すべては君のために   作:eNueMu

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読み返したとき、燈矢の事故は原作開始の10年程前だったと気付いたので昼にその辺りの整合性を取るような修正を行いました。具体的に言うと序盤の辺りです(抽象的)


極楽浄土の轟くん家

 

 「オイオイ!シケた面してんなァ焦凍!お隣のトゲトゲ君は俺のこと知らねえみてぇだな!!ンじゃまあ自己紹介しとくか!!」

 

 大きなサングラスをかけ、かなりのハイテンションで姿を見せた燈矢への反応はそれぞれ。目を輝かせる出久に対し轟は真顔、爆豪に至っては既に不機嫌そうな顔になってきている。

 

 「俺が!!」

 「…」

 

 「俺こそが!!」

 「…」

 

 「チャンネル登録者数500万人越えの伝説級の配信者にして!!ついでにかのナンバー2ヒーロー『エンデヴァー』の長男!!!GOトーヤだ!!!」

 「うむ。良い挨拶だ燈矢」

 「す、凄い…!オールマイトとはまた違うオーラが…!」

 

 大仰に身振り手振りを伴いながら自己紹介を済ませる燈矢。だが、まともに返事を返したのはエンデヴァーと出久だけ。轟はするりと流して和式の居間へ向かい、爆豪は素早く検索をかけて揚げ足を取る。

 

 「何処がついでだ……チャンネル名でガッツリ【エンデヴァーの息子】つってんじゃねえか」

 「使える肩書きは使うまでだぜ!」

 「………しかも大半のコメントにエンデヴァーが返信してやがる……何度も言うが、キチィな」

 「何を言う!パトロールの一環のようなものだ!」

 

 そんなやり取りをしつつ轟の後に続いて居間に足を運ぶ一同。夕食会は、まだ始まってすらいなかった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「食べられないものあったら無理しないでね」

 「どれもめちゃくちゃ美味しいです!この竜田揚げ、味がしっかり染み込んでるのに衣はザクザクで仕込みの丁寧さに舌が歓喜の鼓を」

 「飯まで分析すんな!!!てめーの喋りで麻婆の味がおちる!!!」

 「そう、良かった!」

 「ふふ……面白い子たちね、焦凍」

 「…おう」

 

 食レポじみた出久の感想に辟易する爆豪、彼らの様子に笑みを溢す冷。賑やかな会話は、続いて轟家の男衆がバトンを担う。

 

 「そらそうだよ。お手伝いさんが引退してから姉ちゃんがお母さんと一緒に作ってたんだから」

 「夏くんもたまに作ってたろ!?謙遜すんなって!」

 「謙遜はしてないよ燈矢兄…それに、俺のは味濃くなりがちだったし」

 「…そっか。味が変わることがあったのはそれでだったのか」

 「うむ。だが、俺はそれぞれの良さがあっていいと思うぞ」

 「ホラな!父さんもこう言ってるじゃねえか!」

 「う、うん」

 

 夏雄は照れ臭さを隠すように料理を口に詰め込み始めた。それを受けて、燈矢は話し相手を出久たちに変える。

 

 「それでそれで?緑谷くんたちって、何がきっかけで焦凍と友達になったワケよ?」

 「あ、はい!その、最初はただ凄いなと思って傍観してるだけだったというか、そんな感じで!……でも、負けられないとも思ったんです…轟くんが真っ直ぐにヒーローを目指してるのを見て。決定的だったのは、体育祭……中々表情を変えない轟くんが、僕を見て『凄い』って笑ったんです。結局僕は、勝てなかったけど…それからはよく、話すこととかも増えました」

 「…別に友達ですとは一言も言ってねえ」

 「………ナルホド。…ありがとな、お二人さん」

 「…?は、はい」

 「…」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 夕食後。食器類の片付けを手伝っていた出久は、おおよそを運び終えた所で燈矢が屋敷の誰も居ない方へ歩いていくのを見かけた。あまり好ましいことではないと分かっていながらも、こっそりと彼の後を尾ける。燈矢が足を止めたのは、屋敷裏口から出て少しした辺りだった。

 

