クロノトリガー 真エンディング版   作:やまもとやま

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1、世界崩壊

 老人が一人、町を歩いていた。

 空は快晴、渡り鳥の鳴き声が聞こえる穏やかな昼下がりだった。

 

 そんな中、老人は真剣な顔で、悪い足を叱咤激励しながら歩いてた。

 

「おじいちゃん、ここにいたのね。探したわよ。勝手にどこかに行っちゃだめよ」

 

 女性がようやく老人を見つけ出すと、制止した。

 

「さあ、戻りましょう、おじいちゃん」

「ダメじゃ……」

「どうして?」

「今日、世界が滅んでしまうんじゃ。その前にどうしてもやらねばならぬことがあるんじゃ」

「世界が滅ぶって……そんなことあるわけないよ」

「いいやある。今日がその日なんじゃ」

 

 この老人はしばらく前から、痴ほう症の兆候があり、施設に入っていた。

 老人の口癖が「もうすぐ世界が滅んでしまう」ということだった。

 

 しかし、そんな気配は何もないまま今日を迎えていた。

 世界のだれもが、今日世界が滅ぶなんて考えていなかった。今日もいつもの日常が展開されていた。

 

「おじいちゃん、見てごらん。こんなに天気がいいんですもの。世界が滅んでしまうわけないわ」

「空は関係ないんじゃ。今日、ラヴォスが目覚める……このペンダントもそう言っておる」

「ガルディア城のペンダント。もう、おじいちゃん、また勝手に持ち出したのね」

 

 老人はとあるペンダントを握り締めた。

 ガルディア王政はいまから800年前に終わり、ガルディア王国はいま「ガルディア共和国」としてある。

 王政が終わり、ガルディア城が滅ぶと、その関係者も民間人の中に消えていった。

 

 ガルディア王政時代、ガルディア城に代々語り継がれてきたペンダントはいま、この老人が保有していた。

 そのペンダントはガルディア王位の証であったが、今では何の効力もない。オークションに出せば、それなりの値がつくかもしれないと言った程度のものでしかなかった。

 

 しかし、老人はそのペンダントから特別な力を感じていた。

 

「お前は知らんだろうが、このペンダントは古の時代より継がれてきたんじゃ。ラヴォスを封印するためにな。しかし、その力が弱まっておる。いや、ラヴォスの力が強まっておるのか」

「おじいちゃん、そんなの迷信よ。さあ、帰りましょ」

 

 女性は老人の手を引っ張ると、施設に向けて歩きだした。

 

「これも定めか……ならば仕方のないことか……」

 

 老人は引っ張られるがままに引きずられていった。そして、そのペンダントを手放した。

 そのペンダントは一瞬光り輝いたが、そのまま地面へと転がった。

 

 遠くでリーネの鐘の音が響いた。

 

 ◇◇◇

 

 それからしばらく後、メディーナの地震センターが強烈な地殻変動を探知した。

 

「所長、南トルースで大規模な振動を感知しました」

 

 スタッフは所長にそう伝えた。

 

「地震か?」

「ええ、しかし、ただの地震ではないようなのです」

「付近をモニターしろ」

「はい」

 

 センターは、衛星を利用して、南トルースの様子をモニターに映した。

 映像はデナドロ山のあたりを映し出した。

 映像は揺れていて、電波の調子も不安定で、映像が激しく乱れた。

 

「む? なんだ?」

「あ、あれは!」

 

 映像はやがて恐るべきものを映し出す。

 南トルースの大地に激しく亀裂が走ると、そこからマグマが噴出した。

 ものすごい力で噴出されたのか、岩石が数百メートルにわたって跳ね上がった。

 

 さらに強い電磁波が発生。映像は完全に乱れてしまった。

 

「所長、いまのは」

「このままではまずい。トルースのセンターに通信を!」

「ダメです、通信が伝わりません」

「むぅ……」

 

 所長はこのとき、南トルースに目覚めた存在についてある目星をつけていた。

 

「ラヴォス……伝説ではなかったというのか……」

 

 それが所長の最期の言葉になった。

 

 南トルースの大地がめくり取られ、そこから巨大かつ禍々しい謎の生命体が這い出て来た。

 それは異常なエネルギーに満たされており、一瞬のうちに周囲に電磁波を放ち、科学の力は一瞬で壊滅した。

 

 そして、謎の生命体が咆哮を上げると、大地から無数の炎が舞い上がった。

 地中の核物質が溶け込んだその炎は、大地を引き裂き始めた。

 

 町はその炎で一瞬で壊滅した。

 森林はその炎で一瞬で荒廃した。

 海はその炎で海溝が切り取られ、大波を起こした。

 

 混沌が生ける者すべてを呑み込んだ。

 人々は逃れられない破滅から、懸命の逃れようとした。

 町は人々の悲鳴と狼狽に満たされ、先ほどまでの穏やかな日常はなくなった。

 

 人々が逃げまとう中、ある人物が人々の逃げる方向とは逆の方向、すなわち南トルースの方向に向けてゆっくりと歩みを進めた。

 その者は人間ではなかった。メディーナに住む魔族と思われた。

 魔族の男は凛々しい顔立ち、強靭な肉体をしていて、マントをひらめかせていた。

 

