超多重人格者は脳内で掲示板を立てる 作:モンブラン
私は、ようやく長い時間をかけたスカウトから帰ってきた。久しぶりだから少しリハビリのために個人戦をしに行こうかとおもっていた。
今回スカウトした人たちが入隊するのはおおよそ1,2週間後くらいらしい。
入隊式には見に行ってもいいかもしれない。そろそろ自分の隊のアタッカーらへんが欲しいと思っていたのだ。飛び切り優秀な新人がいたら引き抜いてもいいかもしれない。
そう画策しながら個人戦ブースまで向かっていると、ポケットに入れていたスマホが鳴った。
「あら、もしもし」
「もしもし、加古さん。スカウトお疲れ様です。ところで、この前スカウトしてくれた子なんだけどサイドエフェクトを持っているといっていたよね?」
加古はスカウトした子たちを思い出す。その中でサイドエフェクトを持っていると伝えたのは最後の一人だけだったのでその子を思い出す。
「はい、あの表情の乏しい子でしょう?それがどうしましたか?」
「それがですね、」
そう言い淀んでいた。何か言いにくいものがあるのか、と思ったが心当たりもなかったため続きを促すようにして沈黙を突き通した。
「彼女のトリオンが平均以下なんですよ」
§
今日は入隊式前の確認や説明のために新隊員になる十数人の男女をボーダー本部に集めていた。
そこには県外スカウトに行っていたボーダー隊員がスカウトした新隊員も何人かいる。その中の一人はサイドエフェクトを持っていると報告されているため正確なトリオン量を測定されていない。
まあ、報告書にもあったように視線がおかしいためこれはサイドエフェクト持ちだと思っても間違いないだろう。
ただ、資料には記載しておかなければならないため部屋の隅に設置されているトリオン量計測器でトリオン量の測定を行う。
トリオン量の測定といっても10段階評価なのでそこまで細かく判定できるわけではない。スカウトしに行っている隊員が持っているものはもっと評価段階が粗く、小・中・大くらいでしか判定できない。
その中で大二判定されており、さらにある程度の運動やらの適性があると判断される、または何らかの特技があってそれがボーダーにあっている人などをスカウトする。
話はそれたが、そうやってトリオン量を計測しているのだ。ボーダーにもすでにサイドエフェクト持ちが何人かいるのだが、サイドエフェクトを発現するトリオン量は7以上となっている。
なので彼女も当然7以上、あっても6とかだろうと思っていると。
「は?4だと?」
画面に表示された計測トリオン量は4。トリオン量4というのはボーダー隊員の平均よりも下である。
もちろん同じようなトリオン量でもやって言ってる隊員もいるし、A級にも何人か存在する。
しかし、サイドエフェクト持ちともなれば話は別だ。
サイドエフェクトを持っていながらトリオン量4というのはおかしい。明らかにおかしい。
サイドエフェクトという物は本来高いトリオン能力を持った人物が感覚器官や脳などに影響を受けて超感覚を発現するという物。
よってサイドエフェクトを持っているということは豊富なトリオン能力を持っているということの十分条件になりえるのだ。
しかし、測定値はそれをはるかに下回る4。
再測定しても結果は変わらず。
そうなると可能性としては、計測器が壊れているか、彼女がサイドエフェクトを持っていないかという二択になる。
計測器の故障のほうをエンジニアに報告し、そうでない場合に備えて私は、彼女をスカウトしたという加古さんに電話をかけた。
§
「……4…」
それを聞いた時の私が抱いたのは疑問だった。彼女がサイドエフェクトを持っていなかった?でもあの素振りは間違いない。アイス売り場でアイスを選んでいるときでさえ目が動かなかったのだ。
ただの特技?
いやそれもないだろう。さすがにこれを素の人間が行っていたのならばびっくり人間コンテスト優勝間違いなしだろう。
ということはトリオンが少ないのにもかかわらずサイドエフェクトを発現しているレアケースか、もしくは計測器の故障か、それか私の判断ミスか。
「あ、加古さん。今計測器を検査してきたんですけど特に故障している部分はありませんでした」
「あら、ありがとう」
となると、計測器の故障という可能性はなくなった。私の判断ミスという可能性はないとして、となると特異体質?
