となりのゴルシさん   作:天むすちゃん

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フジキセキ寮長視点の過去回的なやつです。モブコさんの悲壮感がまたいまいち拭えない回です。すみません。ゴルシちょっとしか出てこない。あとやはりキャラエミュできる脳みそと語彙がやっぱり私ちょっと足りないかもしれません。文才G。


となりの寮長さん

思い返すと寮長の私に挨拶へと現れたあの初対面の時から、彼女はうら悲しげな女の子だった。

ゴールドシチーの容姿に対して、よく『人形のように美しい』と賞賛する声がある。でも私には、シチーより彼女_モブコの方が『人形のような』という形容詞が良くも悪くも合っているように感じた。

シチーはいざ学園生活を通して話してみると結構起伏のある豊かな表情が見える子なのだ。

でも、彼女は起伏があまりないというか、憂愁をもってぼんやりと静かに佇んでいるから。

黒々とした、少しだけ毛先のパサついた青毛。

緊張しているのか、警戒心が垣間見える黒すぐりのような瞳。

この細い脚で中央入学の試験をパスしたのかと感心するほどの体の華奢さ。白雪のように白い肌に、薄幸な雰囲気。

なんだか無機物めいた、飽きられて見向きもされず、物置にしまわれた古めかしいアンティーク人形のような容貌のウマ娘だと思った。

 

「…は、はじめまして。モブコと申します…その、不束者ですが、これからお世話になります…。」

薄い唇からか細い声が漏れ出た。些か失礼かもしれないが、この時の彼女の風貌は本当につい最近命を吹き込まれ、喋りだした古い人形のようにどこか悲しく儚げだった。下唇を少し噛んで、こちらの顔色をじっと窺ってくるさまが、可憐だけれどどこか怯えているようだった。

「はじめまして、私はフジキセキ。この栗東寮の寮長だ。よろしくね。」

私が笑って手を差し出すと、彼女は白魚のような手をおずおずと出して握ってくれた。その手はなんだか冷えた硝子のように冷たかった。

 

まあ初対面の様子から薄々察してはいたが、彼女はやはり訳アリの子だった。

手洗い場で偶然会った時、初めて私はその時彼女の手首を見た。その時まで私の前…というか人前で上着脱がない子だったから気づかなかったのだが、確かに彼女の手首には二箇所のケロイド状になった傷痕があった。彼女はうっかり昔作ったものだと弁明していたが、あの時の動揺と怯えた様子を見ると、恐らく何か後ろめたい理由のあるもの。

頭に浮かんだのは、自傷行為の四文字。虐待や家庭環境が原因の線は親子関係の話を和やかに同室の子や私にしていたので、恐らくない。二箇所のみの古傷なら常習でもないと思われる。

入学前の対人関係の問題や自己嫌悪で本当に辛かった時期、思わずやってしまったと思われるもの。…今もどこか悲しげではあるけど。

それから、いつだったか寮で口論をしていた子達が大きな声を出していた時の怯えよう。私がどうこうする前にゴールドシップがそれとなく彼女をその場からすぐ移していたのでその時ばかりは助かった。いや、私もその時はなかなか大変だったんだけど…

とにかく彼女が何かしら元の性分に加え過去訳合って何かしら対人関係や自分自身に対しての負の感情があるようだった。

 

しかしちゃんと接してみると、彼女は内気ではあるが真面目で実直な子なのだ。

手品で花を見せた時、普段いつも薄幸そうなオーラをまとった彼女の表情が心做しか和らいだ時は本当に安堵した。

ただやはり自罰的な思考の持ち主なようで、ことある事に自虐的な言葉を吐くものだから、なんだか聞いてるこっちが切なくなることも度々ある。

それと、体があまり強いタイプでは無いようなのも気がかりなポイントだ。脚元は丈夫なようだが、貧血や夏場の日射病などにより体調不良者リストに度々名を連ねていて、夏場はよく誰かしらに介抱されている。精神面の不調が体調にも顕著に出るタイプなようで、そんな時はいつにも増して青白い顔になっていて本当に心配になる。

