トリガーの葛藤がメインです。
今は一話のみですが続きが欲しい人がいるなら感想で一言お願いします(感想もちょっと入れないと運営に消されるので気をつけて)。
というかpixivとかでこのエースコンバット7見てますけど何故誰もこのネタで書かないんだろうか。誰か書いてくれ。
俺は兵士になった。守りたい人たちがいたから。パイロットを選んだのは、自分に向いていると思ったから。そして―――
―――空は、結構好きだったから。
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「おつかれトリガー、ノルマは終わったか?」
「ああ」
日課の基地の舗装作業を終えて道具を片付けていると、同期のタブロイドが話しかけてきた。俺と同部屋の彼は、俺と同じく破損した滑走路と基地の補修作業に駆り出されていたのだ。
「相変わらず暑いな」
「そうだな」
タブロイドの言葉に短く返事をする。愛想が無いように見えるだろうが、話すのが得意ではないだけだ。それなりにコミュニケーションを取っておこうという気持ちはある。
タブロイドの事を同期とは言ったが、それは軍学校や年齢のことじゃない。第444航空基地飛行隊、通称『懲罰部隊』。それが、今俺の所属している部隊だ。所属していると言うよりは、軍規を犯して放り込まれたというだけだが。俺も、そしてタブロイドも、ほとんど同じ時期に放り込まれたのだ。
この基地には、俺の他にも『なぜかパイロットや整備兵ばかりの』軍規違反者が送り込まれている。MPや司令部は流石に軍法違反者ではないが、実質航空基地としてのこの基地の機能を果たしているのものの大半は、何らかの軍規違反者だ。
送り込まれて数日はなぜこんなところに軍規違反者を、それも一定の職種に限って送り込むのかと疑問に思ったが、すぐに疑問は解決された。
曲りなりにも航空基地であるここには、それなりの数の飛べる戦闘機と、多数の『見た目だけの飛べない戦闘機』が存在している。そう、ここは俺たち囚人の命とスクラップを出汁にした、『囮』として機能させられているのだ。
実際、地面にただ描かれただけでろくに舗装されていない見た目だけの滑走路と、その上に綺麗に並べられたスクラップが飛来した敵部隊に爆撃を受けている間は、ミサイルの一発どころか機銃の一発すら放つことが許されなかった。流石に本当の基地が攻撃を受け始めたら火器の仕様が許可されたが。火器の仕様の許可がおりないどころか強制的にロックがかけられていたことには、どれほどの連中がこの基地に集まっているのかと驚いた。まあ実際かなり癖の強い連中ばかりが集まっているわけだが。
「食堂に行こう。今日のメニューは鳥の照り焼きだったはずだ」
ほとんどまともな返事を返していない俺にもタブロイドはよく話しかけてくれる。アクの強いここのパイロットたちの中では、比較的まともな人物だ。噂に聞いた程度だが、彼は少し変わった政治思想を吹聴したという理由でここに送られてきたらしい。その程度の罪のせいか、機体の尾翼に記される罪の重さを表す白線は一本である。
ちなみに俺の尾翼には三本の白線が引かれている。俺の罪は、『重大な作戦における命令違反により作戦の成否に大きな影響を与え、部隊員の命を危険に晒したこと』。懲罰部隊でも屈指の問題児であるチャンプがかなり派手な喧嘩をやって二本線であるのだから、軍事行動において重大な罪を犯した俺の罪の重さは懲罰部隊でも群を抜いていると言える。
「あ、そう言えば聞いたか? 次の作戦の話」
俺が考え事に沈んでいると、タブロイドがそう話しかけてきた。彼は人付き合いの苦手な俺と違ってちょっとした知り合いが多い。この話も、恐らくその知り合いの一人、どうせ詐欺師まがいの伯爵様か、頭の軽そうな自称情報通から聞いたのだろう。
「いや」
「今度はスクランブル待機じゃなくて敵基地攻撃だそうだ」
「……俺達が?」
「他の部隊も来るだろうね。そんな重要なミッション。俺達はまたあれだろう」
