海を大地をポケモンたちと!   作:千月凪

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踏み出す一歩

”わからないからたくさん時間を過ごして理解する”というアオイの言葉がスイの頭にずっと響いていた。寝付けないまま時間が過ぎ夜も更けたころ、スイは思い立って玄関へと向かった。

 

 はじめてそのポケモンを見たのは引っ越してすぐのことだった。祖母の手伝いの合間、裏手の森の中にある切り株に腰掛けて休んでいた時に視線を感じて振り返ると小さな子供のようなポケモンが木の隙間からこちらを見つめていた。それから数日に1回のペースでそのポケモンはスイの前に現れ、そのたびにスイはいろいろなこと話した。ポケモンは言葉を話さないけれど自分の気持ちを理解してくれているような不思議な感覚があった。

 

 アオイが宿泊する部屋の窓から見えるのは宿舎の北側、玄関とは反対方向だ。外はすっかり夜だが明かりが木の枝に巻き付けられていおり森の奥の方へと続いている。アオイが玄関から外に出て先ほど自室から見下ろした建物の裏手に回ると少し離れたところを明かりに沿って森の奥に入っていくスイの姿が見えた。疑問に思いながらこっそり後をつけていくと、少し開けたところでスイが明かりの道から外れた暗い森の中に向かって何やら呼びかけ始めた。

「おーい、出ておいでよ」

 誰も答える者はいないようでアオイが声を上げようとした時、スイが何かに気付いて木の間をじっと見つめた。

「出てきてくれてありがとう、久しぶり」

 アオイからは木の陰になって見えないがスイが手を振る先には誰かいるらしい。アオイはそのまま近くの木の根元に座り込んでスイが誰かと話す声を聞いた。

 

「最近出てこれなくてごめんね、お父さんが帰ってきててなんだか落ち着かなくて。」

 スイは木の陰にいる何かに向かって話し続けた、父親の話、アオイとクレアの話、そして旅の話。

「その人たちは何をするか決まってなくても旅に出ていいんだって言うんだ。ポケモンと仲良くなったり友達を作ったりするために旅をしてもいいんだって。それなら僕は君と友達になりたい、いつも自分の話ばかりして君のことを何も知らないから、君のことをたくさん教えてほしい。どうかな?」

 スイの問いかけに対し、木々が風に揺れるような柔らかく優しい鳴き声が答えた。アオイは振り返ることなくスイたちの邪魔をしないようそっとその場を離れた。

 

 翌朝、デッキでアオイとクレアが朝食を食べていたところにスイが食後のコーヒーを運んできた。

「え、えーっとそうだクレア、新しいポケモンを仲間にするのはどうやってやるんだったかな」

「な、何を言っているのアオイ、博士に教わったじゃないのそんなことも忘れてしまったの」

「ははは忘れてしまったよ、えーっとボールを使うんだったかな」

「そうよそうよ肝心なのはモンスターボールよ、これよこの赤いボールよ」

 クレアがモンスターボールを見せつけながら言う。机の下でミズゴロウとアチャモが呆れた様子で首を振っている。

「モンスターボールがあればポケモンを捕まえられるの?」

 スイがコーヒーを机に置きながら2人に尋ねた。

「そうそう!このボールの中にポケモンを入れて一緒に連れていけるんだよ!」

「最初のポケモンを持っていれば近所のポケモンセンターでトレーナーIDを発行できるの!それで旅に出られる!」

 アオイとクレアが食い気味に答える。

「どんなポケモンでもいいの?」

「どういうこと?」

 クレアが尋ねるとスイは伏し目がちに答えた。

「お父さんは知り合いの有名なブリーダーからもらったポケモンを紹介してくれるって言うんだ」

「最初のポケモンはどんな風に手に入れた子でもいいはずよ、自分で捕まえられるってところ見せてあげればきっと納得してくれる。アオイと私で教えるからこのあと玄関前の広場に来てくれる?」

 スイが頷く。

「よし決まり!」

 

 アオイとクレアはポケモンの捕まえ方をレクチャーし、スイも時折メモを取りながら熱心に聞いた。一通り教え終わると出発の準備をすべく宿に戻ることにした。

「まぁ、とはいえ俺もクレアも旅に出てからはまだ新しい仲間をゲットしたことないんだけどな」

 アオイが苦笑いする。

「モンスターボールは投げて当てなくてもいいんだよね?」

「そうだな、身体にこんってぶつけたりポケモンに自分から触ってもらってもいい」

 クレアがボールに軽く触れるようなしぐさをする。

「中は狭そうに見えるけどそんなことないのかな?」

 スイがボールを太陽に透かしながら不思議そうに見つめるが当然中は見えない。

「博士からは快適らしいって聞いたけどな、でもそういえばボールに入りたがらない相棒ポケモンとポケモンリーグを制覇したトレーナーがいたって話を母さんから聞いたことがあるような気がする」

「なにそれ私も知らない」

 クレアは目を丸くした、スイはふーんと言いながらモンスターボールをいじっている。

 

出発の準備を整えてアオイとクレアが玄関に揃った、スイたちも見送りに出てきてくれている。

 「じゃあ俺たちそろそろ行くから、皆さんお世話になりました!」

 アオイとクレアが頭を下げる。スイの祖父母はにこにこ笑って頷いている。

「息子に話を聞かせてくれてありがとう!」

 そういって父親が片手を挙げた時、隣に立っていたスイがふいに一歩前に出た。

「あの…」

「スイ!これ!」

 何か言おうとするスイに重なってアオイは空のモンスターボールを2つスイに手渡した。

「私からも」

 クレアはキズぐすりを2つスイの手に乗せた。

「旅立ちの日に私たちにポケモンを託してくれた博士からもらったもの、スイにも少し分けてあげる」

「だからスイ!またな」

 アオイが笑ってこぶしを突き出す、その隣でクレアが小さく手を振った。

「ありがとう!!!」

 スイが大きな声を出して頭を下げた、スイの家族も少し驚いたような顔をしている。スイはもらったものを抱きしめながら2人の姿が見えなくなるまで背中を見つめていた。

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