久しぶりの割に終始モヤッとしたやや暗い話です。すいません。gls割と真面目かもです。
キングとデジたんは匂わせ程度の描写で出てきます。
三月、中京レース場、芝1200。短距離GⅠの一つ、高松宮記念。
確かにいつか私の隣にいた見知った二つのシルエット。
見えないかなと思いつつ、私がパドックへ控えめに手を振ると、小柄な桃色のふわりとした髪を揺らした彼女はあからさまに嬉しそうにした。彼女は相変わらず目がいいみたいだった。
キングさんも少し、目配せをしていた、たぶん。
18人のウマ娘がゲートに並んで、薄曇りの刹那を駆けた。
観客席側に私はいた。喧騒は遠いけれど、確かにそこに電光石火の熱はあった。風が吹き抜けて、大衆が湧く。ゴールまでは中長距離に比べるとすぐで、見る側に回ると体温の生々しい白昼夢か幻のようでもあった。
ここに立っていたいと願ったウマ娘は何人いるのだろうか。それは叶わず、私と同じようにどこか群衆やスクリーンの視聴者Aになった少女が何人いるのか。
ふとそんな水を差す自分もいたが、なんだかそれをこの場で考えるのは本当によくない気がして、一旦脳みそを裏返しにしておくことにした。
悪く言えば逃避だと思うけど、嫌われ者だった時のライフハック、なんて、ブラックジョークにもならないかな。
いや、もしかしたら、本当は愚かな私が傷つきたくないだけだったのかもしれないけれど。
「…なんか、調子悪いな。」
体が重い。また食も細くなった気すらする。ただでさえ食べられないのに。
ここ三週間くらい、少しずつなにかが自分の体の中で下降するような、力の無くなる心地がする。
季節的な寒暖差によるものであってほしいけれど。虚弱体質のせい、とは違う“何か”が背後に迫る感覚がする。
「……ガタがきたのかな。」
人気のない休憩スペースでぼやく。なんだか元々あってなかったようなものに対して。
恵まれているとは思う、祝福もされてはいる。いつだって。トゥインクル・シリーズでオープンタイトルを取ったウマ娘だという経歴があれば将来的な活路、進路は見い出せはするレベルなのだ。十分立派とその道の知識がある人なら口を揃えて言うけれど。
そうかも。そうだ。そうだ。
周りにも恵まれている。勿体ないくらいに。最近は特に。幸せに生きた気はする、昔に比べたらだいぶ。
そうだけど。
寂しさと孤独感にはいつも静かな音が鳴る。
夜風の静かに吹く音と、寮内の誰かの弾んだ声が遠くに置かれているような錯覚。
寮の裏側でしかないのに、今は地球の奥深くみたいに、宇宙の底みたいに静かだ。
暗くなってきた頃特有のひやりと頬に這う感触が、なんだか慣れ親しんだ何かに感じるのは、私が寂しい奴だからだろうか。
「あ、いた。」
「……どうも、こんばんは。」
喧騒から離れたはずの薄暗い裏庭で、白銀の髪を揺らした長身の見知った陰、貌が現れた。
しゃがんでぼんやりした私の頭上で、キャンプで無垢に笑う少年のような表情をして。
「祝勝会、楽しかったな。」
当たり前のように、目線を合わせてしゃがみこんできた。こういう目の合わせ方をされると、なんだかよく分からない気持ちになる。
「…この時期に勝った後輩達のまとめてって話で、私、知り合いでもないのに混じっちゃっていいのかと思いましたけど。意外と皆ああいうとこ集まりますよね。フレンドリーというか、なんというか。…あの子達、嬉しそうでしたね。」
「な。あ、キングがお前のことさっき探してたぞ。なんか話したいみたいだったし。いつの間にかいなくなってたから、アタシもてっきり先に部屋行ったのかと思ったら、ここいたから。」
「あー、なんか、すいません。もうちょっと外の空気吸ったら中に戻ろうとしてたんですけど。キングさんには私から連絡します、後ほど。」
寮の集まりでなんとなくその明るい雰囲気に交じってはいた。さっきまで。
クラスの子とかと喋ったり、ジュースを飲んだり。
でも正直ああいう場だと、ゴルシさんはいつも周りの人と話しているから、邪魔もいやだし、基本隅にいたのだけれど。
あ、そういえば、キングさんとデジタルさん探せなかったな。デジタルさんはもしかしたら、あの場にいなかったのかもしれないけど。
「ちょっと隅にいたと思ったらすぐまたどっか行くよな、モブコ。」
「いや、なんか少し、気分的にまた一旦一人になりたくて。あ、いや、クラスの子とかとも普通に楽しく喋れた、んですよ私。ちゃんと、それは、本心にあったっていうか。」
「あー、や。これ、咎める流れではないから。別にヤなことがあったとかじゃなくて、だよな?」
「あ、はい…。」
どうやら私の説明がなくても、彼女はそこの考えに辿り着いていた。
なんだか、気遣ったつもりが、私結局嫌なタイプの子になってないかな。
「……ゴルシさんって人がいいですね、やっぱり。わざわざ、その。話に来てくれて。」
こんな回りくどくて、嫌味ったらしい話をする奴だっただろうか、私は。
でもさ、正直に不調だって話して、それでどうする訳?自分の事ってどこまで、どう話したらいいのか時々わからなくなる。こういう時どう話せばいい?
「そうか?べつに普通に、誰かと話す時はこんなもんじゃないか。お前もアタシも。なんなら、お前の方が気遣うタイプだろ。」
あくまでいつも通り、彼女はそう言葉を返してくれた。
「……私、周りに思われてるほど優しくないんですよ。」
「え?」
「なんか、皆私が親切で清いみたいに言ってくれますけど。ただ、その、本当は傷つけられたくないだけなんじゃないかなって。嫌われたくないっていうか、結局、そういうのって自己防衛の手段だったんじゃないかなって、この間は思ったり…。」
何を口走っているのか。酷いな。気づいて会話を途切れさせようとした時にはこうなった。
やってしまった。
「あ、なんて、そんなこと貴方相手に急に言われてもって話ですね、ごめんなさい。…先戻りますね。」
一旦部屋に帰って頭を冷やそうとした。すっと立って立ち去ろうとする。そうする以外の選択肢は要領が悪いバカな私には思いつかなくて。
「あ、いや、おい。」
当然だけど、彼女はすぐ私に追いついて、私の情けなく細い腕は掴まれた。あーもう、なんでこういう時も上手くできないの、私。
「いや、いいですよ。ほんと。だいた「いいだろ、別に。」
「……は?」
「優しくなくてもいいよ。多少は感情任せでも、わがままでも。悔しかったりモヤモヤしたら誰だってちょっとはそうなるから。罰は当たらないだろ、悪戯に傷つけた訳じゃないから。
4.3光年の生涯さ、上手く処理できないこともあるだろ。今までお前我慢してたよ、ちゃんと。だからいいよ、ちょっとくらい。」
飽くまで声色と表情はいつも通り飄々と余裕がある感じなのに、どこか私の腕を掴む手は固かった。
「…なんですか、それ。ていうか、光年って寿命の長さの単位じゃないし。」
頼りない私の声帯から出た震えた声が、夜の冷えた空気に舞って、ポンと消えた。
次の話の事ははっきりしていないですすいません。
更新いつになるかもわかりません、本当すいません。
でもこのシリーズの話久々に書き上げて良かったです。
併走トレーニング回でモブコと併走して絡んで欲しいウマ娘は?
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アグネスデジタル
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ハルウララ