海を大地をポケモンたちと!   作:千月凪

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予定外の挑戦者

観客席ではアオイの他にも20人ほどが試合を見守っていた。スコアボードを見ると既にお互いのポケモンが1体ずつ倒れており、2体目がフィールドに立っていることがわかる。

「コドラ…とラフレシアか」

 アオイがポケモン図鑑をポケットにしまいながら呟いた、カナズミシティジムリーダーのツツジはいわタイプの使い手である。

「コドラ!アイアンヘッド!」

「ラフレシア!エナジーボール!」

 ジムリーダーとチャレンジャーがそれぞれ指示を出した。発生が間に合わず少し小さな球になったエナジーボールを正面に受けながらもコドラが構わず突進し、爆風の中から現れたコドラの鋼鉄の頭突きがラフレシアを斜め上に打ち上げた。

「続いてがんせきふうじ!」

「ラフレシア!落ち着いてギガドレインだ!」

 ラフレシアが空中から反撃を試みるが、コドラの足元から浮き上がった複数の岩がラフレシアに向かって飛んで行き、姿勢制御を邪魔していた。無理な体制で放ったギガドレインは着地点に迫るコドラの斜め後ろに着弾し、着地したラフレシアの正面でコドラが前脚を振りかぶった。

「メタルクロー!」

 吹き飛ばされたラフレシアを見て審判が戦闘不能を告げた。チャレンジャーが最後に繰り出したレアコイルにもコドラがかなりのダメージを与え、その後も終始ツツジが押す展開のまま最後はツツジのゴローニャがトドメを刺した。

 

「どうだ?明日あの人と戦うんだ、楽しみだな」

 ミズゴロウはこくりと頷いた、アメタマも真剣な眼差しでフィールドを見つめている。

 試合が終わり観客の拍手が響く中、悔しがるチャレンジャーにジムリーダーのツツジが何やら声を掛けている。チャレンジャーも何度か言葉を返しながらツツジの言葉に深く頷き、最後に深く頭を下げるとバトルコートを後にした。

「俺たちも行くか、明日に向けてちょっと身体を動かしておこう」

 ばらばらと退場する観客に続いてアオイがロビーに戻ろうとした時、フィールドからパチパチと手を叩く音が聞こえた。

「なんだ?」

 アオイが退場列を外れて振り返る、先ほどのチャレンジャーとは別の背の高い男が観客席から降りてジムリーダーに何か話しかけているようだが会話の内容はアオイには聞こえなかった。

 

「いやー、さすがですツツジさん。基本に忠実で攻守共に隙がない、圧巻の試合でした」

 背の高い男が手を叩きながらバトルコートに降りていく。

「どうもありがとうございます、あなたは…この後の次のチャレンジャーの方ですか?」

 ツツジが男をまっすぐ見つめて問い掛けた。

「あー、いやいや全然。私は小さな雑誌のライターをやってる者ですよ、記事を書くために強いトレーナーさんを追い掛けてるんです」

 ライターだという男が小さく首を横に振りながらタバコを咥え、火を付けるとツツジの表情がわずかに曇り、小さく咳払いした。

「そうですか、でもライターさん、ここは禁煙ですのでおタバコはご遠慮いただけますか。取材なら後日受けますので受付でお手続きをお願いします」

 ツツジはあくまで丁寧に、しかし強い意志を持った声で話すが男は飄々としている。

「えぇ?いやいやそんなバカな、じゃあチャレンジャーがほのおタイプのポケモンを出したらどうするんですか、いわタイプ使いのジムだからってほのおタイプが出てこないとも限らないでしょう」

