すべては君のために   作:eNueMu

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アニメで例の回を改めて見て悲惨すぎィ!と思ったので衝動的に。何もかも初めてなのでわからないことも多いですがよろしくお願いします。


本編
追憶


 

 今でも鮮明に思い出せるのは、心が救われたあの時の記憶。

 

 街の喧騒がいつもより一際やかましいな、とぼんやり考えながら少女は自らに起こった出来事を冷静に振り返る。すぐ側では友人が涙を流して震えながらも、必死に彼女に何かを呼びかけている。

 

 「〜〜〜!!ーーーー」

 「(確か子供が轢かれそうで…私、救けようとしたんだっけ。あの子は無事みたい。良かった…。でも、私の方はちょっと厳しそう、かな。貴女はどうして泣いてるの?ひょっとして怪我しちゃった?)」

 駆けつけた救急隊員に押し退けられても、彼女の友人は手を伸ばす。そこでようやく、少女はすべてを理解した。

 「(そっか。私のために泣いてくれてるんだ。こんなの初めて…誰かに心配されるのって案外嬉しいかも、なんて)」

 

 物心ついたときから、少女は1人だった。両親は暴力を振るうわけではなく、しかし愛情を注いでくれることもなかった。友人は社会で生きていく上で必要な関係でしかないと割り切った。幼い頃から少しばかり大人びていた彼女は、周りの人間には不気味に映ったらしい。そうした感情を彼女自身も感じ取り、無理に他人の領域に踏み込むことはしなかった。しかし目の前の友人は、どうも思っていたよりずっと彼女のことを大切に思ってくれていたようだ。

 

 「(私のことを…必要としてくれる人。こんなに近くにいたんだなぁ…。もっといっぱい一緒にいれば良かったや。それでもっと…友達っぽいこととか…したり…)」

 

 意識が、記憶が薄れていく。

 追憶を終え、少女は現実に戻る。前世の友人を想い、誰に言うでもなく静かに呟いた。

 

 「懐かしいなぁ。あの子…元気かな。確かめられないのが残念だけど…」

 

 塵堂千雨(じんどうちさめ)。それがこの世界での少女の名。何の因果か数少ない娯楽だったお気に入りの漫画の世界に記憶を残して生まれ変わった少女は、1人の少年を思い浮かべる。

 

 「転弧くん…今日はまだ見に行ってなかったっけ。取り敢えず日課といきますか」

 

 生まれ変わり、記憶を辿り、真っ先に思いついたのは彼のことだった。それまで曖昧だったかつての記憶が、「個性」の発現と同時に一気に鮮明になっていった。今にして思えば、()()()()()()()()()()()()()泣きそうになりながらNo.1ヒーローのデビュー時期を尋ねる子供など狂気以外の何物でもなかっただろうが、今世の両親はできた人物たちであり、そんな自分をも受け入れて熱心に育ててくれたことには感謝しかない。

 

 未来に起こる悲劇を防ぐため…そして少年自身を救うため。彼女の戦いはとうの昔に始まっていた。


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