となりのゴルシさん   作:天むすちゃん

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私生活の諸事情やら偏頭痛やらキングエミュの練り直しやらで間隔あきました。本当にすみませんm(_ _)m
今回はデジたんとキングさんと諸々弊社オリモブウマ娘が絡んでる回でゴルシいません。ご了承を。



となりのゴルシさん20

目が痛いくらい眩い光のように、笑っている。アイフォンの画面の向こうで、緑の勝負服を着た、綺麗なスタイルとちょっとツリ目がちな紅い瞳が特徴的な彼女は笑っていた。ある三月、高松宮記念の勝者として。三冠路線からの距離短縮自体は前例がない訳ではないが、こうしてGⅠを制覇する競走ウマ娘はひと握りだ。ここまで、彼女がいかに辛酸を舐めてきたか想像がつかないほど、私は子供ではない。でもなんだか、素直に喜ばしくも思えず、かといって悔しくないのはなぜなのか。

 

私の片手に握られた、好きなエナジードリンクの可愛らしいピンクの缶がこの寂寥感の滲む空間にミスマッチに佇む。飲みすぎてはいけない代物ではあるけど、フルーツ風味の炭酸が美味しくてたまについ買ってこうストローで飲んでしまう。

空になった缶の中でカラカラと少し音を立てて回ったストローには、ちょっと噛み痕が。なにげないストローの噛みグセがなんだか意地汚く見えて、また自己嫌悪。

 

そもそも中京は私のバ体と脚にはいささかタフなレース場だ。いや、そこをどうにかしようとしてはいるけど。

「この脚はどうしてこう、細いのか…。」

このトモでスプリンターなのはなぜだと今でも思う。持久力がないからか、はは、私の肺くんってば脆弱。

 

「…というか、それ以外にも問題が山積みだよね、私は。」

まず重賞戦線すら勝ち抜けずGⅠの話をするのはどうなんだ。出走登録自体は私みたいなオープンは勝ったよ〜くらいのクラスでも出来なくはないが…

「…スタミナ切れてバ群に沈んで、最終直線オロオロ走ってるうちにビリがオチでしょ。」

小さな小さな、情けない卑屈な呟きが、誰もいない自販機コーナーにこだました。

いやというかまず、私レベルだと多分出走枠除外対象当落ギリギリラインなんだよな、GⅠは。

 

それに何より私は心が薄いガラスみたいでダメだ。自分でも悲しいくらい性格に難あり。暗い。指折り自分の嫌なところを虱潰しのように数えてはまた自分が嫌いになって、勝手に何かに少し絶望して、すり減らして。

その何かすらよくわからずさ迷いながら、小さな自己価値とこんな欠陥まみれの自分が生きていく理由を拾い集めるために走っている。…一応言い足すと、走るのは昔から好きではあるし、勝てたらそりゃ嬉しい。が、本能的な闘争心は正直他の子に比べるとほとんど私には無い…気がする。最低限の自尊心がないと競争心という概念は生まれない。相手が常に自分より優位だという意識で生きてきたもので、すいません。本当に卑屈で救いようがない。

 

涙や悲しみの数だけ強くなるなんていう通説は私に対しては適応しないみたいで、ただただまたちょっと自分が嫌いにになるだけだった。

 

画面の向こうの彼女は、今夜眠って目覚めた時、起きあがる理由がひとつも見つからない朝が来る事が怖くて、そんな朝が来たら自分はその時どうするのかな、なんて考えたことはあるんだろうか?

無いんだろうな、もっと高尚で明るい場所に彼女はいる。

彼女が涙を流す事と私が涙を流す事には雲泥の差がある。

自己実現の為にたとえどんなにバカにされても負けても、何度も立ち上がるのが彼女。

かたや走って社会的欲求や承認欲求を満たして、辛うじて今日も生きていてよかったような気を自分で勝手にさせている、のが私。

精神構造からして格が違う。なんでなのか。なんていうか、マズローの五段階欲求が中間で止まっているタイプの人って私みたいな感じなのかな。

 

