弊社オリモブウマ娘さんまた暗い上に過去編だからか精神的傷やトラウマがまだ比較的新しめ。ゴルシの家庭捏造描写少しあり。あとじゃっっかん、じゃっっかん自殺仄めかす描写あります。
入学初日。じっと座ることに飽きて脱走をするかルービックキューブをいじるか悩んでいたアタシの視界に、たまたま右隣のソイツは入った。机の木の模様でも目線でなぞっているかのように俯いて、黒いパーカーのフードを人目を避けるように被った青毛のウマ娘。
「…おーい。」
入学初日の明るい雰囲気からただ一人、逸脱していたソイツに興味本位で話しかけると、こちらをゆっくりと向いてきた。綿毛みたいに透き通って酷く色の白い顔。黒い奥深くまで続いてるみたいな目。小さい鼻。薄い唇。脚は棒切れみたいに細い。造り物めいた、人形みたいな風貌の顔が怪訝そうな目でこちらを見た。
いつだったか、昔母親の買い物の付き添いで入ったアンティーク雑貨の店。そこのアウトレットコーナーに確か、こんな感じの西洋人形があった。棚の上に腰掛けたダークブラウンの巻いた髪にヘッドドレスをつけたロリータ服の装いの、古い人形。おそらく数十年は前くらいの、本当に古い感じのデザインのもの。中古なのに結構な値段だった気がする。…まああの店は母さんの趣味なだけあって、どれもこれも値段が張る品ばかりだった気がするけど。
子供ながらにその人形は、小綺麗な服は着ているけれど、どこか悲しい顔をしている気がした。目がなんだか、どんより濁っていた。気がする。肌は白く表情は固く、ただそこにいるだけの悲しげな人形。
あれには詳細な顔立ちこそ似ていないが、なぜかあれにそっくりなやつだと何となく思った。
「…え、あ、あの。私ですか?」
「そう、お前。」
こっちを向いたそのウマ娘は、掠れた小さい声で疑問符を口に出した。こうしてちゃんと顔を見たら意外と丸顔なんだな、とか声のトーンは少し低いな、なんて取り留めも無いことを考えながら、アタシは言葉を続けた。
「暇だから将棋崩し付き合ってくんね?」
「え……私が?」
「そう。」
「……まあ貴方が見ず知らずの私みたいなのが相手でいいなら…いいですけど…。」
…今思い返しても正直ダメ元で振った話ではあった。
断るんじゃないかと思っていたのに、ソイツはアタシが将棋盤を拡げた机にそっと近づいて、おずおずと小さな声で承諾した。
そして普通に遊んだ。相変わらず対戦相手のソイツは無表情だったけど。人慣れしてない野良猫みたいな辿々しい仕草で、こっちの様子を時折チラチラ窺いながら駒をいじっていた。初対面ながらなんだかその不器用な感じが、拾われたばかりの捨て猫みたいで癖になった。無愛想な感じなのに割と可愛いヤツなんだと思った。
まあ、勝ったのアタシだったけど。
そこからソイツ、モブコとは長い付き合いになった。どういう意図か、因果か、宿命か、ウマトラダムスの予言か知らないがクラスはずっと同じ。オマケに席も寮の部屋も近い。
嫌な気はしなかった。モブコは根暗で生真面目だけど、アタシが好き勝手をしても、言って辞めるヤツでは無いと分かっているかなぜなのか知らないが、いつも薄らぼんやりした顔で見ているだけか、いつもの落ち着いたトーンでいくつか言葉を返すだけだった。まあたまに腕を掴まれて『もう』とか何とか言われて止められはしたが。本当に数回だけ。自分で言うのもなんだけど受け入れてるアイツも好き勝手し続けてるアタシも傍からみたらヤバいんだろうな。モブコは変なとこ鈍いから自分はまとも枠だと未だに思ってそうだけど。絶対違うぞ、アタシに対してなんやかんや今の付き合い出来てる時点で。
とにかく遊びに誘えばなんやかんやついてくるし、貰い物はなぜかなんでも大事にするし、ちゃんと接して観察してみると物静かで表情は乏しいけど可愛げはあるし、かなりコイツの事は気に入っていた。まあ色々訳ありではあったみたいだけど、面白いやつだから無問題。
とはいえ、アイツも大概一筋縄でいかないネガティブちゃんだったから、ちょっと大変なこともあった。
「え?モブコ?今日は昼飯の時から会ってねぇけど。」
人生二度目の夏合宿中。あと数分もすれば夕飯時だというのにモブコがいないのだが心当たりは無いかとアイツのトレーナー、フジキセキ、エアグルーヴに尋ねられた。どうやら何人か姿が見当たらないやつがいるらしい。
昼のアイツの顔はたしかいつにもまして暗かったから、声をかけたが、はぐらかされてそのままアイツはトレーニングに向かった。