あれ。すなわち的役。ここの基地の司令やAWACSであるバンドッグが常々言っているが、軍規違反者で囚人で員数外扱いの俺達の命は至極どうでもいいらしい。つまり、いつ落ちてくれようが構わない。無論脱走が許されることはないが。
だからこその、的役。火器の一切をロックされてスクランブルさせられたときにも言われたものだ。
的になれ。敵の攻撃をひきつけろ。迎撃しているふりをすればいい。
先に飛ばされて敵基地の防衛力を消耗させるか、味方正規部隊に混じって正規部隊よりも低空に出て的になるか。いずれにしろ、ろくな任務ではない。それが犯罪者である俺達に与えられる任務だ。
命令ならばやる。―――それだけだ。俺が言っても説得力はないかも知れないが。
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『ガーゴイル1! 警戒! ミサイル!』
『速い! こちらの―――』
俺は、離脱中の仲間が落ちるのを聞きながら、UAVを落とし続けた。それが俺の任務だったから。
『引き離せない。ついてくる!』
俺は、仲間が狙われているのを聞きながら助けに向かわなかった。それを助けるのは、俺の任務を放棄することを意味するから。
『食われる……。まだ撃ってこない、何故? ……怖い……!』
俺は、仲間の怯える声を聞きながら飛び続けた。一人のために、離脱できていない仲間を見捨てることは出来ない。
『メイジ2、援護を! ……助けて……誰か……! 〇〇!』
仲間が俺を呼んでいた。俺は―――。
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伸ばした腕が空を掴んだ衝撃で俺は目を覚ました。よほど強く握りしめたらしく、体を起こしてもまだ手首から先が痺れている。
「ふぅ……。また、か」
この夢を見たのは、一度や二度ではない。ただ、一度として同じ夢を見たことはない。夢の中での俺の飛び方は、常に異なっている。同じ作戦内容であるにも関わらず。そして、毎回、同じ最後を迎える。
「また、か?」
俺がぼんやりと自分の手を見つめていると、隣のベッドから声をかけられた。タブロイドだ。こうして彼を起こしてしまうのも、もう何度目かも知れない。彼いわく、相当うなされているにも関わらず起きない日があるかと思えば、何も寝言を言っていないのに突如として起き上がる日もあるという。情けないところを見られているのは気恥ずかしいが、あいにくとどうすることもできない。
「すまない」
起こしてしまった。それを言わなくとも、タブロイドはわかっていると言うように手を振る。
「俺は構わないが、ミッションには影響しないようにしろよ」
「ああ」
「……それで、今日こそは何にうなされてるのか、教えてくれるか?」
彼の言葉に、俺は首を横に振る。これは俺の罪で、俺が自分で背負っていかなければならないことだ。誰かに押し付けて楽になろうなどとは考えていない。
「……そうか。だけど誰かに話してみることで心が整理されることも、恐怖が薄らぐこともある。もしその気になれたら……誰でも良いから話すと良い」
彼は、俺を気遣ってくれる。自分ではわからないが、俺のうなされ具合というのはかなりのものなのだろう。自分が夢をあまり覚えていないたちで良かった。もし彼の言うように毎晩見ている夢を覚えているとしたら―――流石に参ってしまう気がする。
「おやすみトリガー」
「……おやすみ」」
俺が俺の罪を許せる日は……きっと来ないのだろう。
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いつもどおりのミッション。命が惜しくない懲罰部隊らしく、峡谷の底に陣を構えた敵施設を討ち、偵察任務から帰還する正規部隊を援護する。雷雲も出ていて状況は厳しいが、ただ厳しいだけのミッション。そのはずだった。
やつはそこに現れた。
