赤いハート型のボックスに入った、赤い包装紙にキャンディみたいに包まれた、八つの丸い小さなミルクチョコレート。
なんで買ったあとに、渡す前にこんな急激に恥ずかしい気持ちになるんだろう。
いや、この時期は特殊な包装のものが出回ってるものだし、ハートくらいどうってことないはず。これは私の思い込み過ぎ。ゴルシさんそんなの気にしないって。
悶々としながら彼女の自室のドアの前に、いかにもチョコレートが入ってますと言った感じの紙袋を持った女が一人。なんてバカらしい。
『バレンタイン』
曲がりなりにも私のような関係性の存在が彼女相手にこのイベントを無視するのはあまりにも失礼だろうと、用意をしてきたのはいい。
いや、でも、流石にハートに赤って。いやいやいや。買う時は可愛い箱で去年より彩りある風に見えるかな、なんて考えてたけど。
去年の質素なリボン包装の友チョコから雰囲気変わり過ぎてるよね。
……さすがにこれ調子に乗ってると思われない?
「…どうしよ。」
かと言って今から引き返すのも良くない。教室でも似たようなこと考えて渡すタイミング逃したじゃないか。
でも。しんどい、引かれないかなこれ。こいつ流石に浮かれすぎじゃね?なんて。いや、もっと相手を信頼するべきだよね。相手はゴルシさんだし。これは私個人の勝手な心配だよね。
ああ、でもやっぱり、今やろうとしてることがものすごく気持ち悪くて重い行為に思えてきてしまう。でも、
「こんなところで突っ立って、どうしたんだよ?モブコ。」
「……あ。」
廊下の蛍光灯に照らされた芦毛がキラキラと靡く。色素の薄い、長いまつ毛に縁どられた魅惑的な大きい瞳が、こっちをあどけなく見てる。
うだうだ考えている内に、部屋の主に見つかってしまった。
「あ、それ、バレンタインのチョコか?」
私の手元の紙袋を見つけ、彼女はそう尋ねてくる。
「え、あ、は、はい。」
「毎年どうもくんだなー。あ、とりあえず部屋入れよ。アタシもチョコ、お前にあげたかったところなんだけど、今日なかなかタイミング合わなかったし。」
なんでもないように、彼女はいつものへらへらとした声色で、そう言ってドアを開けた。危うく部屋主のいない部屋をノックするところだったのか、私は。余計恥ずかしくなってきた。
ドアを開ける彼女の手元には、色々なチョコの入った袋が複数あった。
おそらく、多岐に渡る彼女の人脈により渡ってきた品々。
まあ、私もいくつか貰いはしたが、彼女のそれは比べ物にならない程の多さ。
もしかしたら、私の勝手な妄想でしかないけれど、恋心を託した誰かの物もこの中にあるのだろうか。
胸を刺した感情が、いるかもしれない『彼女達』への申し訳なさなのか、分不相応な醜い独占欲なのか、その判別は一旦辞めることにして、私は彼女に続いて部屋にお邪魔した。
「ありがとうオリゴ糖〜、開けていいかぁ?」
「え、と、はい。」
左隣に座って、紙袋を開けようとするゴルシさん。気恥ずかしくて、手を前で組んで斜め右下に目線を向けたまま、私は歯切れの悪い返事をした。
紙袋のテープをペリペリ剥いで、ゴルシさんは赤いハートの小さなボックスを出してしまった。
紙袋から赤いハートを手に取って、まじまじ見つめている芦毛の美少女という構図はとても絵になるけど、何も言われないこの数秒間が気まずくて、口から本物の心臓を吐き出しそうだ。
「…へえ、可愛いじゃん。」
彼女はニヤッとして、心做しか嬉しそうな声色でそう言葉を吐き出した。
「……ほ、んとうですか?」
息が一瞬詰まった心地がした。
「おう。…これ何味?」
「あ、はい、たしか全部ミルクチョコレート、です。」
「一個食べていい?」
「ど、どうぞ。」
一つチョコレートを取り出して、ゴルシさんは赤い包装紙をくるんとしてチョコを口に入れた。咀嚼をした後、動いた彼女のすらりとした喉元までじっと見ていた私は、我ながら浮き足立っているとは思う。
「うん、これうまいな。買ったやつ?」
二度目の安堵が胸を伝う。
「あ、はい。お口にあったならその、よかったです。」