引っかかってはいたがタイミングが合わなくて結局昼からここまで話せなかった。
「そっか…午後のトレーニングが終わって、一区切りついてから一緒に合宿所まで戻ったんだけど…他のトレーナーさんと話してた間に、てっきり部屋で休んでると思ってたらどこにも居なくて…最近調子悪そうだったからより一層気にかけてはいたんだけど…もっとちゃんと見てあげなきゃいけなかったのに、本当悪いことしたなあ…。」
合宿所中をまわって少し疲れた様子のモブコのトレーナーは、頭を抱えながらそう後悔の念を吐いた。アイツが一人で人気のない場所に行くこと事態はよくある話なのだが、基本時間はちゃんと守るタイプのアイツが夕飯時刻まで姿を見せないのは珍しいことだった。
「あ〜いや、もしかしたらいつもみたいにどっかでちょっと一人になりたいモードになってるだけかもしれねぇし、あんまり気にすることじゃねえって。たまたま今日時間忘れてぼんやりしちゃってるだけかもしんねぇから顔上げろよ〜…財布とか、アイツ持ってたか分かんねえのか?」
「ああ、携帯も金銭も、全て荷物は部屋に置いてあった。恐らく部屋に一度戻ってはいたんだろう。部屋で少し会ったという者の証言はとれている。…ただどうやら、二時間ほど前に部屋を出ていってしまったらしくてな。それっきり誰もあいつの姿をみていないようだ。まあてっきり手洗いか何かかと思って周りのヤツらも最初気にしないのも無理のない話だが…。」
モブコのトレーナーを宥めつつ吐き出した問いに、今度はエアグルーヴが応えた。
「携帯もってねぇのかぁ…多分アイツ今日疲れてるし、元々持久力もないから徒歩ならそんな遠くには行ってない、と思うけど…。」
スマホも財布も部屋に置きっぱなしなら、おそらく今アイツが持ってるのは腕時計と、ハンカチとかがせいぜい。
「万が一外で良くないことに巻き込まれていたり、遠くに行っていたりしていたら大変だからね…。」
「…なんだか今日は行方不明者が多くて参るな…いや、今日に限った話ではない上に、モブコ以外は恐らくロードワークに明け暮れているという検討がつくんだが…。」
フジキセキとエアグルーヴがそう言葉にする。
フジはなんだかどことなく心配そうだ。結構アイツと絡みあるしそれはそうか。
エアグルーヴは…いつもの感じか。
「他の行方不明者って何タブライアン?」
「…そこまで言うなら伏字にする必要があったか?あとスズカもだ…。」
趣味ランニングのいつメンじゃん。
「お疲れ〜。」
「…本当にそう思っているならまず貴様は日頃から問題行動を控えろ…。」
「へ〜い。」
やだ。
そんなこんなで一旦、ほかのモブコがいそうな、合宿所周辺の人気のないスポットを手分けして探すことになった。そもそも夕飯時刻自体そんなに遅い時間帯ではないし、空は夏場だからまだ明るい方だが、あまり遅くまでアイツを放って一人にしては今いけないと、頭の中では警鐘が鳴っていた。
合宿所の庭やら建物裏にはいなかった。これはもう海の方まで行かないとかもしれない、そう思っていた時、なぜか数日前ツインターボが言っていた言葉を思い出した。
『合宿所の海のさ、砂浜を左に進むとおっきい岩がある日陰の場所があってさ!ターボそこでカニいっぱい見つけたんだ!凄い穴場見つけちゃった!!』
たしか手に持ったスマホに小さなカニの写真を映しながら、そう話していた。日陰のある、砂浜の端の、穴場。あいつの好みそうな条件が揃っている。とりあえずそこを探してみよう。
そう思ってアタシは足を砂浜へ向けた。
左へ進むとたしかに大きい岩、後ろには木々のある、いかにも日陰スポットって感じの場所が見えた。
更に前に進むと、夏にそぐわない、日焼け対策と、人目避けと、自傷痕隠しのための見慣れた黒い薄手のパーカーを羽織った、小さく丸まったシルエットが、波打ち際にしゃがみこんでいた。買った本には必ずブックカバーを付けて、机もいつも片付いている、几帳面な方のはずのやつが、靴が、蹄鉄が海水で濡れたり、湿った砂が付着することも気にせずただ波をぼんやり俯いて眺めながら。
「そんなとこいたらデケェサメに食われっぞ。」
そのシルエットにこっそり忍び寄って、屈んで出来る限り優しく声をかけた。するとモブコは顔を上げた。心做しか疲れた顔で。
「え、あ、ゴルシさ、なんで。」
動揺したような、震えた声でピンクベージュの唇から言葉を紡いだ。
「夕飯時なのに帰って来ねえ誰かさんを探しに来たんだよ。」
