となりのゴルシさん   作:天むすちゃん

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弊社オリモブウマ娘が暗い。ゴルシ絡み百合描写あります。キングさんも出てきます最初。ちょっと痛そうな描写も。


となりのゴルシさん23

爪やすりのざりざりとした音が耳に入る。テーブル上にある右手の指をじっと見つめてみる。人差し指と中指には噛みすぎて傷ついたために付けた絆創膏が見える。左手の人差し指も同じ有り様。我ながらちょっと痛々しい指。これなら今更整える必要もない気すらしてくるけど、目の前の熟した赤林檎のような瞳で静かに一点集中している、綺麗好きそうなウマ娘__キングヘイローさんはそうは思わないみたいだ。

 

「…モブコさん、あまりそうし続けていると爪が傷つくわよ。」

「……え?ああ、す、すみません。見苦しいですよね、本当に。昔からの悪癖で…。」

トレーニング後に更衣室の鏡台前でキングさんと並んでいた時の事。思わず無意識に爪の噛み癖という悪癖がまた出てしまった。

「良くないとは思うのですが何故か口元につい手が言ってしまうんです、赤ちゃんみたいで自分でもなんか嫌なんですけど、自分の手を噛んで気を落ち着かせたくなっちゃうのかな…深爪になったり指の皮膚をうっかり噛んじゃって血が出ちゃうことも結構ありますし、そのせいで絆創膏とはお友達みたいになっちゃってますし…何より不衛生なので本当に辞めたいんですけど…すいません本当、醜い癖が出ちゃって…。」

改めて手を見つめる。あの明るい同室から貰ったキャラクターものの可愛い絆創膏が人差し指に。中指には市販の薄茶色の一般的な絆創膏。これは自分が常備してるものを貼った。我ながら本当に酷い手だ。こまめに手は洗う方だからまだ良いものの、絆創膏を貼っていない指の爪の形は何だか歪だ。小学校時代は今より酷かったからその時の痕跡も垣間見える爪。だから虐められたのかな。いやそれ以外の理由でも嫌われてたか。

 

「…ごめんなさい、ちょっと手洗ってきますね。」

何だか勝手に気まずくなってきて、一旦この汚い手を洗いに行かなくてはと思った私は手洗い場に行こうとした。

「モブコさん。」

一度更衣室を出ようとしたけれど、隣にいた彼女に凛とした声色で呼び止められた。ゆっくり私が振り返ると、ちょっとだけ呆れたような、でもなんだか優しい顔をしたキングさんがいた。

「…手を洗ってきたら、向こうのテーブルに座ってくださる?」

 

そして何故か今私はキングさんに爪を整えてもらっている。

絆創膏が貼られていない爪の形が整えられていく。絆創膏が貼られていない他の爪は最近伸びて来てはいたけど、時々噛んでまた不揃いな形になってしまっていた。まあ絆創膏が貼られていない指の爪は比較的噛まない方の箇所だからこれでもまだマシなんだけど。絆創膏貼ってる爪は正直かなり絆創膏が手放せないレベルで深くやっちゃったし。

「…その、すいませんわざわざ。」

「いいのよ、好きでやってる事なんだから。ただ、今度から多少はご自分で整えた方がいいと思うわ。…まあ貴方にも色々事情があるでしょうし、癖ならなおさら直ぐにこれを辞めなさいとは言えないけれど、せっかく綺麗な手をしていらっしゃるのだし、あまり無闇に傷つけるのは勿体ないわよ。」

「あ、はい、その、はい…綺麗ですかね、痩せぎすな指であんまりシルエットが女性的に見えないので私はあんまりそう思った事ないんですけど。」

あ、いまなんか良くない事言っちゃったかもしれない。ああもうダメだ。なんなんだよ私。この状況、立場でこんな面倒くさい自虐なんで言っちゃうの。

 

「…綺麗よ、白くてすらっとした指で。このキングが保証するわ。」

私の暗い脳内反省会を他所に彼女は穏やかな声色でそう遮った。

「あ、ありがとうございます。」

気休め程度かもしれないけれど、心の奥の膿んだ暗い感情が癒えていく心地がした。

何故か、お母さんに優しくしてもらった時の事が頭を過ぎった。性格はかなりキングさんとは違うけれど。

 

