「…第二資料室に物を返しに来ただけなのに、ついてくる必要あります?」
「いーじゃん、お前病み上がりなんだし。」
「病み上がりって…昨日とかデジタルさんと合同練普通に出来ましたし…調子は戻りましたよ…。」
資料室に借りた資料を返しに来ただけなのに、なぜかついてきたゴルシさんと狭い第二資料室二人きりです。まあ意味もなく私にこの子がついてくるのは今に始まったことじゃないけど。
「お前の大丈夫はいまいち信用ならないからな〜。」
「…すいません。」
「まあいいってことよ。…いやーにしても今日は見事な曇り空だなぁ。せっかくこのゴールドシップ様が顕現してるんだからド派手にオーロラでもでてこいよなあ。」
小さな窓をふと見つめた後、ゴルシさんはまたそんな他愛ないふざけたことを呟いた。
「…出てくるわけないでしょ。ここ日本なんですから。」
「なんか奇跡が起きるかもしんねぇじゃん!」
「…えぇ…。」
そんな事あるわけないでしょ。
「…あ、そうだ。お前に話したい事があったんだった。」
思い立ったように彼女は窓の方から私のいる、棚がびっしりある部屋の角の方にきた。向かい合って話すような体勢で、丁度隅にいた私にまるで逃げ場は無さそうだ。
「…なんですか急に。」
また変なお巫山戯思いついたのかな。
「…アタシさ、お前の人生設計の話とか、こないだ調子崩した事とか踏まえて色々改めて考えたんだよ、お前の事。」
「…ごめんなさい、やっぱり面倒くさかったですよね。」
思い返すとここ最近…先週までの自分の彼女に対する振る舞いは本当に酷かった。面倒くさい構ってちゃんじみた卑屈な女の子の振る舞いなんかして、正直ウザがられて罵倒されたり二、三発殴られても仕方ない諸行だったと思う。
「あ〜違う違う、そういうネガティブな方向の話じゃねぇって…改めてこう、お前の事は大事にしたいって思ったんだ。」
心做しか少し真剣な感じでゴルシさんは話し続ける。色素の薄い、長い睫毛が揺れる綺麗な、マラヤガーネットみたいな瞳でじっと私を見つめながら。
「…そんな感じのこと、確かに言ってましたね。この間も。」
「おう、それでさ…その、なんつーか、『大事』の方向性ってヤツを改めてゴルシちゃんのハイパー頭脳で考えたのよ。そんでさ、気づいたからお前にちゃんと伝える。」
「はい…?」
鼻筋の通った、目の形も綺麗な、とにかく黄金比率そのものみたいなパーツ配置にパーツ一つひとつも端正な、容姿端麗をそのまま表したみたいな顔をこちらに向けられたまま。彼女はいつになく意を決したような顔になって口を開いた。顔の周りではサラサラの真っ直ぐな芦毛が揺れている。
「アタシ、お前のこと好き。」
「……え、いやその、私も貴方のことは好きですが…そもそも好きじゃなきゃいくらずっと同じクラスでもお互いこんな長い付き合い出来ないですよ…。」
「違う。」
食い気味でゴルシさんがそう返答してくる。
「ライクじゃなくて、ラブの方の意味合いで、お前が好き。」
「………え?」
体が固まる。何?どういう事?え、これは現実?
「あの、それは、その…つまり…恋愛的な意味で私のことが好きって事ですか?」
「おう。」
間違いなく現実だ。しかもこれは真剣な話。ゴルシさんは一応ドッキリにも最低限の節度はある子だと私は知っている。
「いや、あの…正気ですか?」
「真っ先にアタシの気が確かか確認すんのかよ、この状況で。…大真面目だし、正気だよ。」
片腕を後ろに回してやれやれみたいな顔でそう返された。困ってるのはこっちなんだけど…。
「いやいやいやいや、え、いや…ダメ、でしょ。」
この目の前にいる芦毛のウマ娘は奇行が目立つが容姿、レース、その他諸々…破天荒な気性以外は全てがハイスペック。
かたや私は…根暗、痩せぎす、面倒くさい卑屈で臆病な気性…いい所なし。釣り合ってない。
「ダメってなんだよ…ホモフォビア的なやつだったっけ?お前。アタシの事はそういう目で見れない的なやつ?」
「…いや、そういう訳じゃ…むしろ…。」
話を続けようとして口を噤んだ。手に力が入る。むしろ?むしろって何?なんて続けようとしたんだろ?…こんな私が誰かの特別になれるならそんな嬉しいことはないともたしかに思う。旧知の仲かつ一緒にいて安心するこの子相手ならなおさら。
でも違う。これを貰うべきなのは私じゃない気がする。
「…むしろってことはよ、嫌ではないってことでいいか?」
「そ、れは…あの、うれし、いや、えっと……あの…。」