「スペア8! そいつから離れろ! チャンプ! くそっ!」
両翼を朱色に染めた大鳥が、次の獲物を見定めて動き始める。やつは怪物だ。
スペア8……チャンプも、素行に問題はあれどドッグファイトの腕だけはそこそこ良かった。良くも悪くも力を信奉していたのだろう。だが奴には―――遊ばれた。
スペア8の後方から急速接近し、振り切ろうと岩場を飛び回る間にむしろ距離を詰める。そのまま機体を左右に振り回すチャンプにピッタリついていったかと思うと、彼がコブラで後ろをとった直後にクルビット。
全て読まれていた。そしてそれを完璧にこなす技量もある。
『スペア10ロスト! 偵察部隊機も一機やられた!』
バンドッグの、淡々と現状を告げながらもいつもよりわずかに早い通信も聞こえる。戦場が、やつに飲まれる。
「バンドッグ! やつは俺がやる! スペア2、スペア11、残りの2機を頼む! 落とさなくていい!」
『ネガティブ。機体が損傷している。俺は帰らせてもらう』
『カウント! くそっ……』
『スペア11、スペア15とともに殿に入れ。敵を落とす必要はない。スペア15……』
「なんだ!」
『落とせるなら落とせ』
「そいつは無理な注文だな! 時間を稼ぐのに集中する!」
いつになく静かな、落ち着いているのではなく静かなバンドッグの言葉に否定を叩きつける。
正規部隊にいた頃の機体であればあるいは、と言ったところだが、この機体では性能的に厳しい。実力はあちらの方が上であるのに、機体まで劣っていては話にならない。
「タブロイド! 落とされるなよ!」
『……わかった。指示に従う』
タブロイドには申し訳ないが、俺がやつを抑えることでタブロイドの方にやつが回らないようになる。恐らく僚機2機を同時に相手にするよりも、この赤羽の機体の方が遥かに危険だ。
最初は一瞬ドッグファイトをしかけた後逃げに徹していたが、それでどうにかなる相手じゃないようだ。凄まじい技量と機動でこちらを狙ってくるため多少の無理をしてくれるかと期待していたが、俺よりも遥かに無理、無駄の無い機動で迫ってくる。これでは消耗するのは俺の方だ。
逃げるのをやめ、相手とドッグファイトに入る。こういう相手に防戦一方になっても、飛ぶ先を狭められてそのうち落とされる。なら相手に張り合って、一方的に仕掛けさせないほうがいい。
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後で確認したところたった数分の戦闘だったが、まるで数時間のように感じられた。しかし、運命の女神はこっちに微笑んだらしい。限界ギリギリのGをかけた機動で相手を振り回し続け根比べをしていると、相手の機動が一瞬鈍った。普段から無理の無い機動が出来るためか、高いGに耐えかねたようだ。ミサイルを放つと同時に機銃も撃ち込む。チャンスはこれしかない。
だが、やつはミサイルを避けた。機銃もわずかに掠めただけで、飛行に支障が出るほどのダメージは与えられなかった。
相手が戦線離脱してくれたおかげで助かったが、とても『逃げられた』とは思えなかった。逃してもらったようなものだ。
『トリガー、生きてるな』
「なんとかな」
タブロイドは無事2機相手に生き延びたようだ。俺の後ろについていけば生き残れると言って俺の後ろにつくようになったが、彼なら大抵の戦場で生き残れるはずだ。今戦ったやつのような例外が現れなければ。
『スペア15、スペア11、帰投しろ。2機とも良くやった』
珍しくバンドッグのお褒めの言葉に本気が感じられた。それで、十分。任務を達成できたのだ。
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懲罰部隊で戦っていた俺達に移動命令が下ったのは、8月に入ってからのことだった。懲罰部隊から正規部隊への編入ということだったが、くだされたのは最前線への強制的な異動命令だった。結局捨て駒であることは変わらないらしい。
