職業騎士団長の灰色な脳細胞   作:牛の王子様

1 / 1
忌み語は隠語に
夜中のテンションで思いついたまま書き上げた短編です

春庭世界の割と救いのない話



【寿退職】

「最近、あの子見ないね。」

「あの子?」

 

本日の業務を終えた騎士団寮のロッカールーム

討伐でかいた汗と害虫の返り血、あとちょっと人には言えないような諸々の汚れを落としながら

繰り拡げられる騎士団の日常風景

 

「ほら、いつも笑顔で元気に槍を振り回していた、青髪の子。」

「ああ、あの子ね。あの子なら『寿退職』したよ。」

 

日常の何気ない会話

本来ならばおめでたい話、しかしそこには暗い影が潜む

 

―――花騎士の寿退職は大きく分けて二つある

 

騎士団長をはじめとした(と言うか99%以上が騎士団長との結婚で、

騎士団長以外の男性と結婚して引退したという例を私は寡聞にして聞かないのだが)

男性と結婚、多くは引退し、幸せな家庭を築く

いわゆる一般的なイメージの寿退職と、もう一つだ

 

彼女が結婚するとしたらその相手は私も所属する当団の騎士団長以外になく、

それは(私を含めた)誰もが狙っている座でもあり

また直属の上司の婚姻であるため、自分が知らないという事は無い

 

と、いうことは・・・・

 

何のことは無い『害虫と結婚した』のだ

つまりは任務中の行方不明の隠語である

 

遺体のあるケースは戦死として扱われるため

こう言われるものの多くは餌となっているなどで死体が見つかってないだけで既に死んでいる

 

稀に害虫の巣で苗床になり、害虫のお母さんになっているところを保護される事もあるが

多くは精神と生殖機能をはじめとした身体に回復不可能な異常をきたしており

いずれにせよ、原隊復帰はままならないだろう

 

ゆえに『寿退職』

 

誰が言い出したのかは知らないが

『寿退職』とはブラックジョークにしても程がある

 

「そう・・・。お幸せにね。」

 

私は苦笑いで返すのが精いっぱいだった

 

皮肉ではない。

私は心底彼女の幸せを願わずにはいられなかった。

 

遅かれ早かれ自分の身にも降りかかるのだ

日々繰り返される出撃、その内容を考えれば想像にたやすい

大型の害虫を相手に生身一つで大立ち回りを繰り返すのだ

わざわざ損耗率を出して計算するまでもないだろう

 

そもそも定年まで勤めあげて退職できた花騎士などいるのだろうか?

それはつまり寿退職よりも狭き門で

幸いにも?致命に至らなかった身体の欠損で後方支援に回される

そういうケース以外は悲惨な最期を遂げる

歴史書に記される事もない、その他大勢の一般兵、それが私達花騎士

 

花騎士を職業に選んだ以上、覚悟はしている結末であるが

彼女の最期がせめて、少しでも幸せな物であってほしいと願わずにはいられなかった。




まあ、巨大な昆虫相手に身体一つで戦う世界なら
こういうことが往々にあってしかるべしだよねってお話。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。