頭がごちゃごちゃしてる。こんなになるんだったらさっき誤魔化せたら、嘘でもキッパリ断れる余裕と器用さが自分にないのが憎い。ダメ。この子は大切だけど、私がこんな気持ち貰ったらダメだ。ダメ。でも。どうしよう。伝えられた愛をちゃんと返せない。むしろ多分、これを受け入れたら、いつか私がこの子諸共不幸にする。ダメだ。でも。でもじゃないよ。半端な態度とるなよ。卑屈ブス。バカ。半端者。思わせぶり。でも嬉しい。でも。どうしよう。どうしよう。
「…嬉しい気も、するんですけど、あの、私、ダメなんです。…私こんなフラフラしたどうしようもない根暗だから、釣り合わないし…私、あの、一緒になったら…いつか私と…地獄みたいなところに行くかも…だからあの、誰か巻き込みたくなくて、あの、ごめんなさい、頭ぐちゃぐちゃで……怖くて、ごめんなさい、ごめんなさい…。」
思わずへなへなとその場にしゃがみこんでしまう。頭の中でグルグルしているノイズが、口から漏れ出る。どうしたらいいの?分からない。こんなうじうじして。なにしてんの。ゴルシさんの顔が見れない。何も聞けない。ついさっきから垂れてしまっていた耳を更に両手で抑えて、塞ぐ。なんだか涙まで出てきそうだ。どうしよう。
そうやって蹲った私の肩が優しくぽんぽんと叩かれた。恐る恐る、本当に恐る恐る顔を上げると同じようにしゃがみこんで、私の顔を覗き見るような体勢のゴルシさんがいた。怒っているみたいではなく、むしろ穏やかな顔をしている。
「…前髪、ぐしゃぐしゃだぞ。あ〜しかも涙目じゃん。やっぱ急すぎたか?なんかお前危なっかしいからその…早めに気持ち伝えてくっつけたらくっついちゃって、無理なら友達のままがいいかなと思ったんだけどさ…なんつーかまあ、そんな単純明快じゃないのがお前だったよな。ごめんな。」
私の前髪を梳いて直しながら、彼女はそう優しい声色言ってくる。
「え、あの、ゴルシさんが謝ることはなくて、むしろ謝らなきゃなのは…その…私で…。」
「いや話振ったのはアタシだから。そんなお前がへこへこ謝る必要ねぇよ。…まあ、その?要は気持ちは嬉しいけど自信がないからアタシみたいなスーパーウマ娘ちゃんとそういう関係になるのは怖いし、自分と一緒にいたらなんか嫌なモンをアタシがとばっちりで喰らうんじゃっていうのが心配な感じな訳?モブコちゃんは。」
「え、あ、はい。多分、そんな感じです…?」
自分でも頭がごちゃごちゃしてるからはっきりとは断言できなくて申し訳ないけど、多分そんな感じな気がする。
「あの、さ。まあなんつーか、お前が自分大嫌いなのは今に始まったことじゃないから、そういうとこは承知で今アタシ告白したんだよ。まずそこは分かって。」
彼女の言葉にひとまず私は黙って頷く。
「それで次、恋愛に…というか、対人関係全般に釣り合わないとかは別にないとアタシは思ってる。まあアタシが最強スーパーサイヤウマ娘ちゃんなのは事実だけどさ、別に完璧優等生ちゃんではねぇから、アタシ。正直多少の弱点はある。だからそこは気にすんな。というかそもそも欠点ない奴なんかこの世にいねぇし、今までだってそこまでお前もアタシもお互いがお互いに対して求めてなかったんだから、いいだろ。何事も持ちつ持たれつが一番。分かるか?」
今までの私の考えとは異なるけど、彼女が言いたい事の理屈は分かった。確かに優等生ではないなこの子、うん。また私はゆっくりと黙って頷く。
「…うん。ひとまずこれは理解してくれたな。お前、自分に良くしてくれる奴ちょっと神格化するとこあるから、そこは分かって欲しくてよ。」
私の頭をゆるゆると撫でながら私の相槌に対してそう返す。
「…それから、さ。これは、前にもちょっと触れた話題だけど。お前がなんかまた嫌な目に合ったり、いつか世の中全部嫌になってどっか行ったりしてもさ、アタシは一緒にいてやりたいわけ。というか、もっと言うとそうなる前にどうにかしてやりたい。いや、それが難しいのは分かるし、すぐに自分からSOS出せるようになるのは難しいだろうけどよ。でもさ、アタシはお前に対して迷惑とか感じた事ないから。ぶっちゃけアタシの方が好き勝手してるし。だからとばっちりとかも無問題。余裕。そのくらい好きだから、改めてこういう関係にならないかって言うくらい。一生付き合いたいくらい。」
「…は?一生?え、私と?」
思わず聞き返す。
「そう、お前と。」
「そう、なんだ…あの、一応これも聞いときたいんですけど、恋愛的な関係になりたいってことはその、私と…それっぽいこともできるんですか、ゴルシさん。」
「出来るっつうか、したいから告白したんだけど。」
サラッととんでもない事言ったよこの子。え、私と?美少女揃いでしょ貴方の身の周り。その中で私と?