 「…」

 「………あの、燈矢さん」

 「!……こいつは失敬。恥ずかしながらファンの気配に気付けなかった」

 「い、いえ!こっちこそごめんなさい!…………その、何だか元気が無いような気がして…」

 

 燈矢はそれまでの雰囲気が嘘のように落ち着いた様子を見せていた。それが、出久には何処となく気落ちしているように見えたのだ。

 

 「…元気が無い、か。……ガッカリさせちまうようで悪いが、こっちが素なのさ」

 「え…?」

 「ああして派手に振る舞ってると、気分も何となくノってくる。そっちの方がずっと楽しいだろ?心配しねえでくれ、別に無理してるとかじゃない」

 「でも、何で…」

 

 動画や家族の前での姿とはかけ離れた燈矢の素顔。驚きながらも、出久はもう少し踏み込むことにした。

 

 「そうだなァ…贖罪のつもりなのかもな」

 「贖罪……?」

 「……俺な、昔焦凍を殺そうとしたんだ」

 「!!?」

 

 衝撃の告白。目を白黒させる出久に、燈矢は1つの質問をする。

 

 「個性婚って、知ってるか?」

 「は、はい」

 「ウチはまあ、それだったのさ。強力な個性を持った子供を作るための結婚…今でこそ()()とお袋は好き合ってるが、最初はそうでもなかっただろうよ」

 

 そのまま身の上を話し始める彼を、出久は確と見つめていた。

 

 「平たく言えば、焦凍以外は失敗作。ガキの俺には、その事実が耐えられなかった。俺が焦凍より強くなれば、焦凍が居なくなれば…親父は俺を認めてくれるんだって、そう思ってた」

 「…」

 「そのことで頭が一杯になって、イカれた俺は山で自爆。炎を抑えられなくなって呆気なく火達磨だ」

 「え…!?で、でも」

 「そう。俺は助かった。救けられたんだ…『ダスト』っつう魔女にな」

 「!!?」

 

 ここでもその名前が出るのか、と声を上げそうになる出久。燈矢はそんな彼に気付いていないのか話を続ける。

 

 「魔女サマは俺の命と心を救った。それだけじゃねえ…奴さんは轟家そのものを救っちまったのさ」

 「轟家、そのもの…」

 「俺が死ぬか……仮に生き延びてあのままイカれ果てたとしよう。それで何事もなく今日の轟家があるとは思えねえだろ?面白えよな……いやまあ、笑い話に出来ることじゃねえがよ、これだけピンポイントで手を差し伸べてくるたァ魔女と言わずに何という?」

 

 口角を緩やかに上げて皮肉っぽく笑う。そして吐露するのは、己が選んだ道のこと。

 

 「結局魔女サマに諭されたんでヒーローは諦めた。というより、ヒーローである必要は無えと気付いたんだ。俺はただ、親父に見て欲しかった。存在していいんだと、『凄い』奴だと言って欲しかった。………そこに至るまで、随分と時間が掛かっちまったがな…」

 

 燈矢は徐にサングラスを外し────

 

 

 出久の目に飛び込んで来たのは、彼の下瞼に残る痛々しい火傷の痕だった。

 

 

 「!!!」

 

 彼はそこを撫で、再び口を開く。

 

 「こいつは…決して消えねえ俺の罪の証だ。焦凍はきっと、俺に殺されそうになったことなんて覚えちゃいない。それでもあいつの顔を見るたびに、俺が壊そうとしたモンの大きさをありありと見せつけられてるような気分になる。……シケた面してんのはどっちだって話だよな。だから、皆の前では明るく振る舞う。当事者が暗い顔してちゃ、皆も忘れられないままだからな」

 「────燈矢さん」

 

 得意げでありながら哀しげに笑う燈矢を見て、出久は1つだけ彼に伝える。

 

 「大丈夫ですよ。皆さんきっと忘れた訳じゃないです。昔のことは抱えたまま、その上で今を大事にしてるんだと思います。…だから、貴方も自分を責めないでいいんです。過去は消えなくても……いつもみたいに笑って、それで終わりにしましょう。そっちの方が…」

 「……ああ。ずっと楽しい、だな」

 

 その顔から、悲哀は取り除かれていた。

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