「…どうかしたのか?なんか辛気臭ぇ顔になってるけど。」
「あ、いや。その、あの、去年、差し上げたものよりラッピングとか色々派手ですし、なんかその、もしかしたら重いって思われないかなって……。」
「物理じゃなくて、精神的な意味で?」
「…はい。」
手に力がこもって、掌に爪が食い込む。言い訳がましい喋り方が自分でも嫌になる。
「これくらいで重いとかないわ〜。ゴルシちゃん力持ちだし。…嬉しいよ、純粋に。だからそんな顔すんなよ。」
「え、あ、えっ、と。」
また変な表情になっていたのかと思うと、しどろもどろになってしまう。
「ほら、おどおどしてないで、そこはありがとうでいいだろ?ほらー。」
ぷに、と頬を引っ張られる感触。横の彼女は悪戯好きの少年みたいに笑って、私の頬に手を伸ばしていた。
「ひゃ?ひゃめてふあさいよお。」
「へへ。可愛い。」
顔がなんだかぽっと熱くなる。なんだか私、まるで単純明快な女だ。こんな彼女の一言で気分が上がって。でも、嫌な感じはしない。
「…赤くなってるじゃん。」
頬から手を離されてから、そう指摘されてますます恥ずかしくなる。
「や、だっ、て、私が可愛いとか、その、急に、あの…。」
「…可愛いよ。」
「いや、もう、わかりました。はい、だから、えっ、と…ううー。」
二月なのに顔から火が出そうだ。
膝を抱えて俯くしか防御方法がない。
「あ、下向くなよー。ゴルシちゃんからもチョコあんだぞ。ほら。」
顔を上げてみると、そこに突き出されたのは淡いピンクの箱。
「……あ、ありがとうございます。」
「おう。開けてみろよ。」
おずおずと、可愛らしいイラストと『Thank you』という黒い太字のギフトロゴが記された鮮やかな箱を受け取った。開けてみると、四つのブラウニーが個包装されて、綺麗に並んでいた。
「あ、このお店。前に話した…。」
「そう、前に食べて美味しかったって言ってた専門店のやつ。ギフトボックスもこういうとこはやっぱりあるみたいだな。」
覚えてくれてたんだ。あんな取り留めない日常会話の話。
「…あの、頂いていいですか?」
「うん、アタシもさっき貰ったやつ一個食べたし。」
個包装のビニールを取り払って、茶色いブラウニーを一口かじる。
甘くてほろ苦いチョコレートの風味とブラウニー特有のしっとり甘い感じが口に広がる。
「あ、やっぱり美味しい…。」
思わずちょっと表情がゆるんだ私を見たのか、ゴルシさんはニコッとしてこう返してくれた。
「ならよかった。」
手に持っていたブラウニーを一つ食べきってから、隣を見て、会釈をした。
「あの、すいませんわざわざ、こんな。」
「あ、いや、いいんだよ。去年もお互い貰ってたし。」
そう返事をしたあと、彼女の大きな手が私の頭上に伸びて、頭を撫でてきた。
「可愛いなあ、お前。一個一個なんかどぎまぎして。慣れてないのな。こういうことの塩梅。」
「まあ、それは、そう、かも。」
「ま、お前が愛情の過剰供給でもう嫌になるくらいアタシはまだまだこうやっていたいから。そのうちあっさり受け入れられんじゃねえの。」
ほわほわとした錯覚を見てるような気持ちになる。本当にずっとそうして貰えたらどんなに幸せか。申し訳なさも嬉しさもごちゃまぜな思考回路すら、こうやって宥めすかすみたいに頭を撫でられると溶けそうだ。
なんだか余計愛おしくて切なくなって、彼女の胸元にぎこちなく、ゆっくり飛び込んだ。
「…もうちょっと撫でて、欲しいです。」
柔らかくて、暖かい。照れ隠しのように彼女の服の裾を掴む。
こんなことは我ながらはしたない気もしたけど、ゴルシさんはちょっとの間の後に、私の背中に腕を回して、こう応えた。
「…ちょっとじゃなくて、すごく撫でてやるよ。」
大事に抱え込むみたいに、ふんわり頭と背中に寄せられた手が、酷く心地よかった。
needy girl overdoseというゲームに最近興味があります。あめちゃん…
併走トレーニング回でモブコと併走して絡んで欲しいウマ娘は?
-
アグネスデジタル
-
ナイスネイチャ
-
ハルウララ