――――ダブルバトル、それはホウエン地方発祥のポケモンバトルの様式の1つで、その名の通り1人のトレーナーが2体のポケモンを繰り出して行う2対2のポケモンバトルである。2体のポケモンで技を重ね合わせたり、片方が相手の注意を惹きつける間にもう片方が大技を放ったりと独自の戦略や技が魅力とされる一方で、2体のポケモンに指示を出しつつ戦闘を組み立てることの難易度の高さから世界的に見てもシングルバトルと比べてトレーナー人口が少ない。近年はホウエン地方以外でもジムバトルの形式として採用されるケースがあるなど徐々に裾野が広がりつつあるが公式の大会は依然として少なく、発祥の地であるホウエン地方で開催される「ポケモンリーグ ホウエン大会 ダブル」は全世界のダブルバトルトレーナー憧れの舞台になっている。――――
「ダブルバトルって…やったことないんだけど…」
テレビで見た程度の知識はあったものの、遊びですらやったことがなかったアオイは困惑したが、目の前の2人は待ってくれないようだった。
「タネちゃん!」
「ハスちゃん!」
2人が投げたボールからタネボーとハスボーが飛び出す。
「しょうがないなもう!」
アオイが覚悟を決めてミズゴロウとアメタマを繰り出す。
(うっ、相性最悪だ)
トウカの森手前の104番道路で野生のタネボーに追い詰められたのを思い出していた。
(とりあえずみずタイプの技じゃ埒が開かない)
「ミズゴロウ!タネボーにたいあたり!アメタマはハスボーにでんこうせっか!」
「タネちゃん!たいあたり!」
「ハスちゃん!みずでっぽう!」
ミズゴロウとタネボーが正面からぶつかる、アメタマはハスボーのみずでっぽうを掻い潜ってハスボーを突き飛ばした。
「あ!ハスちゃん!」
ナオが心配そうな声を上げ、ミオに何か相談している。
「わかった!タネちゃん!ミズゴロウにたいあたり!」
「ハスちゃん!一緒にすいとる!」
2人が攻撃をミズゴロウに集中させた。
「あ、アメタマ!でんこうせっかでタネボーを邪魔しろ!ミズゴロウは下がってすいとるを避けるんだ!」
しかしアメタマが間に合わず、ハスボーの攻撃を避けることに集中してしまったミズゴロウの着地の隙にタネボーのすいとるが直撃した、こうかはばつぐんだ!
「それならこっちも!ミズゴロウはタネボーにみずでっぽう!そのままアメタマもでんこうせっかで追撃しろ!」
みずでっぽうでタネボーを飛ばした先でアメタマがさらに追い打ちをかける。しかしその隙にハスボーがアメタマの後ろに回り込み、ミズゴロウの近くまで迫っていた。
「ハスちゃん!すいとる!」
「させるか!アメタマはでんこうせっか、ミズゴロウはたいあたりで挟み撃ちだ!」
「タネちゃん急いで!たいあたり!」
連続攻撃にハスボーは気絶したが、タネボーのたいあたりが直撃してアメタマもバランスを崩す、その身体が邪魔でミズゴロウは次の動きが取れない。
「ミズゴロウ!みずでっぽうでアメタマに道を作るんだ!」
ミズゴロウが足元の地面からタネボーに向かってまっすぐみずでっぽうを放つ。
「タネちゃん!すいとる!」
「アメタマ!でんこうせっか!」
タネボーのすいとるがミズゴロウに届く前に、全速力のでんこうせっかがタネボーを貫いた。
「「「ありがとうございました!!」」」
試合を終えて3人は握手を交わした。
「ダブルバトル、結構おもしろかったです」
ロッジへの帰り道。アオイが父親に声を掛ける、悔しそうでいてどこか満足そうな娘2人の手を引きながら、私もそう思います、と答えた。
「この前トクサネシティに家族で旅行に行った時にトクサネジムのファミリーイベントに参加しましてね、ジムリーダーのお2人からダブルバトルを教わったんですよ」
今回ナオとミオがやっていたような、ペアになったトレーナーがそれぞれ1体ずつのポケモンを繰り出すのは“変則ダブル”などと呼ばれ、ダブルバトルの入門としても使われるものらしい。
「あのジムリーダー2人も双子でしょう?おんなじだね ーって優しく声を掛けてもらってからすっかり舞い上がってダブルバトルに夢中なんです」
「フウくんとランちゃんはすごい強いんだよ!」
「そうだよ、お兄さんより強いよ!」
俺だって負けないぞ!とアオイが袖を捲り上げる素振りをする。トクサネシティジムリーダーのフウとランはアオイもテレビで見たことがあった、ポケモンバトルの実力はもちろん、ダブルバトルを広める活動も熱心に行っているのが印象的だった。
「アオイ君、改めて今日はありがとう。もしまたどこかで会うことがあればぜひ娘達とバトルしてあげてください」
別れ際、そう言って優しく笑う父親にアオイはもちろん、と答えた。
「またな2人とも!お互いポケモンバトルの練習がんばろーな!」
「がんばる!!」
「またバトルしようね!」
大きく手を振るふたごちゃんに見送られ、アオイはロッジ104を後にした。カナズミシティまでもう少しだ。