白銀御幸♀ 作:白銀ξ紳士
†悔い改めて†
『転校生』
それは偏差値77を誇る秀知院学園にとって、並々ならぬ才能が登場したことを意味する。
さらに、中学三年という曖昧な時期に入学してきた外部生……いわゆる “混院“
その噂が瞬く間に学校中に広がるということは、思春期真っ只中、異性に興味関心を持つ彼ら学生にとってもはや必然……自然の摂理であった‼
―――曰く、その人物は女性である。
―――曰く、その少女の名は統一模試に必ず刻まれる。
―――曰く、その白金の美しい姿……あれは女神だ。
それらの噂に加えて、男女共々を沸かせる最も大きな爆弾がもう一つ。
―――曰く、その少女には既に男がいる。
よってこの聞き捨てならない話題に終止符を打つべく、とある人物が動き出していた。
「失礼、初めまして “白銀御幸” さん。少しお時間……宜しくて?」
「……はい、もちろん。“四宮かぐや” さん」
最初に声を発したのは、彼の四宮財閥その令嬢……四宮かぐや。
静寂な声で応じたのは、今話題の心物その当人……白銀御幸。
ある時を境に冷血の女王が去ったと表される四宮と、すでにファンクラブが完成しているとも囁かれる白銀。そんな今話題沸騰の少女二人が会合したとなれば、一体どうなってしまうのだろうか?
答え―――
「はーい、皆さん二人組はできましたね? それでは授業を始めましょう!」
もっともらしい、最強のペアが組まれた。
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今日は芸術の授業がある日だ。
内容は至ってシンプルで、互いの顔を描くというもの。なんでも、秀逸な作品には表彰があるとか無いとか……。しかし残念、このクラスにはその手のことを嗜んでいるであろう者達がちらほらと散見されるので、俺のように書道の時間で黒白リンゴを描いて、これは水墨画だ! なんて喜んでいる人間にとっては、余りにも遠い栄誉であることは想像に容易い。ぐぬぬ。
―――つまり何が言いたいんだYO!
それは、今現在……教師による「それでは二人組を作って下さい~」という名の戦いの火蓋が切られたことを意味していた。
瞬間、左右から俺の方向へと視線が集まる。
ンーーー、改めて考えると凄いなって思うなあ俺はやっぱ。ざーこ♡ ざーこ♡ そりゃ当たり前のようにペアが決まるはずで………。
「では私たちでペアを組むことにしましょうか」 【右隣の令嬢】
「ええ、喜んで」 【左隣の幼馴染】
ダメみたいですね…(大ピンチ)
四宮は白銀と組んでしまったので諦めるしかない。もしこの間に挟まろうとする者がいるのならば、ソイツは人類の敵に違いないからだ。だがまだ希望はある。そう、早坂なら……早坂さんなら!
「じゃ、ウチと組もっか」 【例のギャル】
「やったー! ぼっち回避です~」 【藤原某】
切り替えていこう(開き直り)
まだ、まだ大丈夫。俺には親友といって差し支えのない男がいるのだ。なんたって、そいつからは恋愛相談を受けるほどに信頼されている……そう、田沼翼だ。まだ、君がいるじゃにゃいかあ!
「共同作業…だね」 【魔王】
「う、うん……!」 【裏切り者】
―――見なかったことにしよう(正しい判断)
では話に戻る。
余り物には福がある、なんて言葉があるがアレは嘘だ。なぜならば俺の目の前にいるペアの相手は、こちらをとても鬱陶しそうに見ているから。あれはまるで仇を見るような目で、もしかするとこれが真のツンデレなのかもしれない。
それを表す簡潔なやりとり二行がこうだった。
「ちっ」
「!?」
その相手とは四条眞妃。
分家と侮ってはいけない、あの四宮とも比肩される国内でも指折りの大財閥のこれまた令嬢である。そんな彼女も、訳あって最後まで残ってしまっていたのだ。
「まあいいわ。さっさと済ませてしまいましょう?」
「は、はい(小声)」
可哀想に、四条はペアができなくて心に傷を負ってしまったに違いない(ブーメラン) なので俺は何とか彼女と会話をしようと試みたのだが……ここからはしばらく沈黙が続いた。周りの生徒たちの楽しそうな笑顔と会話の空間がここにはない。
決して四条と俺の仲が悪いというわけではなく、これには深い理由があって、白状するとつまり、それは彼女がシスコン♀であることに起因していた。
そしてふと四条が口を開く。
「ねえ、貴方。今日が何の日か覚えていないようね?」
分からない、付き合ってから一年のような雰囲気を漂わせているが本当に分からなかった。実は祝日だったとかなら驚きである、まさか。
なので俺は素直に「分からない」との言を伝えたのだが、すると四条はデッサンの手をさっと止め、冷えた目をこちらに一瞥してやった。
「今日、帝♀が貴方と約束した日よ。最低」
