「それでは失礼します、対戦ありがとうございました。この先もお気を付けて」
そういうとランニングウェアの女性はぺこりと頭を下げてトウカシティ方面に走り去った。
「くそー、あの人のワンリキー強かったなぁ」
かくとうタイプらしい高い攻撃力に力負けし、ミズゴロウも悔しそうに顔を顰めていた。
「あの人はカナズミシティで1個目のバッジをもらったって言ってた、俺たちももっと強くならないとな」
ライアンとの出会いもあって今日中に森を抜けることを諦めたアオイはもう少し進んだ先にあるキャンプ場を目指していた。
「ん?なんだ?」
アオイが行く道の先で3人の男が争っている。小走りで近付くと痩せて背の高い男と筋肉質な男の若い2人組がメガネをかけた大人の男性から荷物を奪おうとしているようだ。2人組は何やら頭に同じ青いバンダナを巻いている。
「やめろ!離せ!」
「良いから寄越せって言ってんだ!てめぇがここを通るって聞いたから森の出口で待ち伏せしてたのにいつまでもウロウロしやがって、これ以上無駄な時間使わせんな!」
筋肉質な男が叫ぶと近くにいたポチエナが吠え、メガネの青年の鞄に飛び掛かった。
「でんこうせっか!」
アメタマ横からぶつかって吹き飛ばした。
「なんだこいつ、どこから来やがった!」
「こっちだ!なんだか知らないけどその人から離れろ!」
バンダナの男2人はこっちを見ながら何かコソコソ話している。
「なんだなんだヒーロー気取りか?こっちは仕事中なんだよ」
アオイと同じか少し年上に見えるが、2人とも口調や表情で人を威圧する術を心得ていた。
「アクア団の邪魔をする奴は子供でも容赦しねぇ!」
男が声を張り上げると先ほどのポチエナがアメタマに向かって走ってきた。
「アメタマ!あわ!」
「回り込め!かみつく!」
大きく回り込んだポチエナがアメタマの横から鋭いキバでかみつくとアメタマが苦しそうな声を上げる。
「アメタマ!もう一度あわだ!」
至近距離の泡がポチエナの周りで破裂する、ポチエナを振り払ったもののアメタマ自身も衝撃で飛ばされた。
「大丈夫か!?」
アメタマが起き上がり、その眼でしっかりと相手を捉えている。
「たいあたり!」
声に合わせてポチエナが走り出す。
(ただあわを撃ったんじゃまた避けられる…)
「でんこうせっか!」
アメタマが勢い良く飛び出すが、足元に水が無く失速したところでたいあたりとぶつかる。アメタマは軽く跳ね返されつつもポチエナが後ろによろけてバランスを崩した。
「この距離なら!アメタマ、あわ!」
「かわせ!」
ポチエナが状態を捻るが、後ろ脚がもつれた隙に泡が胴に直撃した。
「ちっ、さっきのが効いてたか、おいさっさとやっちまえよ」
ポチエナをボールに戻しながら相方に目線を送る。
「手間掛けさせんなよ」
背の高い方が前に出て来てモンスターボールに手を掛けた。ガタイが良い方とは違って口数は多くないが嫌な威圧感がある。
「卑怯だぞ!2対1なんて!」
メガネの男は鞄をしっかりと抱きかかえたまま声を上げたが、筋肉バンダナがさらに大きな声を張り上げた。
「あぁ!?なんだてめぇ、良いか俺はお前に勝ったんだ、その尻拭いを!このガキが今勝手にやっただけだ2対2だろうが!!」
話が通じる相手では無いと悟りアオイとアメタマが連戦に向けて身構えると、長身バンダナがポケモンを繰り出した。
「ズバット、ちょうおんぱ」
静かに羽ばたきながらそのポケモンはアメタマに正面から向き合った。
(なんだ?何をした?)
