クロノトリガー 真エンディング版   作:やまもとやま

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7、戻ってきた姫

 リーネ姫が行方不明ということで、ガルディア城は慌ただしくなっていた。

 ガルディア王国はいま大きな時代の転換期を迎えており、そのことに集中しなければならなかったが、それと同じぐらいリーネ姫の喪失は重大なことだった。

 

 ゼナンの橋に駆り出されていた騎士団もすべて城にリコールされた。

 ゼナンの橋はガルディア王国南部の離島をつなぐ唯一のかけ橋であり、いま離島は魔王軍の厳しい攻撃にさらされていた。

 船を用いて連絡を取っていたが、魔王軍が海南を完全に掌握したため、離島との連絡が完全に途絶えてしまった。

 

 そこで、中途だったゼナンの橋の建設が急ピッチで進められた。

 そのゼナンの橋の建設のために、ガルディア騎士団の中でも、優秀なベテラン勢が駆り出されていたが、その一部がリーネ姫行方不明に対処するためリコールされた形だった。

 

 戻ってきた騎士はリーネ姫誘拐を聞いた後、ついでにゼナンの橋の開発状況を大臣に伝えた。

 

「そうか、工事は無事進んでいるのだな」

「はい、魔王軍もデナドロ区への侵攻には難儀しているようです。とはいえ、早急に援軍を送らなければどうなることやら」

「わかった。ならば、お前たちはゼナンの橋に戻れ」

「え? ですが、リーネ姫が行方不明と聞いておりますが? その捜索に向かおうと騎士団は準備中です」

「こっちのほうは人手が足りている」

「しかし、国王の話では、マノリア修道院のほうの捜索に人出が足りないということでしたが」

「良いのじゃ。ともかく、橋に戻れ。マノリア近辺はワシが担当する」

「は、はあ……」

 

 騎士たちはきょとんとした。どうも、大臣の様子に違和感を覚えるところがあった。

 

「良いか。ワシの命令は絶対。国王から直々に政治の権限を任されておるのじゃ。わかったか?」

「ははっ、わかりました」

 

 騎士団はせっかくリーネ姫救出のために戻ってきたが、大臣の鶴の一声で橋の建設の護衛に戻ることになった。

 リーネ姫救出は、ゼナンの橋の建設以上に重要な任務だと考えていたが、それよりも橋の建設を優先する大臣の判断にはおおいに疑問が残った。

 

 しかし、大臣の権限は強い。

 仕方なく、騎士団は戻るための準備に切り替えた。

 

 そんな矢先、朗報が流れ込んでくる。

 

「大ニュースです、大臣」

 

 大臣のもとに兵士が一人駆け込んできた。

 

「なんだ貴様、ワシの前に来るならば跪け」

「申し訳ありません。ですが、すぐに報告したかったのです」

「いったい何事じゃ?」

「リーネ姫が発見されたのです」

「何じゃと?」

 

 大臣は報告を受けて驚いた。その驚きはリーネ姫が戻ってきたことを喜ぶものではなく、「そんなはずがない」という含みを持った驚きだった。

 

「バカな、いったいどこで見つかったと?」

「はい、トルース山で密漁をしていた魔族を取り締まろうと追いかけている途中、崖の下に倒れておられたのです」

「トルース山? バカな、そんなはずがない」

 

 大臣は信じられないという様子で立ち上がった。

 

「あれ、大臣。足はもう大丈夫なのですか?」

「知るか、それどころではない。今すぐ確かめねば」

「そうですよね。リーネ姫が戻って来られたのです。足を引きずってでもですね」

 

 兵士はそう言って笑みを浮かべたが、大臣の顔には喜びはなかった。

 

 ◇◇◇

 

 リーネ姫は意識を失っていたので、そのまま医務室に運ばれて治療を受けることになった。

 

「リーネ、リーネは無事なのか?」

 

 国王が医術師に尋ねた。

 

「はい、外傷はありませんし、心肺の影響もありません。近く意識も戻ると確信しております」

 

 医者はそう断言した。その医者は優秀だったので、周りにいた者はみな納得して安堵の息をついた。

 

「しかし……妙な格好をしているな。いったいリーネはどこで何をしていたのだろう?」

 

 国王の疑問はリーネ姫が山に倒れていた状況にいった。

 

「魔族に誘拐されたと聞いていたが、ならばなぜトルース山に置き去りにされていたのか」

「たしかに不自然です。ビネガーの指示で誘拐されたのなら、間違いなく身代金などを要求してくると思うのです。ビネガーはそういうやつです」

 

 無事、リーネ姫が戻ってきたのはいいが、誰もが突然戻ってきたリーネ姫という状況を解せなかった。

 やや遅れて大臣がやってきた。

 大臣はここまで急いでやってきたのか、息が上がっていた。

 

「ぜーはーぜーはー」

「大臣、一人でお越しになられたのですか? 足のほうは大丈夫でございますか?」

 

 手伝いの者が大臣に気づいて気を遣った。

 

「それどころではない。それよりもリーネ姫は?」

「いま眠りにつかれております。医術師の話では、近く意識が戻るとのことです」

 

 大臣は足の悪さを感じさせない足つきで国王の隣に並んだ。

 

「おお、大臣。来てくれたか」

「リーネ姫様がお戻りになったと聞いて飛んでまいったのです」

 

 大臣は眠っているリーネ姫の顔を覗き込んだ。

 

「むむむ、この雰囲気と美貌、間違いなくリーネ姫様……」

「うむ、一時はどうなるかと思ったが、戻ってきてくれて実に幸いだ」

「しかしなぜ……」

 