「…その絆創膏の下も早く治るといいわね。」

酷く何かをいたわるような目を一瞬して、キングさんはまたそう言葉を紡いだ。

それからまた少しだけ爪を整えてもらった。今度トップコートか何か絆創膏の下が治まり次第塗ろうかな、でもその場しのぎで終わるかも、なんて考えながら、私はまたじっと座ってテーブルに乗せられた私とキングさんの手元を見ていた。

…ファンデーションテープを貼ったリスカ痕のある手首がキングさんに少し見えていたのだけれど、テープと肌の境目に一瞬キングさんが気づいたような視線を感じたのは、多分気のせいだったと思いたい。

 

 

暗く静まり返った部屋。マシにしてもらった手元を寝転がって見つめながら、私はまた考え事をしていた。同室のトコトコさんは、既にあどけない顔ですやすやと眠りについている。

 

「…なんか、皆私に優しくし過ぎじゃないかな。」

小さく、小さく、思わずそう呟いた。

何が悲しくてあんなきったない爪の根暗のことを面倒見てくれたのか。

なんで先輩達は親切に気にかけてくれるのか。

なんであの時トレーナーさんは私の青白くて頼りなさげな手を取ったのか。

なんであの時ゴルシさんは。なんで。どうして。なんで。こんな私が、なんで。

「…前向きって難しいな。」

自分で決めたのに結局これだ。バカみたいだ。

今日はこのまま考え込んでなんだか眠れない気がする。頭がごちゃごちゃで気持ち悪い。

そう思った私はベッド脇の引き出しからそっと錠剤を取り出して、小さい薬を2錠プチプチ取り出したら、ミネラルウォーターで流し込んだ。

この間の1週間近くの不眠やら不調がかなり大変そうに見えたからか、トレーナーさんとお話して一度学園と繋がりのある心療内科のカウンセリング及び診察に行く事になった際に貰ったもの。気分が悪く眠れない時の軽めの睡眠薬。

 

正直そこまでしなくてもいいという気持ちが喉から出かかった時も無かったといえば嘘にはなるけれど、数日にわたりあそこまで醜態を晒したしこれは大人のトレーナーさんに従うべきだと思った。それに、ネガティブになったりフラッシュバックであまり眠れない日があの時だけではなかったのも事実だから。

…あまり大っぴらには広めたりはしにくい裏情報ではあるけど、競走ウマ娘界隈では諸々の事情で心身不調を起こす子も少なくないので、競走ウマ娘の学校は幾つか怪我以外の専門科病院との繋がりも相応にあるし、病院通いの子も実はちらほらいる。中央ならなおさら。

 

お医者さんは多分五十代?くらいの落ち着いた雰囲気の女医さんだった。人見知り全開で話す私に対してもその雰囲気は揺らがない温厚な人だった記憶がある。

 

『まあ貴方が何もしてなくて頑張っても嫌な感じの人はもうストレスぶつけてくるだけだから。気にするなとは貴方みたいなタイプにはなおさら言えないとは思うけれど、薬なり他人なりに頼るのは、悪いことでも迷惑でもなんでもないから。用法用量は守って欲しいけどね。』

 

「…そういうものなんだ。」

横になったまま、言われた言葉を思い返しながらまたそうぽつりと呟く。あの先生いい人そうだったな。思い返して胸がじんとする。

でもやっぱり飲み込みきれない自分もいる。昔みたいに冷たくされると死にたくなる癖に、優しくされても悩むのかよ。いつだって死にきれた試しはないけどね。痛いのも嫌いだし、高いところも苦手な方だし。

 

面倒くさいなもう。なんなの本当。どうしたいんだよ。こういうとこでしょ。

辛いの私だけじゃないじゃん、なんなの本当。あぁ勝手に頭も痛くなってきた。頭痛薬も飲まなきゃ。

 

ガラガラと引き出しからまた違う薬を出して流し込む。それから頭を抱えて枕にもたれかかった。もうなんでこんな子なんだろう私。いい感じになった雰囲気を今度は自分で泥を脳内に塗ったみたいな気持ちで今いる。いつまでも被害者面もいいとこだと自分でも思う。察してちゃん構ってちゃんみたいできもい。なんなんだろ。

 

突発的な頭痛も無くなって頭も痛くなくなってきた。明日はまだ休みでよかった。なんか薬効いてきたな。頭がふわふわする、眠い。もう寝ちゃおう、意識が溶けそう。夢とか見ないで今日はさっさと暗闇に静かでいたい。

 

 