「もちろん試合中はスイッチを切っています。ですが試合が終わり次第速やかに復旧させていますので施設自体は禁煙です」

 ツツジが指差す天井にはスプリンクラーや感知器が設置されている。

「おやおやそうでしたか、これは失礼」

 男は作ったような笑顔のままタバコを地面に捨て、足で踏み潰す。

「ご退場願います、次のチャレンジャーが控えていますので」

 湧き上がる不快感を抑えてツツジが大扉を指し示すが男は動こうとしなかった。

「次の試合ってまだ時間ありますよね?よかったら私と一戦お願いできませんか、実際に戦って強さを感じると良い文章が書けるんですよ」

 ヘラヘラ笑いながら男がモンスターボールを手にした。それは“ハイパーボール”と呼ばれる黒のベースに黄色のラインが入ったもので、通常の赤いモンスターボールよりも少し価値の高いものだった。

「お断りします。バトルをご希望でしたらジムにチャレンジいただくか、取材の時にその旨をお伝えください。いずれにしても受付で手続きいただく必要がございますので今日のところはお引き取り願います」

 ツツジは呆れたようにため息をつくと男を無視して大扉へ向かう。このままでは埒があかないので警備員を呼び強制退出させるしかないと考えていた。しかしその時、大扉が開き受付の男が血相を変えて飛び込んできた。

「ツツジさん…!カナズミ警察から…通報です!デボンコーポレーションに何者かが侵入し…機密書類を持ち去ったたとのこと!」

 受付の男はそう叫ぶとゴホゴホと咳き込んだ、ロビーから大扉を通じて何やら黒い煙がバトルコートに流れ込んでいる。

「犯人は116番道路を逃走中…至急……カナシダトンネルに……」

 受付がまたゴホゴホと咳き込む。

「どうしたのですか!一体何が!」

 ツツジが慌てて駆け寄ろうとするが、黒く細長い体のポケモンが立ち塞がった。

「エンニュート、スモッグ」

 ライターの男が呟くとツツジの目の前のポケモンが薄紫色の煙を吹き出した。身の危険を感じたツツジが思わず飛び退きライターをキッと睨み付けると、ライターはうっすらと笑みを浮かべていた。

「これはツイてる…予定より少し早いくらいですが良いでしょう。カナズミシティジムリーダーのツツジ、ここを通るならまずは私と戦ってもらいますよ…」

「あなた…何者ですか…!!」

 ツツジは既に臨戦体制でモンスターボールを握りしめている。

「そんなことはどうでもいいでしょう、さっさと始めましょう」

 謎のライターはモンスターボールを放り投げた。

 

 先ほどアオイに事務の説明をしてくれた受付の男が黒い煙と共にバトルコートに飛び込んできた瞬間をアオイは目の当たりにしていた。謎の男とツツジの会話は全く聞こえなかったが、受付の男が叫んだ内容だけは鮮明に聞こえていた。“デボンコーポレーションへの侵入” アオイの脳裏には鮮明にトウカの森で出会ったタイスケが浮かんでおり、次の瞬間アオイはポケモン達をボールに戻して考えるより先に走り出していた。バトルコートを飛び出すと、黒い煙に包まれたロビーを走り抜けた。

「カナシダトンネルってどこだ…!!」

 子供だからと見逃されたのか煙に紛れて見つからなかったのか、ジムを出ることに成功したアオイはタウンマップで急ぎ116番道路とカナシダトンネルを探す。しかしそこはカナズミシティから遠く北西の洞窟で、どう考えても歩いて2、3日は要する距離だった。

「遠過ぎる…今から行ったって…」

 ジムリーダーはマッスグマカーなどの移動手段を持つのだろうと考えたが、アオイは金銭的にそんな余裕は無いしそもそも自分1人でマッスグマカーを呼んだこともない。諦めかけたアオイはトウカの森で聞いたタイスケの話を思い出していた。

 “これは僕たちの研究プロジェクトの結晶なんだ!”“必ずこの実験データで製品化を進める、きっとポケモンとトレーナーの役に立つと信じてる。”

 タイスケのアツい思いとまっすぐな瞳がアオイを奮い立たせる。

「そうだ…!」

 アオイはポケモン図鑑を取り出し、一か八かある人物に電話を掛けた。

 

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