俺とスペア2、カウント以外は。何故か俺達2人だけは、別基地へと転属になるあほな基地司令の護衛を務めることになった。どうせあほな基地司令が、自分の護衛に腕の立つのを連れて行きたかっただけだろう。それが任務なら従うだけだ。
そう思っていたのだが。
「あのあほを守らないといけないのか」
俺が任務を達成することにこだわるのは、それが俺の大切な人たちを守ることにつながると思うから。どんな任務が必要になるか決めるのは別の人間で、俺はそれを達成することで大きな方法で大切な人たちを守る。それがパイロットを選んだ俺のできることだ。
だが、流石にこのアホを守ることが任務だと言われると、任務を絶対に達成するのも考えものだと思えてくる。何より、この任務を決定したのは恐らく当のあほだろう。流石に目の前であほを晒しているやつの指示を聞いていても守れるとは思えない。いっそ撃ち落としてやろうか。その方が国のためになりそうだ。
結局、基地につくまであほ司令官を撃ち落とすことはなかった。基地についたあとやつは、その『素晴らしい』功績が認められて『最前線』の基地を任される事になったらしい。ざまを見ろ。
一方の俺達にも、新たな転換期が訪れようとしていた。
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長距離戦略打撃群、通称『ロングレンジ部隊』。それが俺とスペア2の、いや、もう部隊が変わったのだからその呼び方は適当ではない。カウントの新たな所属部隊となる。基本的な任務は単純明快。
超長距離飛行によって敵無人機の防空圏を迂回し、敵首都ファーバンティを叩くための作戦を行う部隊だ。
その任務を行うのは、戦闘機が2部隊とそれを統括するAWACS、そして補給機になけなしの空母と、重大な任務を与えられた部隊だ。
何故かそこに、重大な命令違反を犯した俺が配属された。この特殊部隊には腕も必要だが、何より忠実に命令をこなせる人間が必要だ。俺も二度と命令違反を起こすつもりはなかったのだが、まさかそんな部隊に配属されるとは思っていなかった。
「“自分がこんな部隊に割り振られるとは思わなかった”。そんな顔をしているな」
「っ!」
後ろから声をかけられ、あわてて振り返って敬礼する。一人静かに考え事がしたいからと滑走路の脇から基地を眺めていたのだが、どうやら見つかってしまったらしい。
「そんなに固くならないでいい。ロングレンジ部隊は特殊部隊だ。所属する隊員の間に差はない」
「わかりました」
後ろから話しかけてきた男性、このロングレンジ部隊のトップであるパイロットワイズマンは手を下ろした俺とすれ違い、滑走路へと目を向ける。
「お前の情報は一通り目を通させてもらった。命令違反も含めてな」
「はい。まさか重大な命令違反をした自分がこのような部隊に配属されるとは考えていませんでした」
俺がそう思ったままを答えると、少し眉を上げながらワイズマンがこちらを振り返る。
「意外と流暢にしゃべるものだな。番犬殿からは寡黙な男と聞いていたが」
「は? いえ、人付き合いが苦手なだけでこうして上官と話すことは可能です」
そう返すと、ワイズマンはなぜか苦笑する。何か思うところがあるのだろうか。
「……番犬殿からの申し送りでは、お前には任務を達成することへの執念が感じられると言っていた。もちろん、お前がそんな事を口にしたという記録はないが。番犬殿はあれでよく人を見ている」
「それは感じました」
番犬殿、バンドック。懲罰部隊において囚人の監視を行う役目のAWACSだが、それだけでなく効率よく囚人を使って任務を達成させようとしていた。監視役と司令塔。その両立が非常にうまい人物だった。
「……お前は何故軍に入った?」
ワイズマンは少し黙った後、そんな、無難といえば無難、少なくとも答えることを躊躇うようなものではない質問を投げかけてきた。だが、それは足がかりなのだろう。最終的には、俺の命令違反のことについて聞かれる。そんな気がしていた。