「…アホらし。」

このまま膝を抱えてブルーライトを寂しく眺めるのもなんだか滑稽だ。そもそも私みたいなのがこんな意味わかんない感情を彼女に向けるのが失礼でしょ。三文悲劇のヒロインぶるのは無駄だし惨めだよ。バカ。

多分今日は疲れてるんだ、入浴場も空いてくる頃合いだから、もうお風呂に入って寝よう。そう自分に言い聞かせて、私はスマホに映る彼女を消した。今抱いた卑屈な黒いモヤモヤごと、全部なかったことにするみたいにして。

それから、立ち上がって、人気のない自販機コーナーの、カンという字すら薄れてしまっている古いゴミ箱の前に。ストローを抜いたピンクの缶を私の心の悲しい青と一緒に投げ入れた。ストローは…後で違う場所のプラスチックごみの回収場所に持っていくしかない。

それからお風呂の前に着替えも取りに行かなきゃ。踵をかえした。

「…今日ちょっと、寒いなあ。」

哀愁が私の頭の中で鳴る。小さな私の足音と一緒に。

「…バカみたい。」

スマホをポケットにしまってあいた左手で、右手首をざりっと服の上から掻いた。消えない何かをなぞるみたいに。

 

 

…て感じだったかつての私へ。

 

その彼女は今私の目の前にいます。偶然にも。

「ひょえ〜〜〜!キングさんまでっ!!!!今日はなんと……なんと幸福な日…。」

あ、そういえば、この方_キングヘイローさんは、デジタルさんとはバリバリ顔見知りだっていつだったかデジタルさんから聞いてた。いやこれ絶妙に気まずいんですけど。ネガティブ絶不調期に謎の勝手な感情抱いてた相手に対して、何をどうすれば?いや私はいつだって卑屈ステークス1番人気大本命だけれど…

しかもお相手はまたまたGⅠウマ娘。なんなの?最近の私の因果律。ちょっと怖くなってきた…私は藤岡ハルヒでもシンデレラでもないんですが…。というか、トレーナーさんは………なんかお二人のトレーナーさんと三人で話してるよ!

GⅠウマ娘トレーナーに対してコミュニケーション能力高いな私のトレーナーさん、いやずっと前からそうだ!うん!私よりコミュ障とかまずなかなかいないだろうしね!

「…え、あの、デジタルさん…本当に大丈夫ですか…。」

「…まあ、元気そうならなによりだけれど…あら?貴方はたしか最近度々デジタルさんとトレーニングをされてる…モブコさんといったかしら?」

キングさんはそう言ってりんご飴みたいな華やいだ可愛らしい瞳をこちらに向けた。

ていうか、名前知られてる…いやまあデジタルさんのご友人ならそりゃ知ってても別に変じゃないけどさ、この状況を両手の花と言い切れるほど脳天気ちゃんにはなれませんよ私。いやなんかいい匂いはするけど…ってキモいよ!私!落ち着いて!

 

「あ、は、初めまして…。」

し、視線が…お二人からの視線が…トレーナーさんはどうやらちょっとお二人のトレーナーさんとお話中だし…ひえ〜。

「なるほど…良くも悪くも聞いてた通りの子ね…礼節を踏まえるのは良い事だけれど、そこまで固くならなくていいのよ?

まあ、このキングのあまりの華麗かつ威風堂々たる風貌を前にそうなってしまう気持ちも分からなくはないけれど!」

あの日小さな画面でひっそり群衆として見つめた笑いが私の前に降り注ぐ。やっぱり眩しい。

「は、はい…恐縮です…。」

 

「いや、だからそんなに縮こまらなくても大丈夫よ…。」

私の様子に穏やかにキングさんはそう言葉をかけてくれた。

「あ、すいません…初対面の方に対する長年の癖みたいなもので…。」

「そうなの…やっぱり私に対してのみって訳ではないのね…ああ、そうだわ。この後デジタルさんと走る予定だったのだけど…貴方もたしかスプリンターだったわよね?よければ貴方も一緒に走って下さらない?」

 

え、本気?