「アメタマ!あわだ!」
相手の行動が読めないままアメタマに指示を出したが何やら様子がおかしい。自分の足元に力一杯あわを撃ち出し、反動と衝撃で宙に浮いた。でんこうせっかの指示を聞くや否や茂みに突っ込んで木に激突した。
「混乱してる…さっきのわざか!」
「なんだ混乱は初めてか?終わらせてやるよ、ズバット!すいとる!」
ズバットが羽音を抑えて空を滑るようにアメタマの後ろに回り込む、アメタマはまだ前後不覚だった。
「頼むアメタマ!あわを撃て!」
ズバットが背後から飛び出しアメタマにキバを立てると同時にあわが暴発した。
「よくやったぞ」
倒れたアメタマをボールに戻し、ミズゴロウを繰り出した。
(ちょうおんぱだけは気を付けないと)
「なんだ2匹目がいたのか。同じ目に合わせるだけだ、ちょうおんぱ!」
「ミズゴロウ!大きく横にかわせ!!」
アオイの合図で横に走り出し、茂みの中に身を隠す。ミズゴロウの様子に問題はない。
(やっぱり広い範囲に届くわざじゃなさそうだ)
アオイが安心したのも束の間、バンダナ男が次の手を打った。
「すいとる」
ズバットが口を大きく開けてミズゴロウに向かって飛んでくる。音で獲物を探すズバットにとって茂みは邪魔にならない。
「かわせ!」
飛び上がろうとして茂みにつっかえたミズゴロウの頭をズバットのキバが捕らえた。こうかはばつぐんだ!
茂みから転がり出るように身を捩って放ったみずでっぽうが翼を掠め、ズバットが再び飛び上がる。ちょうおんぱを撃たせたらまずい、アオイが指示を出す。
「ミズゴロウ、続けてみずでっぽう!」
空中にいるズバットを狙って何度もみずでっぽうを放つが、ズバットはひらりひらりと身をかわし、少しずつ距離を詰める。攻撃が途絶えたタイミングでバンダナ男が仕掛けた。
「ちょうおんぱ」
ズバットが空中で体制を整えミズゴロウに正対する。
「今だミズゴロウ!ズバットの真下に向かって走れ!」
これまで見た2回のちょうおんぱでアオイはある仮説を立てていた。
(たぶんちょうおんぱは限られた範囲しか狙えない、かなり繊細なわざだ、だから撃つ瞬間は必ず…“止まってる”!!)
ミズゴロウが真下に潜り込みみずでっぽうでズバットを狙い撃つ。回避が遅れて翼に直撃し、よろよろと落下した。
「ズバット!立て直せ!」
「させるか!ミズゴロウ!思いっきりたいあたりだ!」
飛び上がろうと身体を起こしたところに渾身のたいあたりがヒットするとズバットは天を仰いで気絶した。
「くそ!なんだてめぇ関係ねぇやつがでしゃばりやがって!」
筋肉バンダナが声を上げるとミズゴロウがその足元にみずでっぽうを放ち威嚇した。
「戻るぞ、どのみちそろそろ帰らないとまずい」
陽が傾き始め、森の中は徐々に影が濃くなって来ている。まだ何か言いたげな相方を長身の男が抑え、2人はカナズミシティの方に走り去った。
「危ないところをありがとう!君たちはなんてすごいんだ!」
メガネの男が背後から声を掛ける。緊張がほぐれアオイがふっと息をつくとミズゴロウも脚を大の字に開いて地面にぺたんと腹を付けた。
「ミズゴロウ!」
アオイが駆け寄って抱き上げると右の前脚を軽く上げて応え、アオイの腰に付いたボールをコンコンとつついた。
「良かった、そうだなアメタマも早く治療してやろう」
まずはミズゴロウの体力を回復し、続いてアメタマをボールから出した。混乱は解けていたが起き上がる力は残っていないようだったためすぐに治療しようとアオイがキズぐすりを取り出すと、メガネの男がそれを制した。
「待った、こっちを使ってあげて」
鞄から取り出したそれはキズぐすりのようだったが色がオレンジで少しサイズが大きいものだった。
「これは…?」
「それはS-ポ……あぁまぁ、要するに”いいキズぐすり”ってところかな。普通のキズぐすりよりも効き目があって大きなダメージも回復できる。私のために戦ってくれたんだ、その子を早く元気にしてあげて」
アメタマにいいキズぐすりを使うと早くも痛みが和らいで少し元気になったようだった。
「本当にありがとう、君たちがいなかったら私はどうなっていたか…私はタイスケ、君は?」
「アオイと言います、無事で良かったです」
ミズゴロウも笑顔で声を上げた。