 

いつだったか、彼女が心身共に参っていた時期に保健室迄一緒について行った事があった。

その日の彼女は本当に苦しそうだった。ひたすら『ごめんなさい』と、いつにも増してか細い、生気の無い声で彼女の体を支えていた私に謝っていた。今は喋らなくてもいいと私が言っても、ひたすら。

体は完全に冷えきって、表情は酷く疲れた様子だった。これは私の考えすぎだったのかもしれないが、学校生活やレースではなく、この世で自分が精一杯生きる事そのものが嫌になってしまったみたいな、そんな表情を彼女はしているように見えた。私はその表情をみて、いつかかつての底なしの孤独と自己嫌悪が彼女を蝕んで、自死すら決行させてしまうのではと、なんだか恐ろしくなった。ただただその時私は、彼女を安心させるため抱き寄せることしか出来なかった。

…その後ベッドで死んだように眠っていた彼女が、まるで本当に人形になってしまったようで不安になって、思わずそっと手を握ったのは私の心の中だけの秘密。

 

 

 

「フジキセキ、少しいいか…って、一体何を見ているんだ?」

「え?あぁ、エアグルーヴか。栗東寮所属の子達の未勝利戦結果だよ。先週のね。」

「ああ、それか。それなら美浦寮の者たちも含んだ全ての結果に私も目を通した。…この世界の性質上仕方の無い事ではあるが、各々悲喜交々といった感じだな。とはいえ、先週未勝利に出走したメンツは全員ジュニア期の若手。まだ十月だ、猶予は十か月以上ある。が、やはり理屈では分かっていても、クラシック期への将来設計の乱れや勝利した者との格差に焦るのがこの世界の常…あまり蒸し返したくはないが、一度は私もデビュー戦で敗北したウマ娘の一人だ。ここで焦っている後輩達の気持ちは少しだけわかる。」

珍しく苦虫を噛み潰したような顔でエアグルーヴは少し顔を顰める。後輩思いゆえに彼女達一人ひとりの感情に思いを馳せ、誰一人の苦しみも零れ落とさず考えているのだろう。

「…焦ってオーバーワーク気味になって、却って不調を招く子が多くなるのも秋から冬のこの時期だからね。そこにも気を配らないと。」

「ああ。」

 

「まあ、ただ嬉しいお知らせもいくつか届いているよ。」

「そうだな、そこは素直に称えねばならない事だ。…そういえば、お前が近頃目掛けしている後輩も未勝利戦を突破したようじゃないか。ほら、ゴールドシップとよく共にいるモブコが。」

「ああ、やっぱり君もその話聞いてたか…というか、エアグルーヴ…『目掛け』って、私の後輩に対する姿勢を光源氏みたいに形容するのはよしてくれよ。ただあの子はなんだか危なっかしいし、つい心配になってしまうというか、決してやましい気持ちはないんだから。それに私は後輩は皆可愛いと思ってるし…。」

「それくらいわかっているさ。なんだ、珍しく少し焦ったな。…でもまあ、危なっかしいというか…内罰的で対人関係に対する強い怯えが見える、一筋ではいかないタイプなのは私も理解できる。能力自体は決して無い訳ではなく、むしろあの華奢な体格でスプリンターとしては大成する兆候を今回未勝利戦で見せた訳だが…。」

「そうそう、ジュニアで新潟千直のタイム55.3秒ならジュニアレコード更新も狙えた充分凄い話なんだけど、褒めたらまあ照れちゃって…ふふっ。」

「…そうか。ただやはり、あそこまで気性が大人しく厭世的だと、トレーナーもお前も懸念点が尽きなさそうだな。」

…そういえばエアグルーヴ、後輩全体の練習を見ていた時にモブコに声掛けたらえらくビックリされたから怖がられてるのかもって話をしてきた事があったな…あれまだ気にしているのかな。

