「決めろミズゴロウ!たいあたり!」
ミズゴロウが勢いよくぶつかるとやせいのジグザグマは尻尾を巻いて茂みの奥に逃げていった。
「ミズゴロウ!よくやったー!」
アオイが近寄って頭を撫でるとミズゴロウもアオイを見上げて嬉しそうにしていた。
旅は10日目に差し掛かりバトルにもだいぶ慣れてきた。
「アオイ、あれ見て」
マツノがジグザグマが逃げていった辺りを指さした。
「ん?あーっ!」
そこにはかじったような跡もなく綺麗なオレンのみが落ちていた。
「オレンのみだよな?あのジグザグマが落としたのかな?」
ミズゴロウの方を見るとアオイと同じように小さく首をかしげている。
「きっとそうだと思うよ、ジグザグマは落ちているものとかを拾って集めておく習性があるんだ。この辺のどこかに自生しているオレンの木の近くで拾ったんじゃないかな。」
マツノがぐるっと辺りを見渡したが見える範囲にオレンの木はなさそうだった。
「そういうことか!こういうのってもらっていいんだよな?」
「もちろん、バトルの成果の1つさ」
アオイが訊ねるとマツノは笑って答えた。
「マツノはこうやってきのみを集めてるの?」
クレアが横から訊ねた。
初日の夜にポチエナの治療に使ったきのみのジュースや、ここまでの道中でのポケモン達の食事などマツノはいろんなきのみを持っていた。
「まぁこうやって集めたものも多少はあるけど、ほとんどは買うかきのみ狩りに参加して取ってるかな」
「きのみ狩り?」
クレアが聞き返した。
「そう、ポケモン達が好きなきのみをまとめて栽培している人たちがいるんだ。その人たちの敷地できのみを自由に採集させてもらうってわけ。もちろん量や時間の制限はあるし、お金もかかるけどね」
「良いわねそれ!この辺にもあるかしら」
クレアがポケモン図鑑でマップを開きながら訊ねた。
「うーんどうだったかな。俺がここから一番近くで確実に知ってるのはカナズミシティの南の方、こっちからだとトウカの森を抜けたすぐのところにある果樹園だな」
マツノがクレアの表示しているマップを覗き込みながら言った。マップは近隣の町のポケモンセンターで更新してもらうとより詳細なデータがわかるようになるらしく、アオイとクレアのマップにはまだそこが果樹園と分かる表示はされていなかった。
「あとはきのみを売ってる人もいるからそういう人から買うのも良いと思うよ、きのみは地域や気候によって若干種類が異なるんだけど、行商人から買うとその地域では見られないきのみを買えることもある。」
そういうとマツノがきのみホルダーの中から紫色の丸っこいきのみを取り出した。
「例えばこれはセシナのみ、前にキンセツシティの辺りに行った時に果樹園で採らせもらったんだけどこの辺りでは見られなくてね。俺のケーシィはこのセシナがすごく好きだから行商人が持ってるときは積極的に買ってるんだ。」
「さすがマツノ、本当にいろいろ知ってるなぁ!」
「勉強になるわ」
アオイとクレアが感心したように言うとマツノは照れていた。
「今日はあのキャンプサイトで休む?マップによればコトキタウンまでもうそんなに遠くないけどさすがに夜通し歩くのは苦しそう」
クレアが図鑑を片手に近くの広場を見ながら言った。
「そうだな、腹も減ってきたし」
アオイが伸びをした、日は既に大きく傾き森の奥はもう薄暗くなっている。
公共、民間の宿泊施設の他に旅人が休む方法として最も一般的なのがキャンプである。大規模なところだと管理人がいてテントを貸出ししている場合もあるが、通常は持参したテントを広げられるだけの十分なスペースが確保されていてトイレや簡易シャワーなど必要最低限の設備があるだけのものが多い。キャンプサイト以外でテントを張るのもルール上全く問題ないが、キャンプサイトはやせいのポケモンが寄り付きにくい工夫がなされており、そうでない場所でキャンプする場合は十分注意する必要がある。
「それじゃ今日はここで休もうか、夜ご飯どうする?」
マツノの問いかけに各自がごそごそとカバンの中を探した、それぞれの持っていた食材から夕ご飯はシチューに決まった。
「本日のマツノキッチンはシチューになります」
アオイがパチパチと手をたたきながら言うとマツノは食材を手元に集めながら笑った。
「勘弁してよ、そんな大したものじゃないって」
旅人用の簡単な食事はあちこちで購入できるようになっており、アオイとクレアはもともとそれらを食べてコトキタウンまで行こうと考えていた。しかしマツノは料理上手でキャンプの時はマツノを中心に自炊を行っていた。
「いやー、昨日のパスタも美味かったし今日のシチューも最高だよ。俺もこういうのできるようになりたい」
アオイが自分のシチューを食べ終えると手を合わせて満足そうに言った。
「全然簡単だよ、2人もいつも手伝ってくれてるしきっと作れるさ」
マツノは器の中のシチューをスプーンでかき混ぜながら言った。野菜がごろごろ入った具沢山シチューだ。
「いつもアチャモたちの分のきのみまで分けてもらって本当に感謝してる」
クレアがポケモンたちの方を見ながら言った、自分達が持ってきていたポケモンフーズに加えてマツノが用意したきのみも美味しそうに食べている。
「良いんだよ、旅は道連れってね。俺はこの3年間ほとんど1人で旅してたからこういうの楽しくってさ。何人かで旅している人たちを見てはちょっと羨ましいなぁなんて思ってたんだ」
