「すみませーん!この先102番道路は生態調査のため一時通行止めとなっております!」
少し先で白衣の女性がプラカードを掲げて呼びかけている。
「ん?なんだあれ、通行止め?」
「みたいね、生態調査って何かしら」
見たところ同じように足止めされている人たちが他にも何人かいるようだ。アオイは白衣の女性に近付いて行った。
「こんにちは、通行止めってあとどれくらい掛かりますか?」
「こんにちは、予定では本日の夕方ごろまでとなっております。ご迷惑おかけします。」
時計を見ると今はまだお昼過ぎなので、5、6時間近く待つことになりそうだ。
「生態調査ってどんなことをしてるんですか?」
クレアが訊ねると、研究員の女性は2人の足元に目を落として答えた。
「ポケモンの足跡についての調査です」
どうやら今この先で調査を行っている研究者はポケモンの足跡を専門にしているらしい。ある地域のポケモンの足跡を調べることで、その地域に住むポケモンたちの生態系を知ることが出来るそうだ。
「博士は足跡を見ることでそのポケモンの健康状態までわかるのですよ」
「へぇ、いろんな研究分野があるんですね」
クレアはコユリ博士のことを考えていた。彼女の研究テーマも生態系に関わるものだったと思い出す。
「お2人は旅のトレーナーさんですか?」
研究員の問いかけにアオイが答えた。
「はい、ジムチャレンジのためにトウカシティを目指しています」
「そうでしたか…お急ぎのところすみません。そうだ。もし良ければポケモンを見せて…いえ、当てさせてもらえませんか?」
「良いですけど、当てるってどういうことですか?」
「もちろん、足跡を見て当てるんです。当たったらどうってわけではありませんが」
研究員は照れたように笑った。
「ルールは簡単です。私に見せないようにポケモンをボールから出して、この場で5歩くらい歩いてもらって、ボールに戻してください。私はその足跡を見てお2人のポケモンを当ててみせます。」
足跡だけでポケモンを当てるというのは想像できなかったがアオイもクレアも乗り気だった。研究員が少し遠ざかって背中を向けて耳をふさぐと、まずはアオイがミズゴロウを出した。
「はい!足跡の準備できました!お願いします」
アオイがワクワクを抑えきれずに言うと研究員が振り返り、足跡の方に近付いた。アオイの眼には、ポツポツと4つの丸がいくつか並んでるようにしか見えない。
「ふむふむ…。まず4足歩行のポケモンですね、設置面積と沈み具合から判断するにカラダはあまり大きくないようなので進化を残しているか、進化しない種類のポケモンかと思います。」
手で足跡に触ったり、長さを測ったりしながら考えている。まだ具体的にはなっていないものの、いずれも正しい分析であることに2人は感心していた。
「あと特徴としては爪が無いことと…うん、やっぱり少し湿っていて滑らかな肌を持ってますね…そしてカラダ全体のバランスとしては前側、おそらく頭部に重心が偏っている。」
そこまで言うと研究員は立ち上がり、アオイの方を見て笑った。
「はい、答えがわかりました」
アオイにも緊張が走った。聞こえてきたここまでの分析は全て合っている。それが表情に出ている自覚があったので、顔を合わせないようにしていた。
「答えは…ミズゴロウです!」
クレアが驚いたようにアオイを見た、アオイが投げ上げたモンスターボールからミズゴロウが飛び出した。
「すごいです、大正解です!」
「あぁー、良かった!」
研究員はほっとした顔でそういった。自信満々に見えたが、そうでもなかったらしい。彼女は名前はクミといい、いずれ自分の研究分野を見つけて博士になるのが目標だと語った。
「はい!次私もお願いします!」
研究員はクレアのアチャモもぴたりと当てて見せた。
現在地から少し先のところ、通行止めを抜けてそう遠くないところにに宿泊所があるらしいということを聞いた2人は、そこを今日の目的地とした。調査の終了を待つべくしばらく木陰で休んだり、他の旅人と話をしたりして時間をつぶしていたところ、次第に空が暗くなっていった。
「あ、雨だ」
クレアがつぶやいた、見る見るうちに雨は強まっていく。近くにいた研究員たちも何やらお互い連絡を取り合っている。
「雨だと足跡はぐちゃぐちゃになってしまいそうね」
カバンから傘を出したクレアが言った。アオイがうなずく。
「撤収ーーー!」
遠くからこちらに走ってくる大柄な白衣の男が叫んだ。男はその場で通行止めの解除を待っていた人たちの方に向かって続ける。
「皆様、お待たせしてすみません。予定より少し早いですが雨のため本日の調査はここで終了とします。ご通行いただいて結構ですので、足元お気をつけてお進みください。」
待っていたトレーナーたちが道を進み始めた。アオイたちも続いて行くところに、クミが声を掛けてきた。
「2人とも、ジムチャレンジがんばってね!」
「ありがとう!クミさんも研究がんばってね!」
クミは顔の前で2人に小さく手を振った。
「今夜は一晩中雨予報だってさ、時間はちょっと早いけど、無理せず最寄りの宿泊所で休もう」
「そうね、焦らず行きましょう」
フィールドワークの調査って楽しそうですよね、もちろんそのあとには調査結果をまとめて報告するというどうしようもなく大変な作業があるんでしょうけど。デジタルの時代になってもやっぱり「この目で見てこそわかることがある」というのはあるんじゃないかと思います。バーチャル映像で行く海外旅行とか、ちょっと味気ないですよね。