そんなことがあり得るのだろうか?いや、実際その事実が起きているのだからあり得るのだろう。まだトリオンやトリガーについては解明されていない部分が多い。だからその部分がかかわっているのかもしれない。レアケースであることには間違いないだろうけど。
そういうことは私が考えることではない。開発部が考えればいい。私がしなきゃいけないのはあの子がサイドエフェクトを本当に持っているのかを確認することと、どんなものかを聞き出すこと。
まあ、どんなサイドエフェクトかは最悪聞き出せなくてもいい。話せない、話したくないという可能性は十分あり得るだろう。
どんなものであれ持っているのであればボーダーにいる価値はある。
「ちなみにC級のトリガーは今のデータを用いてこちらで決定させていただくからそのつもりでね」
「!!?!??!!!?」
現在、彼女はボーダーの職員から本来行われるはずだった説明を受けている。特殊なスカウトを受けたのは彼女だけなので、今部屋の中にいるのは職員と私と彼女だけである。
表情の乏しく、いつも一点を見つめているような顔をしている彼女だったが今の説明を聞いたときわずかに目を見開いたような気がした。
そしてどことなく、何かにおびえているようにも感じる。
何かあったのだろうか?先ほどの説明には特に何もなかったはずなのだが。
「では私はこれで。あとは加古さん、よろしくお願いします」
そうしている間に説明をしていた職員が退室する。その間ずっと彼女はうつむいていた。少し肩を震わせていたのだが、何かあるのだろうか?
と思っていたのだがすぐに顔を上げたので特に問題はないようだ。しかし、どことなく雰囲気が変わったように感じる。
よく見たら目も普通の人のように動いているし、もともと表情が乏しいというよりも頑張って表情が乏しい人に寄せているというような顔だ。
もしかしたら本当にサイドエフェクトを持っていないのかもしれないと思い始めてきて、かなり焦ってきたが、とりあえず当初の予定通り彼女に聞くことにした。
「それでね、あなたにもう一度聞きたいことがあるのだけど、あなたは本当にサイドエフェクトを持っているの?」
そこで彼女はむっとした表情になった。この前スカウトしたときよりもよっぽど表情が豊かである。
前回は緊張していたのだろうか?そういえばスカウトをしに行った時にも何回か雰囲気が変わっていた場面があったがあれは勘違いではなかったのだろうか?
またしても数秒の沈黙が流れる。彼女に質問すると大抵ワンテンポ遅れて回答が返ってくる。その結果無難な返答が返ってくることもあれば大胆な返答をしてくることもあるためこの時間は私にとっても少しドキドキする時間でもあった。
しかし、今回の沈黙は少し長い。長いといっても十秒かかるかかからないかくらいの時間なのだが。
いつもは長くても5秒程度なので単純計算で2倍である。それほどに悩んでいるのだろうか。
そうだとすれば、彼女は本当はサイドエフェクトを持っていないか、サイドエフェクトを持ってい入るが伝えにくいのか。
そうして考えていると、彼女が口を開く。
「あ?ん゛ん゛っ。えぇっと、サイドエフェクトってなん……ですか?」
「あー、サイドエフェクトって言うのはいわゆる超感覚というやつね。目が異常に良かったり、覚えが異常に良かったり、未来が見えたり、ね。まあ、人間の機能の延長線上だから空を飛んだり火を噴いたりはできないんだけどね」
「ふーん」
そういえばサイドエフェクトという単語自体は説明していなかったと反省する。少し焦りすぎたようだ。
「それであなたのサイドエフェクトについて教えてくれない?もしもどうしても教えたくないというのであれば無理して言うことはないわ」
そしてもう一度問いかける。一応言っておいたほうがいいと思ったからである。
それよりも気になるのが、明らかに普通の彼女とは違うというところだ。頑張って寄せているようだが、要所要所では別人のように感じてしまう。
話し方、イントネーション、立ち方、返答。前回数と出会った時の違和感も同じような部分に感じたことも多かったがここまで決定的ではなかった。
これが彼女のサイドエフェクトだろうか。だが、それだと視覚に関するものだという仮説と違ってしまう。
もしかすると複数持っているのだろうか?いや、そうは考えずらい。違った面が見えているだけで元は一つのサイドエフェクトなのかもしれない。
そうして私が考えている間、彼女は片手をポケットに入れて、もう片手で頭をガシガシ書きながら何やら考え事をしているようだ。
ここまでくれば一目瞭然といったところであろう。
彼女の素がこういったガサツな性格なのだろうか。そうだとしても変わりすぎだろう。そもそも素が出る理由がわからない。特別リラックスしているわけでもなければ、とてもパニックになっているわけでもない。
