昨日の大雨が嘘のように、空は綺麗に晴れ渡っていた。少し早起きして朝食を済ませたアオイは、ミズゴロウを連れて宿泊所前の広場で体を動かしていた。
「気持ち良い朝だなぁ、ミズゴロウ」
大きく伸びをしながらミズゴロウの方を振り返ると、昨夜の大雨であちこちにできた水たまりを渡り歩くようにして水浴びをしていた。
「旅のトレーナーさんかい?」
声の方を振り向くと、着物姿のおばあさんが立っていた。
「はい、おはようございます。」
「おはよう、元気が良くていいね。いくつなんだい?」
「15歳です、こっちは相棒のミズゴロウです」
アオイが紹介するとおばあさんはミズゴロウの方を見て優しく微笑んだ。
おばあさんはトウカシティに住む孫に会いに行くところだったが、昨日の大雨でマッスグマカーが途中で止まってしまったらしい。
「それは大変でしたね…、雨だと気分も下がりますし勘弁して欲しいですよね。いつも晴れならいいのに」
「ふふ、そうでもないわよ」
おばあさんは空を見上げながら続けた。
「ホウエン地方は自然に恵まれた豊かな国、大地と海がちょうどよくバランスをとってお互いを支え合ってるの。晴れと雨も同じ、どちらが欠けても人やポケモンは生きていけないわ。ホウエン地方には古くからそういった自然に関する伝説が数多く残されてるのよ」
「そうなんですね…雨をそういう風に考えたことはなかったです。でも大地と海、晴れと雨が支え合ってるって素敵ですね」
「そうでしょう?それにほら、あなたの相棒は雨が大好きみたいよ」
おばあさんはミズゴロウに声を掛けた、水浴び…というよりもはや泥浴びをしていたミズゴロウも、視線に気づいたのか満面の笑みを返した。
「そうか、もしかしたら昨日の雨の時も外に出たかったのかもしれないです。ミズゴロウが喜ぶなら雨も大歓迎ですね」
おばあさんに笑いかけると、そうでしょう、と頷いていた。
軽い散歩を終えて宿泊所に戻ろうとすると、ミズゴロウがふと茂みの方を振り返った。
「どうした?」
声を掛けたがミズゴロウは茂みの奥をじっと見つめていた。するとバサバサと羽ばたく音が聞こえ2匹のポケモンが空から茂みの奥に降りて行った。
「スバメだ」
呟くと同時にミズゴロウを見たが、ミズゴロウは既に茂みに向かって駆け出していた。
茂みに飛び込んだ音に気付いたのか、1匹のスバメがミズゴロウと対峙した。2匹目の姿はまだ見えない。
「ミズゴロウ、準備は良いか…たいあたり!」
ミズゴロウが勢いよく走り出す、スバメが高く飛び上がって回避しようとしたが間に合わず、たいあたりが直撃した。体勢を立て直したスバメが急降下してミズゴロウに迫る。
「ジャンプしてかわせ!」
タイミングよくジャンプしてかわしたものの、通り過ぎたスバメが着地隙を狙って戻ってくる。するどいくちばしでつつかれ、ミズゴロウが苦しそうな声を上げた。
「一度茂みに隠れるんだ!」
転がるように飛びのいて茂みに身を隠す、スバメは再び飛び上がり、周囲の茂みに目を光らせている。
ミズゴロウは茂みの中でじっと様子を窺っているが、どこかで手を打たなくてはならない。アオイは茂みの周りを見渡し、ミズゴロウに次の指示を出した。
「ミズゴロウ、そのまま少し右に移動して茂みから出るんだ!」
ミズゴロウは茂みに身を隠しつつ移動し、少ししたところで茂みから顔を出した。それに気が付いたスバメが再び急降下を始める。それを見てアオイがミズゴロウに声を掛ける。
「切り株に向かってジャンプ!」
ミズゴロウは右前方にあった切り株に向かってジャンプした、再びうまくスバメとすれ違ったが、先ほどとは違い既に着地して一時的にスバメより高い位置を取っている。
「そのままたいあたりだっ!!」
1回目と同じように地上スレスレでUターンして戻ってきたスバメは、既に体制が整ったミズゴロウを見て急旋回を試みたが間に合わず、のしかかる形でたいあたりが直撃した。
「よしっ!それなら…!」
アオイがここぞとばかりにモンスターボールを構え、振りかぶったその時…大きな鳴き声を上げながら後方からもう1匹のスバメが迫ってきた。モンスターボールを投げようとするアオイの頭をつついて来る。
「いてっ!なんだ、やめろ!」
腕で振り払おうとするが、スバメはなかなか離れない。
その時、水の塊がアオイの頭上を通過してスバメに直撃した。怯んだスバメは小さく声を上げながら飛び上がって逃げていった。アオイはびっくりしてミズゴロウの方を見たが、ミズゴロウ自身も何をしたかわかっていない様子だった。
「今のはみずでっぽうだ…すごいぞミズゴロウ!」
ミズゴロウは相変わらずきょとんとしていたが、アオイが無事であったことを知りホッとしていた。
しかしその隙をつくように1匹目のスバメが飛び上がり、ふらふらと羽ばたきながら逃げていった。
「あっ…、まぁしかたないか」
アオイがミズゴロウに笑いかけた。
その時、一匹のポケモンが茂みの奥の水たまりからアオイたちを見つめていた…
「悔しいなー、もうちょっとだったのになぁミズゴロウ!」
ミズゴロウも前脚で地面を叩いて悔しそうな顔をする。
「あらあら、朝から激しい戦いだったのね」
クレアが靴ひもを結びながら答える。アオイとミズゴロウもバトルの後シャワーを浴びて、出発の準備はばっちりだ。
「でもミズゴロウが新しくみずでっぽうを使ったんだぞ、すごいだろ」
「ほんと?やるわねあなたたち、私たちも負けてられないわ」
アオイとクレアは宿泊所を出て、再び102番道路をトウカシティに歩き出した。
ミズゴロウが何かの気配を感じて茂みの方を振り返る。しかしそこには何もいなかった。
雨上がりって空は明るく晴れる印象がありますけど、実際は湿気があってじめじめしてませんか?今年は早めの梅雨明けで嬉しかったですね。