海を大地をポケモンたちと!   作:千月凪

12 / 24
突然声をかけられてスイという少年の話を聞くことになったアオイとクレア、なかなか心を開いてくれない彼とどんな話をするのだろうか


昼下がり、スイの思い

 

宿に着くとスイの祖母が出迎えてくれた。庭が見えるテーブルに案内され、冷たいお茶と羊羹を用意してくれた。スイの祖父母が始めたこの民宿はもうすぐ50周年を迎えるらしい。リフォームや修繕などはこまめにやっているらしいが、それにしても手入れの行き届いたきれいな宿だった。

 

「スイはなんで旅に出たいんだ?」

アオイが訊ねるとスイはうつむいて、小さな声で答えた

「別に僕は何かしたくて旅に出たいってわけじゃない、父さんが勝手に決めてるだけなんだ」

スイの両親は仕事の関係で長い間別の地方に住んでいた。祖父母が高齢になったため家族で昨年ホウエン地方に引っ越してきていた。以前から仕事で家を空けることの多かった父は相変わらずで、先週2カ月ぶりに家に戻ってきたらしい。

「そういうことだったのね」

事情を聞いてクレアはうっすら感じていた父と子の距離感に納得していた。

「別に何か目的を決めて旅に出なきゃいけないわけじゃないのよ、やりたいことが決まってる人もいれば、何をしたいかを探す人もいる、とにかくポケモンと心を通わせるための時間にする人もいる…って私たちがお世話になってる博士は言ってたわ」

スイは考え込むように机のカップを見つめていた。

「心を…通わせる」

 

ホウエン地方ではたしかに多くの子供が17歳になる年にパートナーと共に旅に出る。ただしそれは決してルールではない。旅に出ず学問を究める者もいれば家業などを継ぐため家に留まる者もいる。基本的に16歳~25歳の若者には公的な補助が出る仕組みになっており、その期間をどう使うかは人それぞれである。

「別に旅に出ることは絶対ってわけじゃないからな、出たくないなら他にやりたいことを探せば良い」

アオイが羊羹に楊枝を刺す、しっとりしていてとても美味しい。

「出たくないってわけでもないけど…」

「旅に出るって言ったって目的は人それぞれでいいと思うわ。お父さんがどう思うかはわからないけれど、私やアオイみたいにジムに挑む人もいれば旅先でいろんな人と出会って、いろんな経験をして、なりたい自分を探す人だっている。」

 

幼いころから両親の都合で引っ越しの多かったスイには、心からお互いを理解しあうような友達も、ポケモンもいない。どんなに気が合うと思っていた友達も、離れ離れになればすぐに新しい友達を作り自分を忘れてしまう。スイが初めてその事実を目の当たりにしたのは、あるお祭りで引っ越し前によく遊んでいた親友を見つけた時のことだった。およそ1年ぶりの再会に胸を高鳴らせながら声をかけると、彼はまるでスイのことなど忘れてしまったかのように他人行儀な挨拶を返した。ぎこちない会話を続けていると突然彼はどこからか名前を呼ばれ、「それじゃ!」とだけ言い残して走りさった。スイが見たこともない人たちに囲まれてかつての親友は楽しそうに笑っていた。

それでもスイは悲観的にならず、連絡先を交換したり、年に数回会う約束を取り付けたりすることで引っ越した後も関係を繋ぎとめるための工夫をするようになった。しかし、それらはいずれも上手くはいかなかった。彼らにとってスイは、突然やってきてわずかな期間でまた街を出て行っただけの人に過ぎないのだ。手紙やメッセージが返ってこなくなったこと、約束したはずの待ち合わせ場所で一夜を明かしたこともあった、スイが心を閉ざすのにそう時間はかからなかった。

 

「ポケモンは好きなのか?」

アオイが聞くとスイはわからないと答えた。引っ越しが多く負担がかかるからという理由で母もスイもポケモンを持っていない。

「そっか、じゃあせっかくだからミズゴロウと一緒に遊ぼうぜ。別にスイもポケモンを捕まえろって言ってるわけじゃない、ただ友達になってくれってだけだよ」

アオイはモンスターボールを転がし、出てきたミズゴロウが右の前足を小さく上げてスイに笑いかけた。

「ど…どうも…」

「ミズゴロウ、今日は晴れてるな、あとでシャワーの時水浴びしような」

アオイが声をかけるとミズゴロウは嬉しそうに声を上げた。

「この子は水浴びが好きなの?」

「あぁそうだよ、雨の後なんかはわざと水たまりのあるところを歩いたりするんだ。朝の散歩中にやるもんだから泥んこで大変だったけど、そのままがいいみたいなんだ」

アオイが笑いながら言った。

「どうしてわかるの?」

スイは不思議そうに聞いた。

「わからないよ、だからたくさん一緒に過ごすんだ。ミズゴロウのことをよく見て、話して、考えるんだ。いろんなことを一緒に経験して、そうやって少しずつ仲良くなっていくんだよ。」

「な、ミズゴロウ。」とアオイが覗き込む。ミズゴロウはきょとんとしていた。

「まぁ俺たちも一緒に旅を始めてまだ少ししか経ってないからな」

アオイが苦笑いした。

 

夜になりアオイとクレアはそれぞれの部屋に入った。おやつの羊羹に加えて夕飯もたっぷりいただき、明日の出発に備えて早めに休むことにした。

「ん?あれは…」

部屋の窓から玄関前の広場を見下ろすと、パジャマ姿の誰かが森のほうへ歩いていくのが見えた。

 




過ごしやすい季節になってきました。PCが直ったのでまた投稿していきたいと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。