 大臣だけはリーネ姫が戻ってきたことを喜ぶのではなく、信じられないという愕然のままだった。

 

「ともかく捜索に出ている騎士団を呼び戻してくれ」

「はい」

 

 国王の命令でリーネ姫捜索に出ていた騎士団が呼び戻されることになった。

 その後、大臣は一人マノリア修道院に向けて城を後にした。

 

 ◇◇◇

 

 リーネ姫が戻ったことで、騎士団も本来の仕事に戻ることができるようになった。

 ある意味で、最も過酷な仕事である。

 

 城に戻ったサイラスは弟子のグレンらを連れて、リーネ姫の見舞いに向かった。

 サイラスはガルディア騎士団の隊長であり、その強さは魔族も恐れるほどだった。

 

 魔王軍は強い。各地の小戦では、魔王軍がガルディア王軍を打ち破ることがほとんどだった。

 しかし、サイラス率いる部隊が参加した戦では、ガルディア王軍が逆に魔王軍を打ち破った。

 

 有名な戦が、「デナドロ山の戦」だ。

 この戦は、魔王軍の少数精鋭部隊「ソイソー騎士団」がデナドロ山の資源確保の名目でガルディア王軍に挑んだ戦いだった。

 豊富な魔石が採掘されるデナドロ山ははるか古代に「歌う山」として知られた「なげきの山」の残骸が積もったことで出来たとされる。

 なげきの山を形作った数多くの魔石が眠っており、まさに宝石の山だった。

 

 そんなデナドロ山を欲しがっている魔族は一大勢力のソイソー騎士団を送り込んだ。

 ガルディア王国としてみると、デナドロ区の豊かさの基盤でもあるデナドロ山は死守しなければならない。

 そこで、サイラス騎士団が出向いた。

 

 激戦の末、サイラスがソイソーを打ち破り、ソイソー騎士団は撤退。

 この戦は伝説の戦いと言われた。当時、魔王軍率いる魔王が絶対の信頼を預けていたソイソー騎士団を打ち破ったのだ。魔王軍の衝撃は計り知れなかっただろう。

 その後、ソイソーの勢力が弱体化し、ビネガーが台頭してきた。

 現在、魔王軍のナンバーツーはビネガーだった。

 

 そんなサイラスの部下たちは、若手だけで成り立つ。サイラスが才能を認めた若手が集められた。

 その中でも、グレンという少年は、サイラスが認めた最強の才能だった。

 

 しかし、グレンはサイラス騎士団の落ちこぼれでもある。

 グレンには、剣を握ると足が震えて体が動かなくなる癖があった。

 

「グレン、自分の剣の腕を信じろ。勇気さえ持てば、お前は誰にも負けない。おれでさえもだ」

「ダメだ、サイラス。僕にはできない。戦いとなると恐怖で体が震えてしまうんだ」

 

 グレンは臆病な性格だった。誰よりも臆病ゆえ、騎士団の仲間から「カエル」と呼ばれることもあった。

 しかし、グレンの剣の才能は本物だった。サイラスはグレンを自分の後継にするためにも、グレンのことを誰よりも気にかけていた。

 

 サイラスとグレンはリーネ姫の前に来ると、跪いた。

 

「姫様、ただいま戻りました。無事、お戻りになり本当に良かったです。同時に、お守りできなかった己の未熟さを反省いたします」

 

 サイラスはそう言って、しっかりと頭を下げた。

 

 リーネ姫はまだ眠っていたので、とりあえずリーネ姫の無事だけを見届けて、サイラス一行は戻ることになった。

 しかし、グレンはリーネ姫に違和感を覚えた。

 

「どうした、グレン。行くぞ」

「なあ、サイラス。本当にリーネ姫だろうか?」

「どういうことだ?」

「いや……」

 

 グレンはリーネ姫の寝顔を見つめた。グレンには違和感があった。

 ソイソー騎士団を打ち破る戦の勝利の後、リーネ姫からバッジをいただく式典があった。

 そのとき、グレンも戦に参加していた身なので、その式典に参加した。あの戦争では、グレンはただ逃げ回っていただけだが、サイラスの傘下だったというだけで、リーネ姫から直々に勇者バッジをいただいた。

 

「いつもお国のために戦ってくださり、感謝しております」

 

 リーネ姫はそう言うと、その手でグレンの胸にバッジをつけた。

 ほんの10秒ほどの間だが、リーネ姫を身近に感じることができた。

 うぶなグレンはその間ずっと緊張していたが、リーネ姫の優しいオーラを誰よりも感じていた。

 

「あなたはグレンというのでしょう?」

「え、どうして僕の名前を?」

「うふふ、サイラス隊長が言っておられました。とっても素晴らしい剣士がいるのだと」

 

 グレンはそのときのリーネ姫に思わず一目惚れしたが、身分差もあったので、顔をそむけた。

 

 目の前にいるリーネ姫は、その時のオーラと違うオーラを持っていた。

 それで、グレンは首を傾げた。

 

「何言ってんだ。誰がどう見てもリーネ姫だよ。カエル、リーネ姫の寝顔を見たいからっておかしなこと言うなよ」

「カエルって呼ぶなと何度も言ってるだろ」

 

 からかわれて、グレンは同僚の兵士に強く反応した。

 

「コラ、リーネ姫様の前で大声を出すな。戻るぞ」

 

 サイラスはそう言って、医務室を後にした。

 違和感はあったが、確信があったわけではない。グレンは名残惜しそうにリーネ姫のほうを振り返りながらも、サイラスに続いて医務室を後にした。

 

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