クロノトリガー 真エンディング版   作:やまもとやま

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2、クロノの剣

 ガルディア王国、リーネ地区は平和で穏やかの陽気に包まれていた。

 子供たちが楽しそうに町を掛けている。

 それは平穏で素晴らしい一シーンかもしれないが、若くして無職に沈んでしまったクロノにとって、それらの光景は異界の地の光景のように見えた。

 だれもかれも幸せそうで、クロノだけ場違いだった。

 

 リーネ広場が目の前に見えて来た。空砲が鳴り響き、空高く風船が舞い上がっていくのが見えた。

 リーネ広場はガルディア王国の平和の象徴である。

 かつてトルース山だった場所を開拓して、大勢の人が集まる賑やかな公園を作った。そこに国の象徴であるリーネの鐘が飾られ、それを目当てに世界中から人が集まってくる。

 メディーナ村から、魔物の一族らも多数やってきていた。

 

 400年前までは戦争状態にあった人間と魔物の一族もいまは交流をする関係になり、いまや世界中のどこにも争いはなかった。

 この平和は永遠に続くだろうと誰しもが思っていた。

 

 クロノはリーネ広場にやってくると、あたりを見渡した。

 

「すげえ賑わってんな」

 

 普段の10倍とも言えるほど、多くの人がリーネ広場に集まっていた。それもそのはず、今日から1週間にかけてリーネ祭が行われるのだ。

 リーネ祭は公式にはガルディア王国1000周年を祝うために催されたが、人々の間では、「戦勝から400年」というほうがしっくり来た。

 それぐらい400年前の魔族との戦争では多くの人が犠牲になったということでもある。

 

 しかし、戦勝400年の祝いとしてしまうと、メディーナ村に住む魔族にとっては「敗戦から400年」ということで忌々しさを連想させてしまう。

 だから、ガルディア城は「戦勝400年記念」にまつわるものをリーネ祭に持ち込むことを禁じていた。

 

 しかし、ふたを開けてみると、400年記念を銘打って屋台やイベントを出す者がほとんどだった。

 とはいえ、メディーナの魔族たちも、そんなに気にしているところがなかった。

 ある意味、400年前の魔王支配では、魔族の一部も割を食っていたところがあり、そうした者からすると、敗北だったとしても「戦勝」そのものだった。

 

「さて、ルッカの野郎はどこだ?」

 

 クロノはルッカを探して、リーネ祭で賑やかなリーネ広場を見て回った。

 その道中で、クロノは知り合いと遭遇した。

 

「おう、誰かと思えばクロノじゃねえか」

 

 腰に剣をぶら下げた兵士の一人がクロノに声をかけた。

 

「誰かと思えばウェッジか」

 

 クロノは兵士の一人とは知り合いだった。

 彼の名はウェッジ。クロノがまだガルディア騎士団にいたころ、同期で入隊した仲間だった。

 ウェッジは剣の腕前はイマイチだったが、ムードメーカーとしてビックスの部隊で頑張っていた。クロノもビックス隊長の部下だったが、マールディア王女との密会がばれてクビになってしまった。

 

「クロノ、その様子じゃプータローか? 女に溺れるからそんなことになるんだぜ」

「うるせーな、あれは誤解だっての。それより、お前らはこんなとこで何してんだ? 祭りの警備か?」

「警備のためにわざわざ騎士団が派遣されるわけないだろ。大事件だよ」

「事件? 何かあったのか?」

「まあ、いつものことと言えばそれまでだが、マールディア王女が行方不明になっちまったのよ」

「またか」

 

 クロノとウェッジは同時に息をついた。

 マールディア王女はガルディア城の王女である。

 しかし、このマールディア王女は問題児でもあった。昔から活発な少女で落ち着きがなかったが、王女という自覚がないのかこの歳になっても、たびたび城を抜け出していた。

 今回もおおかたリーネ祭で遊びまわるために、城を抜け出したものと思われた。

 

 あちこち冒険して回りたいという気持ちが強いマールディア王女にとって、城での生活は窮屈すぎるようで、こうして城を抜け出しては、騎士団が捜索のために派遣されていた。

 

