『心求党党首・花畑孔腔氏が────』
朝起きて、入ってきたニュースに目を瞠る千雨。
「な…!?……まさか、AFOが『扇動』を…!!?」
このタイミングでの事件にAFOとの関連付けをせずにはいられない千雨だったが、その答えは間を置かずに判明することとなる。
自宅のインターホンが、鳴った。
『良い家に住んでいるね。近頃は定住出来ていなかったから羨ましいよ』
「────」
響く破壊音。千雨が目を向けた先、既に玄関の扉とその周辺は黒く焼け焦げている。そこに居たのは、死柄木葬。しかし、その様子は明らかに今までとは異なっていた。
「……まさか淑女の家にまで押しかけてくるとは。マナーの勉強からやり直した方がいいよ……
「おや。気付いていたんだね?いや…知っていたと言う方が正しいのかな?何にせよ僕は如何にもAFO。葬は良く育ってくれた……こうして最後に君の顔を見に来られて嬉しいよ」
劫火を纏い、浮遊したまま、ゆっくりと前進するAFO。それに合わせて千雨も後退りながら、炎の奥に見えるその顔に眉を顰める。
「……志村菜奈さんの顔…転弧くんの言った通りか」
「!へえ、彼女の顔まで知っているのか!本当に好奇心を擽ってくれる……!!楽しいな、君と話すのは!」
「そいつは光栄だね。それじゃあついでに教えてほしいんだけどさ……どうやって彼にAFOを?」
AFOの移植とそれに伴う自身の意識の表出すら把握している千雨に思わず笑い声を漏らすAFO。丁寧に1つずつ、種を明かしていく。
「ははは、もう全部筒抜けか!…簡単なことだよ。ハードウェアに大容量のメモリを詰め込もうと思うのなら、先にあった分を削除してしまえばいい。葬の個性は外の世界を腐らせることこそ出来なかったが…使うたびにその反動は彼の身の内を蝕んだ。彼は自分でも気付かないうちに、自らの肉体を腐食させていっていたのさ……個性因子を含めてね」
千雨はその間に救援の連絡を入れようとして……異変に気付く。
「おかげで『腐食』は使えなくなってしまったが、五感が潰れてしまった僕の本体よりはいくらか健全な身体を手に入れることが出来た。そして、彼が宿していたのは……この世界への、何よりも君への強い憎悪。憎しみが膨れるほどに僕の意識も強くなる…!ついさっき、ようやくAFOが馴染みきった所なんだよ。これで安心して再び動き出せる」
「待て……!!ウチの事務所に一体何を…!!?」
「おっと。『電波』は
「…ッ」
丁度HNに入ってきた報告。
「ダスト事務所周辺に多数の脳無及びヴィランの襲撃アリ」
戦慄必至の文字列に動揺を隠せない千雨だが、急かした所でAFOがまともに取り合うことはないと、歯を食いしばって少しでも情報を得ようと試みる。
「フフフ…どうせなら君の大切なものもついでに奪ってやろうと思ってね。といっても時間稼ぎの一環でしかないんだけれど……新しい身体は手に入れたが、こんなのはまあ緊急措置に過ぎない。今のままオールマイト………それに、緑谷出久くんとぶつかっても万に一つも勝ち目はない。だから、一旦この国を離れようと思うんだ」
「(OFAの継承もバレたか…)……黙って消えてくれて構わなかったのにさ」
「そういう訳にはいかないよ。あの時折角お礼をしてやるって言ったんだからね」
そこで言葉を切ったAFOは、志村菜奈のマスクを剥いでその素顔……皮膚が爛れ、歯列が剥き出しになった醜い顔を見せた。
「(これは…顔面の皮膚が腐り落ちたのか……)」
表情が微妙に判り辛いその顔を笑うように歪め、再び話し出す。
「………ダスト。僕は君に感謝してるんだ。完璧だと思ってた人生設計、あまりにも波乱の無い寂しい毎日。将棋やチェスで程度の低いCPU相手に戦い続けるのと同じさ。相手の反応が丸分かりで、楽しくなるのはその瞬間だけ」
目を爛々と輝かせ…AFOは少年のように燥ぐ。そこには千雨への負の感情など欠片も無く、ただ純然たる悪意のみが込められていた。
「そんな味気ない毎日は、君の登場によって変わった!!30年前のあの日からずっと、計画はどんどん脇道に逸れていく!!伝わるかなあ、僕の気持ち…!!ドキドキするんだ、ワクワクするんだ!!次はどう出てくるだろう、今度は何をしでかしてくれるんだろうって、計画を進めるたびに期待した!そして君はいつも期待を超えてきた!こんなに思い通りにいかなかった相手は、弟以来だぜ!!」
「……だったら尚更消えて欲しかったよ。私は君の感謝なんて、受け取りたくない」
「つれないことを言うじゃないか。……今日の襲撃は、君を殺すために準備したものなんだ」
唐突に4本の指を立てるAFO。指折り数え、希望の芽を手折っていく。
「まずは、ダスト事務所への襲撃。脳無と僕の友人たちが君の仲間を引きつける。運が良ければ、誰かは殺せるかな?」
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「まずいぞ、心詠さん!!!住民の避難が全然…!!!ヴィラン共もそこに乗じて襲って来やがる!!!」
「分倍河原さん、個性を!!!ダストさんを増やして下さい!!!先に脳無だけでも掃討してしまいましょう!!!住民か否かは、私の個性で判断します!!!」
「私も手伝うのです!!!」
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「同時に、残りの脳無たちを全て投入。各地の大都市を抑え、他のヒーローをそこに縛りつける」
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『エンデヴァーさん!!九州でも脳無が大量に湧いて来た!!そっちは任せます!!』
「分かった!!ショート、デク、バクゴー!!救援は期待するな!!ここが踏ん張り所だ!!」
「おう!!」
「はい!!」
「言われるまでもねェ!!」
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「オールマイトには、僕の本体を。増強系だけは向こうの身体に残してきた。ちょっぴり勿体無いが、しっかり役目を果たしてくれるだろう」
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「AFOッ!!!朝っぱらから元気だな!!!こっちはもう待ちくたびれてたぞ!!!」
「らしくないじゃないかオールマイト。怒り顔は君には似合わないよ?」
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「そして……志村転弧くんには、とっておきのプレゼントを用意した。君も見たことがある筈だ。名付けて…『ナナ』。素晴らしい脳無だよ、実にね」
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『もしもし、どしたのルイン…』
「那珂!!!事務所行かずに俺ん家辺りまで直行してくれ!!!ヤバい脳無が出てきた!!!今までのと桁が違うッ!!!」
「コ、タロ」
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「────随分と景気が良いね…うんざりするよ」
「そりゃそうさ。完遂してしまえば退屈な日々に逆戻り…だから、張り切って準備したんだ。出来るだけ賑やかに、楽しくなるように……」
炎は勢いを増し、千雨の家を焼いていく。彼女自身も自宅のことは諦め、無事な箇所も全て塵化させて屋外へと飛び出した。
塵と炎が唸りあう中、AFOは言葉を締め括る。
「すべては君のために」