そして忘れていた “重要なコト” を告げたのである。
「あっ」
「さいてー」
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ところ変わって、金紺柑紺の鐘が鳴った放課後。
急に訪れた通り雨の中を、多くの生徒たちが傘をさして帰宅しているような頃だった。がらがらの教室の中、四宮かぐやは「少し雨宿りをしていきましょう」と白銀御幸に提案し、二人だけの空間を作ることに成功していた。理由は簡単、学校中に広がった噂の真相を探るため……女子同士互いの巧妙な腹の探り合いである。また白銀本人も、四宮かぐやがどういう存在なのかを見極めたいと考えていたため、これは渡り船にと了承した。
「それで、私に聞きたいことって何ですか?」
最初に打って出たのは白銀御幸、まず理由を聞かなければ事は始まらない。
「ええ、まあ色々とあるのですが……。それよりも先にまずは座ってはいかがしょう? 長話では足も疲れてしまいますからね」
「は、はあ……ではお先に失礼します」
さりげなく、かぐやは会話の主導権を自分の元に回すことに成功した。無意識に行ってしまうそれこそが彼女を四宮たらしめる由縁なのだろう。相手が席に着いたことを確認してから、ようやく自分もそれに倣った。
「では、私も座るとしましょう」
白銀御幸……幼少期より同じ保育園から小学校までと、言わば彼との幼馴染。しかし中学入学と同時に彼が東京へと越してきたため離れ離れに。ここまでは普通、ですが……
―――並々ならぬ努力と数多の紹介(コネ)により、異例の秀知院編入を果たす。
(まずは軽めのジャブから……)
「御幸さん、貴方にとって彼は…『未来を誓い合った仲です』―ええっ⁉」
初手、白銀御幸によるカウンターがかぐやにクリーンヒット! 確かに間違いは言っていない、「お前も秀知院にならないか?」を聖書的な解釈にすればそのように表現することもできたのだろう。
「私たちは家族ぐるみで親交がありますから、お泊りだって経験済みです」フンス
「で、でも! 昔から男女七歳にして同衾せずって言うでしょう……⁉︎」
「六歳だったのでセーフです」
ちなみに “同衾せず” ではなく “席を同じゅうせず” らしい。前者は国民的アニメの金髪・ラングレーの発した言葉である。そして続けざまに、かぐやに更なる思い出ストーリーが迫っていた。
―――ようやく十分経った頃。
「……もですが、私たちはそこへ旅行に行ったこともあります。そんなところでしょうか?」
ここまでの争い、かぐやのHP残りわずか。ほぼノックアウト間近である。対して相手の白銀はどこかつるつる、肌の調子が良くなっている気さえした。
(これはマズイですね……)
かぐやは彼女に勝つことができないのだろうか?
本当にここで倒れてしまうのだろうか?
おお、四宮かぐやよ。死んでしまうとは何事だ!
……否
これしきでかぐやは倒れるはずがない。その理由は四宮の家訓にこう記されていた。
『人から貰うな、成らば奪え』
白銀は既に多くの記憶・思い出を作り上げている。しかし、それらは彼女だけのものではない、かぐやだって同じだ。中等部から入ってきた彼との二年間には、幼馴染の御幸ですら知らないコトが多くある。
……成らば!
こちらは今持つ最善の手札で相手を迎え撃つのみ。
(自分の知らない思い出を聞くその痛み、貴方は覚悟できたでしょうか?)
ああ、反撃の狼煙は今をもってあげられた‼
「へえ、ですがどれも
“お可愛い”
“小さな”
“幼少期の”
思い出ですこと……ふふ」
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※ここからはダイジェストでお送りします。(力不足)
ひななは芸術の授業が終わり次第「お腹が痛いです(大嘘)」と仮病を発動させ、約束とやらを完遂させるために学校を早退していた。
そして100日ぶりに帝♀と逢うことに成功するのだが、急な豪雨によりその約束を果たすことが難しくなってしまう。よって急遽、二人は互いに濡れながらもひななの家へ向かうこととなった…………。
場面変わって少女二人。四宮白銀は「私の方が上だ」対決に決着がつかなかったため、それを元凶に解決してもらおうと、早退したひななに荷物を届けるという大義名分の下に家へ訪れる。
具合の悪いふりをして両手に花状態のひなな。しかし、肝心の両者からの「どっちなんだい!」という質問には答えあぐねていた。とはいえここは漢を見せるとき。彼はようやく自分の意思を言葉に伝えようと決意し…………
「お風呂先に上がったよ。ひなな」
―――バスローブ姿の四条帝♀が部屋に現れて終了。
四条帝♀概念を成立させたのでハッピーエンドです
女体化ってむつかしい
一話があまりにも人を選ぶ気がします。少し反省