春待つ羽色のおはなし   作:西風 そら

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ムーンピラー~幸せのお裾分け~・Ⅶ

 

  

 

 

 

 旋風を巻き起こして降りて来たのは、大長でもツバクロでもなかった。

 モエギにもシドとソラにも知らない顔で、ナナには驚きの人選だった。

 

 痩せた馬の上で真っ青でゼエゼエ言っている、羽根のある水色の妖精。

 そしてその伴侶でナナの妹、元気一杯のユユだ。

 

「お、大長は?」

「叔父様もお父様も、流感(りゅうかん)なの」

「り、流感?」

 

「もう大丈夫なんだけれど、子供と年寄りばかりの西風の里へ行くのは不味かろうって。あ、貴女がモエギさん? あたしユユ、宜しくね!」

 ユユはせかせかと鞍の荷物を降ろしながら、勝手に喋った。

 

「んで、じゃあ新婚旅行がてら、お前達行って来なさいって」

「そんな事誰も言っていないじゃないか……」

 息も絶え絶えのカワセミがやっと口を挟む。

「ナナの任期を延ばせばいいだけなのに、ユユが無理矢理……」

 

 フラフラのカワセミは無視され、空色巻き髪の妖精は、荷物から色々と引っ張り出し始めた。

「貴方達がシドとソラね。会えるのを楽しみにしていたわ。お土産お土産!」

 一方的に包みを渡されて、モエギも二人も茫然としている。

 

 ナナはそっとカワセミに寄った。

「大丈夫ですか?」

「ボクは高空気流は絶対に嫌だって言ったのに、ユユが……」

 

「って言うか、イケるんですか? 西風の里の駐在」

 超ヒト見知りのカワセミ長には酷な仕事ではないのか?

「ユユが任せて置けって。とにかく新婚なのにボクが忙し過ぎたのが、相当不満だったみたいで」

 

「おい」

 モエギには色々と聞き捨てならなかった。

「嫌々来て貰っても困る。新婚旅行気分の片手間ってのも……」

 

 モエギが肩に手を掛けた瞬間、水色の妖精は飛び退さった。

「さ・触るな! 術が逃げるっっ!」

「?? な……?」

 

 呆気に取られるモエギの横で、ナナはシドとソラに小声で解説した。

「カワセミ長は、特定の女性以外に触られると、術力が落ちるんだ」

「うゎ! めんどくさっ!」

 

 ヒューヒューという口笛が聞こえる。

 建てかけ修練所の梁の上に、男達が全員登ってユユを見ているのだ。

 性格とは裏腹に、美の女神に愛されている妹は、ムチャクチャ目立つ。

 西風の娘達は明らかに不機嫌だ。

 

「ユ、ユユを見るなあ~~!」

 カワセミが立ち塞がるが、貧血を起こしてふらついてユユに支えられている。

 

「ひどい……」

 一生懸命立て直した里に、何て連中を送り込んでくれるんだ。

 

「ナナァ~~」

 カワセミが、ユユからナナの方へ倒れ込んで来た。

「ボクがあげた、石、役に立ったか?」

 

 モエギの目が光る。

「あのストーカー石は、お前が作ったのかっ?」

 

「え、『ストーカー石』なんかじゃない!」

 カワセミはナナの後ろに回って目だけを出して抗議した。

 

「対の石の居所が分かるって、不埒な事を考えるストーカー以外の何者が使うんだ」

 

「え!? だって、違う違う!」

「カワセミ長、もういいですから」

 

「石って、兄弟石の事? カワセミ様がナナにあげた」

 ユユが乱入して来た。

 

「ユユ! 喋るな!」

「いーや、喋って貰おう!」

 モエギはナナの頭を押さえ、ユユは兄の様子などお構いなしに喋り続けた。

 

「カワセミ様が予知したの。『ナナの大切なヒト』が、空から降りられなくてベソかいてるのが見えたって」

「…………」

「だから、ナナに兄弟石をあげたの。いつでも助けに行けるように、相手のヒトに持たせて置きなさいって」

「…………」

「で、『ナナの大切なヒト』ってだあれ?」

 ユユは嬉しそうにキョロキョロした。

 

「……行くぞ」

 黙ってしまったモエギとナナに、察したカワセミがユユを抱えて退場した。

 

「その……ナナ……」

「ああ――、その、聞かなかった事に……」

「礼を……礼を言っていなかった。命を助けられたというのに。私の命と、西風の里と……そう、とにかく、感謝するっ!」

 モエギはサッと手を出して、ナナの手をギュッと握ってすぐ引っ込めた。

 

 その瞬間の天にも昇るような蒼の青年の横顔を見て、シドとソラは、幸せのお裾分けを貰ったような気持ちになって、肩をすぼめた。

 

「んで、残りの石は?」

 カワセミの腕を脱け出して、ユユがまた乱入して来た。

「失くしちゃいけないからって一杯あげたでしょう? 残っていたらアタシも一つ欲しいの」

「ユ、ユユ……」

 ナナの狼狽えように、モエギは鋭く目を光らせて、胸ぐらを掴んで引っ張った。

 素肌の胸に数珠繋ぎの橙(だいだい)色の珠がかかっていた。

 

「だって……貴女とお揃いを付けて居たかっ……」

 ナナが喋り終わる前にモエギの拳が唸った。

 

 

 

 ひっくり返ったり暴れたりと、大騒ぎの面々を梁の上から眺めながら、ハトゥンは愉しそうに笑っていた。

 

「また面白そうな連中がやって来たな。今度はどんな事をやらかしてくれるんだ?」

 

 見上げる空の雲が切れて、ホンの少しの春の気配が漂っている。

 

 

 

      ~ムーンピラー 幸せのお裾分け・了~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




挿し絵:四コマ・ナナさん
【挿絵表示】

次回はユユ大活躍
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