 

「…へ?キ、キキキングさんと?モ、モブコさんに挟まれるんですか?あたし?今日死ぬんです?」

デジタルさんも何故か動揺してる。いや一番死にそうなのはこの中で一番実績がない私ですが。

「えっ…あ、いや構いませんが…その、キングさんの次走って確かデジタルさんと一緒の…。」

「ええ、高松宮記念よ。」

「その…私でよろしいんでしょうか…GⅠ対策ならカナロアさんとかバクシンオーさん辺りの方が良いのでは…。」

多分あの二人も出るよね高松宮…

「まああの二人と走るのも良いのだけれど、貴方ももうデビューして数年経っているらしいし、良い相手かと思ったのだけれど…もしかして先約があったかしら?」

「あ、いえ、トレーナーさんも多分OKしてくれますかと思いますが……あのぉ……本当の本当に私もご一緒でいいですか?拍子抜けされちゃうんじゃ…。」

「…デジタルさんから貴方の生真面目な性分と走りの話は聞いているし、私はそもそも他者を侮ったり、ぞんざいにはしないわ。」

うーん素晴らしい人格の持ち主。というか、え、どこまで私の事話したの、デジタルさん。

「そ、そうなんですか…デジタルさん…。」

「は、はい。最近絡みが増えたモブコさんの事でウキウキちゃんになってしまい…ついちょっと布教を…。」

「な、なるほど…ま、まあお二人が良いなら…。」

 

てな感じでトレーナーさんにも承諾を得まして、一周1100mの緩いコースの併走のために並ぶ。…というか、あの、やっぱり場違いでは…これ…いや頑張って走るけど…頑張るけど…私いるかなこれ。

「ハァ〜〜〜〜〜ッ、フゥ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ…。」

デジタルさんは本当に大丈夫なのかな...色んな意味で。

 

 

うん、結果、三人中三着。3バ身ぐらい離されましたね。一着はデジタルさん。二着は本当に僅差でキングさん。

お二人と走って改めてわかりました。

あのさあ、私さあ、やっぱりコーナー技術がジュニアの子以下。いや、これでも初期よりマシにはなったんですよ。妖精でも見つけたのってくらい昔はヨレてましたからコーナーで。

でもやっぱりね、コーナーにおける根本的な平衡感覚?が欠如してる。うーん悲しいなあ。そこ押し切るパワー性能があればいいんですけど。ないんだなガリガリちゃんの私にはそれが。

まあそもそもスタミナが1000過ぎたあたりで怪しくなったのが一番キツかったですけど。ここまでやってきて1100持久力持たないってどういうこと?イレギュラー体質?知らず知らずに掛かった訳でもないしな今回。

 

「ふぅ……。あ、ありがとうございました…。」

お二人にひとまずそう声をかけ、会釈をする。

「え、あ、いえ、こちらこそというかありがとうなのは圧倒的にあたしですが!」

「こちらこそありがとう、モブコさん、そしてデジタルさん。…デジタルさん、短距離に慣れてきたのね。忙しい展開での仕掛けどころを掴んでいた。まあ、このキングももちろん負けっぱなしで引き下がる気は毛頭ないけれど!」

「は、はい!キングさんのお褒めにあづかり、拙ウマ娘デジたん非常に恐縮でございます。

…と言ってもまあそれは、モブコさんと最近何度かトレーニングやお話をする機会がありご教授頂いた面も幾つかあるおかげなので、正直あたし一人の手柄ではないんですけどね。」

え、私?

「え、あ、その……そんな教授なんか……経験談とちょっとした理屈を少し話したくらいで……

本当に大したことは…本当に……。」

尻すぼみになりつついつもの小さな声で弁明。

「あああああああいえいえ、めちゃくちゃ力になりましたよ!!そもそも真面目に、共同で短距離トレーニングできる相手が少なくて大変な中引き受けてくださったモブコさんとモブコさんのトレーナーさんには足向けられないのでっ!」