「いやまあ、そうだね。…私はね、エアグルーヴ。心には幸せを実感するための良い感情を溜める器みたいなものがあると思うんだ。」

「…随分急かつ抽象的な話題だが…要は深層心理における自己肯定や自己評価の話か?」

「ははっ、やっぱり君は聡いね。そう、要はそういった自己の肯定や実現をするにはその器が満たされてなきゃいけないと私は思うんだ。ただ、この学園にいると中身が減ってしまう子も多くいる。勝負事の世界で負けて自尊心をすり減らさずにいる事はとても難しいから。だから減ったらまた自らの力で勝利したり、トレーナーのような信頼出来る他者との力で中身を足さなきゃいけない。…ただ、一度零すのは簡単だけど、足すのは難しい。あのスカーレットも、トレーナーが決まる前は、選抜レースでウオッカに敗れてから一時期取り乱していたしね。」

「…ああ。」

その時期のスカーレットを特に気にかけていたエアグルーヴはそう言って頷く。

「…ただ、私はね。それよりもっと難しいのは、その器に穴が空いたりヒビが入ってしまった子がまた器を直して自己を肯定できるようになる事だと思うんだ。そんな器に何を注いでも漏れ出てすぐ空になってしまうから。それに対人関係や家庭環境、怪我…欠損の理由は様々あるだろうから、マニュアルどおりの修繕なんてもちろんできない。」

「…つまり、モブコはその器が欠けているからあのような性分なのだと。」

 

 

彼女の自傷痕の話はエアグルーヴに以前話していた。あまり他者に話したくない事のようだから生徒会に話すのはどうなのかと私も考えたが、彼女達はそういったデリケートな話を漏れ出さないだろうという信頼があったので、少しだけ相談させてもらったのだ。

「…やっぱり君は話の飲み込みが早いね。うん、それも入学以前の欠損。まあ彼女は元々の性格自体が後ろ向きなのもあったんだろうけど。…難しいよ、本当に。」

いつぞやの今にも崩れ消えてしまいそうな彼女の姿を思い出す。彼女は自分で自分を呪い続けている。今も。どうやったら彼女は楽になれるんだろう。答えがなかなか導き出せなくてもどかしい。ただ、彼女がせめて私の前では安らかに生きていけるように振る舞うことしか出来ない。

 

「ただまあ、そう心配し過ぎる事も無いのかもしれないぞ。」

「え?」

エアグルーヴが窓の外を見てそういうので私も外を見てみると、タイムリーな事に話の渦中にいたモブコと、ゴールドシップが何故か誰もいないダートコースにいた。ゴールドシップが何か砂上に描いているのをモブコは遠目でただぼんやりみているようだった。

「…ゴールドシップ、また何かダートでやっているな。」

「…さすがに、スイカ割りをダートでやった時はモブコも止めてたらしいんだけど…あれはどうやら完全に止めるのを諦めたみたいだ。」

「…本題を相談する前にすまないが、ゴールドシップの所へ行ってくる。待っていてくれ。」

エアグルーヴは頭を抱えながら一度出ていった。

…まあ、彼女を気にかけてるのは私だけじゃないからね。確かに案外大丈夫かもしれないね、エアグルーヴ。

 




モブコのヒミツ⑩
ジェンガが強い。

結局またちょっと暗い話になったな!うん!すいません!
フジキセキ先輩とモブコの組み合わせなんか人を楽しませたい女vsなんかいつも悲しげな女のほこたて感あるよね。
あと全然関係ないんですが、ようつべで見つけたきゅう/くらりんって曲がなんかモブコみある歌詞だったので紹介しときます。モブコは取り繕うの下手だったりするんで、飽くまで要所要所ぽいなって歌でしたが。

併走トレーニング回でモブコと併走して絡んで欲しいウマ娘は?

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