「え、…あ、もうそんな時間…。」
腕時計を見て、びっくりしている。
腕時計をしているのに時間にも気づかずぼんやりしていた。この真面目ちゃんが。約十分くらいの近くの砂浜の穴場で一人、約二時間。
これはもしかしたらやばい状態なのかもしれない。
「…あの、本当にす、すいません、トレーナーさんも探してましたよね…。」
「いやまあ、たしかに探してたけど…アタシもトレーナー無視してどっかほっつき歩いてんのなんてしょっちゅうだからそんな気にすんなよ。」
ここで変に気に病ませることを助長するのは良くないと思ってそう声をかけたが、やっぱり表情は晴れない。
「…なあ、なんでここで一人になりたかったのかって訳、話せるか?」
同じようにしゃがみこんで、出来るだけ傷つけないようにまた声をかけた。
「…なんか疲れちゃって、自分のこと全部。ただでさえぽんこつなのに最近調子悪いし。午前のダッシュのタイムは最悪だし。そしたらやっぱり私昔学校が一緒だったあの子達が言った通りの子なんだって考えちゃって、いつにも増してなんだか自己嫌悪が酷くて、だからつい勝手に部屋出て、こんなとこ来ちゃって…。」
震えて、掠れた声を漏らしながら、俯いたままモブコはそう話した。波の音に消されそうなくらい小さな声で。
「だから一人になりたかったのか?」
「…はい、それで…。」
途中でなぜか言い淀んだ。
「…今吐き出してくれた方がアタシもいいし、お前も楽だぞ。」
「…ここで死のうかって一瞬。本当に一瞬魔が差して。でも、結局、踏み出すのが、怖くなってやめました。散々、散々いなくなれって言われたし、もうこのまま誰の期待も裏切らずに迷惑かけずに消えた方がいいのかと思ったけど、やっぱり怖くて…未練があって…。」
さらに丸くなって身を守るみたいに、膝に額を当てるみたいにしゃがみこんだまま、震えた声が響いた。世界一当たって欲しくない悪い予感はどうやらニアピンみたいだった。
トラウマのフラッシュバックと自己嫌悪でコイツは今頭がごちゃごちゃみたいだった。
誰かの悪意の受け皿にされて傷ついたのを蓋して生きていくのはまだ難しいみたいだった。
アタシだったらそういうヤツらは適当に無視するなりしつこいなら蹴り倒すなりしていただろうが、こういう大人しげなやつは何もしないでただ傷つく。それをいいように考えられて標的にされる。一発殴ってやれば良かったのに。なんなら今からアタシがぶん殴りに行ってもいいけど、それでコイツの卑屈が治るほど単純な問題でもないからしない。
「…踏みとどまってくれたならまあよかったよ。ただ、今度からはそうする前に誰かに言うか、言い出すのかま無理ならせめて最低限人目に着くとこに出来たらいて欲しい。正直黙ってどっか行かれる方が精神的負担あるからさ、周りは。
…多分調子悪い上に色々疲れてるからいつにも増して後ろ向きになってんだよ。とりあえず食える分だけでいいから、飯食って風呂はいって寝ようぜ。蹄鉄交換も明日手伝うから。」
アタシが立ち上がってそう伝えると、モブコは顔を上げて、少し考え込むような顔をしたあと、黙って小さく頷いた。
「…ひとまずわかってくれたか。まあとりあえず飯いこうぜ、飯。」
また頷いてオロオロ立ち上がったそいつの手を掴んで、アタシはモブコと元きた道を歩いた。その手は夏なのにヒンヤリ冷たくて、冬に結露して曇った硝子に触れたみたいだった。
コイツの手首はいつ掴んでも細い。花の茎みたいにうっかり折れそうだと過保護になってついいつもコイツ相手だと力加減を調節して掴む癖が出来た。
部屋割り一緒だし今日はこいつの布団行こ。そう思いながら、もう見失わないように隣の存在を確認しながら合宿所に戻った。
MVPターボ師匠。この後寮長とエアグルーヴはめちゃめちゃ安心したしトレーナーはめちゃくちゃ抱きしめた。
前話後書きのスリーサイズ見てもらうと分かるんですが、モブコさんタイシンとかフラワーに負けず劣らずガリガリなんで手とか足とか見たり掴んだりしたらゴルシ(じゃなくても)『細っ』って思うだろうなと思いながら書きました。
続くけどイマイチ煮詰まらなかったら先にちょっと構成ができてるフジ先輩視点の過去編書いて投稿するかもしれません。
併走トレーニング回でモブコと併走して絡んで欲しいウマ娘は?
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ハルウララ