「クロノ、お前が誘拐したんじゃないだろうな?」

「そんなわけないだろ」

「しかし、捜索も大変だよ。見てのとおり、人でゴタゴタしてるし、王女様は変装の天才だからな。どこのお嬢さんに成りすましているか分かったもんじゃないしな」

「それは大変そうだな」

「クロノは何してんだ? プータローの分際で祭りを満喫してんのか?」

「いや、おれも問題児の面倒を見に来ただけだ。ルッカの展示会場ってどこかわかるか?」

 

 クロノはルッカに差し入れを渡すためにここに来ただけで、もともとリーネ祭に参加するつもりはなかった。

 

「あー、発明王の。それならこっちでゴンザレスが展示されてるぜ」

「ゴンザレス?」

「訓練用ロボットとして開発されて、ゆくゆくは騎士団に贈呈されるらしいんだ。まあ、訓練用ロボットなんざに負けるおれたちじゃねえけどな。わはははは」

「そこにルッカがいるのか?」

「おれたちが顔を出したときはいたぜ。こっちだ」

 

 クロノはウェッジについてゴンザレスとやらの展示会場に向かった。

 

 ◇◇◇

 

 ゴンザレスはリーネ広場の西側でお披露目されていた。

 大衆に取り囲まれて、ゴンザレスはマイクを片手に歌を披露していた。

 

「さあ、挑戦者は誰かな? おれに勝てれば、祭りで使えるポイントを差し上げるよ」

 

 ゴンザレスはそう言って、歌いながら大衆に語り掛けた。

 見事なロボットで、その動きはとてもなめらかだった。このゴンザレスはルッカの発明の1つで、まだプロトタイプだが、いずれは軍隊の訓練用ロボットとして導入されることになっていた。

 

「よし、おれが挑戦だ」

 

 屈強な男が一人大衆の中から現れ、手を挙げた。

 

「おれの名はミスッター・サタン。格闘技のチャンピオンだ」

 

 男がそう言うと、体臭がざわめいた。

 

「どれ、俺様がお前の腕前を確かめてやろうではないか」

 

 サタンと名乗る男は笑みを浮かべて、ゴンザレスを見つめた。

 サタンは見るからに強そうな男で、拳を脱ぎリ絞めて、筋肉をアピールした。

 

「行くぜ、ポンコツ。うおおおおおお」

 

 サタンは積極果敢にゴンザレスに向かって飛び掛かった。

 サタンは力強く拳を突き上げた。

 

 しかし……。

 

 ゴンザレスの腹が開放されると、サタンの拳がゴンザレスを捉えるよりも早く、拳が飛び出した。

 拳の先端はボクシンググローブになっていて、ばねにつながっていた。

 勢いよく拳が就きだされると、サタンの顔面を捉えて、サタンを吹き飛ばしてしまった。

 

「ぐえええええ!」

 

 サタンはあっさりと殴り倒されてノックアウトした。

 

 格闘技のチャンピオンがあっさりと敗北したので大衆がどよめいた。

 

「チャンピオン、大丈夫ですか?」

「ぐう……いたたたた……腹が痛い。腹痛で力が出せなかった。今日のところは見逃してやるぜ。忘れるな、おれの実力はこんなものではないからな」

 

 サタンはそう言い訳してそそくさと去って行った。

 

「さあさあ、次の挑戦者は誰かな? おれに勝ったら祭りで使えるポイントを差し上げるよー」

 

 ゴンザレスはまた愉快に歌って、新しい挑戦者を募った。

 しかし、先ほど圧倒的なパンチ力を持って格闘技のチャンピオンを一撃で粉砕したので、誰も挑戦者に名乗りを上げなかった。

 そんな時、ウェッジとクロノはゴンザレスのもとにやってきた。

 

 ゴンザレスを取り囲むように大勢の人が集まっていた。

 

「あれがゴンザレスだぜ」

「なんじゃありゃ? またおかしなもんを作ってやがんのな」

 

 クロノは昔からルッカの発明を手伝わされてきていたから、ルッカの奇妙なセンスをよく知っていたが、ゴンザレスはそのとおりの奇妙な形のロボットだった。

 ゴンザレスは歌いながら挑戦者を募っていた。わざわざ歌うところに、奇妙なセンスが見え隠れしていた。

 

「よっしゃ、ここいらでガルディア騎士団の実力を見せてやろうじゃないか」

 

 ウェッジはそう言うと、ゴンザレスへの

 

「おい、仕事中じゃないのか」

「寄せエサだよ。おれが偉大な剣でゴンザレスを倒せば、マールディア王女がやってくるかもしれないだろ。そして王女にこう言わせるのさ。素敵な剣に惚れぼれしてしまいました。どうか私と一緒に祭りを回ってくださらない? なんてね。わははははは」