「家族を守りたいと思ったからです」
「家族を、か。パイロットを選んだのは?」
「適正があったからです。後空は結構好きなので」
「なるほど」
そう言ったきり、ワイズマンは黙ってしまう。今の会話だけで何かわかったのだろうか。
「……自分が命令遵守を絶対視するのは、それが大局的に家族を守ることに繋がると考えたからです。パイロットになった以上は与えられた任務を完璧にこなすことが、国を守り、家族を守ることに繋がると考えます」
大切な人たちを守るために何かをする。それはとても単純なようでいて、非常に難しい。
家族を守るために近くにとどまる。
街が敵国の軍に制圧や爆撃されてしまえば一人で守りきれるものではない。
家族を守るために国を守る。
どうやって? 一人で出来ることなどたかが知れている。
だから俺は、パイロットとして自分に出来る事をする。作戦立案をするのは司令部の連中のすることであるし、民間人を避難させるのは陸軍や警察のすることだ。俺が自分のすべきことをすることが、家族を守ることに繋がると信じるしかない。
「そうか。話してくれてありがとう」
「隊員の意識を確認するのは大切なことだと考えます」
あくまでそれが軍人としての務めだと。そう答えると、ワイズマンはまた苦笑する。そんなにおかしな事を言っているだろうか。
「では率直に聞くが、お前は何故命令違反を犯した? 軍事裁判の記録では、殿を務めるのは危険だと判断して無断で撤退したと証言しているらしいが、そんな理由ではないだろう」
来たか。結局タブロイドには、自分のしたことについて、そして夢に見ていることについて話さなかった。話せなかった。自分の中で悩んでいたのもあるし、話せることでも無いと思った。
だが、『誰かに話してみることで心が整理されることもある』。タブロイドに言われたとおりなのだろう。それを吐き出すまいとしたのは、ただの意地だ。
「ここから先は秘密にしていただきたいのですが」
「……具体的な内容は俺の心に留めておくことにしよう」
ワイズマンにそう言われ、俺は少しずつ話し始めた。
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開戦当初に行われた両面作戦。俺が命令違反を犯したのは、その作戦が失敗し撤退を行っている最中だった。
「アーセナルバードの出現後、俺に与えられたのは撤退支援の任務でした。アーセナルバードから射出されたUAVを撃墜し、味方が撤退した後に撤退する、殿の役割です」
「ああ。だがお前は味方の撤退が完了する前に戦線を離脱した」
「はい」
それがレーダーで見た記録だろう。一旦戦線を離脱し再度戦場に戻って殿を務めたが、それは記録には残っていないはずだ。
「作戦中に被弾した友軍機が1機、護衛をつけられて先に戦場を離脱しました。自分が戦線を離脱したのは、その味方を支援するためです」
「……1機か?」
「はい」
「……UAVをお前が止めなければ、2機以上の味方が落とされるとわからないお前ではないだろう」
鋭い。まあ普通に考えればわかることなのかもしれない。俺がしたことはおかしなことなのだ。
「被弾して撤退中だった友軍機は、仲の良い人物が乗っていました」
「具体的には?」
「軍学校の同期です」
「それで?」
「は?」
「それだけで命令違反をするお前ではないだろう。お前の戦闘の記録は『全て』番犬殿から引き継がれている。正直に話せ」
よく見ている。それが素直な感想だ。普通に今の話を聞けば、俺が命令よりも友人をとる、軍人にふさわしくないパイロットと判断して終わりだ。なのにワイズマンはそれをしない。正面から向き合おうとする。部下に慕われるわけだ。
「……名前を呼ばれました」
「ほう?」
「同期と、その護衛として撤退していた味方機は撤退中に別働隊の敵一機に襲撃を受けていました。最初に護衛機が撃墜され、その後敵別働隊の機体は、同期の機体をすぐに落とすことなく、執拗に後ろについて追い回していました」
