「お、アメタマ!あれ見てみろ!」
昨晩の雨で出来た水溜りを滑るように移動しながらはしゃいでいるアメタマにアオイが前方を指差して声を掛ける。
「きっとあれがデボンの会社だ!すげー!でっけー!」
アメタマも圧倒されたようにビルのてっぺんを見上げている。コトキタウン周辺に生息していたアメタマにとっては初めて見る大きな建物だった。一方のアオイはタイスケを思い出していた、実験データや試作品は無事に会社に届けられただろうか。
「ポケモンセンターへようこそ、本日はどうなさいましたか?」
アオイはひとまずカナズミシティのポケモンセンターに到着しチェックインを済ませた。ミズゴロウとアメタマを預けて案内された部屋のある2階に上がる。トウカシティを出て以来久々のポケモンセンターでの宿泊だった。
(えーっと…ジムの場所は…)
自動販売機で飲み物を買いながら、側に貼り出されたタウンマップでカナズミシティジムを探す。
「北の方か…」
「お、あんたもジムチャレンジか?」
自動販売機でコーヒーを買っていた男がアオイに声を掛けた。アオイよりも背は低いが年齢は少し上に見える。
「はい」
「やっぱりそうか、何個目だ?」
1つ目です、とアオイが答えると男は紙パックのジュースにストローを挿しながら、お!初めてのチャレンジか!と声を上げた。
ユウトと名乗ったその男はついさっきカナズミシティジムで4個目のバッジを獲得したところだという。
「ジムチャレンジの予約はもうしたのか?」
予約…とアオイが知らないシステムに困惑しながら首を横に振るとユウトはそうかそうか、と頷いた。
「先輩として俺が説明しよう」
ユウトは鼻高々だった。ジムに行けばすぐに試合ができると思っていたアオイもせっかくだから仕組みを教えてもらおうと考え、お願いします、と軽く頭を下げた。
「いいか、まずジムリーダーってのは挑戦者のバッジの数に応じて繰り出すポケモン決める」
ユウトがピッと人差し指を立てる、これはアオイも知っていた。だからジムチャレンジの順番は自由になっている。
「当たり前だな、ポケモンリーグに出場するようなジムリーダー達が毎回全力で戦ってたんじゃチャレンジャーが勝てるわけがない」
頷くアオイを見てさらに続ける。
「つまりジムリーダーは相手のバッジの数に合わせたポケモンを事前に育てて準備してるんだよ」
ここでアオイが、あ…と小さく声を上げる。
「そうか、事前に次の挑戦者にどのポケモンを出すべきかわかってないと困るってことですね」
ユウトがうんうんと頷いた。
「察しがいいな、その通りだ。例えばたまたまジムバッジ4個のトレーナーが続いたりするとジムリーダー側の同じポケモンばっかりに負荷がかかって後半のトレーナーほど勝ちやすくなる、公平なバトルができなくなるだろ?」
「だから予約が必要なんですね」
「そう、同じポケモンを続けて出さなくて良いようなスケジュールを組んでるんだろうな」
「よくわかりました」
ちょうどその時、階段の下から誰かの声がした。
「ユウトー!早く行くよー」
ユウトは大きな声で返事をすると紙パックのジュースをゴミ箱に入れ、アオイに向かって軽く手を挙げた。
「これから仲間達と祝勝会なんだ、じゃあな!ジムチャレンジがんばれよ!」
ありがとうございます、とアオイは改めて頭を下げた。それほど歳は変わらないのに随分詳しいな、と思うと同時にジムリーダー本人のことをもう少し聞けば良かったと思った。階下を見下ろすと2人の仲間に挟まれたユウトがポケモンセンターを出ていくのが見えた。
一晩休んで翌日、アオイは午前中いっぱいポケモンセンター近くの商業施設を見たり、デボンの本社ビル前まで行ってみたりと街を散策した。
「夕方から雨らしいし食べ終わったら早めにジムに行ってみるか」
テイクアウトしたサンドイッチを公園で食べながらポケモン達に声をかけるとポケモンフーズを頬張るミズゴロウとアメタマが元気よく返事をした。
カナズミシティジムに到着し自動ドアをくぐると正面に大きな受付があり、アオイのほかにトレーナーらしき人が3、4人いた。
「カナズミシティジムへようこそ」
受付の男性が笑顔であいさつした。
「ジムチャレンジに来ました!」
「チャレンジャーの方ですね、ご予約はされていますか?」
「いえ、実はジムチャレンジ初めてで…」
「そうでしたか、これは失礼いたしました。それではまずジムチャレンジャー登録をいたします、そちらの端末にIDをかざしていただいて、あちらの席でお待ちください。」