信頼を勝ち取っているという可能性もあるが、そうだと断定するのはまだ早いし、二回しかあっていない人間を信頼するという考え方は、もともと無表情だった彼女からはあまり考えられない。そういうギャップというのは漫画の中だけの話である。
「そう、だな。そのサイドエフェクトって言うのを持ってるのは何人くらいいるんだ?」
「10人いないくらいね。ちなみに今の隊員の数は300人いないくらいかしら」
「なら、サイドエフェクトというのを複数持ってるやつはいるのか?」
「いや、ボーダーの中にはいないわ。たぶんよっぽどのことがない限り複数持ちなんていないでしょうね何兆分の一とかかもしれないわね」
慎重な人なのだろうか。ここまでくれば自分がサイドエフェクトを持っているということを言ってるようなものだ。
そのうえで私たちにそのことを伝えるべきかどうかを判断しているのかもしれない。
サイドエフェクト持ちの苦悩はサイドエフェクト持ちの人でしか真に理解することはできない。だからこそ今ボーダーに何人いるのかを聞いてきたのだろう。
サイドエフェクトを複数持っているのかという確認は不思議ではない。何も知らない人からするとそういう疑問が出るのもわからなくもない。
しかし、私は、もしかすると本当に複数のサイドエフェクトを持っているのではないかという疑問がより強くなっていた。
そうしてまたしても数秒の沈黙の後、彼女がその沈黙を切り裂いた。
「さっきの質問に返答するが、俺はそのサイドエフェクトとやらは持っている」
「…………そうなのね」
「ああ、だが説明するには―――」
「―――本人たちに説明してもらったほうがいいだろう?」
「ちなみに俺は空間把握能力が異様に高い」
「私は視界情報の処理能力が高いです」
「私は私はねぇ!バランスがいいの!後、運動が好き!!」
「え、えっとあの、私は、その、未来が見える……というか、えっと、あ、未来を仮定できます、はい(小声)」
その時私は、やはり私の判断は間違っていなかったといことを強く確信したのと同時に、ますます状況が理解できなくなっていた。
§
ボーダー所属の迅悠一にとって、人を見るという行為はほかの人間よりも大きな意味を持っていた。
それは自身のサイドエフェクトの未来視のためである。
このサイドエフェクトは実際に見た人間の少し先の未来を見ることができるという強力なものだ。より強固は未来は年単位で先まで見えるらしい。しかし逆に、不安定な未来はそんなに先まで見えない。
未来とは分岐しているらしく、複数の未来が見えるのも珍しくはなく、逆に一つしか見えないほうがまれである。
しかしながらそのサイドエフェクトを用いて多くの命を救ってきたのは事実であり、迅はそれに大きな責任を持っている。
そんな彼は今日、ボーダー本部まで足を運んでいた。自称実力派エリートの彼はあまりボーダー本部に顔を出さないのだが、今日は今度入隊する隊員を一目見るということと、その他もろもろの用事のためにボーダー本部に顔を出していた。
現在は説明を受けているようで、みんな真剣にその話を聞いている。
陣は新入隊する隊員を一通り見まわしていた。
(特に問題になりそうなやつはいな…………)
そこで迅の思考は一瞬だけ停止した。とある少女、その能面をかぶっているような錯覚を覚えさせるまでに無表情な彼女の未来は不思議なものだった。
彼女に見える未来のすべてが誰かに話しかけられてた時点で未来の分岐が膨大に起こっている。会話を起点として未来の分岐が起こることはそう珍しいことではない。しかし、彼女の場合その分岐の量が多すぎるのだ。
さらにその分岐の少し後からは未来が一向に見えない。ボーダーに入るのかどうかすらわからない。
迅にとって彼女はこの瞬間から少し嫌いになった。嫌いと言っても人間性などは全く知らないためそういう意味で嫌いになったわけではなく、単純に未来の予測が立てずらくなるからである。
彼女がどこかしらに少しでもかかわってしまうと未来が大きくずれてしまうかもしれない。そうなると防げたかもしれない凄惨な未来を助けられなくなるかもしれない。
それは迅にとってはとても不都合だった。
しかし、迅には一つ確信を得ていることがあった。
それは彼女は何らかのサイドエフェクトを持っているということであった。
彼女の未来には加古と話している未来が多く見えた。おそらく加古がサイドエフェクト関連で聞きに行ったのだろうと迅は推測した。
加古の未来を少し見た迅は、ちょうど彼女が説明するときに部屋に入ろうと画策するのだった。
彼女はサイドエフェクトを5つ持っているのにもかかわらずトリオン量が4という矛盾の塊ですが、理由はあります。ご安心ください。
でもその理由の関係上、原作開始してからでないと理由が解明しません。
気長に予想しながらお待ちください。