言葉を切ると、続きを話せとばかりにワイズマンは背中を向けたまま何も言わない。
「最初は同期の援護に向かうつもりはありませんでした。ですが……名前を呼ばれました。TACネームでもなく、コールサインでもなく、名前を……呼ばれました。それを聞いた直後、咄嗟に援護に向かっていました」
勝ち気な、いつも成績が一位だった俺に突っかかってきては『次は負けない!』と、かわいい負けん気を見せていた彼女が。
恐怖に怯えた声で、ライバルだと言っていた俺を、呼んだ。その瞬間、彼女が軍人だと思えなくなってしまった。俺が守らなければいけないものなのだと。そう思ってしまった。
「情に流された、ということか」
「そうです」
今までこれを誰かに話したことはない。軍事裁判の場においてもだ。彼女を助けに向かったのは俺の判断で、友軍に援護を求めるのは当然のことであり、彼女に責任はない。
「……後悔しているか?」
……この隊長は。本当に面倒な事を聞く。鋭過ぎるのも考えものだ。
「自分は軍人です。命令違反をしたことは反省すべきことだと考えます」
「お前の感情の話をしている」
「……わかりません。彼女は……彼女の信頼していた隊長機でも同じ隊の機でもなく、別の隊の俺を名指しで呼びました。命令違反をしましたが……していなければ、彼女を助けることは出来ませんでした。反省すべきだと常々考えていますが……自分でもわかりません」
彼女が自分を呼んでいなければ。呼んでいたとしてもコールサインであれば。きっと助けには行っていなかった。だが……。今でもわからない。だが、毎晩、彼女を助けに向かわない夢を見るたびに苦しくなる。
命令違反をしてでも助けるべきだったのかと。わからなくなる。
「お前の事情は理解した」
しばらくの間の後、ワイズマンはそう話し始めた。
「だが同時に知ったことではない。この隊でお前に求められるのは任務を遂行することだ」
「理解しています」
「…………ゴーレム2……お前の助けた彼女は、元気にやっているそうだ。まだ空は飛べていないそうだが」
お前を隊に引き込んだのも、強硬にお前の罪を自分の責任だという彼女の事を聞いてのことだ。
そう続けるワイズマンの言葉が、どこか遠くから聞こえる。
ゴーレム2。TACネームブラウニー。俺の軍学校時代の同期で、成績上位を争った相手だ。もちろん負けたことはないが。
座学に操縦訓練と何かとあっちゃあ俺に突っかかってきては、『次は負けない』『次は勝つ』と言い続けていた、少しめんどくさい相手。
生きてて良かった。
命令違反をした自分をずっと責めてきたはずなのに、彼女の無事を聞いて浮かんだのは、そんな思いだった。
「確かにお前は命令違反を犯した。それは恥ずべきことだ。だが、仲間の命を救ったことは誇っていい」
「……了解しました」
ワイズマンは、立ち尽くしたままの俺に近づいてくると、肩に手をかける。
「軍人として、命令を遵守するのは当然のことだ。だが、パイロットとして、エースとして飛ぶならば、自分のルールを持て」
「自分のルール、ですか?」
「そうだ。よく考えろ。お前が何故飛んでいるのか。お前がエースであろうとするのならな」
答えを決めるのはお前だ。
そう言い切ったワイズマンは、その場から立ち去ろうとする。その後ろ姿に、咄嗟に声をかけていた。
「隊長」
「何だ」
「隊長のルールは、なんですか?」
「隊の皆で生きて帰ることだ」
俺の質問に、ワイズマンは間髪入れずに答える。
「それは……いえ、ありがとうございます」
それは、どのレベルでのことなのか。作戦の内容レベルから自分も手を出せるようにするのか、あるいは空戦での話なのか。そう聞こうとしたが、やめた。
それを決めるのは、俺次第だと言われるだけだろう。
「よく休んでおけよ。明日から訓練を始める」
「了解しました」
その夜は久しぶりに、夢を見なかった。