マツノは3人で囲むたき火に目を移した。マツノはコトキタウンの先で例の団体と合流する手はずになっているらしい、アオイとクレアがコトキタウン到着後どこを目指すかはまだ決まっていないが、遅かれ早かれマツノとは別れることになる。コトキタウンが近付いて来るに連れて別れの時も近付いている。
「とにかく、今はマツノからたくさん学ばせてもらうわ」
クレアが空になった器を置いて手を合わせた。
「うん、俺の分かることなら何でも教えるよ」
マツノもシチューを食べ終えて言った。
「それで言うとちょっと気になってたんだけど、きのみの種類ってなんか違いがあるの?」
アオイがごはんを終えたミズゴロウを膝の上で撫でながら訊ねた。
「俺が果樹園の人に聞いたのだときのみは大きく3種類に分かれるらしい」
マツノが3本指を立てて説明を始めた。
「回復するきのみ、パワーアップするきのみ、体調を整えるきのみの3つ。もちろんどれを食べてもお腹は膨れる。」
「ほうほう」
アオイは身を乗り出した、クレアはメモを取っている。
「回復は純粋に体力を回復する、いわゆるキズぐすりみたいなのもあればどく、まひみたいな状態異常を回復するものもある。例えばお昼にアオイが拾ったオレンのみは体力を回復するきのみだよ」
マツノがきのみホルダーからオレンのみを取り出した見せた、アオイがホルダーを持っていないのでマツノが代わりに管理している。
「そうだったのか!よしミズゴロウ、今度バトルしたらあれ食べようか」
ミズゴロウが元気よく返事をした。
「体調を整えるっていうのは体力回復とは違うの?」
クレアが訊ねた。
「体調を整えるっていうのはお腹の調子をよくするとか毛並みを綺麗にするとかそういう役割があるらしい、より健康な体の方がパフォーマンスも良くなるしトレーニングの効果も出やすいみたいだよ。」
マツノがオレンのみをホルダーに戻して続ける。
「だから特にコンテストパフォーマーなんかはこういうきのみをすごく大事にするんだ、最近流行りのポロックって知ってる?」
「あ、テレビで見たことあるわ」
クレアが思い出したように言った。
「たしか四角い…トレーナーが自分で作るポケモンのおかしよね?」
「そうそう、あれはコンテストパフォーマーがよりバランスよくポケモンに栄養のある食事を与えようって考えて出来たものなんだってさ。俺も聞いた話で詳しくは知らないんだけど。」
ポチエナがマツノの近くに寄ってきた、ポチエナはあの夜以来すっかり元気でマツノにも良く懐いている。
「それでパワーアップのきのみってのは見たこともない、戦闘中に使うきのみらしいんだけど…」
「食べたらウワーッてムキムキになるのかな」
アオイが両腕を直角に曲げて力を入れ、口をガッと開けて見せた。
「そんなわけないでしょ、ねーアチャモ」
しかしアチャモはアオイのマネなのか少し上を向いて口を開き、鳴き声を上げている。
「ちょっとやめてよー」
「お、アチャモ分かってるじゃないかぁ」
アオイがにやりと笑ってアチャモを見た。
「そういえば、ぼんぐりはこの辺じゃ手に入らないのかな?」
アオイが座り直してマツノに訊ねた。
「ぼんぐり?」
マツノは不思議そうにその言葉を繰り返した。
「あれ、知らないか。母さんがたまに話してくれたきのみがそんな名前だった気がするんだけど…なんか間違ってるかも」
「ぼんぐりっていうのは聞いたことないな、といっても俺はホウエンの東の方には行ったことないから全然わからないことだらけだけど」
マツノが申し訳なさそうに頭を搔いた。
ポケモンたちも全員食事を終えたらしくみんなで遊び始めている。
「片付けしましょうか」
クレアが器を持って立ち上がった。
その日の夜はいつもより少し遅くまで起きていろいろな話をして過ごした。
リーンと鳴り響く鈴のような音でアオイとクレアは目を覚ました。時刻はもう午前10時に近い
「アオイ、クレアあれ見て」
マツノは既に起きていて道路の方を見ていた。
ガラガラと車輪が回る音が近付いて来る、すると2匹のポケモンと大きな車両が通過して行った。
「うわ、早ぇー。」
アオイが起き上がって来た。
「マッスグマカーだね。この時間にここを通過するってことはもうコトキタウンはすぐそこなはず、今日中には到着できそうだ」
「そっか、マッスグマカーの営業開始は8時くらいだったわね」
クレアも起き上がり、髪を整えながら言った。
マッスグマカーはホウエン地方で公的に提供される移動手段の1つである。2匹のマッスグマに車両を引かせて移動するもので真っすぐな道であればかなりのスピードで移動できる。一方でそれなりに費用が掛かることとマッスグマの性質上寄り道が出来ないことから冒険を目的とする旅人にはあまり利用されず、ビジネスや観光の際に目的地へより早く着くための手段として利用されることが多い。アオイも過去に一度家族旅行で使ったことがあるのを思い出していた。
「よし!いよいよコトキタウンに向けて出発だ!」
アオイの掛け声とともに3人はおそらく101番道路で最後となるキャンプサイトを後にした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今回はちょっと長くなりましたね。
今回はキャンプサイトで一夜を明かす3人でしたが、こういうのを書いているとアニポケのタケシを思い出しますね。彼はほとんどのオープニングでシチューを混ぜているというのを初めて知ったときは大笑いした記憶があります。
最近は旅の仲間から外れてしまったタケシですが、個人的には大好きなキャラだったので惜しいなぁと思っています。みなさんの好きなサトシの仲間は誰でしょうか。