 魔族の男は空を見上げた。

 先ほどの穏やかな空はすでになくなっていて、どす黒い闇に包まれていた。その中に赤い炎がきらめいていた。

 

「目覚めたのか……」

 

 魔族はそう言うと、自分の足元に落ちていたペンダントを拾い上げた。

 それは先ほど、老人が落としていったペンダントだった。

 

 魔族の男はそれを握り締めた。

 

「もう残っていない。姉上の魔力も思いも。世界から完全に消えてしまった」

 

 魔族の男は静かにそう言った。

 

「愚かな。こうなることがわかって人間は今日まで歩んできたのだ。ここはたしかに人間のエゴイズムのもとにたどり着いた世界だ」

 

 人間の歴史の集大成が今日この瞬間だった。積み上げたすべての歴史がいま、強大な力によって消えようとしていた。

 

「知るがいい、人間たちよ。ラヴォスはお前たちが育て上げた傑作。お前たちが望んだもののすべてということをな」

 

 魔族の男はそう言うと、ゆっくりと歩き始め、その場からいなくなった。

 最後に何度かリーネの鐘の音が響いた。

 

 AD1999、世界は滅んだ。

 人類が積み上げた歴史が消えるのに、1日の時間もかからなかった。

 

 ◇◇◇

 

 AD1000、今日は特別な日。

 魔王軍を打ち倒し、世界に平和が戻った「戦勝の日」から400周年目という節目の日だった。

 

 めでたい日にふさわしい晴れ日和だった。海の先からやってきた渡り鳥の声が心地よく聞こえてきて、すべてが晴れやかだった。

 しかし、そんな晴れやかな世界の中で、ただ一人暗闇に沈んでいる少年がいた。

 

 リーネ広場では、リーネ祭が開かれていたが、少年はそんなものに関係なくベッドの中で眠りについていた。

 

 少年の母親が少年を起こすために二階の部屋にやってきた。

 

「クロノ、いつまで寝てるの、早く起きなさい」

「うるせえな、もう少し寝かせろよ」

 

 クロノは布団をかぶったまま低い声で言った。

 

「何言ってるの、こんなめでたい日に」

 

 母親はそう言うと、クロノの部屋のカーテンを開けて、窓を開いた。

 

「ほら、聞こえる? リーネ祭が始まったみたいよ」

「だから何だよ?」

「まったく、いつまでもそんなだからダメになるのよ」

 

 母親はクロノから布団を取り上げた。

 

「ルッカちゃん、リーネ祭に発明品を展示するんですって。あんたが腑抜けてる間に、ルッカちゃんは立派な発明家になろうとしてるのよ。あんた、取り残されて恥ずかしいと思わないの」

「るせーな、おれには関係ないだろ」

 

 クロノは仕方なくと言った感じで体を起こして目をこすった。

 クロノにとっては最悪のタイミングでリーネ祭を迎えていた。

 

 クロノはもともとガルディア王国の兵士だった。

 

「サイラスの後継者」と言われるほどの剣の才能を発揮し、ガルディア城の兵士団の中で注目されていた。

 その剣は速く、鋭く、力強く、的確。ガルディア兵士団の隊長でも敵わないほどだった。

 

 そんな才能に恵まれて順風満帆だったクロノだが、ガルディア城の王女であるマールディアとの密会がばれてしまった。

 これは誤解だった。クロノは別に何もしていないが、スキャンダルが独り歩きして、クロノはガルディア城から追い出されてしまった。

 

 剣の才能はあったが、この平和なご時世では使い道がない。ガルディア兵士団に入っていなければ、ろくに仕事を得ることもできなかった。

 そのため、クロノはここ最近、自堕落な暮らしを送っていた。

 仕事を探そうと思ったが、結局何もしないままになっていた。

 

「クロノ、はい」

 

 母親がクロノに荷物を渡した。

 

「なんだよ?」

「ルッカちゃんへの差し入れ。持ってってあげなさい」

「なんでおれが?」

「あんた、このまま遊んで一生暮らすつもり? ルッカちゃんが助手にしてくれるって言ってたんでしょ。だったら頭を下げて来なさいよ」

「あいつの助手になるぐらいなら、雑用労働やったほうがマシだっつうの」

 

 クロノはそう言って頭をかいた。

 ルッカはクロノの幼馴染で、家も隣である。幼いころからよく遊びまわっていたが、昔から機械オタクだった。

 理系科目を中心に頭が良かったため、飛び級でガルディア科学アカデミーを出て、さっそく世に偉大な発明をもたらしていた。

 いまや、世界中が注目する科学者だった。

 

 クロノにはあまり面白くない話だった。幼馴染が出世して、自分だけが取り残されていくのは悲しいことだった。

 

「じゃあ頼んだわよ、クロノ。ちゃんと渡すのよ」

「へーへー、わかったよ」

 

 クロノは仕方なく立ち上がった。

 ベッドの隣は一本の木刀があった。

 

 長いものを見ると振るってしまいたくなるのが、元剣士の習性。クロノは木刀を握るとその場で素振りした。

 剣の腕はまだ衰えていなかった。しかし、残念ながら平和なご時世では、こんな剣術の需要はなかった。

 400年前であれば、魔王軍との戦争の全盛期。クロノの剣術は最高のスキルかもしれなかった。

 

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