「まあさ、とりあえず薬効いてくれたなら良かったな。」

翌日昼になぜかゴルシさんから部屋に呼ばれてのこのこ私は着いてきた。さすがというかなんというか、彼女はこういう時恐ろしいほど私に対していつも聡く、行動が速い。いや、私が分かりやすすぎるのかな。そして先日の話をぽつりぽつりと私が話した。彼女と私、二人しかいない部屋で。なんでもないようにいつもの飄々とした顔で、私の暗い話を彼女は聞いていた。

「…そうですね、それは、薬が合ってたのはまあ、よかったです。」

「寝れない時がお前、一番キツそうだもんな。」

「そうですか?」

「いや、寝れても辛そうな時は分かるけど。」

「…私いつも辛気臭い顔してるじゃないですか。」

「差分はあるもんだよ、差分は。」

「そう、なんですか…。」

正面であぐらをかいて座った彼女はそう話す。

「…こんな暗い愚痴、いつも聞かせちゃってすみません。聞いてる方も暗くなりますよね。」

「あー、や、いいんだよそれは。悶々としたままお前が過ごす方がお互い蟠り残るし、後々気が滅入るだろ。」

「そう、ですかね。」

「おう。」

顔を覗き込んで、宥めるみたいな声色でそう言われる。こうやって話してもらっては落ち着いて救われて、また落ち込むのかななんて考えてしまう。

「あんまり考え込みすぎない方が精神衛生上は楽なんだろうけどな、こればっかりは性分の違いもあるからアタシの主観だけじゃ話せねぇ話題だけど。

でも、皆なんやかんやお前が落ち度がないやつだからそうしてるんだってのは理解して欲しいよ、アタシは。いや、これもアタシの主観の考えか。」

「…こんなに面倒くさいのに、私。」

「皆どこかしら面倒くさいもんだろ、世の中。」

ゴルシさんはそんな事を当たり前みたいに、なんでもないように話して、絆創膏の巻かれた私の手を庇うみたいに握った。

「お前は良い奴だと思うよアタシは。お前がそう思えないなら保証書書いてやってもいいくらい。」

「なんですかそれ。いらないです。」

おかしな提案に笑いが出そうな声に思わずなった。

「え〜いらないのかよ。」

「いりませんよ。」

「そ。…もう少し楽に生きられるようになるといいな。」

「…とりあえず今は、貴方にこうやって一緒にいて、話聞いてもらっただけでだいぶ楽です。…でも、なんか、なんていうか、その内だんだん他人に依存しちゃいそうで怖くなっちゃって…。」

「依存とは違くないか?ストレス溜まったり嫌な思いしたなら頼るのも正当な手段だろ。」

「…正当ですかね、今の私。」

「おう。」

「…それ、なら、いいのかな。」

迷ったような口ぶりになってしまった私を心配するみたいに、彼女は少し私のいる方に寄ってきた。

「一人でなんか抱えてる方がむしろアタシは怖いから、寄りかかってくれた方が嬉しいよ。他のやつらもそれは一緒だろ。」

心底真面目に心配しているような感じの声になるから、なんだかそれが浅ましくも嬉しいような申し訳ないような気持ちになる。

「…わ、かりました。」

「ん。…わりぃ、ちょっとこっち来て。」

何かもの欲しげな、悲しそうな目をした彼女に思わずそう言われて、にじり寄った。すると酷く優しい、宝石かなにか大切なものを触るような手つきで首元や頭を撫でられた。至近距離がいつまでたっても気恥ずかしくて、でも幸せな気分にもなるから、頭がぐるぐるとしている。撫でるの好きなのかな、この子。

 

撫でるのに満足して手が離れたと思ったら、今度は私の頭を両手で包むみたいにして、少し撫でてきた。

「…いいか?」

有無なんかもう私の中では決まってるのに、なんでこんな声色で聞いてくるのか。

「…お好きにしてください。」

どうにでもしてくれていいと、私がそのように言葉を返すと、端正な顔と魅惑的なピンクの瞳が近づいてきた。

それから、唇が触れた。なんだか少し悲しいような、でもやっぱり幸せな、ふわふわした一瞬のキスだった。




ファンデーションテープあれ前に私も使ったことあるんですが、至近距離だと若干境目見えたりしちゃうので(物にもよるけど)採血検査とかの場面で看護師さんに気づかれるかもしれないし気づかれないかもしれない。

併走トレーニング回でモブコと併走して絡んで欲しいウマ娘は?

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