化粧室の前。合同模擬レース前にたまたま(…なのかはよく分からないけど)居合わせてなんとなくゴルシさんと話していた。
他愛ない話にぽつぽつ相槌を打ちながらファンデーションテープを取り出して、リスカの傷痕に貼ろうと思いつつ右手首のパーカーの袖をまくった。たちまち表れた二箇所の傷痕は自分でつけたもののくせして未だに見ていて嫌な気持ちになるんだから、私は救いようがない。
そんなところに一瞬、ゴルシさんは何か言いたげな目線を向けた。
「…あの、どうかされました?…あ、すいません、あなたには何度か見せているものとはいえ、あまり見ていて気持ちのいいものではないですよね…本当にすいません、配慮が足りず…。」
そういえば、ファンデーションテープを貼る行程を彼女に見せたのはこれが初めてだった。あまり良い気持ちのする行為ではないことは私が一番わかっていたので、そう喋りながら早合点してさっさとフィルムを剥ぎ、これを終わらせた。傷痕は随分隠れたので、公の交流戦であの醜悪な痕が見える事はないだろう。
「…あのさ、お前はそれやる前に怒ろうと思ったことは無い訳?」
「……え?」
「いや、答えにくいなら答えにくいで済ましてもいいけど…それ、原因はトレセン入学する前に対人関係上手くいかなかったからだろ?しかも、お前に対する一方的な悪意。何か非があった訳でもそこまでする前に、そいつらに怒っても罰は当たらなかったんじゃね?」
私の手首に視線をやりながら、飽くまで飄々と彼女は言葉を口にした。
「…怒っても、なんにもならないじゃないですか。」
テストの答案みたいな平たい口調が零れ出た。
「…考えたことはありますよ、数回。私がクラスにいること自体が嫌がられた時、とか、私の……机がゴミ箱同然にされて、悪口の書かれた紙が丸めていくつか置かれた時とか。椅子のひとつでも投げる選択肢は浮かびましたよ。…でも、私がそこに適合出来ない事実はそんな事じゃ覆らないから。だから黙ってじっとしてました。そんな事したって扱いは弾かれ者のままなんですから。…本当は、最初は…誰も不快にさせないように、不器用な口下手の癖に頑張ったけど、結局は、煙たがられてばっかりだったし。
…あの中で私は置き物みたいなものだったんです。モノが怒っても気味悪がられるだけで、誰も気になんか止めませんよ。」
自分で言っておきながら、息が何度か詰まりそうになった。なんでこんなに被害者ぶっているのかと、言いながら心の隅で思った。元はと言えば、全て私の社会性の問題だったのに。なんでこんな風に物を言うのか。なんだかいつもより物言いが冷たくはないだろうか。
でも言葉を吐き出さないとどうにかなりそうで、俯いて目も合わせられずに言葉を一気に吐き出した。下を向いていないと、酷い顔を晒してしまいそうで。
最後の一言を紡いだ後、目の前の芦毛が揺れて、制止するかのように私の手首を掴んだ。
「……なんで貴方がそんな顔するんですか。」
モブコのヒミツ⑫
泳ぐのはちょっと苦手らしい。
ゴルシの心情と表情はご想像にお任せします。
併走トレーニング回でモブコと併走して絡んで欲しいウマ娘は?
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ハルウララ