「え、あの、一応聞きますけど…私手首リスカ痕とかありますし、痩せぎすの貧相なウマ娘なんですが…。」
「知ってる。超知ってる。リスカ痕とか今更。気にしてない。可愛いからノープロブレム。」
「…物好きですね…。」
「いーよ物好きで。…で、モブコちゃんの不安要素にしっかりお答えしたし、改めて聞くわ。…恋人、なってくれるか?」
「え、あ、えっと。」
顔が少し熱い。さっき可愛いとか言われたからかな。はっきり言葉を返したいけど、上手く話せなくてもどかしい。
「あの、えっ、と…。」
「いいよ、ゆっくりで。」
私のしどろもどろしている様子をみてゴルシさんは温和な言葉で落ち着くよう促す。
「…その、本当に私でよければ、あの、よろしくお願いします…。」
「…お前『で』じゃなくてお前『が』いいんだよ。…んじゃ、契約成立って事で。じゃあ、一旦立ち上がろうぜ。」
そういうとゴルシさんは立ち上がって、私にも立ち上がるのを促すように手を差し伸べる。その手をおずおずと取って、よろよろと私は立ち上がった。
「んじゃまずハグしていい?」
「えっ。」
「そういう仲になったんだし。…ダメか?」
私の顔を覗き込んでゴルシさんはそう聞いてきた。なぜだろう。こういう関係になったと意識し出すと、この子の端正な顔にじっと見られるのが余計恥ずかしくなってくる。
「…ダ、メじゃないです。」
私がそう返事をするとゴルシさんは私に抱きついてきた。相変わらずまた固まってぎこちない感じになってはいるけど、頭の後ろの方をパーカーのフード越しに優しく撫でられるのが心地いい。なんだか暖かい。さっきまで私の頭の中と心を掻き乱していたネガティブなノイズが消えたような気がする。一時的なものではあるけどやっぱり安心する。
何か返さないのも良くない気がしたから、彼女の腰あたりを掴んで、制服に控えめな皺を作った。作ってしまった。
「…お前にそうやって、控えめでも抱き返されるの嬉しい。」
するとゴルシさんは私にぼそっとそう呟いた。いつもより落ち着いた声で。
「それなら…良かったです。」
「…なあ、また急かもしんねぇけど、キスしていい?」
「え。」
本当に急展開だな。思わず一層体がガチガチになる。
「え、あの、今ここで…?」
「誰もこないし、見てないだろ。こんな狭い資料室なら。こっちの資料室あんまり人気ないし。…無理そうか?」
ハグしていた体を離して、おやつを待つ子犬みたいな顔をして、首を傾げながらそう問いかけてきた彼女の薄づきの淡いピンクの色つきリップが塗られた綺麗な唇に注目してしまったのは、どうか不可抗力だと思って欲しい。
「…どうぞ。好きにしてください…。」
いつも以上に小さくなってしまった声と共に私は頷いた。この子相手ならもう全て差し出してしまっていいのではと、何故だか心の隅で思ってしまったから。
すると私の両肩にゴルシさんが手を掛けた。
「…折れそう。」
痩せた私の体に触れて、ぼそっと彼女は独り言のようにそう呟いてきた。
「…そんなすぐ折れませんよ、一応これでも、ウマ娘ですから。」
「そっ、か…。」
ずいっとゴルシさんの顔が近くなったから、思わず目を瞑った。息が止まったような感覚がする。背中に手が回されて、それから唇に柔らかいものがふにっと一瞬触れた。
ほんのちょっと口先を一度だけ軽く押し付けるような、そんな優しいキスだった。その一瞬でなんだか私の心の中にある大きな氷の壁みたいなものが、溶けたような気がした。酷く救われた気分だった。
ファーストキスの場所がこんな日当たりの悪くて、狭い第二資料室。しかも外は曇り。でもなんだか、その風情のなさが私達二人っぽくて、良い気がした。
目を開けるとまたマラヤガーネットの瞳が私を見て、ニコニコしている。
「…がちがちじゃん。本当可愛い。」
そう言ってまたニコニコしながら、私の頬を撫でてくる。なんだか心が満たされてる。目眩がしそうだ。
私は今この瞬間自覚した。私は死んでしまいそうなくらい今幸せで、この子が好きだと。そう自覚するとなんだか胸がいっぱいで、目の奥が熱くなって、ぽろぽろ涙が出てきた。
「あ〜とうとう涙出てきちゃったか〜、嬉し泣き、なのか?」
また黙って頷いた。嬉し泣きじゃないわけない。
「…そっか。」
ただその三文字だけ返して、ゴルシさんはまた私を抱きしめて、私の頭を大きな片方の手のひらでふんわり包むように抱えて、背を撫でながら私を宥め始めた。私は、黙って彼女の手中に収まりつづけた。涙はしばらく止まってくれなかった。
ある昼下がり、第二資料室の前で鼻血を垂れ流して倒れたアグネスデジタルがメイショウドトウにより発見され、保健室に運び込まれた。
アグネスデジタルはその後、しばらく意識を失っていたが、メイショウドトウの存在の尊みにより蘇生したらしい。
ゴルシ動きました。ええ。
デジたんが倒れてた理由、なんなんだろうね〜(すっとぼけ)
併走トレーニング回でモブコと併走して絡んで欲しいウマ娘は?
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アグネスデジタル
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ナイスネイチャ
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ハルウララ