春待つ羽色のおはなし   作:西風 そら

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続 スピカ・Ⅲ

 早朝。

 西風の里の馬繋ぎ場に、長の娘が降り立った。

 そんなに離れていなかったのに、ここに彼女の姿があるのは、偉く久し振りな気がする。

 

 朝の厩(うまや)仕事の途中だったシドとソラは、道具を放り出して駆け寄った。

「あ・あ・あ、本物のモエギ様だぁ」

「夢じゃなかったぁ、うぇぇん、モエギ様ぁ~~」

 

「貴方達、モエギに甘えるのはおしまいにするって誓った所でしょう」

 大長が宿の方から歩いて来た。

 

「おっさん……」

 

 大長は相変わらず、独り立ちの成果は聞いて来なかった。

 関心が無いのではなく、既に見えてるんだろう。

 

 代わりにニコニコと、二人の少年を前面に押し出した。

「モエギに報告する事があるんでしょう?」

 

「あっ、はい」

 二人は畏(かしこ)まってモエギの前に並んだ。

「僕達、西風の里を離れます」

 

「・・えっ!?」

 

「蒼の里へ行くんです」

「ええっ!?」

 

「大長様が闘牙の馬を貸して下さるって。二人乗りで、カワセミ様達に着いて、連れてっ行って貰える事になったんです」

 

 モエギはビックリ仰天して、大長を見た。

 

「カワセミとユユに報告を受け、彼らの底力を知らされました。二人とも素晴らしい可能性を持っている。是非、蒼の里の修練所で学び、我が里の子供達と切磋琢磨して貰いたいのです」

 

「僕達、一杯学んで、それをここに持って帰って来ます。西風の里に役立てる者になって」

 モエギ様が自分達を置いてけぼりにするんなら、追い掛けて追い付けば良い。

 二人の瞳は希望に輝いている。

 

「そうか……うん、行って来い。後の事は心配すんな」

 モエギはやっとそれだけ言った。

 自分の中のこの二人の存在の大きさに、初めて気付いた。

 でも二人は先を先を見ている。自分も同じ方向を見ていなきゃ。

 

 丁度、朝の見回りからユユが戻って来た。

 モエギを見るや抱き付いて、ああ、良かった良かったと、何度も呟いた。

 モエギさんの居ない里なんて、空を飛ばないお父さまみたいなモンだわと、よく分からない例え話をして一人で笑った。

 

 

 帰還の挨拶と勝手をした詫びを入れに来た長娘に、老人達はさして嫌味は言わなかった。

 っていうか、気持ち悪い位優しかった。

 

 元老院の詰所を後にして、モエギは宿屋に向かった。

 大長が受付のカウンターで何かを読み耽(ふけ)っている。

 さっきモエギに借り受けた、麻の表紙の書物だ。

 

「おっさんに面白いか?」

「ええ、まあ……」

 大長は顔を上げずに答えた。

 

 奥の部屋ではユユが、シドとソラに手伝って貰って荷造りに大わらわだ。

 帰りは、カワセミの身体と二人の少年の為に、日数をかけて低空を行くので、多くの荷物は持てない。皆がくれた贈り物のどれも削れないと、ユユの悲鳴が廊下まで響いて来た。

 

 カワセミがふらりと部屋を出て来る。

 付き合いきれないという顔だ。

 モエギを見て目を細めてから、大長の横から書物を覗き込んだ。

「凄い言霊(ことだま)の嵐でしょう」

 

「ええ……」

 

「こ・と・だ・ま? やっぱりこれって呪文集みたいな物だったのか? 魔術書とか?」

 

「いえ」

 大長はやはり顔を上げずに答え、カワセミが続きを請け負った。

 

「呪文だとしても、使えるのはキミだけだ。これはキミだけの為の言霊」

 

「……??」

 

 

 

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