んじゃったりしている。

 

「幾ら何でも早過ぎないか?」

「皆、求めていたんですよ」

 

 モエギはまたナナを睨み付けた。

「西風の娘達は、そんな節操の無い娘ではない」

「そうじゃなくて……」

 

「飢えてたんだろ」

 ハトゥンが混ぜっ返した。

 

「う、飢えて……」

 モエギが口をパクパクさせる。

 

「摂理です、そうでしょう、ナナ様」

 ソラが言って、モエギが真顔になった。

 ナナは黙ってニコニコしているので、ソラは頑張って続きを喋った。

 

「えっと、女性が強い者に惹かれるのは、意識せずともの一族存続の摂理だって。それでナナ様に異常にキャアキャア言っていたんだけれど、もっと沢山の対象に出逢えたら、皆落ち着いて、ちゃんと本当の相手を見つけ出すって」

 

「そうなの……か?」

 モエギはイマイチ納得の行かない顔だ。

 ヒトの心がそんな法則に通りに簡単に収まる物なのか?

 

「モエギ様、西風の里では男の子が生まるの、凄く少ないでしょ?」

「ああ、そういう物だろ? 男の子は生まれにくい」

 

「へえ? 砂の民の街では逆だぜ。女が生まれるのなんて、十人に一人かそこいらだ」

 ハトゥンが驚いた声で言った。

 

「ええっ、本当か?」

 すぐ側の部族なのに?  いや、そんな物なのかもしれない、お互いに知ろうとしなければ。

 過去には知っていても失われたか、当たり前だと思い過ぎて話題にも上がらなかったか。

 

「それ、僕達みたいな種類の生き物には、おかしな事なんですって。本当なら、男の子も女の子もそんなに極端な割合にならない筈なのに。西風の部族も砂の民も、血が濃くなりすぎて、マズイ所まで来ているらしいです」

 

「え?」

「マジかよ」

 

「だから摂理は、両方の部族に、交わり交流しなさいって言っていますっ……以上!」

 

「良く出来ました」

 ナナが手を叩いた。

 

 

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