 

 ウェッジは妄想半分に語りながら、ゴンザレスと向かい合った。

 

「おい、ゴンザレス。俺様に斬られる覚悟はできたか?」

 

 ウェッジはそう言うと、懐から青銅の刀を取り出した。

 

「かかってらっしゃい、おれに勝てば祭りで使えるポイントを差し上げるよ」

「では受けるがいい。ガルディア騎士団直伝のジャンプ斬り! とおりゃああああ!」

 

 ウェッジは力強く跳躍すると、剣を構えた。

 ゴンザレスは胸を張って跳躍したウェッジを見上げると、先ほどと同じように腹を開放して拳を放った。

 

 ウェッジの剣とゴンザレスの拳が交わった。

 次の瞬間、何かが吹き飛んだ。

 

「ぎょえええええ!」

 

 吹き飛んでいったのは、ゴンザレスではなくウェッジのほうだった。

 ウェッジはそのまま吹き飛んでクロノの視界から消えてしまった。

 

「何やってんだ、あいつ」

 

 クロノはウェッジの情けなさに息を吐いた。

 

「おい、あんな体たらくで大丈夫かよ? 魔王軍を打ち倒したガルディア騎士団が恥だぜ」

「違うさ、クロノ殿。おれたちが弱いのではなく、ゴンザレスが強すぎるんだ。さすが発明王ルッカ。偉大なロボットだ」

 

 ウェッジと一緒にいた兵士はそう言った。

 

「さあさあ、次の挑戦者は誰かな? 骨のない挑戦者ばかりでおれは退屈だよ」

 

 ゴンザレスはマイクを取り出して次の挑戦者を募った。

 ガルディア騎士団の兵士が敵わなかったということで、今度こそ誰も挑戦者に名乗りを上げなかった。

 

 クロノは癖で懐に手を当てた。騎士団にいたころからの癖だったが、それによってクロノは護身用の木刀を携帯していることに気づいた。

 

「おっ、そういや持ってきてたんだっけ。ならいいや、ちょっと試してみるか」

 

 クロノはそう言うと、大衆を押しのけて、ゴンザレスのもとに向かった。

 大衆がざわついた。

 

「おやおや次の挑戦者は無職プータローのクロノか。あんたは無職。ガルディア王国のごくつぶしよー」

 

 ゴンザレスはクロノを見ると、そう言って歌った。

 大衆から笑いがもれた。

 

「てめえ、なんでそのことを知ってる?」

「ご主人様にプログラムされたよ。クロノはろくでなしー、クロノは女たらしー」

「あのやろう……余計なことを吹き込みやがって」

 

 クロノは挑発的に笑っているルッカの顔を思い浮かべた。

 

「ぶった切って、二度と無駄口叩けないようにしてやるぜ」

 

 クロノはそう言うと、木刀を構えた。

 大衆は無謀な挑戦として、クロノの戦いを見ていた。

 無職で、しかも武器が木刀。これでゴンザレスに勝てるはずがないとすべての者が思っていた。

 

「行くぜ、ポンコツ」

 

 クロノは低く構えると、サタンよりも、ウェッジよりもはるかに鋭いステップでゴンザレスとの距離を縮めた。

 しかし、ゴンザレスの反応も早かった。

 すぐにクロノを捉えると、腹を開放して、鋭く拳を突き出した。

 

 サタンもウェッジも吹き飛ばされた強烈な一撃だったが、クロノは目にも留まらぬ速さで体を回転させた。

 拳はクロノを捉えることがなかった。

 代わりに、クロノの鋭い回転斬りがゴンザレスを切り裂いた。木刀だったが、ゴンザレスを両断するかのように、切先が鋭く跳ねた。

 

「むぐぐ……」

 

 斬られたゴンザレスはそのまま後ろに転倒した。

 一瞬の勝負だったが、クロノの剣捌きは見る者すべてを魅了するほど素早く美しいものだった。

 

「まだやるか?」

「ま、参った」

 

 ゴンザレスは立ち上がると、マイクを取り出した。

 

「あんたは強いね。おれ、見直したよ。祭りで使えるポイントを差し上げるよ」

 

 ゴンザレスはポイント券をくれた。しかし、クロノには興味なかった。

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