「え、あ、や、えっと……。」

「…ねえ、モブコさん。私、前からデジタルさんから貴方の話を何回か聞いた上で一つ聞きたいことがあったの。」

くぐもった声を出しながらたじたじになって次の言葉に迷っていた私に対して、キングさんがそう投げかけた。

「えっ、あ、はい。なんでしょう…。」

「貴方はなんのために走っているの?」

「…それは…その…私が、私のいる価値を認めるためです、かろうじて…。」

「と、いうと?」

「…あの、もちろん元々走るのが好きだったのとか、母も競走ウマ娘だったこともあったんですけど…その……個人の自分語りになっちゃうんですけど、昔から私、他人から嫌われやすいし暗いし容姿も優れてないし…あんまりいいとこない子だったんですよ。ここに来るまではそれで同年代の友達も正直いなくて。だから私も自分の事が嫌いで…でもせめてウマ娘として走って成果を挙げられたら誰かに認められて、あわよくば自分の中の何かも少し認められるんじゃないかって、それで、ギャンブル同然で中央を受験したんです。…親とは仲が良好で本当に良かったです。一人娘の無謀なお願い事を両親は承諾してくれて、受験料も学費の確保も…しっかりしてくれました。経済面は元々ある程度安定している家庭、ではあったと思いますが、これは本当に助かりました。正直…自信はなかったけれど、それでも奇跡的に…合格してここまでやってきました。…長々と昔話をしてしまいましたが、平たく言ってしまえば承認欲求や帰属欲求に過ぎません。本当に大したことのない話です。正直。つまらない話、だとは自分でも思います。元々、欠けたものばかりだと自他で言っていた私が、こんな、今更……。」

 

「…それは悪いこと?」

「…え?」

ジャージの裾を握って段々俯いていた私に凛とした声がまた聞こえた。

「欠けたものを補おうとするのは悪いこと?自他の承認や帰属を求めるのは愚か?あなたに限って?それは違うと私は思うわ。己の生理的欲求を満たすだけでは人は、ウマ娘は生きていけないもの。まずあなた自身が貴方の声に耳を傾けなければ、何も成し得ない。それは一般的なことじゃなくて?貴方がそれを制限される言われがどこにあるの?」

「…そ、そうですね……そうでしょうか?」

「…貴方自身も貴方にやや懐疑的だから、ピンと来ないのかもしれないけれど、少なくとも、貴方に進む意志がある限りはそうだと私は考えているわ。今共に走っていてもその権利は貴方にあると私は感じた。ちゃんと懸命に進んだじゃない、貴方は。私がゴールしてからも。もしその権利を否定する方がいるなら会ってみたいわ。貴方が、貴方自身の未来と幸福のために歩むことの何がいけないの?」

さも当然のことを言うように彼女は言葉を紡いだ。強くはっきりとしながら、優しい声色で。

 

「…キングさん。」

「…なにかしら?」

「その……もしかして…キングさん、前世は聖母マリアとかだったりしますか?」

「わ、私は今も昔もずっとキングだけれど?!」

「す、すみません…身に余るありがたいお言葉とあまりの人格者ぶりについそう思ってしまい…。」

「そ、そう…まあ一流としてこのくらいの思想は初級編くらいの話なのだけれど!これで前世がそのレベルの聖人と考えるのもなかなかこう…アバウトというかこう、どうなの貴方…。」

「ようこそ、モブコさん…。」

「何に対する歓迎なのデジタルさん?!」

 

 

「…いやあ、併走に合同練お疲れ様、キング。キング的にはどうだった?最近アグネスデジタルさんとトレーニングして交流深めてたっていう、モブコさん。」

「トレーナー…大方話から想定していた通りの子だったわ。生真面目で純粋だけれどネガティブで神経質そうで…正直かなり青いというか、なんというか…。」

「でも、その様子だと嫌いなタイプではなかったんだろ?」

「…まあね。」




モブコのヒミツ⑪
以前ゲート内で緊張のあまりソワソワし過ぎたせいで頭を打ち、競走除外→病院で検査直行になったことがあるらしい。

モブコ スリーサイズ
B 65 W50 H69

キングヘイロー が 仲間になった

文才Gなりにスーパー人格者一流ウマ娘キングヘイローさんエミュを頑張りました。(小学生の感想)
ちなみに過去回想でモブコが飲んでたのはモ〇スターエナジーのパイプラインパンチ。
次回はゴルシ視点の過去回想編になります多分。

併走トレーニング回でモブコと併走して絡んで欲しいウマ娘は?

  • アグネスデジタル
  • ナイスネイチャ
  • ハルウララ
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