アオイが言われた通り待っていると先ほどの受付が前に座った。
「お待たせしました、アオイ様のジムチャレンジャー登録が完了しましたので、ジムチャレンジについてご説明させていただきます。」
受付はタブレット端末の画面をアオイの方に向けて説明を始めた。
「ジムチャレンジャーにはホウエン地方にある8つのジムを巡ってジムバッジを集めていただきます。ジムを巡る順番は自由ですし、途中で辞退していただくことも全く問題ございません。ただし前回のチャレンジから5年以上チャレンジが行われなかった場合、自動的にチャレンジャー資格を失いますのでご注意ください。」
画面ではホウエン地方のマップ上でジムがある街が黄色く点滅している。
「ポケモンリーグの補助により、26歳までの間はジムチャレンジに一切費用が掛かりませんので安心して何度でもチャレンジし、ポケモンとご自身を高めてください」
ここまでよろしいですか、という問い掛けにアオイが頷くと、受付は画面をスワイプしてページをめくった。
「次にジムバトルのルールについてご説明します。ホウエン地方の各ジムにはジムリーダーと呼ばれるポケモントレーナーがいます。彼女らはチャレンジャーの実力を測る、いわば試験官です」
画面にはホウエン地方の8人のジムリーダーの画像が映された。
「先程申し上げたようにジムはどの順番でチャレンジしても問題ありません。ジムリーダーはチャレンジャーのレベルに応じて戦うポケモンを決めています。またジムリーダーはそれぞれ得意なタイプを持っていて基本的にはそのタイプのポケモンを中心に繰り出します」
アオイが頷く、昨日ユウトが話していたこととほぼ同じだ。
「ジムバトルでは2対2または3対3のシングルバトルが基本です。6個目のバッジまではお互いに手持ちを伏せてバトルを開始する形式で、7個目と8個目は事前にお互いが手持ちを公開した上で3体ずつ選出して対戦を行う形式になっています。」
受付が、後者の形式は“見せ合い”と呼ばれる、と付け加えた。アオイはこの2つの違いがあまりピンときていなかったが、今質問することでもないと思い、わかりました、と答えた。
「続いてポケモンの交換です。試合中ポケモンの交換は何度していただいても良いですが、どちらかのトレーナーが一度交代した後は一定時間経過しないと次の交代は出来ません。また交代する際は事前に審判に申告するものとし、原則として交代中も試合は続行されます。」
アオイはあまり深く考えずに、はい、と答えた。
「最後にジムチャレンジの予約についてお伝えします。ジムチャレンジは基本的に全て予約制となっております。直接ジムに来ていただくか、ポケモン図鑑のアプリからもご予約いただけます。特別な事情を除き、当日のキャンセルにはペナルティが発生しますのでご注意ください。」
タブレットの画面上で“1週間ジムチャレンジ禁止”と表示されている。アオイはその場でアプリを開き、受付に案内されながら明日15時の枠で初めてのジムバトルを予約した。
「以上がジムチャレンジのご説明となります。ご不明点はございますか?」
アオイは少し考え、1つだけ、と質問をした。
「負けても何回でもチャレンジできるってことでしたけど、予約が取れれば毎日挑戦し続けることもできるんですか?例えば3日分予約しておいて初日で勝てたらキャンセルする、みたいなこともしていいんですか?」
「申し訳ありませんがそれはできません、一度に取れる予約はチャレンジ1回分のみです。そしてご説明不足でしたが、一度ジムリーダーに敗れるとそのチャレンジ当日を含めて3日間は次のチャレンジができません。これは闇雲に挑戦するのではなく、きちんと敗因を分析して次に臨んでほしいというポケモンリーグの方針です」
「わかりました、ありがとうございます!」
アオイが答えると受付は頭を下げた。タブレットの画面をオフにしようとしたところで思い出したようにアオイの方を見た。
「もしよろしければ今行われている試合を見学して行くこともできますよ、今はバッジを5個持っている方がチャレンジされています。ジムリーダーの雰囲気やフィールドも確認することが出来て良いかもしれません。」
「ホントですか!見学していきます!!」
アオイが元気よく答えると受付が入り口から見て左奥にある左右スライド式の大きな扉を手で示した。
「バトルコートはあちらです、試合中大扉はロックされていますので左右にある小さな扉から観客席にお入りください」
良いイメージトレーニングになる、とアオイは目を輝かせて扉に向かった。